平成7年度 運輸白書

第2章 運輸関係社会資本整備の動向
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第2節 鉄道整備の推進 |
1 鉄道整備の基本的方向
2 鉄道整備に対する助成
3 幹線鉄道の整備
4 都市鉄道の整備
5 地方鉄道の整備
- 1 鉄道整備の基本的動向
- 21世紀に向けて、国土の均衡ある発展を図り、また、本格的な高齢化社会の到来を間近に控え、国民が真に豊かさを実感できる社会を実現するためには、交通関係社会資本の充実・強化が重要となっている。特に、鉄道は、国民生活の基盤となる社会資本であり、通勤・通学時の混雑緩和や都市間移動のスピードアップ等鉄道サービスの充実について国民の強い要望がある。また、道路の混雑及び交通事故といった問題への対応、環境負荷の小さい交通体系の構築等の観点からも鉄道に対する期待が高まっている。
これらの社会的要請に応えて、都市鉄道の輸送力増強や幹線鉄道の高速化等を進めてきているが、鉄道整備は、建設費の増大、用地確保の困難性等から、ますます膨大な資金と長期の懐妊期間を要するものとなっており、鉄道事業者にとっての投資リスクは大きくなってきている。従って、中長期的な視点に立って、所要の助成策を講じつつ、着実にその推進を図っていく必要がある。
さて、鉄道のうち都市間を結ぶ幹線鉄道については、現在その多くの表定速度(注)が時速60kmから90kmの間にあり、新幹線を含む全国主要幹線の表定速度の平均が時速100km弱である。
国土の均衡ある発展や地方の活性化のためには、整備新幹線をはじめとした高速鉄道ネットワークの整備・高度化が重要な課題であり、全国主要幹線鉄道の表定速度の平均を時速120km台に引き上げるとともに、鉄道特性のある分野について、東京、大阪、名古屋、福岡又は札幌から地方中核都市(人口20万人以上の都市及び県庁所在地の都市)までを、少なくとも、概ね3時間台で結ぶことを目標として、整備新幹線の整備のほか、在来線の分野においても、新幹線との直通運転化、スピードアップのための線形の改良、新型車両の開発等を推進していく必要がある。
一方、都市鉄道については、東京圏における主要線区の平均混雑率が200%近くと、依然高い水準にあり、混雑率が250%を超える区間も存在するなど通勤通学時の混雑が深刻な問題となっている。
このため、大都市圏におけるラッシュ時の混雑率を150%(東京圏については当面180%)にすることを目標として、新線建設、複々線化、列車の長編成化、列車本数の増加等による輸送力増強を進め、混雑の緩和を図る必要がある。また、新しい住宅地の供給、通勤・通学時間の短縮等の観点からも、新線建設及び複々線化が有効な手段であり、この点からも都市鉄道の整備が強く求められている。なお、これらの輸送力増強の方策とともに、ピーク時間帯に集中する輸送需要の平準化のため、時差通勤やフレックスタイム制によるオフピーク通勤の推進についても企業や社会の理解と協力を求めていくこととしている。
以上のような幹線鉄道及び都市鉄道の整備を進めていくためには、鉄道事業者の投資を促進していくためのインセンティブとして、財政、政策金融、運賃政策、地域社会の支援等について、あらゆる観点から検討を行い、国、地域社会、利用者等の関係者がそれぞれ必要な負担を行い、鉄道整備の推進のため一層努力していくことが重要となっている。
(注) 表定速度 列車の運転区間の距離を、運転時間(駅間の走行時間に途中駅の停車時間を加えた時間)で、除したもの。
- 2 鉄道整備に対する助成
- (1) 鉄道整備に対する助成の必要性
- 鉄道の整備には膨大な資金が必要であり、その回収には長期間を要する。特に大都市圏における新線建設については、その整備に要する費用が上昇し、より規模の大きな投資が必要となっており、用地取得の遅延等により投資の懐妊期間も長くなってきている。また、近年増加している需要開発型の路線においては、輸送需要を正確に見込むことが困難な場合がある。
以上のように、鉄道整備の投資リスクは大きなものとなっており、鉄道整備を着実に推進していくためには、資本費の負担の軽減を図るなど鉄道事業者の投資意欲を醸成するための投資インセンティブの強化が必要である。
- (2) 鉄道整備に対する助成措置
- 幹線鉄道の整備に対する助成措置として、整備新幹線の整備に対する助成、並びに、在来線の高速化等に関して、幹線鉄道活性化事業費補助制度等が導入されている。
一方、都市鉄道の整備に対する助成措置としては、通勤・通学混雑の緩和等に資する新線建設や複々線化等を進めるため、従来から地下高速鉄道整備事業費補助制度(昭和37年度開始)や日本鉄道建設公団による民鉄線建設(P線利子補給金)制度(47年度開始)などの助成措置が導入されてきた。また、宅地開発と鉄道整備を複合的に行うものを対象に開発者負担や地域社会の助成措置を制度化したものとして、ニュータウン鉄道整備事業費補助制度(48年度開始)や大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法に基づく制度(平成元年度開始)が導入されているほか、将来にわたる輸送力増強工事の資金に充てるために運賃収入の一部を非課税で積立てることができる特定都市鉄道整備積立金制度(昭和61年度開始)が導入されている。なお、平成6年度には地下高速鉄道整備事業費補助制度、特定都市鉄道整備積立金制度等の拡充がなされ、一層の充実が図られたところである。
さらに、3年10月に鉄道整備基金が設立され、国の一般会計等財源による鉄道整備に関する既存の助成のほか、新たに既設新幹線の譲渡代金の一部(特定財源)を活用した整備新幹線の建設に対する交付金の交付や主要幹線鉄道又は都市鉄道の整備事業に対する無利子の資金の貸付け等の助成が総合的かつ効率的に行われることとなり、また、6年度に都市鉄道・幹線鉄道整備事業費が新たに公共事業関係費とされ、助成財源の安定的、継続的確保が期待されることとなった。
このような鉄道自体の整備に着目した支援措置のほか、地域の活性化及び振興に大きな役割を果たす複合的な機能をもつ旅客ターミナル施設の整備に対しても、日本開発銀行による無利子貸付制度(NTT−C)等の支援措置が講じられている。
今後とも、これらの制度をより有効に活用し、鉄道整備を積極的に進めていく必要がある。
- 3 幹線鉄道の整備
- (1) 整備新幹線の整備
- 全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画が定められている整備新幹線については、国土の均衡ある発展と地域の活性化に資することから6年12月19日の官房長官、大蔵大臣、運輸大臣及び自治大臣申合せに従い、その整備を積極的に推進している〔2−2−9図〕。
具体的には、現在着工中の北陸新幹線高崎・長野間、東北新幹線盛岡・八戸間、北陸新幹線糸魚川・魚津間及び石動・金沢間、九州新幹線八代・西鹿児島間の3線5区間については、その整備を着実に推進している〔2−2−10図〕。また、未着工区間については、駅周辺の都市計画との関連性から整備の緊急性の高い北陸新幹線富山駅及び九州新幹線熊本駅において、用地の先行取得のために必要な設計、測量等を行うことを目的とした整備新幹線駅整備調整事業を実施しているほか、難工事が予想される長大トンネルにおいて試掘調査を実施する等の整備新幹線建設推進準備事業を実施している。
さらに、未着工区間の整備のための「新しい基本スキーム」について、8年中に成案を得ることとしている。
- (2) 在来幹線の高速化等
- 在来幹線の高速化等については、所要時間の大幅な短縮、利用者の利便性の向上を図るため、幹線鉄道活性化事業費補助制度や鉄道整備基金による無利子貸付制度を活用し、北越北線(六日町・犀潟間)、山陰線・宮福線等(園部・天橋立間)などの高速化事業や田沢湖線・奥羽線(盛岡・秋田間)の新幹線直通運転化事業等を推進している〔2−2−11図〕〔2−2−12表〕。
これにより、6年12月には、新線建設とともに高速化事業が進められてきた智頭線・因美線(上郡・鳥取)が、7年4月には、日豊線(小倉・大分間)の高速化事業がそれぞれ開業した。
また、7年5月には、高徳線(高松・徳島間)の高速化事業に新たに着手した。
- 4 都市鉄道の整備
- (1) 都市鉄道の計画的整備
- 東京圏を始めとする大都市圏における鉄道の通勤・通学時の混雑は、近年の輸送力増強の努力により緩和傾向にあるものの、未だ厳しい状況にあり、その緩和をはかるためには、今後とも都市鉄道の計画的な整備が必要不可欠である〔2−2−13図〕。
このため、東京圏、大阪圏及び名古屋圏については、運輸政策審議会から鉄道整備計画が答申されており、これに基づいた計画的かつ着実な都市鉄道の整備が図られているところである〔2−2−14表〕。
- (2) 大手民族による整備
- 大手民族鉄15社は、昭和36年から、新線建設等輸送力増強工事、安全対策工事及びサービス改善工事を内容とする投資を推進してきたところであり、現在は、第8次輸送力増強等投資計画に基づき、輸送サービスの向上等に努めている。
また、首都圏の大手民鉄5社は、混雑緩和に資する複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、特定都市鉄道整備積立制度の活用による大規模工事を進めている〔2−2−15図〕〔2−2−16図〕。
- (3) 地下鉄の整備
- 地下鉄は、7年8月現在、帝都高速度交通営団及び9都市(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市)の公営事業者等によって総営業キロ539.5kmで運営されており、6年度の輸送人員は約4,804百万人、輸送人キロは約32,233百万人キロとなっている。なお、7年8月1日現在、地下鉄全体で124.6kmにのぼる新線建設が進められている。
- (4) 旅客鉄道会社(JR)による整備
- 線路増設工事については、JR北海道札沼線(八軒〜あいの里教育大間)及びJR西日本福知山線(新三田〜篠山口間)で複線化工事が進められている。また、JR東日本埼京線を新宿から恵比寿まで延伸するため、山手貨物線の旅客化工事が進められているはか、JR八高線(八王子〜高麗川線間)で電化工事等が進められている。
- (5) モノレール及び新交通システムの整備
- モノレールは、7年8月現在、東京モノレール羽田線等9路線で営業運転されている。このうち最近では、千葉都市モノレール(千葉みなと〜市役所前間1.8km)が7年8月に開業し、新たに東京、千葉、大阪、及び北九州において6路線の延伸工事が行われているところである。
新交通システムについては、7年8月現在、広島新交通アストムライン(6年8月開業)等9路線で営業運転されており、7年11月には、東京臨海新交通臨海線が開業予定であるほか、大阪及び横浜において2路線が工事中である。
- (6) 宅地開発と一体となった鉄道の整備
- 大都市圏における宅地供給は重要な課題となっており、宅地開発と一体となった鉄道の整備が進められている。秋葉原とつくばを結ぶ常磐新線の整備については、3年3月、整備主体として第3セクター方式による首都圏新都市鉄道株式会社が設立され、同年10月には、大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法に基づき、運輸大臣、建設大臣及び自治大臣は、東京都、埼玉県、千葉県及び茨城県に対し、基本計画の承認を行った。同会社は、4年1月にこの承認基本計画の内容に沿って鉄道事業法上の免許を受け、秋葉原〜新浅草間(5年1月)、守谷〜伊奈谷和原間(6年1月)、新浅草〜六町間(7年2月)について工事施工認可を受けて、事業を進めているところである。
- (7) 設備投資を支える運賃改定
- 大手民鉄等においては、先に述べた輸送力増強及びサービス改善に伴う設備投資額の増加により、支出に占める資本費の増加割合が60%を超える状況であり、各社の経営努力にもかかわらず経営を圧迫する要因となっている。
このような状況から、7年1月に大手民鉄11社からは平均19.7%、営団からは16.1%の運賃改定認可申請があったが、各社の経営効率化の進展及び諸般の経済状況等を勘案し、改定率を大手民鉄について14.7%、営団については14.1%に圧縮した上で認可し、9月1日から実施された。
- 5 地方鉄道の整備
- (1) 地方鉄道の現状
- (ア) 中小民鉄の維持
- 中小民鉄は、地域における重要な生活基盤の一つとなっているが、過疎化による運賃収入の伸び悩みや人件費等の諸経費の増加等の理由から大部分の事業者が赤字経営となっている。これらのうち、他の交通機関への代替が困難であるものについては、当該鉄道の欠損額の一部を補助(欠損補助)し、また、自立的経営をめざして鉄軌道設備の近代化等を推進しようとするものについては、設備整備費の一部を補助(近代化補助)するなど従来から地方公共団体とともに各種の助成措置を講じている。
近年は、欠損補助において、経営努力による収支好転や、道路整備の進展等経営環境の変化等で対象となる事業者が減少したことにより縮小(10社から5社)した反面、平成3年の信楽高原鐵道の事故等に鑑み、4年度には近代化補助において安全対策に係る設備整備について制度の一層の充実を図ったほか、鉄道係員に対する教育補助制度を新設し、さらに5年度以降飛躍的な対象事業者の増加等に呼応し近代化補助の大幅増額を図るなど、全体的には中小民鉄に対する支援体制の強化が進んでいる。
今後、国及び地方公共団体においては、欠損補助を受けている事業者については速やかに欠損補助への依存から脱却するよう指導し、一般的には鉄道事業者の自立的経営のための努力は近代化補助等により支援していくことが必要である。
- (イ) 転換鉄道の現状
- 地力交通線対策の一環として旧国鉄の経営から切り離された転換鉄道は、現在、地元自治体が中心となって設立した第三セクター等により運営されている。転換後、列車の運行回数を増加し利便性を向上させるなど様々な努力を行っているが、依然としてほとんどの事業者が厳しい経営を余儀なくされている。
今後は、事業者にあっては、前述の近代化補助(4年度より対象化)を積極的に活用しつつ、自立的な経営ができるよう一層の努力をし、地元地方公共団体等にあっては、経営安定のための基金の運用等を行うほか、旅客誘致のための積極的な働きかけを行うなど、鉄道経営を維持するための条件整備を行っていくことが必要である。
- (ウ) 地方鉄道のバス転換
- 7年9月に、利用者の利便確保に配慮しつつ、JR北海道深名線(深川〜名寄間)を廃止し、バス輸送への転換を行った。
- (2) 地方鉄道新線の整備
- 地方鉄道新線(*)は、現在までに、秋田内陸縦貫鉄道(比立内〜松葉間)、三陸鉄道(田老〜普代、古浜〜釜石間)及び6年12月に開業した智頭急行等10社が営業中であるが、さらに、北越北線(六日町〜犀潟間)等残る4路線の建設が進められている。
*地方鉄道新線:旧国鉄の地方交通線対策の一環として国鉄新鉄としての公示が凍結されていた路線のうち、地方自治体による第三セクターが経営することとなり、日本鉄道建設公団により工事が再開されたもの。

平成7年度

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