平成7年度 運輸白書

第12章 運輸における安全対策・技術開発の推進

第3節 情報化の推進

    1 運輸サービス分野におけるEDIの導入の推進
    2 ICカード等運輸分野におけるカードシステム導入の推進
    3 マルチメディアに対応した今後の運輸関連情報システムのあり方に関する検討
    4 気象情報サービスの高度化の推進
    5 運輸行政の情報化の推進


 運輸サービス分野では、消費者利便の向上、安全性の向上、企業経営の効率化等の観点から、従来より、各種の情報システムが導入されてきた。
 7年2月に、内閣総理大臣を本部長とする「高度情報通信社会推進本部」は高度情報通信社会の構築に向けた施策を推進する基本的な方針(「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」)を決定したが、運輸サービス部門も高度情報化を進めるべき重要な部門として、国民へのタイムリーな情報提供、安全性の確保、物流の効率化等の観点から、運輸多目的衛星等の衛星システム等の開発・整備、旅客・貨物の移動に際し必要かつ有益な情報を提供する運輸関連の情報ネットワークの整備等の情報化を推進していくこととされた。この基本方針を受け、7年8月には運輸部門における情報化実施指針を策定した。同実施指針は、運輸サービス分野が、不特定多数の国民を対象とすること、移動体を対象とすること、生活密着型であること等に鑑み、高度情報通信社会に向けてより多様化する国民のニーズに対応するため、情報化を一層推進するとしており、以下に述べる新たなテーマに積極的に取り組んでいくことを明らかにしている。

1 運輸サービス分野におけるEDIの導入の推進
(1) EDIの概要
 「異なる企業間で、商取引のためのデータを広く合意された規約に基づき、コンピュータ間で交換する」EDI(Electronic Data Interchange)は、取引先情報を瞬時に送付でき(迅速性)、帳票間のデータ転記が不要となり(効率性)、またその際の誤記が解消される(正確性)ほか、「広く合意された規約(EDI標準)」に基づくことで、取引先ごとで異なる端末機への重複入力(いわゆる多端末現象等)の問題も解消し、業務効率化に資するなどの利点を有している。
(2) 国際的な状況
 EDI規約の標準化作業として、昭和61年より国連欧州経済委員会の貿易手続簡易化作業部会(UN/ECE/WP.4)において「EDIFACT(行政、商業、運輸のための電子データ交換規則)」という国際標準規約の策定が進められている。この作業を効率的に進めるために、世界6地域(汎米、西欧、東欧、豪州/ニュージーランド、アジア、アフリカ)を代表する地域専門家(ラポーター)が派遣されており、ラポータ−の活動を支援するための組織として、各地域にEDIFACTボードが設けられている。(我が国は、2年度にアジアEDIFACTボードを設立し、アジア地域を代表してラポーターを派遣するなどの積極的役割を果たしている。)
 6年11月現在、既に運輸分野等において合計42のEDIFACT準拠国際標準メッセージが利用勧告レベルになるなど、その開発が進められており、また、シンガポールにおいてはコンテナ積付情報の港湾庁への提出のEDIFACT準拠が強制化される等アジア太平洋諸国においてもEDIFACTの実用化が具体的に進展しつつある。
(3) 我が国の取り組み
 我が国においては、政府及び民間の双方が参画した「物流EDI研究会」において物流分野におけるEDIの導入推進の方策を精力的に検討してきたが、その検討結果を踏まえ、EDI導入の具体的な動きを促進するため、7年5月、組織を「物流EDI推進機構」に発展的に改組した。
 また、EDIFACTの本格的導入に向け、7年3月に運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会情報部会に物流EDI小委員会を設置し、国際物流分野でのEDI導入推進についての意見聴取を行い、6月には「情報部会中間とりまとめ」を行うとともに、これを踏まえ、国際海上貨物輸送分野での国際標準準拠のEDI導入推進のためのガイドラインとして、「国際海上貨物輸送の分野において海上運送事業者等が行う電子計算機の連携利用に関する指針」(情報処理の促進に関する法律に基づく告示)を策定した。
 今後運輸省としても、同指針に即し、物流EDI推進機構の活動を支援していくとともに、EDIFACTの普及を含めEDI実用化のための環境の整備に取り組むこととしている。

2 ICカード等運輸分野におけるカードシステム導入の推進
(1) 共通乗車カードの導入
 従来より、乗車カードの共通化が鉄道、バス等の公共交通機関において進められてきたところであるが、乗り継ぎ改善等利用者利便のより一層の向上を図る観点からも、共通利用範囲の拡充・普及が期待されている。
 運輸省としても、共通利用範囲の一層の拡充・普及を図る観点から共通利用地域の一層の拡大を呼びかけるとともに、他の輸送モードも含めた複数の公共交通機関を共通利用できる新カードの開発に積極的に取り組む等普及促進に努めていくこととしている。
(2) ICカードの導入
 現在の磁気カード方式に比較し、記憶容量が格段に大きく、高度な機密保持機能を有するICカードについては、移動体の自動識別や利用者の様々な情報の蓄積に優れた機能を有するため、運輸部門における今後の有効な情報媒体として利用可能性が高いとされている。
 運輸省としても、5年度より3年間の計画で、学識経験者を交え、運輸分野におけるICカードの活用方策について検討を進めてきた。初年度においては、具体的利用分野の絞り込み等を行い、この結果を踏まえ、6年度はバス・鉄道等乗車券、貨物追跡管理等の利用分野ごとに諸外国の事例調査、ニーズ調査等を実施し、活用する場合の概略システムをとりまとめ、導入に当たっての諸問題のとりまとめを行った。7年度は、これら各々についての実証試験の実施等実用性の検討を行うこととしている。

3 マルチメディアに対応した今後の運輸関連情報システムのあり方に関する検討
 大容量のデータを双方向で通信することが可能になるマルチメディア時代の到来は、運輸・交通分野にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。例えば、テレビ会議・在宅学習等の実現等による通勤・通学体系の変化、運輸関連情報提供に関するニーズの変化等が考えられる。
 こうしたマルチメディアの進展という大きな流れの中で、運輸部門においても、今後、行政機関や交通機関等の有する気象・海象情報、交通機関の予約に関する情報、観光情報等の運輸関連情報を、即時にかつ、必要に応じ画像、音声を組み合わせて双方向に交換することのできる全国的なネットワークが求められてくるものと考えられる。
 このような観点から、7年度は映像、音声等大容量の情報交換が可能になった場合の運輸関連情報に対するニーズ及び各種制度的問題点を把握するための調査を実施し、マルチメディアに対応した今後の運輸関連情報システムのあり方について検討を行っている。

4 気象情報サービスの高度化の推進
 国民生活の多様化に伴い、気象情報に対する国民の要望は一層高度化、多様化するものと考えられる。このような要望に対処するためには、利用者の個別的目的に適合する局地的な天気情報や、気象情報を基にした付加価値情報等を、様々な情報メディアを活用し個々の利用者の必要に応じて選択的に提供する、情報化社会に相応しい気象情報サービスの実現を図っていく必要がある。但し、気象情報は防災情報と一体となったものであり、一般の利用に供していくためには、その品質の保証が欠かせない。以上のような観点から、気象審議会は平成4年3月に「社会の高度情報化に適合する気象サービスのあり方について」を答申し、気象庁からの高度な各種支援データの提供と、予報技術者の資格制度の導入等を前提とする民間気象業務の推進方策を提言した。
 これを受け、5年5月気象業務法が改正され、指定機関を用いた気象庁からの各種支援データの提供と、気象予報士制度の導入が定められた。これに伴い、6年5月には、(財)気象業務支援センターが各種データの分岐配信業務、及び気象予報士試験の事務を担う各々の指定機関として指定され、上記業務を始め気象庁からの技術移転等、気象庁と民間気象業務を結んだ総合的な気象業務の推進のセンターとしての業務を開始した。
 6年8月には新たに創設された気象予報士の第1回の試験が実施された。試験は同年度中更に2回実施され、総計1,090名の合格者が出た。
 7年5月には改正気象業務法が適用になり、予報業務の許可事業者による局地予報の一般への提供が始まり、この業務を中心に情報化社会に向けた民間気象業務の新たな展開が開始された。

5 運輸行政の情報化の推進
 行政の情報化は、行政のあらゆる分野において、情報システムの利用を行政の組織活動に不可欠なものとして定着させ、行政内部のコミュニケーションの円滑化、情報の効率的共有化による政策決定の迅速化等の行政運営の質的向上と、国民への情報提供の高度化、行政手続きの効率化等の行政サービスの向上を図り、国民の立場に立った効率的・効果的な行政の実現につなげるものである。このため、運輸省においては、政府の「行政情報化推進基本計画」(6年12月25日閣議決定)等を踏まえ、7年度を初年度とする5ヵ年計画として「運輸省行政情報化推進計画」を策定した。
 具体的にはまず第一に、情報化推進のための基盤整備として、運輸省本省LAN(Local Area Network)を7年度に構築し、外局等と順次接続するとともに、地方支分部局においても順次ネットワーク化を図り、運輸省WAN(Wide Area Network)を整備する。
 第二に、運輸行政に係る許認可等の申請、届出、報告等の手続きについて、申請者負担の軽減、業務の効率化、ペーパーレス化の推進の観点から、申請等が定期的なもの、更新頻度が高いもの、データベースの役割を果たしているもの等から順次電子化・オンライン化を推進すること等により行政サービスの高度化を図る。
 第三に、電子メール、電子掲示板等を活用した共通システムを整備し、事務の効率化、ペーパーレス化を図る等、行政事務の効率化を推進する。
 以上の内容を踏まえ、運輸省においては今後とも、運輸行政の情報化をより総合的な観点から効率的かつ計画的に推進することとしている。



平成7年度

目次