平成7年度 運輸白書

第2章 震災対策の強化

第2章 震災対策の強化

 今回の震災は、交通の要衝である都市を直撃する直下型地震であり、現地において家屋等の多数の建築物の倒壊、ライフラインの途絶などの被害が発生したのみならず、新幹線を含む交通ネットワークの破壊、我が国を代表する港湾である神戸港の機能の喪失などにより、その影響は全国的なものに拡大した。
 今回の震災による被害の甚大さにかんがみると、鉄道や港湾等の交通基盤については、既存の施設を含め、その耐震性の一層の強化・向上を図ることが極めて重要である。
 また、今回の震災において、港湾が緊急物資の海上輸送、仮設住宅用地の提供など市民生活の復興に大きな役割を果たしたことから、大都市の多くが港湾を抱えている我が国においては、都市の防災性を高めるうえで、単に岸壁の耐震性強化などを行うだけでなく、都市防災拠点として港湾を整備していくことも重要である。
 一方、震災対策を講ずるうえでは、地震、津波について充実した予警報・予知体制の確立が肝要であり、今後とも、こうした体制の整備を進める必要がある。
 さらに、震災時における行政側の体制に関しては、防災計画の見直し、情報収集・連絡体制の強化、救援活動を行う船艇やヘリコプターの整備などが必要であることが強く認識された。

第1節 輸送施設の耐震性等の強化

    1 鉄道
    2 港湾
    3 空港


1 鉄道
(1) 鉄道施設における耐震性の研究
 世界有数の地震国である我が国では、鉄道開通以来、鉄道沿線における震度5を超える地震は40回以上発生しており、鉄道が被害を受けた地震も20回を超えている。
 新潟地震(昭和39年、M7.5)、十勝沖地震(昭和43年、M7.9)、宮城県沖地震(昭和53年、M7.4)等の大規模な地震により被害を受けた経験から、軟弱地盤における鉄道構造物の耐震設計に関する研究など鉄道の耐震性の向上に関する研究がなされてきている。
 また、想定される東海地震に対する東海道新幹線などの耐震強化対策〔1−2−1図〕についても精力的に研究が進められ、例えば、軟弱地盤上の盛土の崩壊対策や橋台裏盛土の沈下対策としてシートパイル締切工法(注)等が開発され、これらの成果は東海道新幹線の地震防災対策強化地域で既に導入されている。
 今後は、都市直下型地震である阪神・淡路大震災における構造物の被災原因の一層の解明を図り、新しい研究成果を加えて、鉄道施設の新しい耐震構造のあり方を明らかにしていくこととしている。

(注) シートパイル締切工法 橋りょう下部構造物等を築造するための仮設遺物であるシートパイルを連続して打ち込むことにより、一定の区域を囲み、内部を排水してドライな状態で工事を進める方法。

(2) 鉄道施設の耐震性の向上
 鉄道施設耐震構造検討委員会は、鉄道施設の耐震性の向上について、7月26日、新たな耐震設計手法が確立されるまでの当面の措置をとりまとめ、新設する高架橋、開削トンネル等については、「阪神・淡路大震災に伴う鉄道復旧構造物の設計に関する特別仕様」を準用し、今回程度の地震に十分耐えられる構造とすることを目標とすることとした。また、既存の高架橋、開削トンネル等については、新幹線及び輸送量の多い線区を対象として、今回程度の地震に対しても構造物が崩壊しないように緊急耐震補強を行うこととし、新幹線については概ね3年以内に、その他の鉄道については概ね5年以内に実施することを提言した。
 この提言を踏まえて、8月24日、JR3事業者、民鉄21事業者、公営地下鉄・営団7事業者の計31事業者を対象とした、既存の鉄道構造物の緊急耐震補強計画をとりまとめた〔1−2−2表〕。この計画に基づき、各鉄道事業者は耐震補強工事を実施しているところである。
 なお、7年度第2次補正予算において地下鉄について、既存の鉄道構造物のトンネル中柱補強等の耐震補強工事に要する費用の一部に対する補助を行うこととした。
(3) 地震発生時の列車の安全確保
 地震発生時の列車の安全確保のため、鉄道総合技術研究所において地震早期検知・警報システムUrEDAS(ユレダス)〔1−2−3図〕が開発されている。これは、初期微動(P波)の段階で地震発生位置や地震規模を自動的に検知し、地震検知後4秒以内に列車走行についての警報を出す、世界初のインテリジェントシステムである。このシステムは、すでに青函トンネル、本州四国連絡橋や東海道新幹線に導入され、また山陽新幹線については7年から一部で導入されている。さらに、これに警報後の的確な運転再開判断や地震被害箇所の自動予測を可能とする復旧支援システムHERAS(ヘラス)を組合せた鉄道に関するインテリジェント地震防災システムの構築が進められている。

2 港湾
(1) 港湾施設における耐震性の研究
 港湾施設を地震に耐える構造物となるよう設計するため、港湾技術研究所等により、各種の調査実験、地震被災事例の解析等を積み重ね、被害を発生させる地震動記録の収集や構造物の被害の発生機構の把握に努めてきた。その成果は、地震上学における震度法(注)の改良という形で実務に反映されている。
 また、5年度から8年度までの4ヶ年計画で大都市直下型地震の特性の把握、構造物・地盤の動的挙動の解明、臨海部施設の耐震設計法の高度化などを中心的テーマとする「大都市直下大地震に対する臨海部施設の耐震設計手法の高度化に関する研究を実施している。
 なお、阪神・淡路大震災で多くの港湾施設が被災した状況を踏まえ、このような大規模な直下型地震に伴う3次元性の強い地震動に対する耐震技術の研究を早急に進めるため、7年度第2次補正予算により港湾技術研究所の大型水中振動台を3次元に振動させることができるよう改良する〔1−2−4図〕

(注) 震度法 構造物に動的に作用する地震による外力をその構造物の重心に常時作用する荷重のような静的な力とみなし、構造物を設計する方法。

(2) 液状化対策
 昭和39年に起こった新潟地震では、地盤の液状化による土木構造物の被害が大きな社会問題となった。その後、港湾構造物における液状化に対する各種調査研究が幅広く進められている〔1−2−5図〕
 現在では、新たに建設される港湾構造物の背後地盤における液状化対策として、締固め工法(注)、置き換え工法(注)等がとられている。

(注) 締固め工法 緩い砂質土地盤の液状化等を防止するため、砂を圧入するなどして地盤を締め固める工法。

(注) 置き換え工法 地盤改良するに当たり、軟弱土を排除して良質な土に置き換える工法。

(3) 耐震施設の充実強化
 運輸省では、阪神・淡路大震災における港湾施設の被害メカニズムの解析や今後の耐震基準のあり方等について検討を行うため、1月28日、「港湾施設耐震構造検討委員会」を設置した。さらに、4月25日には、個々の港湾施設の耐震性のみでなく、港湾全体としての地震への対応のあり方についても取り組むため、「地震に強い港湾のあり方に関する検討調査委員会」を設置した。これらの委員会は、8月29日にそれぞれ中間報告あるいは報告をとりまとめた。
 運輸省は、同日、これらを受け、「地震に強い港湾をめざした当面の措置」をまとめた。この中で、耐震設計の充実強化策として、@耐震強化岸壁の耐震設計に際し、直下型地震を設計対象地震に加え、A岸壁などの耐震設計に際し、重要な施設については、耐震設計基準を厳正に適用し、B高架道路等の臨港交通施設のうち水際の橋脚基礎の設計に際しては、前面の護岸の挙動や構造を考慮し、臨港交通施設の耐震性能の確保を図ることとしている。
 また、震災において有効性が確認された耐震強化岸壁について、一層の整備の推進を図ることとし、従来の緊急物資輸送等を想定した一般岸壁についての整備の拡充のほか、新たに、三大湾等のコンテナターミナルや複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルへ整備対象を拡大するとともに、多目的外貿ふ頭についても整備を図ることとしている。
 その他、高架臨港道路などの重要な既存施設については、その施設の重要性、緊急性等に応じて順次点検・耐震補強を行うとともに、港湾施設の耐震性の向上を図るための研究開発を促進することとしている。
(4) 海岸保全施設の整備
 今回の震災を踏まえ、地震時に背後地域を防護するため、7年度第1次及び第2次補正予算により、東京港、大阪港等について、堤防等の耐震性の強化や液状化対策など海岸保全施設の防災機能を強化している。

3 空港
(1) これまでの地震における空港の被害状況
 我が国で空港の地震による被災により航空機の運航に支障をきたしたのは、昭和39年6月16日の新潟地震発生時における新潟空港と、平成5年7月12日の北海道南西沖地震発生時における奥尻空港〔1−2−6図〕の2回である。
 今般の阪神・淡路大震災に際しては大阪国際空港が震源地や被災地と比較的近い位置にあったが、ターミナルビルなどの一部に損傷が生じたにとどまり、航空機の運航に支障を与えるような被害は発生しなかった。
(2) 施設の耐震性の向上
 滑走路等の舗装構造については、地震被害を受けにくいものとなっており、舗装設計にあたっては特に地震という概念は考慮されていない。しかしながら、兵庫県南部地震による各種被害の甚大さ、重大さにかんがみ、1月28日に「空港・航空保安施設耐震性検討委員会」を設置し、空港・航空保安施設の耐震性に関する今後のあり方等について検討を進めており、8月25日に中間報告がまとめられた。同報告では、震災時に航空機の安全な運航を維持し、緊急輸送・代替輸送の拠点として震災地域の復旧・復興に寄与するため、空港・航空保安施設のさらなる耐震性の向上が望ましいとし、緊急に取り組むべき事項として土木・建築施設などの既存施設の耐震性の強化等が掲げられている。
 運輸省では、これを受けて、当面の対応策として、土木施設の補強、旧基準により建設された建物の補強・建替え等を行うこととしており、7年度第2次補正予算により、東京及び札幌航空交通管制都庁舎の耐震補強を行っているほか、福岡空港等地域拠点拠空港において、エプロン、滑走路の耐震性の向上を図るとともに、災害に備えて、無線機器の更新を行っている。
(3) 航空管制機能の確保
 航空管制は、飛行中の航空機相互間及び航空機と障害物との安全間隔を設定し、航空交通の秩序ある流れを維持促進するものであり、航空管制機能か喪失すると、航空交通の安全性が著しく損なわれる。そのため、各航空交通管制部、及び我が国が担当する洋上の国際線等の管制を実施するために設けられている国際対空通信施設のバックアップの体制について、7年度第1次及び第2次補正予算により、強化を図っている。
 さらに、各航空交通管制部相互間及び各航空交通管制部、空港、航空保安施設等を相互に結んでいる地上通信回線についても衛星を利用したバックアップ体制を検討している。



平成7年度

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