平成7年度 運輸白書

第2章 運輸関係社会資本整備の動向
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第3節 港湾・海岸整備の推進 |
1 港湾整備の基本的方向
2 平成7年度港湾・海岸事業
- 1 港湾整備の基本的方向
- (1) 長期港湾政策
- 新しい時代の潮流に対応した概ね2010年を目標とする「大交流時代を支える港湾−世界に開かれ、活力を支える港づくりビジョン−」を7年6月に策定し、長期的港湾政策の方向性を明らかにした。本政策を踏まえ、第9次港湾整備五箇年計画の策定など今後の港湾行政を進めていく〔2−2−17表〕。
この長期港湾政策は、2つの政策を柱とし、さらにそれに基づく主要な施策から構成されている。
第一の政策の柱である「大交流を支える港湾ネットワークの形成」は、アジアをはじめとする諸国と活発に交流し共生型社会を実現するため、人、物、情報の交流を安定的かつ効率的に行うことが出来る港湾ネットワークの形成をめざすものである。そのため、@からDの施策によって、地域の国際物流を担う港湾整備、国際コンテナ港湾の競争力の強化、国内物流基盤の充実、かつ全体として災害に対するネットワーク機能を強化し、また地域連携を推進することとしている。
第二の政策の柱である「活力を支え安心できる空間の創造」は、人々が豊かさを実感できる生活を営めるように、地域の活力を支え、市民生活に安定と安心をもたらす港湾空間の創造をめざすものである。そのため、@からDの施策によって、臨海部における産業空間の充実、人々が憩い活動できる豊かな空間の創造、地域の防災機能の向上、沿岸域の環境創造と廃棄物への対応、臨海部の低・未利用地の豊かな空間への再編を推進していくこととしている。
- (2) 新しい港湾整備五箇年計画に向けて
- (ア) 社会・経済環境の変化と港湾に求められる役割
- 交通、産業、生活などの諸活動を支える基盤として、我が国の経済の健全な発展と国民生活の向上に大きく寄与している港湾の整備は、これまで8次にわたる港湾整備五箇年計画を策定し、これに基づいて進められてきた。平成7年度は第8次港湾整備五箇年計画のの最終年度となる。
現在、我が国の社会・経済環境は、国際的な相互依存関係の深化や競争の激化、国民の安全で安心できる暮らしへの要求への高まりなど、大きな変化の流れの中にあり、港湾整備に寄せられる要請も、質的に多様化し、量的に増大するなど変化してきている。このため、港湾審議会の学識経験委員を中心とする懇談会を設け、7年8月、緊急に解決すべき港湾整備の課題に対応するための基本的考え方として「中期的な港湾整備のあり方」を取りまとめた。この中で示された港湾整備の目標と具体的な施策を実現していくため、以下の内容を重点に、平成8年度を初年度とする第9次港湾整備五箇年計画の策定を進める。
- (イ) 第9次港湾整備五箇年計画の目標と施策
- (a) 国際競争力を有する物流ネットワークの形成
- 現在、国際海上コンテナ輸送は、輸送の効率化や貨物量の増大に対応し船舶の大型化が進展しており、大型化への対応が遅れている我が国の主要港が、世界の海運ネットワークから取り残されることがないよう、国際的な施設水準を早急に確保する必要がある。このため、三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)と北部九州の4地域の中枢国際港湾において、高規格なコンテナターミナル群の形成を図り、世界に巡らされた航路網と高頻度の寄港サービスが提供される、いわゆる国際ハブ港湾としての機能の強化を図る。また、アジア等との交流拡大が進む地域の需要に応じて地域国際流通港湾等の多目的外貿ターミナルの整備を進めるほか〔2−2−18図〕、輸送時間やコストの削減等多様化する荷主の物流ニーズ等に対応して、各地域の中核となる中核国際港湾において、欧米等を結ぶ基幹航路の展開も視野に入れたコンテナターミナルの整備を進める〔2−2−19図〕。
また、海・陸の複合一貫輸送の進展に対応した内貿ターミナルの整備を進め、港への陸上輸送半日往復圏の割合を向上させるほか〔2−2−20図〕、背後圏とのアクセス向上のため、臨海部の道路網の充実を図る。さらに、TSL(テクノスーパーライナー)に対しては、実用化の状況を睨みつつ、その高速性を生かすことのできる所要の施設整備を行う。
- (b) 信頼性の高い空間の創造
- 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、災害に強い港湾システムの構築を進めるため、以下の施策を講じる。
被災直後の緊急物資輸送や被災地域の復旧・復興等の支援活動のため、全国の主要港湾において海上からのアクセス確保のための耐震強化岸壁等の整備を促進するとともに、多目的に利用可能な港湾の空間を生かした防災拠点の整備を一体的に進める。また震災時の市民等の避難緑地を、背後市街地内での避難地と連携して港湾内において整備する。
被災地域内外の経済活動に及ぶ影響を軽減するために、新たにコンテナターミナルや中長距離フェリーターミナルの岸壁等の耐震強化を図るとともに、複数のタイプのフェリー等が利用出来るよう、乗降形式・着岸構造の汎用性の確保を図る。
また、海上交通の安定性の向上を図るため防波堤や航路の整備を進める。
- (c) 活力とやさしさに満ちた地域づくりの推進
- 港湾が、全ての人々が生き生きと活動できる魅力ある地域づくりを支えるため、緑地や新交通システム、旅客ターミナルの整備などを行い、豊かな生活環境及び安全な利用環境を形成する。併せて、水辺環境や海域環境の調和ある開発を進め、環境と共生する港湾(エコポート)の実現を図る。
一般廃棄物の最終処分のため、海面処分場を計画的に確保する。東京湾(東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県)においては廃棄物の3分の2を受け入れており、残余容量の逼迫している東京湾の処分場や〔2−2−21図〕、阪神・淡路大震災の瓦礫も受け入れた大阪湾フェニックスなどの整備等を推進する。また、首都圏の建設残土を地方の港湾建設に広域活用するスーパーフェニックスを推進するなど、資源の有効活用も図る。
- (3) 新しい海岸事業五箇年計画に向けて
- 我が国は、四方を海で囲まれ、また、入り組んだ地形を持つことから、非常に長い海岸線を有し、その総延長は、約35,000kmにも及ぶ。このうち運輸省が所管している約4,480kmが、堤防、護岸等の海岸保全施設により、高潮、津波、波浪などから背後地域を防護する必要がある海岸(要保全海岸)であり、現時点では、この内の約2,960kmで海岸保全施設の整備が進められている。
近年、国民生活のゆとり指向等を受けて、海の楽しさが改めて注目されるようになり、「余暇空間」として、観光、レクリエーションや各種のマリンスポーツの場としての利用が進んでいる。さらに、地球環境の保全に対する関心が高まり、海岸は豊かな海を守り、育てる「環境空間」としての役割に改めて注目が集まっている。このような社会的ニーズを受け、今後の海岸整備の基本的方向を検討するため、海岸事業を所管する四省庁が共同で、「海岸長期ビジョン懇談会」を設置した。そして、数回の懇談会を経て、7年3月に21世紀初頭における海岸のあるべき姿、及びそれを実現するために国民、行政等が行うべき施策について「海岸長期ビジョン」が提言された。
第6次海岸事業五箇年計画(平成8年度〜平成12年度)を策定するに当たり、この「海岸長期ビジョン」の提言を十分尊重し、計画に反映することとしている。
第6次海岸事業五箇年計画の主要な施策としては、高潮、津波、波浪等の災害や、海岸侵食に対して防護されていない海岸の安全性を確保するための施設の整備促進、地震時における海岸保全施設の安全性を確保するための耐震化等の実施のほか、津波防波堤の整備促進等があり、防災対策の充実を図ることにより、国民の生活・財産を守る質の高い安全な海岸の整備を推進するものである。
また、天然海岸に近い海岸の創造をめざし、「白砂青松」に欠かせない砂浜の維持、復元、創出や松林等、海岸の緑の創出を図るとともに、海岸に生息する生物、あるいはウミガメなど海岸を利用する生物の生体環境が脅かされることのないよう自然との共生を図り、豊かで潤いのある環境を創造する海岸の整備を推進する。
さらに、日常生活の中で海に親しむことができ、高齢者や障害者などにも利用しやすい海岸、増大するしクリエーションニーズに応えた憩い、リフレッシュすることができる海岸、「白砂青松」に代表される美しく快適な海岸、地域の特色を活かし、様々な活動に利用され「まちづくり」の核となるような海岸など、利用しやすく親しみのもてる美しく快適な海岸の整備を推進する。
- 2 平成7年度港湾・海岸事業
- (1) 港湾整備事業
- 第8次港湾整備五箇年計画の最終年次である 7年度は、下記の事項に重点を置いて総合的港湾空間の整備を行っている。
- (ア) 国際海上コンテナターミナルの整備
- アジアの主要コンテナ港湾においては水深15m級の高規格のコンテナターミナルが既に利用されているにもかかわらず、我が国においては未だ同規模のターミナルがないことが、我が国港湾の国際競争力の低下の一因となっている。一方、国際的な相互依存関係の高まる中、国際海上コンテナ貨物量、特に輸入貨物が急増している。これらに対応するため、国際海上コンテナターミナルの整備を東京湾、伊勢湾、大阪湾を始め19港で行っている。また、埠頭公社のターミナル整備に対して、港湾料金の低減による港湾の国際競争力の強化を図るための無利子貸付の拡充を行っている。
- (イ) 大規模地震対策の推進
- 阪神・淡路大震災において有効性が評価された耐震強化岸壁については、引き続き震災時における避難者及び緊急物資等の海上輸送に活用するため、24港でその整備を行っている。また、避難地としての港湾緑地の整備を24港で、地盤の液状化による港湾施設の被災を防止するための液状化対策を8港で行っている。
- (ウ) 複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備
- 自然環境負荷の低減を図り、労働力の不足、交通渋滞等の問題を解消するため、トラック輸送と海上輸送を円滑に接続する拠点として、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの整備を19港で行っている。
- (エ) 快適な生活環境の創造
- 全国の一般廃棄物最終処分量の5分の1、東京湾においては3分の2を担う港湾における廃棄物処分場は、その残余容量が逼迫しており、早急な整備が求められている。このため、適正な海域利用や環境との共生に配慮しつつ、廃棄物埋立護岸による海面処分場の整備を39港と1湾で行っている。
- (2) 海岸事業
- 港湾海岸では、人口・資産が集積する港湾地域を高潮や津波、侵食等の自然災害から防護するため、東京湾、伊勢湾、大阪湾等において高潮対策を、三陸・土佐沿岸において津波対策を、新潟港西海岸等において侵食対策を実施している。また、良好な海岸環境を創出するとともに、人々の快適な海岸利用の増進を図るため、博多港海岸、熱海港海岸等において海岸環境整備事業を実施している。
特に、全国の海岸の中で他の模範となるような海岸を選定し、重点的な整備を図る各種モデル事業を進めており、面的防護方式を取り入れ良質で多面的な機能を待った海岸保全施設を整備する「ふるさと海岸整備モデル事業」を津田港海岸など27海岸で、マリーナ等とあわせた複合的でかつ大規模な砂浜を整備する「ビーチ利用促進モデル地区」を宮崎港海岸など7海岸で、生態系と調和を図った海岸や天然海岸に近い海岸を整備する「自然環境保全型海岸整備モデル事業」を徳山下松港海岸(光地区)など4海岸で実施している。また、海岸事業と治山事業(林野庁)が一体となってかつての白砂青松を復元していこうとする「海と緑の環境整備対策事業」を海岸所管4省庁共同施策として平成7年度から新たにスタートしており、港湾海岸では新潟港海岸1海岸で実施している。
また、運輸省では、災害関連情報の迅速かつ確実な伝達のための情報インフラの整備を進めており、7年度第2次補正予算により、久慈港海岸等に津波計を設置し、津波情報の地域への提供等を行う。

平成7年度

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