平成7年度 運輸白書

第11章 運輸における地球環境問題等への取り組み

第11章 運輸における地球環境問題等への取り組み

 地球温暖化、オゾン層の破壊、海洋汚染等の地球規模の環境問題や、自動車排出ガス等による大気汚染等の地域的な環境問題への対応は、運輸行政における極めて重要な課題である。このため、これまで運輸省は、地球環境の状況に関する観測・監視体制の充実強化、自動車の排出ガス規制や燃費改善、船舶からの油等の排出規制等の個別の交通機関ごとの対策、物流における鉄道や海運へのモーダルシフト、公共交通機関の整備、低公害車の普及等の対策を総合的に展開してきたところである。
 また、今日の環境政策の対象領域の広がりに対応して、環境の保全の基本理念とこれに基づく基本的施策の総合的な枠組みを示す環境基本法が平成5年11月に成立し、環境基本計画が6年12月に策定された。さらに、7年6月には環境基本計画を受けた「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画」が策定され、経済主体として大きな位置を占める国が自ら経済活動に際して環境保全に率先して取り組むことを明らかにした。
 運輸省では、環境基本法の制定等を踏まえ、「環境の保全に関する運輸行政指針」を6年6月に策定し、運輸省の行政における環境保全施策の一層の充実を図ることとしている。

第1節 地球環境問題への対応

    1 地球環境問題をめぐる内外の動き
    2 地球環境問題の解決をめざした運輸の対応


1 地球環境問題をめぐる内外の動き
 (気候変動枠組条約をめぐる動き)
 6年3月に発効した「気候変動に関する国際連合枠組条約」は、大気中の二酸化炭素等の温室効果ガスの濃度を自然系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において安定化させることを究極的な目的とし、先進締約国が温室効果ガスの排出量を1990年代の終わりまでに、従前の水準に戻すことの重要性を認識しつつ、温室効果ガスの排出抑制等の政策及び措置を講じることとしている。我が国は、同条約に基づき、2000年までの温室効果ガス排出抑制のための政策・措置、同年におけるその効果の予測等を 6年9月に条約事務局に報告し、7年7月に同事務局による審査が日本で実施された。また、7年4月にベルリンで同条約の第1回締約国会議が開催され、2000年以降の取組については、政策及び措置を定めること、2005年、2010年、2020年などの時間的枠組で数量化された温室効果ガスの抑制及び削減に係る目的を定めること等について、できるだけ早期に検討を開始し、9年の第3回締約国会議までに検討を終えることを定めた 「ベルリンマンデート」を採択した。
 (オゾン層保護をめぐる動き)
 4年のモントリオール議定書締約国会合の決定により、船舶や鉄道の消火剤に使用されている特定ハロンは6年1月より、カーエアコンや冷蔵倉庫等の冷媒に使用されている特定フロン等は8年1月より、生産等が全廃されることとなった。また、同決定と同時に採択された代替フロン等の新たな規制の追加を内容とする議定書の改正を受けた「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」の一部改正法が6年6月に成立した。
 (海洋汚染をめぐるIMOの動き)
 国際海事機関(IMO)では、船舶に起因する海洋汚染防止に関する条約である「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)等を基礎に、常に新たな課題への対応を進めてきているが、平成4年3月には、油の排出基準の強化、油タンカーに対する二重船殻構造の義務付け等を内容とするMARPOL73/78条約附属書Ιの改正を採択し、また現在、船舶からの排出ガスの抑制対策について検討を進めるなど、取り組みを継続している。
 また、大規模な油流出事故における防除体制の強化及び国際協力体制の確立を主たる目的とする 「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」(OPRC条約)が2年11月に採択され、7年5月に発効している。
 さらに、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)の附属書について、産業廃棄物の海洋投棄禁止、洋上焼却禁止等を内容とする改正が、5年11月に採択された。
 このほか、輸送中の有害危険物質により生じた海洋汚染損害等について補償の確保等を図るための「危険物質及び有害物質の海上輸送に伴う損害についての責任並びに賠償及び補償に関する条約(仮称)」(HNS条約)案の検討を進めている。

2 地球環境問題の解決をめざした運輸の対応
(1) 観測・監視体制の充実
 (地球温暖化問題)
 気象、水象、地象等の総合的な観測・監視・予測等を行っている気象庁では、地球温暖化の実態解明を進めるため、世界気象機関(WMO)が推進している世界気象監視(WWW)計画や全球大気監視(GAW)計画等に基づく全球的な監視網の一翼を担うべく観測・監視体制の強化を図っている。
 WMOのGAW計画の南鳥島全球観測所では、二酸化炭素、地上オゾン、メタン、一酸化炭素の濃度及びオゾン層の観測に加え〔2−11−1図〕、7年1月からは大気混濁度の観測を開始し、8年1月から降水・降下塵の化学成分の観測を開始する予定である。また、5年4月から民間団体との協力により実施している日本−オーストラリア・ケアンズ間の上層大気中の温室効果気体の定常観測は、6年7月から観測航路をシドニーまで延長して行われている。
 海上保安庁では、海洋が地球温暖化に与える影響の解明に役立てるため、国連教育科学文化機関・政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)が推進している西太平洋海域共同調査(WESTPAC)等において、水温、海流、海水中の二酸化炭素含有量等を船舶で観測し、これらの長期的変動を監視するとともに、地球温暖化に伴う海面水位変動の監視を行っている。
 気象庁では、本州南方からニューギニア沖の熱帯で海水温、海流等の海洋観測をほぼ30年間にわたり続けている。この観測は、WMO等の世界気候計画の推進の上からその継続が内外から求められている。同庁では、WMOのGAW計画の一環として、平成7年7月に就航した「凌風丸(三世)」により、同観測に加えて太平洋の中央部に近い海域での洋上及び海水中の温室効果気体、海水中のフロン、有機炭素等の観測を定期的に行うことにしている。
 海上保安庁の「日本海洋データセンター」では、地球温暖化問題に係る各種共同調査にデータ管理機関として参画し、これらにより得られた海洋データを一元的に収集・管理・提供を行っている。
 また、気象庁では海洋環境の即時情報提供のために、IOCとWMOの推進している全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)の特別海洋中枢(SOC)として、海水温等の情報提供につとめている。
 二酸化炭素濃度をはじめとする地球温暖化に関する世界各国の観測・監視データについては、「WMO温室効果気体世界資料センター」の役割を兼ねる気象庁の「温暖化情報センター」において収集・管理・提供を行っている。さらに、これらをもとに温室効果気体と気候変動の動向についての評価を行い、毎年 「地球温暖化監視レポート」として公表しており、7年3月にはその1994年版を公表した。また、アジア・南西太平洋地域各国におけるGAW観測・監視データの品質向上を図る業務を、7年10月から実施することとしている。
 このほか、気象庁では、WMOが推進している世界気候研究計画(WCRP)に沿って、大気中の二酸化炭素増加に伴う気候変動予測の研究を気候モデルにより行っており、その成果は7年末に公表予定の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第二次報告書」にも反映される見込みである。また、雲の地球温暖化への影響、二酸化炭素等の大気−海洋間の循環等の研究も進めている。
 さらに、地球規模の気候変動における海洋の役割等を把握するため、地球温暖化に関する国際プロジェクトである世界海洋循環実験(WOCE)に参画している。
 (オゾン層の破壊)
 気象庁の観測・解析結果によれば、極域を除く全球平均オゾン全量は10年間に約3%の割合で減少しており、6年には南極で過去最大規模のオゾンホールが観測された。国内においても札幌で6年7月以降12月まで、オゾン全量が平年より少なく経過するなど、オゾン層の破壊が進行していることから、オゾン層、オゾン層破壊物質及び紫外域日射の観測・解析及び関連の研究を推進している。さらに、WMOと国連環境計画(UNEP)の「オゾン層破壊の科学アセスメント:1994」の公表に協力した〔2−11−2図〕
 (海洋汚染及び海洋変動)
 海上保安庁及び気象庁は、我が国周辺海域、閉鎖性の高い海域等において、海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属等の汚染調査、海洋における海上漂流物の定期的な実態調査を行っているほか、IOCの海洋汚染モニタリング計画に参画し、廃油ボールの漂流・漂着状況の調査を行っている。さらに、旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物投棄海域における影響を把握するため、第2回日韓露共同海洋調査に参加している。
 また、気象庁は日本周辺及び西太平洋海域の海洋変動の監視及びエルニーニョ現象の予測モデルの開発を行っており、「エルニーニョ監視センター」では海洋データ同化システムによるエルニーニョ現象等の的確な把握を行い、大規模海洋変動等の監視・予測の成果を「エルニ一ニョ監視速報」等により公表している。
(2) 環境と調和した運輸の構築
 地球温暖化問題については、2年10月に地球環境保全に関する関係閣僚会議において「地球温暖化防止行動計画」が決定され、二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスの排出を抑制するための各種対策が講じられている。国内のCO2排出量の約2割を占める運輸部門についても、自動車燃費の改善や低公害中の普及促進等の輸送機器についての省エネルギー・CO2排出抑制対策を進めるとともに、貨物輸送における内航海運・鉄道の利用促進や共同輸配送等の促進、旅客輸送における公共交通機関の利用促進等により、全体としてエネルギー効率が良くCO2排出量の少ない交通体系の形成を進めている。
 また、地球温暖化により海面が上昇した場合、人口、資産が集中する臨海部の諸機能に重大な影響を及ぼすことが予想されるため、臨海部への影響の予測と被害を防止するための対策について検討を行っている。
 オゾン層保護に関しては、自動車整備時におけるカーエアコンからの特定フロンの大気中への放出の抑制指導及び回収再利用の促進、船舶における特定ハロンの使用抑制の指導等を行うとともに、各種運輸関連施設・設備について特定フロンを使用しないものへの転換を促進するための税制上の優遇措置等を講じている。
 海洋汚染に関しては、OPRC条約の締結に伴う「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」の一部改正法が7年5月に成立した。
(3) 国際的な協力
 運輸分野における環境関係の開発途上国に対する国際協力については、我が国における技術、経験の蓄積を生かし、@鉄道等公共交通機関の整備によるエネルギー効率が良く環境負荷の少ない交通体系の形成、A自動車の修理・検査体制の整備等による交通機関からの環境負荷の低減・抑制、B気候変動に関する観測・監視体制の整備、C海洋汚染防止能力の向上等の分野において積極的な協力を実施している。
 また、運輸基盤施設の整備等の国際協力の実施に際し、開発途上国の環境保全に十分配慮するための指針の作成を3年度から順次進めてきており、すでに、港湾、鉄道、航空、都市交通の4分野について実施し、引き続き7年度には観光分野について作成することとしている。
 このほか、アセアン諸国における地域油防除体制整備を支援するため、我が国が油防除資機材や情報システムの供与を行う「OSPAR計画」については、7年1月に行われたマレーシアへの資機材等の供与をもって完了した。



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