平成7年度 運輸白書

第12章 運輸における交通安全対策・技術開発の推進
 |
第12章 運輸における安全対策・技術開発の推進
|
 |
第1節 交通安全対策の推進 |
1 交通事故の概況
2 交通安全の確保
3 最近における重大事件の概況と対策
-
交通安全の確保は運輸行政の基本であり、このための施策の推進は最も重要な課題の一つである。運輸省としては、人命尊重が何ものにも優先するとの見地に立ち、従来から、交通安全対策全般にわたる総合的かつ長期的な施策の大綱を定めた交通安全基本計画に基づき、毎年度、具体的な交通安全業務計画を定め、各輸送機関の安全の確保に努めてきている。
平成7年度は、第5次交通安全基本計画(3〜7年度)に基づき、交通安全施設等の整備、車両・船舶・航空機等輸送機器の安全性の確保、交通従事者の資質の向上、及び適切な運行(航)管理の確保等の施策を更に推進するとともに、気象資料等の収集の強化並びに適時・的確な予報・警報等の提供、救難体制の整備や被害者の救済対策にも積極的に取り組むことにより、陸・海・空すべての分野における交通安全対策の一層の充実を図っている。また、あわせて第6次交通安全基本計画(8〜12年度)の策定に向けての作業を進めている。
- 1 交通事故の概況
- 道路交通事故による年間の死者数が昭和63年以降7年連続で1万人台を記録し、依然としてきわめて厳しい状況にある(平成6年の交通事故死者数10,649人)。
鉄軌道交通の事故は長期的には減少傾向が続いている(平成6年の死者数383名)。
海上交通においても事故は減少傾向にある(平成6年の死亡・行方不明者数181名)。ただし、この中で、プレジャーボート等の海難件数は長期的には活動の活発化に伴ってむしろ漸増傾向にあり、全要救助船舶隻数に占めるの割合も高くなっている(6年においては全要救助船舶隻数のうち35%)。
航空交通においては、事故は減少傾向にあるものの、6年4月名古屋空港において中華航空機の墜落事故が発生(死者264人、負傷者7人)した〔2−12−1a図〕〔2−12−1b図〕。
- 2 交通安全の確保
- (1) 道路交通の安全対策
- 自動車の安全性の向上に関しては、4年3月の運輸技術審議会答申を踏まえて、5年4月に前面衝突時の安全性の向上、高速走行時のブレーキ性能の向上等、6年3月に大型後部反射器の装備義務付け対象車種の拡大等安全基準の拡充強化を行ったところである。
今後も、本答申を踏まえ、(財)交通事故総合分析センターの実施する交通事故の調査分析の活用を図りつつ、事故回避、被害軽減等のための自動車の安全基準のより一層の拡充強化、研究開発の推進等を行い、自動車の安全性の一層の向上を図ることとしている。
自動車の検査及び点検整備については、自動車の安全確保及び公害防止の一層の充実を図るため、5年6月の運輸技術審議会答申に基づき6年7月に道路運送車両法を改正し、この中で自動車ユーザーの保守管理費任を明確化したところである。当該改正部分が本年7年7日1日より施行されている(自動車ユーザーの保守管理責任の明確化等)。現在、その円滑な運用のため、自動車ユーザーの保守管理意識の高揚対策等所要の措置を講じているところである。
また、さらに、引き続き、運行管理者に対する研修の充実等指導・教育の徹底により、事業用自動車の安全運行の確保のため、自動車運送事業者に対し適切な運行管理の実施、乗務員の教育訓練の充実、過積載の防止等について指導するとともに、運行管理者を対象とした研修会の充実に努めている。
このほか、自動車損害賠償保障制度の適切な運用、自動車事故対策センターの各種事業、自動車事故対策費補助金等を通じて、自動車事故被害者やその遺族に対する救済の充実、強化、自動車事故の防止に努める。
- (2) 鉄軌道交通の安全対策
- (ア)鉄軌道の安全性の確保
- 鉄軌道における事故は長期的には減少傾向にあるが、ひとたび事故が起きるとその被害は甚大なものとなるおそれが高い。事故を防止するためには、より一層の安全性を確保し、常に十分な安全対策を講じて行く必要がある。
具体的には、自動列車停止装置(ATS)の設置・改良、列車集中制御装置(CTC)の整備、列車無線及び信号設備の整備等の運転保安設備の整備、新しい技術を取り入れた検査機器の導入による車両及び線路施設の安全性の確保、乗務員等に対する教育訓練の充実、厳正な服務と適性な運行管理の徹底等による安全運行対策を実施している。
また、運輸省とJR各社の安全担当責任者で構成する鉄道保安連絡会議を定期的に開催し、安全対策に関する指導・情報交換を行い、安全対策の推進に努めている。
- (イ)踏切事故の防止対策
- 運転事故における踏切事故の割合は6年度においても5割を占めており、踏切事故の防止のため、踏切道改良促進法及び第5次踏切事故防止総合対策(3〜7年度)に基づき、踏切道の改良を計画的に推進している。6年度においては、立体交差化112箇所、構造改良263箇所、保安設備の整備192箇所の改良が行われた。
運輸省は、これら踏切整備のために、必要な資金を財政投融資により確保するとともに、地方公共団体と協力して、一定の要件を満たす鉄道事業者に対し、踏切保安設備の整備費の一部を補助している。
- (3) 海上交通の安全対策
- (ア) 海上交通環境の整備
- (a) 港湾等の整備
- 6年度には、港内の船舶の安全性を確保するため、釜石港等65港で防波堤、航路、泊地等の整備を行った。また、沿岸海域を航行する船舶の安全性を確保するために、下田港12等港の避難港を整備するとともに、関門航路等16航路の拡幅、増深を行った。
- (b) 航路標識・海図等の整備
- 海上保安庁は、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、航路標識・海図等の整備を推進している。
平成7年度は、隣接国のロランC局とリンクしたロランC国際協力チェーンの構築・運用、船舶交通のふくそうする海域における海上交通情報機構の整備及びGPSで測定した位置の精度を向上させる海上用ディファレンシャルGPSの整備を推進する他、紙海図等の水路図誌を整備するとともに、紙海図以上の利便性を有する電子海図表示システムに必要な航海用電子海図の整備を進める。また、航海用電子海図の最新維持情報提供業務のための検討を進める。
- (イ) 船舶の安全運航の確保
- (a) 航行安全対策
- 海上保安庁は、海上交通関係法令に基づく規制に加え、船舶の種類毎に所要の安全指導を行っている。また、船舶交通に影響を与えるおそれのある大規模プロジェクトについて、その関係者に対し、海上交通の安全確保のための指導を行うほか、航行を制限する海域の設定等の措置を講じている。
- (b) 国際条約・基準への対応
- 船舶の安全性を国際的な統一基準により確保するため、我が国は、カーフェリー、危険物運搬船等の安全対策強化、防火・消防関連規則及び満載喫水線関連規則の総合見直し等をはじめとする海上人命安全条約(SOLAS条約)の改正に係る審議に積極的に参加・貢献している。また、船舶の安全管理体制の充実・強化を目的とした「国際安全符理(ISM)コード」、国際航海を行う高速船の新基準を定める「高速船(HSC)コード」、「タンカー及びばら積み運搬船の検査強化ガイドライン」等新たな国際規則の円滑な導入に向けた国内法令及び実施体制の整備を図っている。
船舶の航行管理体制に関する国際的規範である「国際船舶安全管理(ISM)コード」は各船社の航行管理体制を確立することにより船舶の安全を図ろうとするものであり、平成6年5月に開催されたSOLAS条約締約国海上人命採択会議において、10年7月から国際航海に従事する船舶に順次強制化されることとなった。現在、同コードの実施に向け、審査手続きの国内法制化等国内における実施体制の整備を早急に進めることとしている。また、同コード導入後は、その定着と実効ある運用が図られるよう、関係者に対し適時適切な指導を行っていく必要がある。
また、核燃料等放射性物質の海上輸送については、国際原子力機関の定めた国際規則等を国内法令に取り入れ、安全確保に万全を期している。
さらに、最近の人命の損失及び環境汚染を招く世界的なタンカー事故の頻発等を契機として、7年7月に船員の資格証明等に関する国際条約(STCW条約)の改正及び漁船STCW条約が採択された。これにより、両条約の国内法制化に向けた作業も進めることとしている。
また近年、上記条約等の基準に適合しない船舶の排除が国際的な問題となっており、我が国も外国船舶に対する監督(ポートステートコントロール「PSC」)の充実強化に努めているところであるが、今後の改正SOLAS条約等の発効で、操作要件に係るPSC等の新たなPSCも導入されることから、さらなる体制整備を進めていく必要がある。
- (c) 海洋レジャーに係る安全対策の推進
- 海上保安庁は、海難防止強調運動(9月16日〜30日)を展開するほか、海難防止講習会等を実施し、海難防止思想の普及、種々の安全指導等を行っている。また、海洋レジャー愛好者に対する安全活動を行う(財)日本海洋レジャー安全・振興協会、小型船安全協会等の民間活動を支援している。
海上技術安全局は、プレジャーボート等の船型及び操縦方法の多様化、海難の増加傾向に伴い、小型船舶操縦士指定養成施設等関係機関に対して、プレジャーボート等の安全な航行に関する啓蒙及び指導の徹底を図るよう引き続き指導している。
- (ウ) 海上捜索救助体制等の整備
- 海上保安庁は、SAR条約等に基づく我が国の広大な捜索救助区域において発生する海難に迅速かつ的確に対応するため、捜索救助能力の優れた巡視船艇・航空機等を整備するとともに、特殊救難体制、救急救命体制を整備するほか、洋上救急体制、船位通報制度(JASREP)及び新しい遭難・安全通信システムである「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS)を運用している。また、沿岸で多発する海難に対応するため、民間海難救助組織の育成強化に努めている。
- (エ) 海難審判による原因の究明
- 海難審判庁は、海難の発生防止に寄与するため、迅速かつ的確な海難原因の究明に努めている。なかでも、社会的影響が特に大きい海難については、重大海難事件として指定し、集中的な調査・審判により早期の原因究明を図っており、6年には重大海難事件3件を含む848件の裁決を言渡した。さらに、審理中であった貨物船日和丸とギリシア船籍の貨物船が衝突した事件(5年6月静岡県神子元島沖で発生)ほか2件の重大海難事件については、7年4月までに裁決の言渡をしている。また、漁船第二十五五朗竹丸が転覆し、乗組員18人が死亡又は行方不明となった事件(6年12日静岡県御前崎沖で発生)については、重大海難事件に指定し、審理中である。
- (4) 航空交通の安全対策
- (ア) 航空保安システムの整備
今後予想される航空交通の増大等のニーズに適切に対応し、かつ、安全性の向上と空域の有効利用による航空交通容量の拡大を図るため、人工衛星を中心とした新たな次世代の航空保安システムの整備を進める必要がある。このため、6年度からは航空管制機能を具備する運輸多目的衛星の製造、7年度からは同衛星を打ち上げるためのロケット製作に着手したところである(衛星の打ち上げは11年度)。
また、現在の航空保安システムの中核をなす方位・距離情報提供施設(VOR/DME等)及び航空路監視レーダー(ARSR、ORSR)等についても引き続き整備を行っている。6年度においては、南紀のVOR/DME等及び福江ORSRの整備を完了し、運用を開始した。
- (イ)航空気象施設の整備
気象庁は航空機の運航の安全性、定時性、経済性の確保のため、風・滑走路視距離・気圧等の観測装置、予報・通報のための情報処理・通信機器等を整備し、空港の気象観測や航空機用の予報等を行っている。また低層風の急激な変化(低層ウインドシヤ−)を探知できる空港気象ドツプラーレーダーの設置を図ることとしており、現在、関西国際空港、新東京国際空港に続き、東京国際空港への設置作業を進めているところである。
- (ウ) 航空機の安全運航の確保
- (a) 運航管理の改善
- 航空運送事業者は、運航管理の実施方法等を運航規程に定めるよう義務づけられており、運輸省ではこれらの規程の認可、安全性確認検査等による運航管理体制の確認等を行い、所要の指導、監督を行っている。
- (b) 乗員の養成
- 航空大学校の教育内容の一層の充実に努めるとともに、航空会社が行う乗員の養成についても所要の指導を行っている。
- (c) 航空保安大学校の充実
- 航空保安大学校においては、レーダー管制実習装置の更新整備を、また、同岩沼分校においては、訓練用遠隔監視システムの新設整備等を7年度に進めることとしている。
- (d) 航空保安対策
- ハイジャック等の航空機に対する不法行為を防止するため、運輸省では航空保安対策に関する指針等を定め、旅客やその機内持込手荷物等の検査を行う航空会社に対する指導等を行っている。特に、本年6月21日に全日空機内でハイジャック事件が発生したことに鑑み、航空会社に対する指導等をより徹底強化した。
- (e) 航空機の安全性の確保
- 事故防止及び安全性確保を図るため、各航空会社に対し機体経年化対策の観点も踏まえた航空機の点検、整備の強化等を指示してきたが、今後も更に対策の強化を進めていく。
- (f) 事故防止等指導強化
- 航空運送事業者に対しては、運航規程・整備規定の認可、安全性確認検査等を通じ、運航・整備体制等の充実、事故防止対策の徹底を図るよう指導しており、この他、小型航空機の場合に、航空機間の十分な間隔確保や見張り強化等法令及び安全関係諸規定の遵守、的確な気象状況の把握、操縦士の社内教育訓練の充実等について指導を行っている。
また、スカイレジャーについては、関係団体等を通じて事故防止の指導を行っている。
- (g) 危険物輸送の安全
- 危険物の輸送増加及び輸送物資の多様化に対応すべく、国際民間航空機関(ICAO)及び国際原子力機関(IAEA)における危険物輸送に関する安全基準の整備強化を踏まえて国内基準の整備を図っている。また、航空運送事業者に対し、危険物輸送に関する社内教育訓練の充実等を指導している。
- (エ) 緊急時における捜索救難体制の整備
- 民間航空機の捜索救難は、関係省庁の間で取り決めを行い、救難調整本部(RCC)を東京空港事務所に設置し実施している。
RCCでは、関係機関との合同訓練を定期的に行い、捜索救難体制の一層の充実強化を図っている。
- 3 最近における重大事件の概況と対応
- (1) 地下鉄サリン事件
- (ア) 概況
- 平成7年3月20日午前8時頃、帝都高速度交通営団(営団地下鉄)日比谷線、丸の内線及び千代田線の車両内に置き去られたポリ袋から有毒のサリンガスが流出し、築地駅、霞ヶ関駅等において、乗客と営団地下鉄職員の11人が死亡し(7年11月現在)、多数の人が負傷する惨事となった。また、事件の発生後、列車が運休したため、旅客の動きにも大きな影響が及んだ。
- (イ) 対応
- 一般市民が利用する公共輸送機関を狙った事件の悪質さと重大性に鑑み、運輸省鉄道局では、事件後直ちに「営団地下鉄有毒ガス事件に関する緊急対策本部」を設置するとともに、職員4名を帝都高速度交通営団に派遣し、事件の状況等の迅速な把握と収集に努めた。更に同日午後には、運輸事務次官から、全運輸事業者に対して、@警察当局と協力して、関係施設を巡回する等により厳重に警戒するとともに、案内放送を通じて一般利用者の注意を喚起する等により不審者・不審物の発見に努める。A不審者・不審物を発見した場合は一般利用者の安全に万全を期するとともに、直ちに警察当局に連絡すること等を内容とする指示を行った。
また、今後の事件の再発を防止するため、鉄道事業者に対して、旅客の安全確保の観点から防犯カメラの設置、自主警備の継続等を行うよう要請を行うとともに、緊急時における避難誘導の方法、不審物発見時の措置等に関するマニュアルの整備に努めるよう指導を行った。
一方、政府においても、「サリン問題関係省庁連絡会議」を設置し、関係省庁の緊密な連携を確保し、事件の再発防止を図るとともに、被害の防止に必要な対策について検討することとした。
鉄道を対象としたテロ事件としては、この後も5月5日の営団地下鉄新宿駅における事件等が発生している。運輸省としては、内閣、警察等関係機関と協力し、こうした事件の発生の都度、運輸関係事業者に対して、事件の再発防止、利用者の安全確保に万全を期すよう指導したり、海上保安庁の警戒態勢を強化するなどの措置を地下鉄サリン事件発生直後から引き続き実施している。また、事件発生時において迅速かつ的確な対応を行うことができるよう、連絡通報体制、必要な指示の伝達体制の整備を行った。
- (2) ハイジャック事件
- (ア) 概況
- 7年6月21日、羽田発函館行き全日空機857便(B-747SR型、乗客乗員365名)機内において、男性乗客1名が乗務貝にアイスピック状のドライバー及びサリン入りと称する袋等を見せるなどして脅迫し、同便を乗っ取るという我が国では16年ぶりのハイジャック事件が発生した。同便の函館空港着陸後に犯人は羽田空港へ飛行すること等を要求したが、着陸から15時間が経過した翌22日未明に警察官が機内に突入し、犯人を逮捕するとともに乗客乗員を無事解放した。
- (イ) 対応
- 事件発生後、運輸省では直ちに関係省庁にその旨を通報するとともに航空局内に対策本部を設置して、函館空港対策本部等からの情報収集にあたり、官邸に設置された対策本部等と緊密な連絡・連携を取りつつ、政務次官の現地派遣や海上保安庁の巡視船艇及び航空機の緊急配備等を行い、事件解決に向けた所要の措置を講じた。また、同種事件発生の未然防止を徹底するとともに、万一発生した場合により速やかな解決が可能となるよう、ハイジャック防止策及び発生時対応策の強化充実に向け所要の検討を進めている。

平成7年度

目次