平成7年度 運輸白書

第2章 運輸関係社会資本整備の動向

第2章 運輸関係社会資本整備の動向

第1節 平成以降の運輸関係社会資本整備の動向

 平成7年度は、港湾、海岸、空港のそれぞれの現行整備五箇年計画の最終年度に当たっており、この節では主に平成元年以降の運輸関係社会資本整備の動向について述べることとする。
 なお、平成に入る以前の運輸関係社会資本整備については、2年の運輸白書に述べられている。

    1 運輸関係社会資本整備についての主な議論
    2 各部門の運輸関係社会資本整備の動向
    3 運輸関係社会資本整備に係る投資の傾向


1 運輸関係社会資本整備についての主な議論
 経済審議会及び国土審議会における最近の議論(経済審議会社会資本整備検討委員会報告(5年10月・以下「経審」という。)、四全総総合的点検調査部会報告(6年6月・以下「総点検」という。))並びに閣議了解された公共投資基本計画(6年10月・以下「計画」という。)において示されている運輸関係社会資本整備の考え方は以下のとおりである。
(1) 国際化対応
 国際化の進展を踏まえて、いずれも国際空港、国際港湾の整備の必要性を指摘している。
 国際空港、国際港湾の整備に当たっては、「経審」では、「国際的なネットワークの中での位置付けも踏まえた整備を進める」とされ、「総点検」では、基幹的な空港・港湾と地方圏の空港・港湾の機能分担・連携による国際ネットワークの形成という考え方が示されている。
 また、「計画」では、「国際化の進展に対応して地方への展開も含め、国際的な交流拠点となる空港、港湾の整備を推進する。」とされている。
(2) 国内幹線交通体系
 国内幹線交通体系の確立に向け、いずれも高速交通ネットワークの整備の必要性を指摘している。
 「経審」は、「利用者のニーズの高度化、多様化に対応した、より良好なサービスを提供するための幹線鉄道の高速化等」について触れており、「総点検」では、「全国1日交通圏を構築し、高速交通体系の空白地帯の解消を図る」としている。また、「計画」では、「人や物の広域的な交流の拡大を通じて、国土の特色ある発展を実現するため、高速鉄道ネットワークの整備・高度化等により全国的な基幹的ネットワークの整備を推進する」としている。
(3) 地域交通基盤
 いずれも大都市圏における交通容量の不足を解消し、鉄道混雑の緩和を図るため、地下鉄等都市鉄道の整備の促進の必要性を指摘している。
(4) 環境・エネルギー問題への対応
 「経審」及び「総点検」では地球規模の環境問題に対応する観点から、また、「計画」では自然環境、豊かな資源の保全の観点から環境・エネルギー問題への対応の必要性を指摘し、整備すべき具体例として、親水緑地、親水護岸、モーダルシフト〔2−2−1図〕を図るための物流基盤等を挙げている。
(5) 高齢者等に配慮した施設
 高齢者、障害者等が住み慣れた地域社会で安心して生活できるよう、社会福祉の観点から公共交通ターミナル等におけるエレベーター、エスカレーターの設置の必要性をいずれも指摘している。
(6) 整備主体
 「経審」及び「計画」では、社会資本の整備主体について、基礎的な社会資本は公的主体が、多様かつ高度なニーズに対しては民間主体が、また、住民に身近な社会資本は地方が、利益が広域に及ぶ社会資本は国が整備することを基本とするとしている。

2 各部門の運輸関係社会資本整備の動向〔2−2−2表参照〕
(1) 鉄道整備
 整備新幹線については、元年8月に北陸新幹線高崎〜軽井沢間の工事が開始されたのを皮切りに、3年9月には、東北新幹線盛岡〜青森間、九州新幹線八代〜西鹿児島間、北陸新幹線軽井沢〜長野間が相次いで着工された。4年8月には北陸新幹線石動〜金沢間、5年10月には北陸新幹線糸魚川〜魚津間も着工された。また、在来幹線の高速化事業や新幹線直通運転化事業等も着実に推進されている。
 都市鉄道の整備も着実に進められた。元年1月の営団地下鉄半蔵門線延伸(半蔵門〜三越前)を初め、東京、大阪、名古屋などの都市で地下鉄の新規開業及び延伸が行われ、2年3月には大阪市地下鉄7号線(京橋〜鶴見緑地)で初のリニアモーター駆動小型地下鉄が開業した。この他新交通システム(広島)やモノレール(千葉)の開業もなされた。
 超電導磁気浮上式鉄道については、以前からの宮崎実験線に加えて、2年8月に山梨実験線の建設計画及び実験の基本計画が承認され、同年建設が始められた。
 なお、3年10月に鉄道整備基金が設立され、鉄道整備に対する助成を総合的かつ効率的に行っている。
(2) 港湾整備
 港湾においては、国際物流における貨物量の増大、船舶の大型化に対応し、国際海上コンテナターミナル等の国際交流基盤の整備が進められている。4年10月には横浜港において我が国初の本格的な輸入対応型のコンテナターミナルの供用が始まった。また、首都圏の物流構造の合理的な再編を図るとともに、北関東地域の物流拠点の形成を目指し、元年7月に常陸那珂港の整備が着工された。
 国内物流においても、モーダルシフトの推進を図るため、フェリー・コンテナ船等を利用する複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備が進められ、神戸港、北九州港、塩釜港で供用が開始された。また、九州中央部における国内物流の拠点として、新たに5年2月に熊本港が開港した。
 このほか、親水緑地や海洋性レクリエーンョンの進展に対応したマリーナの整備等が進められるとともに、民活法に基づく特定施設として、認定第1号の横浜港の国際会議場施設(パシフィコ横浜)ほか50件近くの港湾関連特定施設が整備されており、その内、釧路港の旅客ターミナル施設(釧路フィッシャーマンズワーフ)をはじめ40件近くの施設が既に開業している。
 なお、元年度から新形式超高速船テクノスーパーライナー(TSL)の研究開発が進められており、これに対応した港湾の在り方が検討されている。
(3) 空港整備
 新東京国際空港(成田)においては、4年12月に第2旅客ターミナルビルが供用を開始し、空港ターミナルの混雑緩和が図られた。なお、成田空港については、3年11月以降15回にわたるシンポジウム、5年9月以降12回にわたる円卓会議を経て、7年1月成田空港地域共生委員会等が設置されるに至り、地域と共生できる空港整備についての前進が図られた。
 さらに、6年9月、構想から四半世紀を経て関西国際空港が開港した。泉州沖の海上を埋め立てて建設された本格的24時間運用可能の国際空港であり、我が国の新しい空の玄関として活躍が期待されている。
 なお、その他の空港においても、空港の新設・滑走路の延長等の事業を推進してきており、その結果、元年12月に釧路空港、高松空港、2年3月に青森空港、宮崎空港、3年12月に松山空港、4年12月に仙台空港、5年3月に岡山空港、5年10月に新広島空港において、大型ジェット機(DC−10、B−747等)の就航が可能となった。

3 運輸関係社会資本整備に係る投資の傾向
(1) 運輸関係社会資本整備額の推移〔2−2−3図参照〕
(ア) 昭和60年度までは、国鉄の経営破綻の影響による鉄道投資の減少及び財政再建のためのゼロシーリング・マイナスシーリングの一環としての公共投資の抑制を主因として、運輸関係社会資本整備額は減少傾向にあった。
(イ) 昭和60年度以降平成元年度までは、円高不況への対応、内需主導型経済への転換等を図るため公共投資が重視され、補正予算等で相当の公共事業費が計上されたことから、運輸関係社会資本整備額も鉄道を除き増勢に転じた。
(ウ)3年度からのバブル崩壊による民間企業の業績悪化・設備投資の減少に対応すべく、数次に亘る経済対策が実施され、補正予算等で相当の公共事業費が計上されたこと、鉄道の投資額が堅調に推移したこと等から、運輸関係社会資本整備額は3年度、4年度にはそれぞれ対前年度比15.4%増、12.7%増と10%を超える高い伸びを示した。
(2) 平成以降の運輸関係社会資本整備の特徴
 平成に入り、我が国の置かれている環境が大きく変わりつつある中で、国際化への対応、環境問題への対応、高齢者・障害者等への対応等今後の大きな課題に対する運輸関係社会資本の整備状況を示す。
(ア) 国際化への対応
・ 港湾
 平成に入り、外貿コンテナ貨物量は堅調な伸びを示し、特に輸入の伸びが著しい〔2−2−4図〕。これに対応して我が国港湾における外貿ターミナルの整備が進められている。第8次港湾整備五箇年計画では外貿ターミナル水際線延長約30km増を目標としているが、五箇年計画終了時(7年度末)には目標のほぼ100%に達する見込みである。
・ 空港
 円高の進行による海外旅行の割安感、企業の国際展開等により国際航空旅客数は前五箇年計画期間中の昭和60年度1,758万人から平成2年度3,104万人と76.6%大幅増加を示した。この需要増に対応した空港容量を確保するべく、第6次空港整備五箇年計画までに、いわゆる3大プロジェクトを中心とした拠点空港の整備に力を注ぐ(第6次空港整備五箇年計画における3大プロジェクトの事業費は、第4次五箇年計画の約12倍、第5次五箇年計画の約1.7倍の約2.2兆円に達する見込み)とともに、地方の空港の国際化も着実に推進されている〔2−2−5図〕。その結果、国際線が就航する地方の空港数は元年度の9から6年度には16と大幅に増加している〔2−2−6図〕
(イ) 環境問題への対応
・ 港湾における緑地整備
 昭和60年4月に策定された「21世紀への港湾」において、「豊かな生活空間を形成するための主要な施策」として、港湾における緑地等整備が打ち出され、これを受けて第8次港湾整備五箇年計画においても着実に整備が進められている。港湾整備事業費全体に占める緑地等整備費の割合は第6次五箇年計画の2.3%、第7次五箇年計画の3.1%から第8次五箇年計画では4.3%と大幅に増加し〔2−2−7図〕、その結果として、緑地ストック量は平成元年度末の1,550haから7年度末には42%増の2,200haに達する見込みである。
(ウ) 高齢者、障害者等への対応
・ ターミナルにおけるエスカレーター・エレベーターの設置
 ターミナルにおけるエスカレーター・エレベーター設置に対する低利融資が5年度から実施され、6年度には(財)交通アメニティ推進機構が設立された。また、鉄道駅におけるエスカレーター・エレベーターの整備指針に基づき、着実に整備が行われ、6年度に新たにエスカレーター・エレベーターが設置された鉄道駅・空港数は元年度比48%増の1,384と大幅に増加している〔2−2−8図〕
(エ) 総合的視野に立った運輸関係社会資本整備
・ 交通機関相互の連携の強化
 運輸関係社会資本の機能を最大限発揮するため、空港ターミナルへの鉄道の直接乗り入れ、港湾の整備と合わせた背後の高速道路等の幹線道路及びこれと結ぶ臨海道路の整備等アクセス施設の適切かつ同時期の整備等による交通機関相互の連携の強化が不可欠である。
 空港ターミナルへの鉄道の直接乗り入れについては、新東京国際空港(3年3月、JR東日本・京成電鉄)、新千歳空港(4年7月、JR北海道)、福岡空港(5年3月、福岡市)、関西国際空港(6年6月、JR西日本・南海電鉄)において整備がなされた他、東京国際空港、大阪国際空港、宮崎空港において整備が進められている。
 なお、このような交通機関相互の連携の強化の観点を省庁の枠を超えてさらに具体的施策に反映させるため、7年9月に運輸省及び建設省の連携の下、マルチモーダル推進協議会が発足した。



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