平成7年度 運輸白書

第1章 阪神・淡路大震災と運輸

第3節 復旧・復興への取り組み

    1 基本的考え方
    2 鉄道、港湾の復旧・復興
    3 観光の復興


1 基本的考え方
 阪神・淡路地域は、関西圏さらには我が国経済社会の発展を牽引してきた地域であり、また東西交通の大動脈を形成している地域でもある。また、神戸は我が国屈指の港湾都市であるとともに、有数の国際観光都市でもある。そのため、この地域の1日も早い復興は我が国の将来にとっても極めて重大な課題である。
 政府の阪神・淡路復興対策本部においては、4月28日に「阪神・淡路地域の復旧・復興に向けての考え方と当面講ずべき施策」を決定した。運輸省関連では、鉄道・港湾の早期復旧や耐震性の向上、港湾における防災拠点の整備、物流及び観光の復興支援等の復旧・復興施策が盛り込まれている。また、7月28日には県・市が策定した復興10ヶ年計画を踏まえて「阪神・淡路地域の復興に向けての取組方針」が同本部において決定され、その中で、復興計画の前期5ヶ年において、復興にとって緊急かつ必要不可欠な施策を復興特別事業として位置づけ、その円滑な実施に必要な特段の措置を講じ、それらの事業の着実な実施に全力を注ぐこととされた。
 運輸省としてもこれらの決定に沿って、鉄道、港湾及び観光の復旧・復興を通じて、被災地域の生活再建、経済復興等を推進するため、6年度第2次補正予算、7年度第1次及び第2次補正予算などにおいて復旧・復興の支援を行った。その結果、鉄道は8月23日に全線復旧し、港湾は平成8年度中に概ね復旧する見通しとなっている。
 なお、モーターボート競走関係者により7年度に実施される特別競走により、50億円を目標とする「震災復興支援基金」を確保し、神戸港地区や被災地域の交通網の確保をはじめとして、被災住民の生活向上や地域経済の復興に役立つ事業等に活用することとなっている。

2 鉄道、港湾の復旧・復興
(1) 鉄道の復旧
(ア) 基本方針
 鉄道施設の復旧については、1月18日に運輸省に設置した「鉄道施設耐震構造検討委員会」が被災した鉄道施設の現地調査を実施するなど、復旧方針について検討を行い、「復旧については、被害の状況に応じ、損傷部を補強し、または、新たに部材を構築する場合、帯鉄筋の強化、鉄板による被覆等建設時より強度の高い構造物になるような措置を講じる必要がある。」という当面の復旧に対する考え方を示した。また、今回とられる補強による高架橋等の復旧方法については、実験の結果、今回程度の地震に耐える構造になっていることを確認(第1次中間取りまとめ)するとともに、補強によらずに再構築する場合の高架橋及び開削トンネルについては、今回程度の地震に十分耐えられる構造とすることを目標とした「阪神・淡路大震災に伴う鉄道復旧構造物の設計に関する特別仕様」をとりまとめた。
 このような考えに基づき、運輸省が鉄道施設の復旧計画の安全性等を確認したうえで、各鉄道事業者は復旧工事を行った〔1−1−23図〕
(イ) 復旧に対する支援措置
 被災した鉄道を速やかに復旧して、円滑な旅客・貨物輸送を確保しなければ国民生活に著しい障害を与えるおそれがあり、また被災鉄道事業者がその資力のみによっては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であることから、6年度第2次補正予算及び7年度第1次補正予算において災害復旧補助を行うとともに、併せて日本開発銀行から、低利の災害復旧融資を行った。
(ウ) 復旧の状況
 新幹線については姫路〜岡山間が18日に、京都〜新大阪間が20日に復旧するとともに、在来線についても福知山線が21日始発より全線復旧する等逐次運転が再開された。
 阪神・淡路大震災後1週間を経た1月24日の不通区間は〔1−1−25図(a)〕の通りであり、その後、関係者の努力により順次復旧し、4月1日にはJR西日本在来線の全線開通、また、4月8日には、山陽新幹線の全線開通となった。さらに、6月中には阪急電鉄、阪神電鉄の全線開通により、〔同図(b)〕まで復旧が進み、8月23日には六甲アイランド線が全線開通したことにより、被災地域の鉄道不通区間はすべて復旧した〔1−1−24表(a)〕〔同表(b)〕
(2) 港湾の復旧・復興
(ア) 神戸港復興のための基本的考え方
 運輸省では、港湾管理者である神戸市等と協議のうえ、2月10日「兵庫県南部地震により被災した神戸港の復興の基本的考え方」をとりまとめた。
 この基本的考え方においては、神戸港がアジアの拠点港として機能を果たすため、@港湾機能の早期回復を図る。A施設の耐震性の強化を図る。B市街地復興との連携を図る。C国際拠点港湾としての復興を図ることにより、復興を進めることとしている。
 特に、耐震性の強化に関しては、施設の耐震性の向上や、耐震強化岸壁の拡充の他に、人工島と市街地を結ぶ連絡路について、橋りょうと海底トンネルの組合せを図るなどの多重化を行うこととしている。
 また、この基本的考え方を踏まえ、神戸市では4月28日、今後の神戸港を単なる物流拠点を越えた、人・物・情報が集まる総合的な交流拠点へと飛躍させることにより、神戸市全体の復興及び活性化に資することを目的として神戸港復興計画」をとりまとめた。この復興計画は、概ね2年での復興を目標とする「短期復興計画」と「中長期復興計画」から構成されている。「中長期復興計画」は2月17日に改訂された「神戸港港湾計画」(目標年次:概ね平成17年)を基本としつつ、今回の震災の教訓を活かし、防災面に十分配慮し、震災後の現状に立脚した新たな港づくりをめざして策定したものである。
 この復興計画に対応するため、8月3日、「神戸港港湾計画」の一部変更が港湾審議会で承認された。
 神戸市ではこの港湾計画に従い、瓦礫の受入等にも資する土地造成、再開発による物流機能の強化のほか、耐震強化岸壁、高規格の国際海上コンテナターミナル、快適な環境を創造する緑地の整備等を行うこととしている。
(イ) 復旧・復興に対する支援措置等
 神戸港が我が国の経済活動に大きな役割を果たしており、また神戸港の復興が被災地域の復興にとって不可欠であることから、神戸港の復興に対し、国として支援措置を講じている。
 具体的には、(財)神戸港埠頭公社が保有する、神戸港の基幹的港湾施設であるコンテナバース、フェリーバースの災害復旧について「阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び肋成に関する法律」による国庫補助等の支援制度を設けた他、港湾緑地の復旧に対する予算制度を創設した。また、今回の措置として神戸市保有の荷役機械の復旧費の一部を補助した。さらに、港湾機能の早期回復を図るため、6年度第2次補正予算、7年度第1次及び第2次補正予算において、岸壁、防波堤、コンテナバース、荷役機械、港湾緑地等の災害復旧を行うとともに、水深が15mに及ぶ高規格の国際海上コンテナターミナルを整備することにより、今後、港湾の機能及び国際競争力の強化等を図り、併せて避難緑地を中心とする防災拠点の整備を行うことにより、都市の防災性の向上を図ることとしている。また、日本開発銀行からの民間の港湾施設等の復旧に対する低利融資制度や民有海岸保全施設の復旧に対する超低利融資制度が創設された。
(ウ) 神戸港の復旧状況
 緊急に復旧を要する箇所について、直ちに応急工事の施工に着手し、公共岸壁約150バースのうち1月末では68バースが応急復旧済となった。11月6日現在、63のバースが利用可能(注)となっており、般貨物船バースについては1バースが本格復旧したほか、コンテナバースは21バース中8バースが暫定的に利用可能となり、フェリー埠頭については7バース中2バースが本格供用され、1バースが暫定的に利用可能となっている。
 神戸港発着の定期航路は11月15日現在、201航路中141航路が再開されており、また、外航船入港隻数は10月において対前年同月比約87%となった。
 また、外貿コンテナ取扱量は9月において同比約70%まで回復している〔1−1−26表〕

(注) 工事実施の関係等で利用可能なバース数は1月末より減っている。

(エ) 神戸港における仮設桟橋埠頭の建設
 阪神・淡路復興委員会の提言に基づき、神戸港の外貿コンテナ取扱機能の早期回復を図るため、六甲アイランドにおいて、延長1,000mに及ぶ水深13〜14mの仮設桟橋埠頭(外貿コンテナ船用2バース、海上フィーダー船用2バース)の建設を進めてきた。このうち、10月末に外貿コンテナ船用バースのうち1バースが工事完了し、11月13日に供用を開始した。
(オ) 神戸港の復旧スケジュール
 8年度内を目途に港湾機能の回復を図ることとしており、今後、7年度末までに、コンテナ埠頭については概ね3分の1を本格供用、フェリー埠頭については7バースのうち5バースを本格供用、一般岸壁については概ね5割を本格供用し、また、臨港道路については、8年8月までに、ハーバーハイウェイを全線供用することとしている。
(カ) 港湾における瓦礫等対策
 震災による瓦礫等の発生量は、兵庫県の集計では約1,850万トンにのぼっており、市街地の円滑な復興を実現するためには、その早期処理が不可欠である。神戸港、尼崎西宮芦屋港等において、瓦礫の仮置き・積み出し場所を分散的に確保することとし、1月24日から大阪湾広域臨海環境整備センターの海面処分場において、道路、鉄道等の復旧に伴う発生分をはじめ12市町からの瓦礫等の受入れを行った。また、瓦礫等の本格的な受入れにあたっては、港湾計画、埋立免許に係る手続きを迅速化し、神戸港等の港湾整備事業の資材として積極的に活用を図ることとしている。
(キ) がんばろう神戸港復興フェスタ
 復興しつつある神戸港の状態を国内外に強くアピールするとともに、物的・精神的に多大の被害を受けた被災地住民の活力の向上を期して、「がんばろう 神戸港 復興フェスタ」が7年9月から11月にかけて、運輸省の後援のもとで開催された。期間中は、「神戸港国際物流促進シンポジウム」、「海事港湾セミナー」などの船社・ 荷主へ神戸港の復興をアピールする行事を一つの柱として行う一方、「TSL実海域実験船『飛翔』一般公開」、「関西国際空港見学会」などの被災市民の心身のケアにつながる行事を行った。

3 観光の復興
(1) 基本方針と復旧・復興に対する支援措置
 神戸市を中心とする地域は、歴史的建造物等多様な観光資源が存在する地域であり、観光は重要な産業であると同時に、地域文化の形成に大きな役割を果たしている。
 この地域の観光復興については、このような特色を活かし、国際観光交流地域としての復興を念頭に置きつつ、以下のような施策を実施した。
(ア) ホテル・旅館等復興対策協議会
 被災地域におけるホテル・旅館等の早期の営業再開や、利用の促進を図るための課題・方策を検討する協議会を設置した。協議会では、宿泊施設や観光施設の復旧状況等の情報提供体制を確立したほか、各種会議の誘致等の利用促進方策を策定し、その具体化を図っている。
(イ) 総合的観光復興計画のあり力に関する調査委員会
 この地域の観光資源や観光施設の被災状況、復旧見通しを把握するとともに、総合的な観光復興計画のあり方を検討するための調査委員会を設置し、調査・検討を行っている。
(2) 観光施設の復旧状況
 神戸巾内のホテルなどの宿泊施設は2月中旬においても、なお約6割が営業不能であった。4月中旬には、JR在来線、山陽新幹線の全線復旧、ライフラインの全面復旧を受けて、約7割が営業を再開し、その後は、民鉄の復旧の動きにあわせて営業の再開が進み、11月中旬には約9割が営業を再開した。
 神戸市内の遊園地、博物館、重要文化財等の観光施設については、4月中旬には約6割が、11月中旬には約8割が営業を再開した。



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