平成7年度 運輸白書

第3章 変貌する国際社会と運輸

第2節 国際的課題に対応した運輸行政の展開


(1) 運輸ハイレベル協議
 運輸省では、主要運輸当局と密接な意思疎通を図ることにより、運輸分野における諸課題について円滑な調整を行うため、運輸審議官と諸外国の次官クラスとの間で、運輸ハイレベル協議を実施している。7年4月には、ブラッセルを訪問し、欧州委員会第7総局長(運輸担当)と航空、海運、環境等日EU間の運輸分野における重要問題を中心に協議を行った。
(2) 日米包括経済協議
 日米包括経済協議は、経済面における日米関係の新たな枠組みを構築するため、5年7月の日米首脳会談において枠組みの設置について両首脳間で合意されたもので、マクロ経済面、セクター別・構造面での協議及び「地球的展望に立った協力のための共通課題」がその柱となっている。
 セクター別・構造面問題には、特に運輸省所轄の行政と関連の深い自動車・同部品問題等が、また、「地球的展望に立った協力のための共通課題」には日米運輸技術協力が含まれており、運輸省としても積極的な対応を行ってきたところである。
 このうち、自動車・同部品分野については、@外国製部品の自主購入計画Aディーラーシップ及びB補修部品に係る規制緩和の3項目について、約2年にわたる協議の結果、7年6月28日に全て原則妥結し、同年8月23日、決着文書が日米間で取り交わされ最終決着に至った。
 運輸省関係の決着事項である補修部品に係る規制緩和については、@規制の対象となる重要保安部品の削減A独立系整備工場の増加のため、特定部品専門の整備工場の認証制度の創設B構造等変更検査の対象範囲の見直し等の規制緩和について実施することとしている。さらに、決着事項の一つである「補修部品市場アクセス改善プログラム」に基づき、外国製補修部品情報ネットワークの整備、要望・苦情処理窓口の常設、内外無差別のキャンペーンの実施等を進めることとしている。
(3) 日米運輸技術協力
 日米運輸技術協力は、日米両国に有益な運輸技術に関する協力により運輸分野全般における包括的な協力関係を構築するとともに、両国における効率的かつ安全な交通体系の整備に資することを目的とするものであり、5年7月の日米首脳会談で日米包括経済協議の中の「地球的展望に立った協力のための共通課題」の一つとして位置付けられ、6年2月に運輸大臣及び米国運輸長官との間で協力のための日米科学技術協力協定に基づき締結したものである。
 上記実施取決めに基づき 6年10月、第1回専門家会合を開催し、協力の枠組み及び高速鉄道技術、船舶からの油流出防止技術等7項目を優先協力項目として取り上げることに合意した。さらに、本年10月に開催された第2回専門家会合では、優先協力項目の他、「地震等災害時における対応」及び「交通機関の保安対策(テロ対策)」等につき意見交換が行われた。
(4) 日米航空協議
 1953年に締結された日米航空協定(協定)は以遠権等の日米間の権益及び協定の運用が、きわめて不平等なものとなっており、その是正を目的とした日米航空協議が1976年以来断続的に行われている。
 本年4月及び5月、米国のフェデラルエクスプレス社は、多数の新規以遠地点への運航開始を運輸省に申請したが、同社の新規以遠地点への運航は、以遠運航における不均衡を拡大し協定上も問題があるとして運輸省は処分を保留した。
 その後、米国が同保留処分を不満として対日制裁措置暫定案を発表する等の経緯はあったものの、閣僚級での話し合い、次官級協議を経て、最終的には、閣僚級協議により@日本側が当該企業の以遠運航の一部を認めることA日本側が大阪−シカゴ・ニューヨーク以遠カナダ路線を獲得することB本年9月から貨物分野における日米間の機会均等化等を内容とする協議を開始することで合意し、今後の日米間の不平等・不均衡是正への道筋を開いた。上記合意に基づき、本年9月に第一回日米航空貨物協議が開催された。
(5) WTO(世界貿易機関)協定の発効
 昭和61年より開始されたGATTウルグァイ・ラウンドにおける交渉の成果として、平成7年1月に「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」(以下「WTO協定」という。)が発効した。
 WTO協定の附属書の1つである「サービスの貿易に関する一般協定」においては、運輸、金融等のサービス分野の自由化促進のためのルールが定められた。航空分野については、航空機の保守等の一部の附随的な業務を除き、同協定の適用除外とされている。また、海運分野については8年6月まで継続交渉を行うこととなっており、我が方としては、海運継続交渉においても引き続き海運自由化の推進を図るべく対応していく必要がある。
(6) ICAO国際航空運送会議
 現在の国際航空の枠組みは、1944年の国際民間航空条約(シカゴ条約)の下で加盟国が相互に締結する二国間の航空協定に基づき国際航空業務が営まれているところであるが、国際的に今後の国際航空のあり方について検討する動きが見られる。
 こうした動きを受けて、1994年11月から12月にかけて開催された国際民間航空機関(ICAO)の国際航空運送会議においても、将来的な国際航空のあり方についての検討がなされた。その結果、(1)国際航空運送の枠組の変更の方向及びその速度は各国の実情に応じ機会均等の原則に基づいて各国自身が決めるべきこと、(2)自由化を行う場合も漸進的に行い寡占等に対する適切な防止措置を伴うべきことが確認され、一部の国の主張する性急な自由化は否定された。また、(3)自由化と二国間体制は共存し得るものであること、(4)近い将来における世界的な多国間体制は実現する見通しがないこと、(5)国際航空運送への参加は自国企業による直接参加が重要であり自国企業の存立が重視されるべきこと等が結論づけられた。
(7) 自動車基準・認証制度の国際化
 我が国は、自動車基準・認証に関し、従来から基準の国際調和、認証手続の簡素化等を図ってきており、市場アクセスの改善に努めてきている。
 また、米国及び欧州より要望のあった個別の技術的問題については、自動車基準・認証に関する専門家の意見交換等を通じ適切に対応していくこととしている。
 灯火器の取付け位置の国際調和基準については、7年にその成果を国内基準に取り入れることとしており、今後とも、欧米の政府機関及び業界との意志疎通を図るとともに、国連欧州経済委員会自動車安全公害専門家会議に積極的に参画し、自動車基準・認証の一層の国際化を図っていくこととしている。
 さらに、国連ECE1958年協定(自動車の統一基準の策定及び相互承認に関する協定)に加入し、自動車の認証において相互承認を行うことについて、具体的に検討を進めていくこととしている。
(8) 造船業における競争条件に関する国際協定の策定
 OECD造船部会では、元年10月より、造船業における公正な競争条件を確保するため、政府助成措置の廃止と加害的廉売行為の防止を主な内容とする新たな協定(いわゆる造船協定)に関する交渉が行われてきたが、6年12月に妥結し、現在、交渉参加国において同協定の発効のための所要の手続きが進められている。この協定の発効により、国際造船市場における健全な競争条件の確立が図られ、ひいては、市場の秩序維持、安定化が進展することが期待される。
(9) APEC(アジア・太平洋経済協力)
 アジア・太平洋地域における経済関係の緊密な協力を図り、地域の一層の発展に資するため、元年に発足したAPECは、6年11月に、インドネシアのボゴールで開催された第2回非公式首脳会議において、自由で開かれた貿易及び投資という目標を先進工業経済は2010年、開発途上経済は2020年までに達成することを宣言するなど、米国の同地域重視の政策とも相俟って急速な盛り上がりを示している。
 このような中にあって、運輸省では、運輸大臣会合、運輸ワーキンググループ及び観光ワーキンググループを中心に、成長著しい同地域において、米国、アジア諸国等と密接な連携をとりつつ、積極的な貢献を果たしている。
 なお、11月中旬の大阪閣僚会議では、ボゴール宣言の具体化に向け、各ワーキンググルーブ、委員会等にて策定された作業計画などを基に、「行動指針」が策定される。
(ア) 運輸大臣会合
 7年6月に、ワシントンにおいて各メンバーの運輸担当大臣が初めて一堂に会し、対等かつ平等な立場からの自由な意見交換がハイレベルで行われた。全体の合意により、APEC域内運輸システムの構築に関して共同声明が取りまとめられ、我が国の基本的考え方や問題意識が十分反映された内容の「21世紀へ向けたガイドライン」や「協力と行動の優先事項」が盛り込まれた。当大臣会合の成果は運輸ワーキンググループの作業計画に反映される予定であり、その実現を図るべく対応する必要がある。
(イ) 運輸ワーキンググループの動き
 現在、域内の政府系研究機関、研究内容等のリストを作成すべく我が国が提案した「運輸技術研究データベース」、自動車及び同部品の基準調和に向けた「道路輸送調和プロジェクト」、電子データ交換促進を図る「EDIプロジェクト」等のプロジェクトに積極的に対応している。今後とも、効率的で安全かつ環境にやさしい運輸システムの確立に向け、従来のプロジェクトとともに、新規プロジェクトについても対応することとしている。なお、平成7年9月にはシドニーで第8回会合が開催され、作業計画が採択された。
(ウ) 観光ワーキンググループの動き
 7年5月にニュージーランドで第6回会合が、10月に金沢市で第7回会合が開かれた。会合では、観光活動と関連した貿易の自由化に対する障害の除去などを主たる内容とする中長期の作業計画及び11月の大阪閣僚会議に向けての提言が取りまとめられた。



平成7年度

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