平成7年度 運輸白書

第8章 海運、船員対策及び造船の新たな展開
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第3節 高度化を目指す造船業 |
1 我が国造船業の現状
2 造船業の課題と対策
3 舶用工業対策の推進
- 1 我が国造船業の現状
- 我が国造船業の平成6年度の新造船受注量は、厳しい円高環境の下にありながらも、アジアの海運市況の活発化等により昨年に引き続き増加し、339隻、1,119万総トン(総トン数ベース(以下同じ)で対前年度比33.5%増)と4年ぶりに1,000万総トンの大台を越えた。
また、6年度の竣工量は271隻、831万総トン(対前年度比2.8%減)であり、その結果6年度末の手持工事量は315隻、1,279万総トン(対前年同期比28.4%増)と増加し、約1年半程度の工事量を確保している。
しかし、受注量が増加する一方で、世界的な供給過剰感や昨今の急激な円高の進行等もあって船価が低迷していることや外貨建て建造契約の比率が高まっていることなどから、今後の経営について懸念される状況にある〔2−8−4図〕。
- 2 造船業の課題と対策
- 3年12月の海運造船合理化審議会答申「21世紀を展望したこれからの造船対策のあり方について」を踏まえ、運輸省では以下のような取組みを行っている。
- (1) 長期的な需給の安定化
- 今後の世界の長期的な新造船建造需要は、基本的には21世紀始め頃に向けて増加、その後減少する傾向にあると予想される。他方、世界の供給能力は、韓国の大規模な設備拡張等により大幅な拡大傾向にあり、また、最近の新造船建造需要予測を上回るペースでの世界の建造状況と併せ考えれば、船腹過剰の解消は進まず、近い将来、新造船建造需要の大幅な減退による需給不均衡が生じるおそれがある。したがって我が国は、造船分野のリードカントリーとしてイニシアティブを発揮し、需給安定化の重要性を国際的に訴えていくとともに、国内的には現状の設備能力を堅持することとしている〔2−8−5図〕。
- (2) 産業基盤の整備
- 我が国造船業が健全に発展していくためには、我が国の社会経済の成熟化に対応した産業の魅力化を図るとともに、昨今の急激な円高の中で国際競争力を維持していくことが重要である。
このため、舶用機器の標準化、CIM(コンピュータ統合生産システム)導入による生産性向上等を通じて価格競争力を強化するとともに、次世代船舶(テクノスーパーライナー、メガフロート)の技術開発を通じて創造的技術ポテンシャルの維持・向上及び新規需要創出に努めることが重要であり、各種対策に積極的に取り組んでいるところである。
さらに、抜本的に産業基盤の強化を図るためには、過去の不況対策の過程で各事業者に散逸・縮小化されたまま残されている資本、労働力、造船設備等の経営資源の有効活用策についても検討することが重要であり、今後、事業提携、集約化等に対する各企業の積極的な取組みが期待される。
また、中小造船業については、内航船、漁船等の製造・修繕を通じ、安定的な海上輸送の確保、水産資源の採取を支えるとともに、地場産業として地域経済の振興及び雇用機会の創出に寄与してきたが、今後ともモーダルシフト等社会ニーズの多様化・高度化に伴いその重要性は増していくものと考えられる。
しかしながら、近年の国際的な漁業規制の強化と国内景気の低迷等により中小造船事業者を巡る経営環境は厳しいものになってきている。また、脆弱な経営基盤、過当競争体質、労働力の高齢化等の構造的問題は依然として解消されておらず、これらの課題に対し積極的に取り組んでいくことが必要である。
このような現状を踏まえ、中小造船業の健全な発展を図るため、5年7月から「中小企業近代化促進法」に基づいた第4次構造改善事業(社会ニーズ対応型)を実施している。
さらに、船舶の修繕業及び漁船の製造・修繕業については、昨今の経済環境変化を受け、需要が大幅に減少していることから、雇用保険法に基づく雇用調整助成金制度を活用し、雇用の調整を図っているところである。
- (3) 国際協調の推進
- 国際的な単一市場を分けあう世界の造船業にとって、調和ある発展を図る上で国際的な協調を推進することは不可欠な要件である。我が国は造船分野のリードカントリーとして国際協調のための各般の取り組みに積極的に参画している。
- (ア) 先進造船国との政策協調
- 造船協定の早期発効とその後の適正な運用を図り、国際造船市場における公正かつ自由な競争の促進に寄与することとしている。
また、OECD造船部会、同需給サブグループ、我が国と合わせて世界の約3分の2の新造船シェアを占める韓国との政策対話等の場を活用し、造船国間での共通の市場動向認識の醸成とそれに対応した政策の展開の重要性を国際的に訴え、世界の需給安定化に貢献していくこととしている。
- (イ) 地球環境問題等への対応
- 船舶の高齢化の進行、サブスタンダード船(1974年の海上人命安全条約等の国際基準に適合していない船舶)の増加が航行安全のみならず環境保全に脅威を与えている状況にかんがみ、環境保全対策等に積極的に取り組むことが重要である。
運輸省では、船舶に関する環境保全技術の開発を促進するとともにその成果の普及を図るため、3年度から造船業基盤整備事業協会が実施しているタンカーからの油流出防止技術及び船舶用機関の排気ガス浄化技術の研究開発に対し助成措置を講じている。
- 3 舶用工業対策の推進
- 我が国舶用工業は、長期低迷を脱し緩やかな回復基調にあったが、円高等に起因する船価下落に伴う製品価格の低下により、生産額は減少している〔2−8−6図〕。
現在、我が国船用工業製品の約8割は国内向けであるが、急激な円高の進行に伴い、造船所による海外調達の動き等が活発化しており、一層のコスト低減、国際競争力の強化が緊急の課題となっていることに加え、若年技術者の不足、生産設備の近代化の遅れ等により産業基盤が脆弱化している。
このため、船主・造船所・舶用メーカーの三者が協力して「舶用機器の標準化」を推進し、コストの低減、操作性・信頼性の向上を図ると共に、省力化設備投資、生産・開発体制の集約化の促進等の施策により舶用工業の基盤強化、競争力の確保を図っているところである。
また、近年、乗組船員数の減少、機関の高度化等に対応して舶用機関整備に対するニーズが質・量ともに増大していることから、舶用機関整備事業者の組織化を進めるとともに、経営基盤の強化、整備技術の向上等を図り、舶用機関整備業の活性化を推進している。

平成7年度

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