平成7年度 運輸白書

第6章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

第2節 国鉄改革の総仕上げに向けて

    1 国鉄長期債務等の処理
    2 国鉄改革10年に向けての取り組み


1 国鉄長期債務等の処理
(1) 概要
 昭和62年4月1日、国鉄改革に伴い発足した日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)は、昭和63年1月及び平成元年12月の閣議決定に従って、土地・株式等の資産の効率的な処分を進め、国鉄長期債務等の処理を図ってきたが、この間、地価高騰により公開競争入札が見合わされたことや株式市場低迷等のため、資産の処分が進まない等の状況が生じた。
 その結果、事業団に帰属した国鉄長期債務等の額は、国鉄改革当時(62年度首)で25.5兆円であったものが、7年度首では26.9兆円となっており、債務の減少が図られていない状態になっている。
 そもそも、事業団に帰属した国鉄長期債務等から発生する金利等は年間約1.5兆円にものぼることにかんがみれば、国鉄長期債務等の処理は、まさに金利との競争であるものと認識しており、国鉄改革10年を目前にして、運輸省及び事業団としては土地及びJR株式の効果的な処分の推進に全力を挙げて取り組み、極力国民負担の軽減に努めるとともに、これら資産処分や債務の状況等を見据え、長期債務等の本格的な処理方策について検討を推進していくこととしている。
(2) 土地の処分について
 事業団の土地の処分については、昨今の経済情勢及び不動産を取り巻く環境が厳しい中で、運輸省・事業団は、「国鉄清算事業団の土地処分推進のためのアクションプログラム」を平成5年10月及び平成6年12月に策定・推進する等あらゆる手段を講じることにより、事業団用地処分の推進に邁進してきた〔2−6−3表〕〔2−6−4図〕〔2−6−5図〕。今後においても、大変厳しい状況ではあるが、9年度までに事業団用地の実質的な処分を終了させるよう最大限努力していくこととしている。
(ア) 一般競争入札の拡大等
 事業団の土地の処分に当たっては、公正さの確保及び国民負担軽減の観点から、一般競争入札によることが原則とされているが、地価対策への配慮から、「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月閣議決定)等により、市街地等において一般競争入札を見合わせざるを得ない状況となった。その後の地価の沈静化の中で債務の早期かつ適切な償還を図るため、上限価格付競争入札の導入、入札に係る規制の緩和等入札の拡大に努めてきたところである。
(イ) 随意契約による処分の推進
 一般競争入札以外の方法として、事業団の土地を地方公共団体等が公的用途に供する場合は随意契約による売却を進めてきたところである。随意契約による売却については、これまで随意契約対象者の拡大等の要件緩和を再度にわたり実施してきたところである。また、地方公共団体による事業団用地取得のための財政措置については、4年8月の「総合経済対策」において、利子負担軽減措置が講じられたが、7年1月当該措置はさらに3年間延長された。
(ウ) 多様な土地処分方法の活用
 地価高騰問題が緊急課題となったことから、事業団は62年9月に「地価を顕在化させない処分方法」について、事業団に設置された資産処分審議会に諮問を行い、63年5月にその基本的な考え方について答申がなされ、「建物付土地売却方式」、「宅地造成方式」、「土地信託方式」及び「不動産変換ローン方式」を実施してきた。その後、地価が沈静化する中で地価対策に配慮しつつ購入者のニーズに対応した売却方法として、「建物提案方式」及び「民間住宅付共同分譲方式」を開発し、平成6年度から実施している。
 事業団ではこうした多様な土地処分方法を活用して民間への土地売却を促進することとしている。
(3) JR株式の処分について
 JR株式の処分は、JR各社の完全民営化という国鉄改革の趣旨を達成すると同時に、事業団の巨額の長期債務の早期償還を図る観点から条件が整い次第速やかに進めていくことが必要と考えており、5年度にJR株式の中で最初にJR東日本株式について400万株中250万株を売却し、東京証券取引所等8取引所に上場した。これに続く新規株式売却対象会社については、資産処分審議会の6年6月の答申を踏まえ、JR西日本とすることと決定し、これを受けてJR西日本では6年8月に証券取引所に上場申請を行うなど年度内売却・上場のための諸準備を進めた。しかしながら、株価の下落等株式市場をめぐる状況等から、JR西日本株式の6年度内の売却・上場は見送らざるを得ないこととなった。
 また、政府関係株式の売却方法をめぐり近時多くの意見、提案がなされている状況にかんがみ、JR株式の新規売却方法の適切なあり方について意見をとりまとめるため、7年1月に「JR株式の売却懇談会」(日本証券業協会、証券会社、アナリスト・評論家、機関投資家等24名より構成)が事業団に設置され、7回にわたる精力的な審議を経て、同年5月に「JR株式の売却方法に関する意見」がとりまとめられた。同意見では、JR株式の新規売却方法として、i)ブックビルディング手法を活用した引受方式、ii)一部株式を入札に付し入札後速やかに上場し、その後の一定期間中に当初の公表のとおり残存株式を引受売却する方法、iii)入札と売出しを並行実施する等の工夫を講じる方式の3案が示されるとともに、準国有財産の売却に際して求められる公正な価格決定、公平な配分、手続きの透明性の要請、現行売却方式の問題点として指摘があった適正な売出価格の設定と価格変動リスクへの対応の要請など、売却方法決定に当たって考慮すべき視点が示されたところであり、同意見を踏まえ、早期に資産処分審議会においてJR株式の新規売却方法を決定することとしている。
 7年1月の阪神・淡路大震災による一時的・突発的な要因により、JR西日本及びJR東海は6年度決算において上場のために必要な利益基準を達成できなかったが、JR各社の早期完全民営化及び事業団の長期債務等償還のため、今後においても引き続きJR各社の株式の早期売却・上場を推進する必要がある。

2 国鉄改革10年に向けての取り組み

 国鉄長期債務等の推移は〔2−6−6表〕のとおりであり、JRの債務は順調に減少している一方、事業団の債務等の推移は概ね横ばいの状況が続いている。国鉄改革から8年余りが経過し、改革10年たる9年度が目前であるが、国鉄改革の総仕上げのため、国鉄長期債務等の処理につき、全力を挙げて取り組んでいく必要がある。あわせて、JRの完全民営化、健全な経営に不可欠な経営基盤の確立等を図っていくことによって、国民生活充実のための重要な手段としてのJRの役割と責任を十分に確立していく必要がある。
(1) 国鉄長期債務等の処理の推進
 63年1月の閣議決定においては、「土地処分収入等の自主財源を充ててもなお残る事業団の債務等については最終的に国において処理するものとするが、その本格的な処理のために必要な『新たな財源・措置』については、土地の処分等の見通しのおおよそつくと考えられる段階で、歳入・歳出の全般的見直しとあわせて検討・決定する」こととされている。
 これを受けて、事業団の資産処分や債務の状況等を見据え、9年度から償還が始まる事業団債(事業団発足以降、事業団法に基づき10年満期一括償還との条件で毎年度発行している債券)の償還、償還据置期間が8年度までとなっている一般会計からの特定無利子借入金(旧国鉄の資金運用部借入金に係る債務相当額で昭和61年度末に一般会計に承継され、旧国鉄が一般会計から無利子で借入れたものとされた借入金)の償還、公的年金一元化への対応等を含めた、「自主財源を充ててもなお残る事業団の債務等」の本格的な処理方策の検討を推進することとしている。
(2) JR各社の完全民営化と今後の経常基盤の確立
 JR各社の上場のための体制づくり等完全民営化のための環境整備を図るために、それぞれ各社において輸送需要の確保、営業活動の充実強化、関連事業の展開、業務運営の効率化等の経営基盤の強化に取り組んでいるところである。特に、平成6年度に赤字を計上し、平成7年度においてもなお一層厳しい経営が見込まれている三島会社及びJR貨物については、一層の経営努力等により、その経営基盤の強化・改善を図ることが急務となっている。



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