平成7年度 運輸白書

第2章 震災対策の強化

第3節 地震・津波監視体制の強化

    1 地震監視
    2 津波監視
    3 海底活断層等の調査


1 地震監視
(1) 地震監視体制の整備、強化
 気象庁では、全国ネットワークをもって地震観測を行い、地震情報及び津波予報等を24時間体制で提供している。また、気象庁長官は、大規模地震対策特別措置法において、防災対策の対象として想定されている東海地震の発生のおそれがあると判断した場合には、直ちに内閣総理人臣に「地震予知情報」(注)を報告することとされているが、その判断を的確に行ううえでの一助として、各種地震関係観測データをリアルタイムで処理し、総合的に監視する「地震活動等総合監視システム(EPOS)」(注)を運用している〔1−2−9図〕
 現在の震度階級表では震度7については震度計による速やかな計測ができず、また各震度階級の現行の説明文が現代社会に適合していないことから、気象庁は3月16日に震度問題検討会を設置し、気象庁震度階級のあり方について検討し、7月5日にその中間報告を取りまとめた。この中で、震度情報が、防災機関の初動体制等に利用されており、また、その速報性が地震防災上重要な意味を持っていることから、震度7を含め、全ての震度観測を計測化し、速報することが適切であるという考え方が示された。
 気象庁では、この方針に従って7年度第1次及び第2次補正予算により計測震度観測施設(注)をすべて震度7まで計測できるものとしたうえで、290ケ所から574ケ所へと大幅に増設することとし、全国の生活圏においてほぼ20kmメッシュの震度観測網を確立することとしている。
 また、震度データ伝送の確実化を図るため、地震観測施設の耐震性の向上を図るとともに、地上の通信ケーブル切断等により震度デー夕の入手ができないことがないよう、気象衛星を利用した情報伝達の二重化を行うこととしている〔1−2−10図〕
 なお、活断層(注)における地震予知技術の開発のための調査・研究の一環として、淡路島北部地域において地電流等観測施設(注)の整備を行うこととしている。

(注) 地震予知情報 大規模な地震か発生するおそれがあると認めた場合に、気象業務法第11条の2に基づき気象庁長官から内閣総理大臣に報告するもので、その後内閣総理大臣から「警戒宣言」が発せられた場合には、「大規模地震関連情報」を発表する。

(注) 地震活動等総合監視システム(EPOS) 関東・中部地方を対象とする津波予報・地震情報の発表、東海地震予知のための常時監視の業務を遂行するため、地震活動、地殻活動、津波実況のデータを自動的に処理するシステム。

(注) 計測震度観測施設 従来人間の体感や周囲の状況等に基づいて決定されていた震度を計測機器により客観的な値として観測する施設。

(注) 活断層 過去数十万年程度の間に縦ずれなどの変位を繰り返し行った形跡があり、今後も何様の運動を行う可能性のある断層。

(注) 地電流等観測施設 大規模な地震の前に地穀の破壊等により発生する地電流の変化を観測することで地震発生の予知の可能性を探ろうとする地震予知手法(VAN)が日本において適用可能かどうかを調査、検討するための観測施設。活断層を取り巻くように電極を埋設し、ノイズに埋もれた中から地震に関するデータを抽出する。

(2) 地震情報を取り込んだ防災対策の推進
 地震防災緊急事業5ヶ年計画の作成、これに基づく事業についての財政上の特別措置、地震に関する調査研究体制の整備等を内容とする、地震防災対策特別措置法が、7年6月に成立した。この法律に基づき、気象庁長官は、地震調査研究推進本部長(科学技術庁長官)の要請を受け、地域地震情報センターとしての気象庁本庁及び管区気象台等において各地域の大学等から地震に関する情報を収集し、その成果を地震調査研究推進本部に報告することとなっている。また、気象庁では、7年度第2次補正予算により、同法に基づき、地震に関する観測、研究等を行っている関係行政機関、大学等の地震、地殻等のデータを気象庁に一元的に収集し、監視するためのシステムを整備することとし、地震予知研究の推進を図っている。

2 津波監視
 気象庁では、全国の海岸を18の津波予報区に分け、全国6ヶ所にある津波予報実施官署がそれぞれ担当する津波予報区に対して津波予報を迅速に発表するとともに、全国66ヶ所の検潮所により津波を常時監視しているが、さらに体制を強化するために、7年度第1次及び第2次補正予算により、新たに11ヶ所の津波観測施設を増設するとともに、既存の検潮所を含めた76観測点に巨大津波観測施設(注)を整備することとしている〔1−2−11図〕。また、地震・津波情報を高度化する基盤となる津波地震早期検知網(注)及び緊急情報衛星同報システム(注)を活用することにより、迅速かつきめ細かな津波予報体制の確立を図ることとしている。

(注) 巨大津波観測施設 高さ2メートル以上の巨大津波を的確に観測するため、通常は海水に埋まらない、陸上の観測に適した場所に圧力計を設置し、遡上した海水による水圧の大きさによって津波の高さを計測する装置。

(注) 津波地震早期検地網 津波情報を迅速に発表するために整備されたネットワーク。津波予報に必要な、周期の長い地震波をも計測できる観測施設を全国に整備したことにより、地震発生後2〜3分程度で津波予報を発表できるようになった。

(注) 緊急情報衛星同報システム 静止気象衛星「ひまわり」を経由することにより、緊急情報である津波予報等が迅速かつ一斉に伝達されることになり、すみやかな防災対応を可能にしたシステム。

3 海底活断層等の調査
 海底における地穀の状況の変化が陸上における地震等の前触れとなることから、海上保安庁では、海底地形・地質構造調査、潮汐観測、地磁気観測、重力観測等を利用した海底の地殻変動監視観測等により海底の状況について調査を実施しており、地震予知等の基礎的な資料を収集・分析している。
 今回の地震を踏まえ、明石海峡及び大阪湾における海底変動地形調査を実施し、8本の断層を確認したところであり、さらに、7年度には東京湾、大阪湾、伊勢湾について活断層調査を実施するほか、関西地域の地震予知体制の強化を図るための海域地殻変動監視観測を実施する。



平成7年度

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