平成7年度 運輸白書

第7章 人と地球にやさしい車社会の形成へ向けて

第7章 人と地球にやさしい車社会の形成へ向けて

第1節 安全で環境と調和のとれた車社会の形成へ向けて

    1 自動車交通を取り巻く環境
    2 安全で環境と調和のとれた車社会の形成をめざして


1 自動車交通を取り巻く環境
 自動車は、国民の身近な足として、また我が国経済を支える物流の動脈として、現代社会に不可欠のものであり、その保有台数は今や6,810万台に達している(平成6年度末現在)〔2−7−1図〕
 それに伴い、激増する自動車登録・検査業務を円滑に処理するため、昭和45年以来自動車登録検査業務電子情報処理システムを導入してきたところであるが、昭和63年1月から稼働している現行システムが処理能力の限界に近づきつつあることから平成8年1月に全面的なシステム更改等を計画しており、新システムにおいてはこれまで以上に処理能力、ユーザーの利便性、業務処理の効率化が図られる予定である。
 一方、道路交通混雑についてもますます激しいものとなり、また、交通事故による死者数は、7年連続して1万人を超えており、厳しい事態に直面している。また、自動車公害については、窒素酸化物、粒子状物質等による大気汚染、自動車騒音による生活環境への影響等が社会的問題となっており、加えて、地球温暖化等の地球環境問題への対応が大きな課題となっている。
 今後 「人」と「車」 がより上手につきあっていける「安全で環境と調和のとれた車社会」の実現をめざし、一層の努力が求められている。

2 安全で環境と調和のとれた車社会の形成をめざして
(1) 安全で環境と調和のとれた車社会の形成
(ア) 低公害車の開発・導入
 環境負荷の低減のためには低公害車の開発・普及が大変有効である。現在実用段階にある低公害車の種類としては、メタノール自動車他3種類があげられる〔2−7−2表〕
 これら低公害車の開発・普及を促進するためには技術上の基準の整備、取得に対する支援措置等が必要である。運輸省としては、既に実用化されている電気自動車のほか、メタノール自動車、ハイブリット自動車についても一般車両と同様に道路運送車両の保安基準を適用し、一般ユーザーの取得を容易としている。更に、現在試験運行中の圧縮天然ガス自動車についても、本年度中を目途に一般車両と同様に扱う予定である。
 また、国税・地方税の優遇措置をはじめ、日本開発銀行等による低利融資やバス活性化システム整備費等補助制度、運輸事業振興助成交付金を活用した助成措置などの施策を推進している。さらに、7年度から日本開発銀行等による低利融資の対象に新たに圧縮天然ガス自動車・天然ガス充填設備及び蓄圧式ハイブリット自動車を加えるとともに、バス活性化システム整備費等補助制度による低公害バスの導入対象地域を自動車NOx法の特定地域のほか、国立公園等のマイカー規制地域にも拡大したところであり、これにより上高地にハイブリットバス(4台)、富士山にCNG(圧縮天然ガス)バス(2台)の導入が図られたところである。
 また、本年6月に(財)物流技術センター内に設置した運輸低公害車普及機構が行う低公害車のリース事業、低公害車に関する広報宣伝事業等を積極的に支援し、低公害車の普及促進を図ることとしている。
(イ) 排出ガス対策への取り組み
 自動車排出ガス規制については、特に、新車に対して順次規制強化を行っており、最近では、平成元年12月の中央公害対策審議会答申を踏まえ、短期目標値については、平成3年3月に道路運送車両の保安基準等の改正を行い、@窒素酸化物の一層の低減、A粒子状物質に対する新たな規制の導入、B黒煙の低減、C走行実態に合わせた排出ガス測定モード法への変更等を内容とした平成3年〜平成6年規制として、平成3年11月以降順次施行されている。
 また、長期目標値のうち、ガソリン中量車(車両総重量1.7トン超2.5トン以下)及び重量車(車両総重量2.5トン超)については、 平成5年10月に道路運送車両の保安基準を改正し、平成6年及び7年にかけて規制強化を実施している。
 なお、ディーゼル車に対する長期目標値については、大型車の一部を除いて概ね技術開発の目途かついたことから、本年度中に所要の措置を講ずることとしている。
(ウ) 自動車NOx法への対応
 大都市地域を中心とした窒素酸化物による大気汚染については、「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減に関する特別措置法」(いわゆる自動車NOx法)が4年6月に公布され、同法に基づき国が策定した総量削減基本方針を受けた都道府県知事による総量削減計画が5年11月に策定されるとともに、特定地域のトラック・バス等についてNOx排出量のより少ない車種へ代替することへの義務付け(使用車種規制)を5年12月より実施しているところである。また、運送事業者等に対する自動車使用の合理化に関する指針に基づき、事業所管大臣により事業者等に対する指導・助言を行っている〔2−7−3図〕
 運輸省としては、本法に基づき、車検制度を活用しての使用車種規制を着実に実施し、指針に基づく自動車使用の合理化について事業者等への指導等を行うほか、積合せ輸送の推進、低公害車の普及等総合的な施策を推進することとしている。
(エ) 騒音対策への取り組み
 自動車騒音規制については、新車の加速走行騒音の規制強化、使用過程車に対する近接排気騒音の導入、消音器装着の義務付け等について実施してきたところである。
 また、平成4年11月の中央公害対策審議会中間答申及び平成7年2月の中央環境審議会答申「今後の自動車騒音低減対策のあり方について(自動車単体対策関係)」を踏まえ、自動車単体の騒音規制の強化について検討するとともに、平成7年3月の中央環境審議会答申に示された総合的施策についても、着実に推進していく。
(オ) 省エネルギー対策への取り組み
 地球温暖化を防止するため、二酸化炭素の排出を低減・抑制する必要があり、二酸化炭素の排出の少ない低公害車の開発・普及と併せて、省エネルギーの二酸化炭素低減効果に着目して自動車の燃費改善に努めることが重要である。
 運輸省においては、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づき、ガソリン乗用車の燃費について一層の改善を図るため、自動車メーカーが遵守すべき新たな目標値等を平成5年1月に告示した。また、ガソリン貨物車についても燃費目標値等について、近々設定することとしている。
 このほか、自動車及び交換部品等に係るリサイクルの促進を図るため、「再生資源の利用の促進に関する法律」に基づき、自動車整備事業者等に対して、適切な指導及び助言を行うこととしている。
(2) より安全な車社会をめざして
(ア) 自動車の安全に関する技術基準の見直し等
 自動車の保安基準については、国際的調和にも留意しつつ、交通環境の変化に対応した見直しを適宜行っている。特に、近年、交通事故死者数が高い水準で推移しているという厳しい事態に対処するため、平成4年3月に運輸技術審議会から出された答申を逐次計画的に実施することとしている。このため、5年4月には、乗用車の前面衝突時の車両本体による衝撃吸収性能の強化、高速走行時のブレーキ性能の強化等について、6年3月には、大型後部反射器の装備義務付け対象車種の拡大及びシート組込み式チャイルドシートの規定整備について自動車の安全基準の拡充強化を実施したところであり、今後も引き続き同答申で中期的に規制を充実強化すべきとされた項目についてその着実な推進を図ることとしている。また、平成4年3月に設立された(財)交通事故総合分析センターの事故データを活用することにより、効果的な安全基準の策定等を図っているところである。
(イ) 先進安全自動車(ASV)の開発
 エレクトロニクスを応用することにより、自動車をより高知能化した先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)を21世紀初頭に実現するための調査・研究を平成3年度から5か年計画で実施している。
 本調査・研究では、運転者への警報等による事故の未然防止、事故の未然の回避、衝突時の乗員等の被害の軽減、衝突後の災害の拡大防止等を図るため、車両の周囲の交通環境を検知するセンサー、自動制御、自動運転等の技術について検討を行い、将来の理想的な安全自動車の指針を示すこととしている。また、本計画の最終年度である本年度は、今までの研究成果の発表と自動車メーカーが開発したASV試作車の展示等を予定している〔2−7−4図〕
(ウ) 今後の自動車の検査及び点検整備
 平成6年7月4日に自動車の検査及び点検整備制度の見直しを図ること等を目的として、「道路運送車両法のー部を改正する法律」(平成6年法律第86号)が公布されるとともに、同法の具体的な実施内容の整備等のために7年2月28日に「道路運送車両法施行規則等の一部を改正する省令」(平成7年運輸省令第8号)が制定された。これら法令により措置された内容を含め、自動車の検査及び点検整備制度の見直しは、7年7月1日から実施された。
 今回の自動車の検査及び点検整備制度の改正は、モーターリゼーションが成熟化するなかで、自動車の安全確保と公害防止を図りつつ、時代の要請に対応した自動車社会を形成していくために、最近における自動車技術の進歩及び使用形態の多様化に適切に対応すべく見直しを行ったものである。その具体的な内容は、@自動車ユーザーの保守管理責任の明確化、A日常点検整備の導入及び定期点検整備の簡素化、B車齢が11年を超える自家用乗用自動車等の検査(車検)期間の延長、C定期点検整備の実施時期は検査の前後を問わないこと等である。
 今回の自動車の検査及び点検整備制度の見直しが、ユーザーの保守管理責任を前提としたものであり、ユーザー等の理解のもとに順調に浸透していく必要があるため、整備事業の適正化を強力に進めるとともに、ユーザーの保守管理意識の高揚を図るための「自動車点検整備推進運動」等の各種活動を関係者の協力を得ながら行っていくこととしている。
(エ) 自動車ユーザーからの苦情相談等への対応
 運輸省においては、平成7年1月に施行されたリコール制度の法制化及び7年7月に施行された製造物責任法(PL法)に関連する措置として、ユーザー利益の保護及び事故の未然防止対策の一層の充実を図る観点から、以下の対策を講じた。
@ 自動車交通局審査課ユーザー業務室に自動車不具合情報受付専用FAXを設置する等により、ユーザー業務室及び地方運輸局に設けた自動車に係る苦情相談窓口の充実を図った。
A 交通安全公害研究所に自動車技術評価部を新設し、同部がユーザー業務室と連携しつつ、リコール等に関し行政上必要となる原因究明の実施及び原因究明に係わる一般ユーザーからの試験調査依頼に対応することとした。
(オ) 事業用自動車の安全な運行の確保
 事業用自動車の安全な運行を確保するため、運転者の労務管理、乗務員の指導・監督等日常の運行の安全を管理する運行管理者を選任させるとともに運行管理者に対する研修の充実等指導・教育の徹底と併せ、自動車運送事業者等に対するより一層の交通事故防止対策への積極的な取り組みについて推進している。
(カ) 自動車事故被害者に対する救済対策等
 自動車事故による被害者の救済を図るため、自動車損害賠償責任保険(共済)と政府の保障事業を中心とした自動車損害賠償保障制度の適切な運用を行っている。平成7年4月1日には原動機付自転車等に4年及び5年契約を導入し、契約切れに伴う継続手続漏れを防止して付保率の向上を図った。
 また、自動車事故対策センターにおいては、交通遺児等に対する育成資金の貸付け、重度後遺障害者に対する介護料の支給、重度後遺障害者に対する治療・養護を行う療護センターの運営等の業務を実施している。7年度においては、交通遺児等に対する貸付け金額の引上げを行った。
 このほか、自動車損害賠償責任再保険特別会計から、救急医療設備の整備等の自動車事故対策事業に対して助成を行っている。



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