平成7年度 運輸白書

第12章 運輸における安全対策・技術開発の推進

第2節 技術開発の推進

 運輸技術の分野は、鉄道、自動車、船舶、港湾、航空、気象、海上保安等広範囲にわたっており、その技術開発の成果は、多くの人々の生活の向上に貢献することが期待される。平成3年6月には運輸技術審議会より諮問「21世紀を展望した運輸技術施策について」に対する答申が出され、また、その後、各分野においても今後の技術開発の方向性を示す各種答申が出されている。運輸省では、今後も引き続き、同答申の内容に沿って運輸技術施策を推進することとしている。
 以下に現在進めている主な技術開発事例を紹介する〔2−12−2表〕

    1 鉄道技術の開発
    2 港湾技術の開発
    3 造船技術の開発
    4 人工衛星の開発利用
    5 交通安全のための技術開発
    6 地震・噴火・気象予測のための技術開発
    7 海洋に関する研究体制の強化


1 鉄道技術の開発
(1) 21世紀に向けての鉄道技術開発のあり方
 6年6月に、運輸技術審議会の諮問第19号「21世紀に向けての鉄道技術開発のあり方について」に対する答申があり、取り組むべき技術開発課題、これを効率的に推進するための方策や推進体制等、21世紀に向けての鉄道技術開発のあり方について基本的な考え方が提言された。本答申に基づき、国はもとより鉄道技術開発にあたる関係者が重点技術開発である「SUCCESS21計画」を始めとして技術開発を積極的に進めるとともに、技術開発の活性化、効率化のための施策を講じていくこととしている。
(2) 超電導磁気浮上式鉄道
 昭和37年に国鉄が開発を始めた超電導磁気浮上式鉄道は、超高速、低公害等の性格を有する将来の都市間大量輸送機関として期待され、現在は(財)鉄道総合技術研究所により開発が進められている。
 宮崎実験線(単線高架構造、延長7km)においては、54年に無人の実験車両で517km/h達成し、また、平成5年1月からは新しい車両MLU002Nを使用して走行実験を行っており、7年1月には有人で411km/hを達成している。
 また、2年度からは、山梨県において新しい実験線の建設を進めており、高速連続走行試験等を経て、11年度末までに実用化のめどを立てる予定である〔2−12−3図〕
(3) 常電導磁気浮上式鉄道
 昭和49年より日本航空が開発を開始した常電導磁気浮上式鉄道HSSTについては、エイチ・エス・エス・ティ開発(株)に技術等が継承されており、平成3年5月からは中部エイチ・エス・エス・ティ開発(株)が、愛知県内の実験線(全長1.5km)で実用化のための各種試験を行っている。また、運輸省でも安全性、信頼性等に係る検討を行い、最高速度100km/h程度のシステムについて実用化に対し技術的な問題点はないとの結論を得ている。
(4) 鉄道の高速化
 鉄道の高速化は運輸政策審議会及び運輸技術審議会の答申でも指摘されており、新幹線では最高速度300km/h台の営業運転をめざした次世代の高速試験車両による走行試験、在来線では最高速度160km/h程度の営業運転をめざした車両の開発がJR各社等において進められている。運輸省としても、(財)鉄道総合技術研究所における高速化に伴う騒音対策等の基盤的技術開発に対し、補助金による支援措置を講じている。
(5) オンレールトレーラー等の開発
 陸上貨物輸送の鉄道へのモーダルシフトを促進するため、鉄軌道上は貨車、道路上はトレーラーとなるオンレールトレーラーに係る技術開発を進めているほか、鉄道施設の保守・検査に係る労働環境の改善や将来の労働力不足に対応する観点から、保守・運営の効率化のための技術開発を促進している。

2 港湾技術の開発
 港湾建設に従事する熟練工の減少や労働者の高齢化に対応するため、港湾工事の省力化や安全性の向上をめざして、ケーソンを現場で簡単に組み立てることができるプレハブ化の技術や、大水深での工事が可能になる水中施工ロボットの開発等を行っている。
 港湾技術研究所においては、より良い沿岸域環境の創出をめざして、各種気象・海象条件等が再現できる人工干潟の室内実験施設を整備し、水質浄化能力のある干潟や海浜の保全と創造等に関する技術の開発を行っている。また、港湾構造物を建設する際に必要な海底地盤の挙動予測をより正確に行うため、海底地盤の模型に100G以上の遠心加速度を作用させて海底地盤に生じる現象を再現できる遠心力載荷装置などの各種実験装置の充実を図っている。
 また、時速50ノットの高速で航行するテクノスーパーライナー(TSL)の導入に向けて、TSLに対応した高速荷役機械及びターミナルの荷役システムの開発も行っている。
 なお、昭和62年度から山形県酒田港において現地実験を実施してきた防波堤を利用した波力発電システムは、実用化のための最終目標として取り組んだ商用電力系統への接続実験に平成7年3月我が国で初めて成功したところであるが、今後は、事業化に向けて、さらに検討を進めることとしている。

3 造船技術の開発
 造船技術の高度化、海上輸送の効率化等のため、造船業基盤整備事業協会を通じ次世代船舶の研究開発として、現在、超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)〔2−12−4図〕、テクノスーパーライナー及び新形式舶用電気推進システムの研究開発を推進している。メガフロートは、利用需要の増大が見込まれる沖合域に新たな人工地盤を提供する超大型(数キロメートル規模、耐用年数100年)の浮体式海洋構造物であり、今後の運輸関連施設等の大規模な社会資本の整備に当たり従来の工法を補完するものとして期待されている。テクノスーパーライナーは、航空機やトラックよりも大量の貨物(積載重量1,000トン)を従来の船舶の2倍以上の高速(速力50ノット)で輸送することができ、トラック輸送から海上貨物輸送へのモーダルシフトの推進に貢献することが期待される新形式超高速船である。さらに、造船業基盤整備事業協会において、地球環境問題に対処するため、環境保全技術の研究開発として、新形式タンカー構造等の油流出防止技術及び排気ガス浄化技術の研究開発を推進している。
 原子力船研究開発については、日本原子力研究所において、「むつ」によって得られた成果等を内外の新たな知見と合わせて蓄積・整備しつつ、舶用炉の改良研究を推進していくこととしている。また、船舶技術研究所において、基礎研究を引き続き実施することとしている。

4 人工衛星の開発利用
(1) 気象観測
 7年3月18日に打ち上げられた静止気象衛星5号を、6月21日から赤道上東経140度の上空にて運用している。この衛星には、観測機能を強化したセンサーが追加されており、国内のみならず、アジア・オセアニア地域の台風の監視や気象災害の防止・軽減に貢献している。
 また、5号に続く次世代静止気象衛星として、航空管制通信等の機能を併せ持つ「運輸多目的衛星」を11年度に打ち上げる計画であり、6年度から衛星の製作を進めている。
(2) 航空管制
 将来の航空交通量の増大に対応するため、衛星を利用し、管制機関と航空機間の通信の大幅改善、洋上の航空機の正確な位置の把握等安全性及び管制処理能力の飛躍的向上を図る必要がある。このため、9年度から米国と協力して太平洋上において、衛星を利用したADS(自動従属監視)管制の試行を行う計画である。
(3) 海洋測地
 我が国の管轄海域確定のためには、海図上の本土及び離島の位置を、人工衛星によって構築された測地系である世界測地系で表示しておく必要がある。このため海上保安庁では、世界測地系に基づくこれらの位置関係を高精度で求めるため、測地衛星「ラジオス」、「あじさい」等を利用した海洋測地を推進している。
(4) 衛星システムの開発
 運輸政策行政の各分野で衛星利用の重要性が増大している一方、民間においても衛星利用に関する期待が高まっている。運輸省ではこのような状況を踏まえ、様々な衛星利用ニーズを効率的かつ経済的に満たすため、運輸に関する多目的な衛星システムのうち、SAR (Search and Rescue)機能の検討を元年度から実施しており、7年度は静止気象衛星5号を使用して実証実験を行う。

5 交通安全のための技術開発
(1) 自動車
 近年の厳しい交通事故の状況に対処するため、4年の運輸技術審議会答申を踏まえ、灯火器の被視認性向上に関する研究、側面衝突時の乗員保護性能に関する研究等事故の回避及び事故時の乗員の保護の両面からの車両構造に関する調査・研究・評価を推進している。
 また、車両周囲の交通環境を検知するセンサー等を車戴することにより自動車を高知能化し、最も適切な安全動作を行うことが出来る先進安全自動車(ASV)を21世紀初頭に実用化すべく3年度から5カ年計画で調査研究を行っており、7年度は今までの研究成果を踏まえ、将来の理想的な安全自動車の技術指針を策定することとしている。
(2) 鉄軌道
 鉄軌道については、高度化した走行システム等の安全性評価技術に関する研究を行っている。また、降雨時や地震時における鉄軌道輸送の安全を確保する観点から、降雨災害の予知及び検知システム(ラミオス)及び地震防災及び復旧支援システム(ユレダス、ヘラス)の技術開発の成果を踏まえ、複合した災害にも対処できる総合防災システムの開発を進めるとともに、事故時の乗客等の被害を最小限に抑えるため、衝撃を吸収する車体構造等の開発を進めていく。
(3) 船舶
 近年の船舶の高速化、乗組員の少人数化、混乗化等に対応し、海上交通の安全確保のため、船舶技術研究所では、高速航行シミュレーションによる安全性評価等の研究、海面効果翼船の性能と安全評価に関する研究、船舶の軽量化に伴う構造安全評価に関する研究、内航船の衝突予防支援装置の開発と安全性評価に関する研究等を行っている。
 また、港湾技術研究所では、高速船の安全かつ効率的な航行を可能にする高速船対応水域施設の計画手法及び港内の航行支援システムに関する研究を操船シミュレータを用いて行っている。さらに、天候に影響されずに荷役や乗降を安全に行うことのできる全天候型港湾施設に関する研究も行っている。
(4) 航空
 航空機間のデータ通信機能の利用により、衝突の危険性を警告し回避する航空機衝突防止システム(ACAS)等の新しい航空保安システムの開発・評価を重点的に推進している。

6 地震・噴火・気象予測のための技術開発
 災害を未然に防ぐためには、地震・噴火予知、気候変動予測及び気象予報の精度向上のための技術開発が不可欠であり、気象研究所においては、6年度から 「南関東地域における応力場と地震活動予測に関する研究」を開始する等、地震予知のための研究を進めている。気候変動予測の精度向上を図るための研究も着実に成果をあげており、その成果は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」にも提供されている。気象庁では、数値予報技術の高度化を図り、中・長期予報モデルの開発を進めるとともに、エルニーニョ監視センターでは、7年2月からエルニーニョ現象等の的確な把握を目的として、海洋データ同化システムの運用を行っている〔2−12−5図〕

7 海洋に関する研究体制の強化
 海上保安庁では、6年度に、海洋研究室を設置し、同室では、7年4月、海底での測地技術の研究開発において、超音波を用いた深海底での高精度の水平距離の測定実験に成功した。今後はこの技術開発の更なる開発を進めるためにも研究体制の強化を図る。



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