平成7年度 運輸白書

第1章 阪神・淡路大震災と運輸

第2節 地震発生後の対応

    1 救援活動・緊急輸送の実施
    2 代替輸送の確保


1 救援活動・緊急輸送の実施〔1−1−11図〕
 政府は閣議決定により、1月17日に国土庁長官を本部長とする「兵庫県南部地震非常災害対策本部」を設置し、19日は緊急に政府として一体的かつ総合的な対策を講ずるため、内閣総理大臣を本部長とし、すべての閣僚を本部員とする「兵庫県南部地震緊急対策本部」を設置した。
 こうした政府全体での取り組みの一環として運輸省は、1月17日の地震発生直後、運輸本省、海上保安庁及び気象庁の本庁をはじめ、関係の地方支分部局においてそれぞれ地震災害対策本部を設置し、被災者の救援活動の実施、被災地への緊急救援物資の輸送体制の確立、鉄道の迂回輸送、代替バス等による輸送手段の確立等を行った。
 また、運輸関係の企業、事業者団体等においても被災者救援活動、援助物資や災害復旧物資の緊急輸送等を行った。
(1) 被害状況の把握
 地震発生直後、海上保安庁では、大阪、神戸付近を行動中の巡視船艇及び航空機によって神戸港等の被害状況の調査を行った。
 また、運輸本省では17日、被災地の状況を詳細に把握するため、関係各局の担当官を現地調査に派遣した。さらに、鉄道、港湾等の各施設に関して緊急輸送に必要な施設から早急に復旧を行うよう必要な指示を行った。
(2) 2次災害防止対策
 海上保安庁は、神戸港において、亀裂の入ったLPGタンクからのガス漏洩による災害の防止対策、火災が発生した倉庫施設に対する消火活動への協力等を行った。さらに、震源域付近の海底における断層等の地形変動の状況調査を実施した。その他、大量の空コンテナの海面への流出・漂流等に伴い船舶交通に対する危険が懸念されたため、港内の一部の海域を航泊禁止区域とするとともに、神戸港内、淡路島等の損傷した灯台施設の即時応急復旧を行うなど、船舶交通の安全の確保を図った。
 気象庁は、地震発生後、地震機動観測班を派遣し、詳細な現地調査を行うとともに、余震観測のために神戸市垂水区等5ヶ所に計測震度計を設置した。
 また、今回のような大きな地震においては、地盤に亀裂などが発生し、雨による土砂崩れなどが起きやすいことから、風雨や気温などの詳細な気象情報を適時に通報・発表した。
 さらに、3月末には、被災地域における、雨量観測・監視体制を強化するため、神戸市垂水区等3ヶ所に有線ロボット雨量計を設置するとともに、周辺地域を含む余震などの観測・監視体制の強化のため、計測震度計等を新たに20地点に整備した。
(3) 救援活動
 海上保安庁は、全国から巡視船艇及び航空機を大阪湾に緊急出動させ、17日より救援物資等の輸送を開始し、関西国際空港から巡視船艇による神戸港への救援物資輸送、ヘリコプターによる急患輸送〔1−1−12図〕などを実施した〔1−1−13表〕
 また、航空局所管の国有地及び国鉄清算事業団用地を被災者の居住場所、瓦磯処理場、物資運搬基地等の復旧拠点として提供するとともに、空港周辺整備機構の保有する共同住宅を被災者の居住場所として提供した。
 一方民間では、近畿地方を中心とするホテル・旅館等の事業者団体が、被災者が特別の割引料金で利用できる宿泊施設を地元自治体に提示するとともに、共通無料入湯券を地元自治体に提供した。さらに、バス事業者団体は避難場所と公衆浴場、自衛隊等の設営浴場等との間の無償バス輸送サービスを提供した。
 近畿圏に本拠を有する海運事業者は仮設住宅用としてのコンテナ及び救援物資貯蔵のための冷凍コンテナの無償提供を行った。また、神戸港、津名港等において旅客船を入浴施設、臨時宿泊施設として提供した。
(4) 緊急輸送体制の確立
 被災地においては、発災当日から水、食料品、医療品などの物資の必要性が高まったため、これらの物資を大量に確保し被災地に輸送する必要が生じた。
 このため、運輸省では、全日本トラック協会、日本内航海運組合総連合会、全日本航空事業者連合会等へ、陸運、海運、航空運送についての円滑な緊急輸送活動実施のための協力を要請し、これを受けて民間事業者により以下のような支援活動が行われた。
・全国のトラック事業者は、生活必需品等緊急援助物資を輸送した。また、現地のトラック事業者も域内輸送に最大限協力し、近傍のトラック協会からトラック及び要員が派遣された。
・航空事業者は、食料品、輸血用血液、浄水器等の救援物資を輸送した。また、1月20日から民間ヘリコプターによる食料品等の緊急輸送を実施した。
・一部の国内及び外国の航空輸送事業者は、政府に対して緊急輸送用として貨物専用機やヘリコプターの提供を行った。
・JR貨物及び鉄道利用運送事業者は、1月20日以降、食料品等を輸送した。
・民間の海運会社は、フェリー等により医療品、食料品、飲料水等を輸送した。
 また、国、自治体及び運輸関係事業者が連携した緊急輸送も行われた。例えば、公共機関等から要請のあった緊急救援用物資を航空会社が無償で関西国際空港に輸送し、これを海上保安庁の巡視船艇等が神戸港まで輸送し、そこから兵庫県の手配車両が同県の災害対策本部まで順次引き継いで輸送するルートが開設された。
 なお、運輸省は、ヘリコプターが飛行場以外の場所で離着陸する場合の許可手続きを弾力的に行い、大阪府や姫路市内等の7地点と被災地域内の17地点の間でのヘリコプターによるシャトル輸送体制を整備した。
(5) 輸送秩序の維持
 運輸省は、被災地域において不当に高い運賃を要求するなどのタクシーの違法行為を防止するため監視を行うとともに、違法行為については、車両の使用停止等の処分を行った。
 また、内航海運の運賃が便乗値上げされることのないよう、関係する事業者団体に要請した。

2 代替輸送の確保
(1) 代替輸送等の経緯
 今回の震災で鉄道、港湾、高速道路等の輸送関係施設が甚大な被害を受け、被災地域はもとより、我が国全体の国民生活及び産業活動にも多大な影響が出ることが懸念された。
 このため、鉄道代替バス路線、旅客船の臨時航路の設定、航空の臨時便の運航などにより輸送ルートの緊急的な確保に努めるとともに、損壊した鉄道施設や港湾施設等の復旧を急いだ。
(2) 旅客の代替輸送
(ア) 鉄道代替バスの運行
 神戸市付近の鉄道不通区間では、震災の翌日から鉄道代替バスの運行が開始され、1月18日の伊丹〜塚口間の代替バス運行をはじめとして、13の区間で代替バスが運行された〔1−1−14表〕。特に阪神間では、1月28日から警察及び道路管理者とともに、国道43号線にバス専用レーンを設置し、起終点間をノンストップで連絡するシャトルバス等が運行された。この区間における代替バスの運行は、1日当たり最大で4,000便を超え、約23万人の人員を輸送した。なお、震災前は同区間においては約94万人の鉄道輸送があった。
 山陽新幹線の新大阪〜姫路間の代替ルートを確保するために、姫路駅〜三田間に中国自動車道経由のバス路線を開設し、1日平均33便、約1,370人を輸送した。三田〜新大阪間の鉄道と合わせると所要時間は2時間10分であった。
 バスによる代替輸送は、それぞれ各区間の道路の復旧状況に応じ、路線の変更を行いながら継続された。また鉄道の復旧にあわせ、段階的に縮小され、8月22日の全面復旧に伴い終了した。
(イ) 海上航路による代替輸送
 鉄道旅客等の代替輸送手段の一つとして、既存航路の活用に加え、臨時に神戸〜大阪等の12航路が新設された〔1−1−15図〕
 臨時航路では1日あたり全体で最大78往復程度の運航を行い、1日最大で約2万4千人、5月末までに約70万人を輸送した。
 所要時間は、神戸(高浜)〜大阪等で約30分、神戸(メリケンパーク)〜西宮で約40分であった。
(ウ) JRの鉄道迂回ルート
 JR山陽新幹線新大阪〜姫路区間及び東海道本線尼崎〜神戸、山陽本線神戸〜姫路区間が全面不通となったため、代替バス輸送と併せ1月23日以降、鉄道迂回ルートを設定し〔1−1−16図〕、列車運行による輸送手段を確保した。
 これには、加古川線ルート(加古川線・福知山線を利用)、播但線ルート(播但線・山陰本線・福知山線を利用)が用いられた。加古川線ルートでは、姫路〜新大阪(92km)については通常は山陽新幹線で約35分、在来線で約1時間40分のところを、距離149km、所要時間約2時間45分であった。
 播但線ルートでは、距離214km、所要時間約3時間20分であった。
 4月1日に東海道本線が、また8日には山陽新幹線が全線開通し、迂回ルートはその役目を終えた。
(エ) 航空機による代替輸送
 山陽新幹線が不通となったため、その代替として1月17日以降、4月14日までに3,672往復(1日平均42往復)の臨時便を広島、岡山、福岡等と東京、大阪等の各空港間で運航し、延べ105万人の旅客輸送が行われたため、各空港では発着人員が急増した〔1−1−17表〕
 また、大阪国際空港では、臨時便のダイヤ設定時間を地元と調整のうえ午後9時から10時まで1時間延長し、2月7日以降4月14日まで、この時間帯に臨時便を1日に2〜4便設定した。
 運航当初は満席に近い状況が多かったが、4月8日に山陽新幹線が開通した後は座席利用率(ロードファクター)は急激に落ち込み〔1−1−18図〕、4月14日をもって、臨時便の運航を終了した。
(3) 貨物の代替輸送
(ア) 内航貨物船による代替輸送
 道路、鉄道網が寸断されたため神戸を通過できなくなったトラック、鉄道に代わり、緊急配船台された内航貨物船による海上輸送ルートを活用した鋼材、自動車部品等の代替輸送が実施された。
(イ) 航空機による代替輸送
 鉄道、道路の寸断等により、航空機による東西間の貨物輸送が行われ、特に、羽田−広島、羽田−岡山、羽田−福岡等の羽田を発着地とした大阪より西での需要が増加した。
 この他、神戸港の機能が低下したことにより、東南アジアの工場向け半導体や液晶表示板、精密機械のパーツ類等、軽量かつ高価値な製品の輸送について外航海運から国際航空にシフトするケースもあった。
(ウ) 鉄道貨物に対する代替輸送
 鉄道貨物については、東海道本線が不通となったため、コンテナについてトラック、内航貨物船による代行輸送が行われた。さらに福知山線・山陰本線・伯備線経由による迂回ルートが2月11日に設定された。迂回ルートの輸送能力は、2月においては1日平均で通常の2%にすぎなかったが、別途代行輸送により通常の26%が輸送された。
 また、不通区間の車扱列車については前述の迂回ルートを3月4日より利用したのに加え、播但線・山陰本線経由による迂回ルートを3月14日に設定した〔1−1−19図〕
(4) 大阪港をはじめとした他港による神戸港の機能の代替
 神戸港の被災により、大量の貨物がその輸出入港を変更せざるを得ない状況となり、大阪港、堺泉北港等の被災地周辺の港湾はもとより全国の主要港湾の代替利用が必要となった。
 こうした状況を踏まえ、運輸省は、我が国の経済活動、国民生活への影響を最小限に抑えるため、それまで神戸港が果たしてきた機能を代替すべく全国の主要港湾管理者に協力を要請した。
 全国の主要港湾においては、円滑な物流を確保するために、港湾管理者、税関等の行政機関や港運協会、倉庫協会等の業界関係者、港湾労働組合等からなる協議会が設置され、暫定的なコンテナヤード、シャーシープール(注)の確保、神戸港からシフトする貨物の効率的な輸送等について調整が行われた。また、神戸港の港湾労働者が他港においても臨時に荷役作業に従事し得るように調整が図られた。
 一方、神戸港を利用していた船社においては、緊急対策として、至近の大阪港等に積載貨物を降ろすとともに、神戸港での暫定供用岸壁の利用と併せて、航路別に配船を他港へ振り分けるケースがみられたが、今後は神戸港の復旧状況をみながち、震災前の状態に戻していくものと考えられる。
 1月17日〜31日の間に神戸港で荷揚げ予定だった貨物は、横浜港で5割近く、東京港と大阪港で各々2割程度代替された〔1−1−20図〕。各港の2月、3月の対前年同月比入港隻数の伸び率をみると大阪港の約2.4倍をはじめ、各港とも大きく増大した〔1−1−21表〕
 また大阪港、横浜港等の主要港湾では、神戸港からシフトしてきた貨物の受入れのため、日曜・夜間においても荷役を行った〔1−1−22表〕
 内航コンテナについては、主に姫路港及び東播磨港が神戸港の代替港として利用された。両港については、コンテナ用クレーンが設置されていないため、トラッククレーンを配備して荷役作業を行った。

(注) シャーシプール 海上コンテナ用トレーラ置き場。



平成7年度

目次