平成7年度 運輸白書

第7章 人と地球にやさしい車社会の形成に向けて
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第2節 利用者ニーズに対応した車社会の形成 |
1 自動車旅客輸送の活性化
2 トラック輸送の効率化
- 1 自動車旅客輸送の活性化
- (1) バス
- (ア) 現状と課題
- 乗合バス事業については、都市における走行環境悪化に伴う利便性の低下、地方における人口の減少やマイカーの普及等による利用者の減少等により、厳しい経営状況が続いている。
しかしながら、バス交通は、鉄道等の幹線交通に対してフィーダー的な役割を果たすものであり、また、地方においては、これに加えて幹線交通の役割をも担うなど日常生活に不可欠な輸送機関となっている。このため、厳しい経営状況のもと、地域住民のモビリティを確保するため、事業の効率化の指導や所要の補助を行っていく必要がある。
また、事業者の創意工夫を発揮させ利用者利便の向上を図る観点から、平成6年度において、乗合バスの運賃・料金の営業政策的割引(1日乗降フリー乗車券等)、選択可能性の大きいサービスの対価たる料金(特別座席料金等)等について、認可制から届出制とするなどの措置を行ったところである。
さらに、近年、バス事業においてもプリペイドカードによる運賃の支払いが普及してきており、また、一枚のカードで複数の事業者のバス運賃の支払いができる共通カードが導入され、一層の利用者利便の向上が図られているところであり、運輸省としても、バス活性化システム整備費等補助金により積極的に支援している。最近における一例として、東京都の一部、横浜市及び川崎市内においてバス共通力ードの取扱の表示のあるどのバスにも利用可能なプリペイドカード(バス共通カード)が6年10月から順次導入され、極めて好調な売上げを示しているとともに、バス利用の促進にもつながっている。
なお、高齢者・障害者等の移動手段を確保するため、地域の福祉行政との連携の下に、リフト付きバス等の普及を引き続き推進していく必要がある。
- (イ) 都市におけるバスの活性化、道路交通の円滑化
- 大都市、地方中核都市の過密化する道路交通において、公共交通機関たるバスの利用を促進することは、道路空間の有効活用、道路交通の円滑化に資するものである。このため、自家用車からの誘導を図り、バスの利用者利便を向上させるため、運輸省は中央レベルの「バス活性化連絡会」及び各都道府県ごとの「バス活性化委員会」を通じ、警察、道路管理者、地方公共団体、バス事業者等関係者と一体となって、バス専用レーンの設置、違法駐車の排除等の走行環境改善の実現に向けた諸施策を推進しているところである。
また、バス輸送サービスの改善施策については、低床・広ドアバスの導入や停留所におけるバスシェルターの設置等を事業者に指導するとともに、バス活性化システム整備費等補助制度によりバス運行管理システム等を総合的に整備する都市新バスシステムの整備、カードシステムの整備等需要の喚起及び利用者利便の向上を図っている。
さらに、都市における道路交通の円滑化を図るため、平成6年9月より警察庁、建設省とともに「渋滞対策協議会」を設置し、従来のハード面の対策に加え、パーク・アンド・ライドや相乗り・時差出勤など利用サイドに働きかける交通需要マネジメント(TDM)等のソフト面の対策を進めてる。
なお、これらの施策の具体的な取り組みを推進するため「総合渋滞対策支援モデル事業」を実施することとし、6年度においては札幌市等10都市を指定し、7年度においては、長岡市及び長崎市の2都市を追加指定し、支援を行っている。
- (ウ)地方バスの維持・整備
- 地方バスは、地域住民にとって不可欠な公共交通機関であるが、過疎化の進行、マイカーの普及などの原因により利用者の減少傾向が続いており、路線の維持自体が困難なところがあるなど厳しい経営状況に置かれている。このため、運輸省では、地域住民の足を確保するため、事業者に対し、フリー乗降制やデマンドバスの導入等地域の実情に応じてサービスの多様化を図ることにより利用者の確保等に関する自主的な経営努力を行うよう指導するとともに、それらの経営努力を前提に所要の助成措置を講じることとしており、平成6年度においては、乗合バス事業者163事業者、廃止代替バスを運行する452市町村等に対し、約110億円の国庫補助金を交付している。
なお、地方バス路線の維持のための補助制度は、6年度までの制度であったが、引き続き地方における生活の足の確保が不可欠との観点から事業者の一層の経営改善努力を求めるとともに、輸送人員の減少に伴う補助要件の見直し、市街地走行部分の補助金のカットの緩和、制度の長期的安定を図るため、現行の5年間を10年間とするなどの制度改正を行い、7年度以降も補助制度の継続を図ることとしている。
なお、廃止路線代替バス補助金については、地方公共団体の事務として同化定着していると認められることから、廃止路線代替バスの運行に関して地方公共団体の意向をできる限り反映させることに併せて一般財源化され、地方交付税により所要の財源措置が講じられることとなった
- (エ) 高速バスネットワークの充実
- 高速道路の伸長に伴い、高速バス網の拡充が進み、平成5年度末現在で全国で1,243系統が運行されるなど〔2−7−5図〕、国民の足として定着してきている。特に、夜行便を中心とした300キロ以上の長距離高速バスについては、昭和63年以降急速に路線網が拡大し、6年度末現在で168路線が運行されている。高速バスは夜間の時間を有効活用できること、鉄道・航空に比べ低廉な運賃であること等から、利用者に受け入れられているものと考えられるが、今後は、競合する交通機関との関係でバスの利点を更に発揮させるため、路線の再編成、車内の快適性の向上、利用しやすいターミナルの整備等を更に推進していくことが必要となっている。
- (2) タクシー
- (ア) 現状と課題
- タクシーは、鉄道、バスといった大量輸送機関と異なり、個人のニーズに応じた輸送を担うとともに、時間帯や地域によっては鉄道、バスの代替的な、また、駐車スペースの乏しい都市では日常の生活、業務活動のための効率的な輸送機関となっている。
しかしながら、バブル以降の景気後退及び同局面からの回復基調に足踏みがみられていること等から、タクシーの利用者は減少しており厳しい経営状況に置かれている。また、タクシー事業に必要な労働力を確保していくためには、時短への対応も含めて労働条件の改善を図っていくことが不可欠となっている。
このため、利用者ニーズに即したサービスの提供等需要喚起のためにタクシー事業者の一層の努力が求められるところであり、行政としては、事業者の創意工夫が充分に生かされるよう制度面の見直しを行ってきているところである。
- (イ)タクシー事業の規制の見直し
- タクシーについては、近年、国民生活の向上を背景に利用者ニ一ズの多様化が進んでおり、これに対応したサービスの提供が求められている。
こうした状況を踏まえ、運輸省は、平成5年5月の運輸政策審議会答申「今後のタクシー事業のあり方について」を受けて、運賃・料金の多様化、需給調整の運用の緩和等に取り組むこととし、5年10月にその具体的実施方法等の今後の行政方針について、地方運輸局等に対し通達するとともに、地方運輸局等においては、これを受けて、審査基準等を一般に公示した。7年3月に実施された東京地区の運賃改定においては、遠距離割引運賃、ワゴン配車・時間指定予約料金、時間制運賃などを設定し、需要の喚起、利用者ニーズに即したメニューの多様化が図られたところである。
このほか、事業の効率化を図る観点から、地域の実情を踏まえた事業区域の段階的拡大に取り組むとともに、過疎地域や団地、深夜の都市等において定着してきている乗合タクシーについて、申請に係る手続きの簡素化を図るとともに、従来の運行形態にとらわれることなく、弾力的に処理するよう措置し、積極的に推進を図っている。また、個人タクシーについては、免許等に際しての審査方法の見直し、高齢化への歯止め対策の実施等に努めているところである。
これらの事項については、7年3月に閣議決定された「規制緩和推進計画」に盛り込み、その着実な実施を図ることとしている。
- (3) その他の輸送サービス
- レンタカー及びリースカーは、平成6年3月末現在で、レンタカーが約23万台、リースカーが約178万台となるなど成長を続けており、国民生活、産業経済活動に不可欠な輸送手段となっている。
また、近年、主に企業等との長期的な契約に基づき自家用自動車の運転、整備、燃料等の管理等を請け負う自家用自動車管理業や、飲酒等のため自己の車両を運転できなくなった者に代って運転を行う運転代行業が発展してきている。
これらの事業については、道路運送に関するサービスとして、実態を把握していくとともに、利用者ニーズに対応したサービスの提供、利用者の保護、輸送の安全の確保を図っていくため関係機関とも連携しつつ関係事業者団体を通じた指導を行っている。特に、運転代行業については、6年10月に警察庁と共同して運転代行問題協議会を設置し、違法行為の排除、安全対策等についての取り組みを行っているところである。
さらに、近年の日本における高齢化社会の急速な進展、高齢者・障害者等の社会参加の機会の拡大に伴い、これらの人々に対する個別の移動手段の確保の必要性が高まっており、これらの需要に対する民間患者等輸送事業(いわゆる福祉タクシー)が発展してきている。福祉タクシーは、6年3月末で、554事業者985両となっているが、通常のタクシーと比べ車両価格が高く、また運行効率も低い等の問題もあり、タクシー事業者が独力で導入を図っていくことには限界があるので、地域の福祉行政との連携の下に取り組んでいく必要がある。
- 2 トラック輸送の効率化
- (1) トラック輸送の現状と課題
- トラック輸送は、我が国物流の基幹的輸送モードとして国内貨物輸送の大宗を占めており、多様化・高度化する顧客ニーズに的確に対応し、産業経済の発展と国民生活の向上に貢献している。
最近の輸送実績を見ると、平成4・5年度と営業用トラックの輸送量が減少するという厳しい状況下にあったが、6年度には2年ぶりに若干の増加に転じた。しかしながら、本年度に入り、景気が足踏み状態が長引くなかで、弱含みで推移していることに伴い輸送需要が低迷する等依然として予断を許さない状況にある。
トラック輸送に関しては、2年に施行された貨物自動車運送事業法による大幅な規制緩和が実施されたところであり、その後、毎年多数の新規事業者の参入が続いた。これにより、市場における競争が活発化する一方、宅配便時間指定サービス等事業者の創意工夫による新しい輸送サービスが提供されるなど、着々とその効果が現れてきている。
一方、近年の経済のソフト化、産業構造の変化に伴い、利用者の輸送サービスに対するニーズが高度化、多様化する傾向にある。これに対応してトラック事業者においても小口多頻度輸送など高度な輸送業務を展開するとともに、納品代行、梱包、保管、流通加工等各種付帯サービスに積極的に取り組むなど、トラック輸送にとどまらず総合的な物流サービスの提供をめざした取り組みが行われている。
このように、低迷する需要、規制緩和に伴う市場競争の激化、経済のソフト化等トラック輸送を取り巻く環境は依然として厳しいが、加えて、労働力の高齢化や労働時間の短縮への取り組み、高速道路料金の値上げ等の高コスト化、騒音問題、交通渋滞、NOx規制等の環境規制の強化などの課題が山積しており、今後、トラック輸送は、これらの課題に積極的に取り組んでいく必要がある。
- (2) 輸送の効率化等に向けた取り組み
- (ア) 輸送の安全の確保
- トラック輸送は、その利便性、機動性等から、今後とも我が国の貨物輸送の中で基幹的な役割を果たしていくことと思われる。
しかし、トラック輸送は、道路という公共的な空間を利用して提供される輸送サービスであることから、輸送の安全を徹底することが最重要課題である。従って、今後とも、貨物自動車運送適正化事業実施機関等を利用した過積載防止対策、過労運転防止対策等に引き続き積極的に取り組んでいく必要がある。
- (イ) 輸送の効率化等
- 一方、近年、トラック輸送を取り巻く環境は大きく変化しつつありトラック輸送産業は、その変化に的確に対応して、輸送の効率化、経営基盤の強化、利用者ニーズに対応したサービスの多様化、労働条件の改善、環境問題への取り組み等を進めていく必要がある。
具体的には、中小企業がその99%を占めるトラック業界の現状を踏まえ、事業者間で共同化、情報化等を通じて経営基盤の強化、経営の近代化を進めていく必要がある。このような観点から「社会ニーズ対応型」構造改善事業として、共同化や業務提携等による事業の集約化、ターミナル等の集団化等を推進しているところである。
また、高齢化の進展と若年層を中心とした構造的な労働力不足に対応するため、平成9年4月から実施される週40時間制に向けた段階的な取り組み等労働時間の短縮、省力化対策等を推進することにより、安定的な労働力の確保を図っていく必要がある。
なお、宅配便と並んで消費者物流の中核である引越運送については、近年の利用者ニーズの高度化・多様化により、そのサービス形態が複雑化しており、それに伴って、様々なトラブルが発生している。従って、苦情処理体制の拡充等引越輸送に係る利用者保護対策の充実を図ることとしている。
一方、今後の車社会においてトラック輸送が社会と共生していくためには、環境問題等社会的課題に積極的かつ的確に対応していくことが不可欠であり、そのためには、特に輸送の効率化を図っていくことが重要である。このため、一般貨物自動車運送事業者による積合せ輸送の推進に加えて、6年11月から特別積合せ事業者間で幹線における共同運行を実施しているほか、福岡市天神地区や新宿副都心等において貨物の共同集配が行われており、その他の地区においても検討が進められている。また、駐停車スペースの確保などの地域環境の整備も推進しているところである。
さらに、トラック事業に関連する規制に関しては、一昨年に車両総重量の制限の緩和、昨年には有蓋車庫に係る規制の廃止、原価計算書の添付義務の緩和等の運賃・料金の届出規制の緩和などを行うとともに、従来設定されていた6の拡大営業区域に加えて新たに5の拡大営業区域を増設する等の規制緩和を実施してきている。これらの措置によって、トラック輸送の効率化は大きく進んできているが、今後とも社会経済情勢に対応した規制緩和を進めていく必要がある。
この他、先の阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、災害時等における情報伝達方法の整備、緊急輸送の実施マニュアルの整備等緊急時における対応のあり方についての見直しを進めているところである。
- (ウ) 情報化への取り組み
- トラック業界においては、輸送の効率化、輸送サービスの向上等を推進する観点から、従来より、貨物追跡システムの導入等情報化に向けた取り組みが精力的に進められている。特に、帰り荷の斡旋を行う「システムKIT」、トラック事業者の荷主が輸送計画などの電子データを交換する「物流EDI」、トラック事業者と運転手が衛星通信を利用し運行状況等の情報を交換するシステム等を活用することにより、車両の効率的運用等輸送の効率化が図られている。今後ともこのような情報化を積極的に推進していく必要がある。

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