平成7年度 運輸白書

第3章 その他の災害対策の推進
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第2節 風水害及び雪害対策 |
1 気象予報・観測及び情報の提供
2 各輸送施設の対策
- 1 気象予報・観測及び情報の提供
- 全国各地の気象官署は、大雨や強風等により、災害の起こるおそれがある場合に注意報を、重大な災害の起こるおそれがある場合に警報を発表している。こうした注意報・警報などのきめ細かな防災情報の提供及び情報の量的表現の拡充などの、気象業務の強化・充実を図るため、気象庁は、6、7年度の2ヶ年でCOSMETS(注)(気象資料総合処理システム)〔1−3−3図〕を更新整備する。これを活用することにより、8年3月から、新たに「地方天気分布予報」と「地域時系列予報」を発表する。「地方天気分布予報」は、全国を約20km格子で約1,500の地域に細分割し、各地域単位で3時間毎の天気や降水量等の分布を24時間先まで予報するものであり、全国を11ブロックに分け発表する。「地域時系列予報」は、各都道府県内の代表的な数地域について3時間毎の天気や気温等の推移を24時間先まで予報するものである。
これにより、暴風雨や豪雨・豪雪などにより災害が発生する際には、その予防や応急活動などにおいて、ー層緻密な対策を行うことが可能になると考えられる。
その他、気象レーダー、地上気象観測装置、積雪深計等の設備の近代化を図ることとしている。
なお、気象庁では、航空機の安全な離着陸のため、85の航空気象官署等において空港とその周辺の気象を観測しており、観測データを航空管制機関や航空会社等に提供している。
このうち、国内主要9空港では、空港気象レーダーにより空港を中心に半径100km以内の空域の降水分布等を観測しており、特に6年度は関西国際空港、7年度には新東京国際空港に、航空機の離着陸に重大な影響を与えるダウンバースト(注)など空港周辺の低層域の風の急変(低層ウインドシヤー)(注)を検出できる空港気象ドップラーレーダー(注)を整備し、これらの空港では、8年度から低層ウインドシヤ−の観測を始めることとしている〔1−3−4図〕。
また、海洋に関する情報については、高潮に対する注意報・警報の発表をはじめ、日本近海及び北西太平洋域の波浪等の解析を行って情報を提供し、船舶及びマリンレジャ一等の安全確保に寄与している。
(注) COSMETS 気象庁に設置されている気象資料総合処理システムで、気象、地象、水象の観測データを国内外から収集し大気等の状態を解析・予測し、その結果を国内外に配信する総合的な電子計算機システム。
(注) ダウンバースト 活発な対流雲(積乱雲や局地的な雄大積雲)の下で発生し、地上付近まで達する強い下降気流をさし、地上付近では強い発散風となる。航空機の離着陸に著しい悪影響を及ぼす。
(注) 低層ウインドシヤー 地上から高度約500mまでの、水平または垂直方向の風向または風速の急激な変化。特にこのような低高度におけるウインドシヤ一は航空機の安全な離着陸の妨げとなる。
(注) 空港気象ドップラーレーダ一 隆水粒子に照射した電波の反射波の周波数が、降水粒子の移動速度に応じて変化する性質(ドップラー効果)を利用して、降水域内の周囲の風速分布を測定するレーダーのうち、特に、空港周辺の低層ウインドシヤーを検出することを目的として設置されたレーダー。
- 2 各輸送施設の対策
- (1) 鉄道における対策
- 鉄道においては、軌道、橋りょう、架線等の施設について鉄道運転規則等に基づく定期点検を実施しており、的確な危険箇所の早期把握に努めている。特に、梅雨期や台風時期においては、豪雨や暴風による土砂崩れやレール上の障害物の発生などがおこるおそれのある海岸沿いや崖の側面など〔1−3−5図〕の点検を強化している。
さらに、老朽化した橋りょう等の構造物について適宜、取替え又は改良を実施するなど、災害事故発生の未然の防止を図っている。
なお、防災施設のうち、治山、治水等の公共防災事業に準ずるものに対しては、その整備について国が助成措置を講じている。
また、集中豪雨などによる鉄道の盛土部分の崩壊は、列車の走行安全性について重大な悪影響を与える。このため、鉄道総合技術研究所において鉄道沿線の降雨量により鉄道盛土が崩壊する危険性を測定・評価し、運転規制等の警報発令を発するラミオス(降雨災害予知検知システム)の開発が進められている〔1−3−6図〕。
- (2) 空港における対策
- 空港においては、新設や拡張にあたり、周辺地域の水流の状況と十分調和のとれた排水施設の整備を行い、空港内に降る雨の円滑な排水を確保している。また、雪害対策としては、安全で円滑な航空機の離着陸を確保するため、除雪車両等の整備を行うとともに、滑走路、誘導路及びエプロンにおける除雪計画、作業実施要領を策定し、除雪作業開始の判定基準、除雪作業順位等についてきめ細かに対応している。
- (3) 港湾における対策
- 我が国の海岸域は、地震や台風、冬季風浪等の厳しい自然条件のもとにおかれており、高潮、津波等による大きな被害をしばしば受けている。一方、港湾の海岸域には、生活、生産等の活動が集中していることから、海岸災害に対する高い安全性が求められている。このため、港湾におけるこれらの災害に適切に対処すべく、海岸保全施設の整備を計画的に進めている。
なお、近年、護岸、海浜、離岸堤等の海岸保全施設を面的な広がりを持たせて適切に配置し、それらの複合機能により背後地域を高潮、侵食等の災害から防護する面的防護方式が注目されている〔1−3−7図〕。これは波浪等の外力を堤防や護岸のみで防護するのではなく、波力を沖合から徐々に弱めていく方式であり、海からの脅威に対し厚みをもって機能する粘り強い構造となっている。この方式は、施設の耐久性を向上させるほか、堤防等の施設上面の高さ(天端高:てんぱだか)を抑えることが可能となることから、景観的にも優れ、良好な海岸空間を形成することにもつながるので、今後積極的に活用していくこととしている。

平成7年度

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