1 地球温暖化問題への対応


(1) 地球温暖化問題をめぐる状況

 近年、人間の諸活動に伴う二酸化炭素に代表される温室効果ガスの排出量の増加に起因した、大気中の温室効果ガス濃度の増加による地球温暖化問題が世界的にクローズアップされている。世界中の科学者で構成される「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、21世紀末には、地球全体の平均気温が2℃上昇し、海面が約50cm上昇するおそれがあるなどの報告がなされている。この地球温暖化(気候変動)を防止するために1992年に採択され、1994年に発効した気候変動枠組条約では、先進締約国が二酸化炭素等温室効果ガスの排出量を1990年代末までに1990年レベルに戻すことを目的として政策・措置をとることが掲げられている。
 しかしながら、我が国の二酸化炭素排出総量は、平成2年度(1990年度)以降も増加傾向にあり、7年度の排出量は過去最高となり〔2−2−2図〕、1.一人当たりの二酸化炭素排出量について2000年以降概ね1990年レベルでの安定化を図る、2.革新的技術開発等が、現在予測される以上に早期に大幅に進展することにより、二酸化炭素排出総量が2000年以降概ね1990年レベルで安定するよう努めるという我が国の目標の2000年時点の達成が、このままでは困難となるほどに増加した。
 また、運輸部門における二酸化炭素排出量も増加傾向にあり、7年度は2年度に比較して16%増加している〔2−2−3図〕。
 このような状況のなか、9年12月に京都で気候変動枠組条約の第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)が開催されることになり、同会議において2000年以降の二酸化炭素等の温室効果ガス排出削減の数量目標及び政策・措置を含めた新たな議定書その他法的文書が採択される予定であり、今後、各国は温室効果ガスの排出削減のための一層の努力を行う必要がある。

(2) 運輸部門における地球温暖化問題への取組み

 運輸省においては、地球環境にやさしい交通体系の形成をめざして、自動車等のエネルギー効率の向上、電気自動車等の低公害車の導入促進、幹線輸送のモーダルシフトの推進、共同輸送の推進等トラックの輸送効率の向上、公共輸送機関整備・サービスの向上等の推進による公共輸送機関の利用促進、地球環境に関する観測・監視、研究の推進を総合的に展開している。
 特に、運輸部門における総合的な地球温暖化問題への対応を検討するため、運輸省では8年9月に運輸政策審議会総合部会に地球環境問題小委員会を設置し、地球温暖化問題に対応した環境にやさしくエネルギー効率のよい交通のあり方について審議を行った。その結果、9年4月に「運輸部門における地球温暖化問題への対応方策について」がとりまとめられた。そのなかでは、短中期的な重点施策として1.低燃費車の開発と自動車関係税制グリーン化による経済的誘導施策、2.エコドライブの推進、3.交通需要マネージメント(TDM)等による公共交通機関の利用及びその整備の促進、4.高度道路交通システム(ITS)を活用したトラック輸送効率の向上等物流の効率化の推進、の4項目を指摘している(第1部第2章第2節1参照)。また、長期的視点から講じていくべき施策の方向として、自動車の超低燃費化、自動車に過度に依存しないモビリティ社会を目指す、トラック輸送に過度に依存しない環境負荷の小さいマルチモーダルな物流体系の形成等が盛り込まれている。
 運輸省においては、本とりまとめを受けて、短中期的な重点施策を中心に、地球温暖化対応施策をより一層積極的に実施・推進していく。

(3) 観測・監視等の充実強化

 気象庁は、地球温暖化の実体解明を進めるため、世界気象機関(WMO)が推進している世界気象監視(WWW)計画や全球大気監視(GAW)計画等に基づく全球的な監視網の一翼を担うべく、各種の観測・監視体制の強化を図っている。具体的には、通常の気象観測とともに、大気環境観測所(岩手県三陸町綾里)及び南鳥島気象観測所において、二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスの、さらに、沖縄県与那国島において9年1月から二酸化炭素の濃度等の観測を実施している。また、5年4月から民間団体との協力により行っている日本−オーストラリア・シドニー間における定期航空機による上層大気中の温室効果ガスの定常観測や、元年から行っている海洋気象観測船「凌風丸」による西太平洋での大気及び海水中の温室効果ガス〔2−2−4図〕、海水中のフロン、有機炭素等の観測を引き続き実施する。さらに、地球温暖化に伴う海面上昇の実態把握等のための日本の主な港湾や南鳥島における検潮観測を継続している。
 また、二酸化炭素等の温室効果ガスの世界各国の観測データの収集・管理・提供を行う「WMO温室効果ガス世界資料センター」の役割を担うとともに、アジア・南西太平洋地域各国におけるGAW観測データの品質向上を図る「WMO品質保証科学センター」に関する業務を、7年10月から実施している。
 さらに、これらの観測・監視の成果をもとに温室効果ガスや気候変動の動向についての評価を、毎年「気候変動監視レポート」として公表している。
 気象研究所では、世界気候研究計画(WCRP)に沿って大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴う地球温暖化の予測を行う気候モデルの高度化に関する研究を行い、その成果を13年に公表される予定の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第三次評価報告書に反映させることとしている。また、雲が地球温暖化に及ぼす影響、成層圏変動が気候に及ぼす影響、二酸化炭素等の大気−海洋間の循環等の研究を続けている他、9年度から北太平洋亜寒帯循環と気候変動についての研究を開始した。
 また、地球温暖化の影響評価や防止策の策定に資するために、気象庁は、気象研究所が開発した気候モデルによる、大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴う向こう100年間の気候変化の予測計算結果を基に「地球温暖化予測情報」を作成し、その内容をCD−ROMに収録して公表している。
 海上保安庁では、海洋が地球温暖化に与える影響の解明に役立てるため、国連教育科学文化機関・政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)が推進している西太平洋海域共同調査に参加し、本州南方から赤道域において測量船による海流、水温、塩分、波浪等の定常モニタリング観測等を実施している。
 また、南極海においては、南極研究科学委員会の調整のもとに実施されている日本南極地域観測の海洋定常観測部門を担当し、海洋が地球温暖化に与える影響の解明に資するように、海洋構造把握のため海洋観測及び漂流ブイの追跡調査を実施している。
 このほか、海上保安庁は、地球温暖化に伴う海面上昇の実態把握のため、日本の主な港湾及び南極昭和基地において潮位観測を行うとともに、人工衛星技術を用いて地球重心からの海面の高さを求めるための観測を行っている。
 一方、海上保安庁の「日本海洋データセンター」では、地球温暖化問題に係る各種共同調査の観測データ管理機関として、海洋データの収集・管理・提供を行っている。


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