平成7年度 運輸白書

第1章 阪神・淡路大震災と運輸

第1章 阪神・淡路大震災と運輸

第1節 阪神・淡路大震災による被害と影響

    1 兵庫県南部地震の概況
    2 鉄道、港湾等の被害状況
    3 運輸に及ぼした影響


1 兵庫県南部地震の概況
 平成7年1月17日5時46分、淡路島北端付近の深さ14kmを震源とするマグニチュード7.2の地震が発生した。この地震について、神戸海洋気象台においては震度6を観測した。また、気象庁は、地震発生後現地において被害調査を行い、淡路島北部の一部地域、神戸市須磨区から西宮市南部に至る帯状の地域、及び宝塚市の一部地域で震度7の激震が発生したものと判定した〔1−1−1図〕。震度7は、昭和23年の福井地震以降新たに設定された震度階級であるが、震度7と判定された地震の発生は今回が初めてである。
 この地震は都市直下型であったため、死者5,500余名、負傷者41,500余名、さらに全壊家屋は10万戸を超えるなど、その被害はきわめて甚大であった。また、鉄道の橋りょう部での橋桁の落下、人工島を中心とした大規模な液状化の発生、さらには、都市機能を支えるライフラインの途絶など近来まれにみる大都市複合災害の様相を呈した。これは、今世紀の地震災害としては大正12年9月に発生した関東大震災に次ぐものである。
 なお、気象庁はこの地震を、「平成7年(1995年)兵庫県南部地震」と命名し、さらに政府は、今回の災害の規模が特に大きいことに加え、今後の復旧・復興施策の推進の際に統一的な名称が必要となることが考えられることから、災害名を「阪神・淡路大震災」と呼称することとした。
 震災の被害額については、国土庁による概算では震災被害総額が9兆6千億円と推定され、そのうち鉄道、港湾などの運輸関連施設の被害額は約1兆6千億円であり全体の約17%強を占めている。
 これを施設別にみると、鉄道が約2,550億円、港湾が約1兆400億円などと推定されている〔1−1−2表〕

2 鉄道、港湾等の被害状況
(1) 鉄道〔1−1−4図〕
 鉄道は、山陽新幹線をはじめ、JR西日本、阪急電鉄、阪神電鉄等合計13社の路線において高架橋落橋、トンネルや駅舎の損壊などの大きな被害が発生した。
 主な被害状況は、〔1−1−3表(a)〕〔同表(b)〕のとおりである。
 このような被害のために、地震発生当日中に運行が再開できなかった区間は、新幹線が京都〜岡山間の219キロ、JR在来線が123キロ、民鉄線が296キロ、合計638キロに及んだ。
(2) 港湾・海岸
 港湾施設については、兵庫県、大阪府、徳島県の24港で被害が生じた。
 特に神戸港は、耐震強化岸壁(注)の3バースを除き、ポートアイランド地区、六甲アイランド地区のコンテナ埠頭など大半の施設が被災し、使用不可能な状態に陥った〔1−1−5図〕。また、防波堤については、最大約2m沈下し、防波機能が著しく低下した。
 なお、海岸堤防等は兵庫県、大阪府、徳島県において合計約42.5kmが被害を受けた。
 摩耶大橋等の高架臨港道路及びポートアイランド線・六甲アイランド線の新交通システムについては、鉄道、高速道路と同様に脚部の破損、基礎部分の変形等が生じた。
 さらに、ポートアイランド中央部などでは最大約0.5mの沈下が発生するとともに、ポートアイランドの大部分と六甲アイランドでは広範囲にわたって道路の表面が数十cmもの泥分に覆われ、機能が著しく阻害された。

(注) 耐震強化岸壁 大規模な地震が発生した場合に、被災直後の緊急物資、避難者、支援者等の海上輸送を確保するため、また、被災地域及び域外の経済社会活動に及ぼす影響を最小限に抑えるため、全国の主要港湾において通常の岸壁より耐震性を強化して建設された岸壁をいう。

(3) 道路
 阪神間を結ぶ中国自動車道、阪神高速神戸線、湾岸線、国道2、43号線といった主幹線道が寸断された。
(4) 道路運送施設
 バスについては、兵庫県及び大阪府において、32事業者の車庫、営業所、ターミナル等に被害が生じた。また、18事業者の172両の車両に被害が生じた。タクシーについては、営業所の被害が約520件、車庫の被害が約160件、車両は約760両が被害を受けた。
 また、1,183のトラック事業者が被災し、車庫、営業所等の施設及び車両の損壊等の被害が発生した。
(5) 空港
 大阪国際空港については、滑走路及び誘導路のひび割れ、旅客ターミナルビルの外壁の剥落等の被害が発生し、関西国際空港についても、旅客ターミナルビル、鉄道駅、立体駐車場等において、壁面にひび割れが発生するなどの被害が生じたものの、いずれも航空機の運航に支障は生じなかった。
(6) 港湾運送施設、倉庫施設、造船関連施設、その他
 神戸港の被災により、同港の港湾運送事業者が使用する上屋・荷役機械等の事業用施設について被害が発生した。また、倉庫施設については、沿岸部を中心に建物の損壊、荷崩れなどが発生し、神戸市内の1〜3類倉庫で62棟、26.1万m2、冷蔵倉庫では19棟、39.5万m3が全半壊した。
 造船関連施設については、建物の倒壊、工場設備の損傷が数多く生じたほか、クレーンの倒壊、岸壁の陥没、建造・上架中の船舶の破損、船台からの滑落等の被害が発生した。
 また、神戸市内のホテル等ではライフラインの途絶、営業施設の損壊等により、大多数が営業不能に陥った。

3 運輸に及ぼした影響
(1) 人流に及ぼした影響
(ア) 鉄道
(a) 地震発生直後における輸送人員
 地震発生直後、新幹線では、京都〜岡山間が不通となったが、1月18日には姫路〜岡山間(89km)、1月20日には京都〜新大阪間(39km)が復旧した。しかし、新大阪〜姫路間(92km)は4月7日まで不通であり、上下線あわせて1日当たり約11万人もの人々が影響を受けた。これは、山陽新幹線全線(新大阪〜博多間、623km)における1日平均輸送人員(6年度)約16万人のうち約71%を占めている。
 また、JR在来線及び民鉄線では、発災当日中に復旧しなかった不通区間が、JR東海道・山陽本線尼崎〜姫路間(80km)、阪急電鉄神戸線全線(32km)、阪神電鉄本線全線(32km)など合計約419kmにのぼり、約580万人の足に影響が出た。その後、1月末の段階では、阪神間の幹線交通であるJR東海道本線(芦屋〜神戸間、14km)、阪急電鉄神戸線(西宮北口〜三宮間、17km)、阪神電鉄本線(青木〜元町間、10km)を含め不通区間合計約93kmで、約250万人に影響があった〔1−1−6図〕
 なお、鉄道全体でみると、1月末で、近畿圏内の約17%、全国の約4%の利用者が影響を受けた。
(b) 復旧に伴う輸送人員の回復
 JRでは東海道本線及び山陽新幹線の不通の影響により、JR東海及びJR西日本の合計の輸送人員が、1月から3月までは対前年同月比でマイナスとなったが、JR東海道本線及び山陽新幹線が全区間開通した4月以降には同比でプラスに転じており、震災の影響も見られなくなっている〔1−1−7図〕
 民鉄では、阪急電鉄、阪神電鉄等において、路線の不通による輸送人員の大幅な減少があり、両電鉄が全線開通した6月以降においても、沿線人口の減少に加え利用客のJR線へのシフト等のため輸送人員は十分に回復せず、9月に入っても両社合計で同比で91.3%にとどまり、震災の後遺症が長びいている〔1−1−7図〕
(イ) 航空
 国内旅客輸送については、東京〜広島線、大阪〜福岡線等の阪神間をまたぐ路線を中心に、4月中旬まで臨時便が運航されたため、全国的にも旅客数が3月に対前年同月比20.1%増となるなど大幅に増加し、大阪国際空港及び関西国際空港の発着旅客数でも、6月9日に関西国際空港が開港し、大幅な増便があったことの影響もあり、3月に同比25.7%増となるなど大幅に増加したが、山陽新幹線の全線開通(4月8日)に伴い、4月以降は落ち着いた〔1−1−7図〕
 また、国際旅客輸送については、大阪国際空港及び関西国際空港発着の旅客数は、団体旅行客のキャンセルなどのいわゆる「出控え」の影響により、2月から4月までは1月の同比46.0%増に比べて伸びが大幅に鈍化したが、5月以降は順調に回復し、8月は同比72.8%増となった〔1−1−7図〕。全国的にも、当初この「出控え」がはっきりと現れ、2月は同比97.4%と5年9月以来のマイナスを記録し、3月、4月も低い伸びにとどまったが、それ以降は徐々に回復し、7月は同比15.8%増となっており、震災の影響は見られなくなっている。
(ウ) 自動車交通
 バスは、震災直後、神戸市内では、ほとんどの路線が運休した。兵庫県の1月の乗合バス輸送量をみると、震災による道路の損壊の影響等により、対前年同月比輸送人員は83.0%となった。その後徐々に回復しているが、8月においても同比95.4%にとどまっている〔1−1−7図〕
 タクシーは、兵庫県における輸送人員について2月には同比61.5%となったが、8月においてもなお、同比86.6%にとどまっており、震災の影響が長びいている。
(エ) 海上交通
 神戸港からは、淡路島、四国、九州等の各方面へフェリー、旅客船、高速艇が数多く就航しているが、それらの航路のほとんどが一時的に運航の中止を余儀なくされた。しかし、港湾施設の応急復旧等により、その一部については早期に運航が再開された。また、神戸港への寄港の一時中止や起終点を神戸港から大阪港等に一時変更することによる運航の維持も図られた。
 また、鉄道等からシフトした旅客により輸送人員が増加した例もあったが、フェリー旅客数では、淡路島〜神戸、徳島〜神戸等の神戸関係航路を中心に減少し、大阪港及び神戸港を発着としているフェリー26航路の輸送人員は1月には前年同月比84.4%、2月〜7月は同比65%以下と大幅な減少が続き、8月においても同比73.0%にとどまるなど、震災の影響が長びいている〔1−1−7図〕
(2) 物流に及ぼした影響
(ア) 鉄道・トラック
 鉄道輸送については、兵庫県を通過する貨物輸送量でみると、白動車による輸送の1割強であるが、震災後の輸送状況は次のとおりである。
 1月末現在で不通となっていた東海道本線芦屋〜神戸間(145km)のJR貨物コンテナ輸送量は震災前は12フィートコンテナ換算で1日に上下線合計4,800個であった。震災後の輸送実績をみると、1月は震災前の約8%、3月は震災前の約37%であった。
 トラック輸送については、1日平均約55万トンを超える貨物が、地震直後、高速道路、一般国道等で発生した道路の寸断等により大幅な遅延等の影響を受けたものと考えられ、全国的には1日あたり最大で約3.5%以上のトラック貨物輸送量が影響を受けたものと考えられる。
 また、一般トラックの7年1月の兵庫県発着貨物量は前年同月比85.8%となったものの、5月から7月までは、連続して同比プラスとなっている〔1−1−7図〕
(イ) 海上交通・港湾
 神戸港の国際貿易額は、5年において約7兆1,300億円(我が国全体の約11%)である。特に、外貿ライナー貨物量は4,314万トン、うち、コンテナは3,981万トン、250万TEU(同約30%)で、我が国最大となっている〔1−1−8表〕
 今回の震災では、岸壁や荷役機器の損壊等により、震災直後には神戸港のコンテナの荷扱いが全面的にストップしたため、外航船社は神戸港取扱貨物を他の港湾に緊急に荷揚げした。このため、例えば近隣の大阪港においては、コンテナターミナルや周辺道路の混雑や駐車場不足などが発生した。
 神戸港の輸出額は、2月に対前年同月比20.5%となり、輸入額でも2月から4月までは同比30%以下となるなど大きく減少した。港湾の復旧に伴い9月には輸出額で同比80.5%、輸入額で同比78.0%と急速に回復しつつあるものの、今なお震災の影響が残っている〔1−1−7図〕
 また、品目別にみると、例えば繊維工業品、糸及び紡績半製品が輸出、輸入について、我が国全体のそれぞれ7〜8割及び5〜6割が神戸港において取り扱われており、震災による神戸港の機能低下は、これら繊維関係の流通にかなりの影響を与えていると考えられる。
 なお、神戸港は広大な背後圏を有しているため、震災の影響は西日本を中心に広範囲に及んでいると考えられる〔1−1−9表〕
 さらに、神戸港の機能が麻痺した影響は我が国のみならず、アジアの国々などに及び、これらの国々における関係企業等において、生産ラインの一時ストップ、部品調達元の変更等の事態が生じた例もある。
(ウ) 航空 
 国内貨物輸送については、鉄道の寸断や高速道路の倒壊等による陸上輸送からのシフト、及び緊急援助物資の輸送などの需要が発生したことにより、全国では、1月に対前年同月比25.0%増となるなど大幅に増加し、大阪国際空港及び関西国際空港発着でも、3月には同比8.2%増となったが、陸上輸送の回復に伴い、4月以降は落ちついた動きとなっている〔1−1−7図〕
 また、国際貨物輸送については、関西国際空港の開港に伴う新規路線の開設により輸送量が相当に増加していたところに加え、震災により自動車部品等が海上輸送から一部シフトしたこと等から、大阪国際空港及び関西国際空港発着の輸送量は、2月、3月には同比100%を超える伸びとなったが、4月〜7月は同比70〜80%台の伸びとなっている〔1−1−7図〕
(エ) 倉庫
 神戸港の港湾機能の低下に伴い、神戸市における2月の入庫量は、普通倉庫で対前年同月比19.5%、冷蔵倉庫で同比14.8%と大幅な減少となったが、8月における入庫量、平均月末保管残高は、それぞれ同比で普通倉庫が63.9%、78.6%、冷蔵倉庫が88.0%、91.0%まで回復した。
(3) 観光関係に及ぼした影響 
 神戸市における月別の観光入込客数については、神戸市の調査によると、2月は対前年同月比5%、3月には同比4%になるなど壊滅的な状態となった。4月以降徐々に回復に向かっているものの、8月においても同比45%にとどまっており、震災の影響が依然残っている〔1−1−10図〕
 また、全国の主要旅行会社の国内旅行取扱額をみると、被災地域周辺の観光客減、及び震災による全国的な「出控え」等により、2月に同比92.4%となる等1月以降5月まで連続して同比でマイナスを記録したが、6月には同比2.0%増に回復した。一方、海外旅行取扱額も2月に同比95.0%となる等震災直後に影響が見られたが、4月以降同比ブラスに転じており、震災による「出控え」の影響は見られなくなっている。
 なお、震災による直接的被害が殆どなかつた大阪市のホテルは、震災に伴う臨時の宿泊需要により、2月の稼働率が90.9%(対前年同月比22.3ポイント増)となるなど高い伸びを示したが、4月には、平常化(同比2.3ポイント増)している。



平成7年度

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