第1章では、これまでの交通行政の変遷を振り返ったうえで、経済社会情勢の変化を受けたこれからの時代に相応しい交通システムのあり方について述べた。
その一方で、平成13年1月から、運輸省は、中央省庁等改革により北海道開発庁、国土庁及び建設省と統合し、新たに国土交通省として再編される。この国土交通省は、「国土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、そのための社会資本の整合的な整備、交通政策の推進、気象業務の健全な発達並びに海上の安全及び治安の確保を図る」ことを任務とすることとなっている。
第2章では、この国土交通省の中で、第1章で述べてきた交通システムがどのように実現されるかという点について述べる。
そのために、まず、国土交通行政の新たな展開に向けた取り組みを紹介する。次に、国土交通省の使命、目標、政策課題及び仕事の進め方について、現在策定作業が進められている「国土交通省のビジョン」の案に沿ってその基本的な考え方を述べる。
交通政策について、一部についてはその実現方策がすでに示されているところである。そのような具体的な方策について、簡単に紹介する。
人々が自由で自発的な活動が行えるように、住空間やレクリエーション空間など多様な生活空間の拡大・充実、安心でにぎわいと潤いのある街づくりを進める必要がある。
また、誰もが利用しやすく快適な交通環境を整備し、また、関連する情報を充実し、人々の日常活動、余暇活動を支える必要がある。
人々の生き生きとした暮らしを実現するためには、我が国が国際的に確固たる地位を占めるとともに、経済社会面で世界の主要プレーヤーであり続けることが重要である。このため、土地の有効利用や都市の再構築、効率的な人・もの・情報の移動などを実現するソフト・ハードの基盤を充実し、また、民間が活動しやすい市場環境を整備することが必要である。
(3) 安全の確保
国民の生命・財産や生活を守り、国民の安心を確保することは、今後とも行政の重要な役目であるため、適切な情報提供、情報共有の下で、多様な民間主体との連携を図る。
また、国民一人一人の主体的な行動を促すことにより、最大限の効果を発揮するという考えに立ち、災害の発生の防止、災害による被害の抑制、交通の安全の確保に努める。
さらに、危機管理体制の確立を図ることにより「安全な日本」を形成し、国民の安心を確保する。
(4) 環境の保全と創造
深刻化する地球環境問題の解決に向けて貢献するとともに、良好な環境を保全・創出するため、資源の消費抑制・循環利用などにより地球環境への負荷をできる限り低減し、大気汚染や騒音などによる生活環境への影響の改善を図る必要がある。
(5) 多様性ある地域の形成
これからの地域は、個性豊かで自立的な発展が求められているため、モビリティーの向上等による地域間の連携・交流の活発化を進め、我が国全体の多様性ある発展をめざす必要がある。
(1) 都市生活を抜本的に改善する都市基盤の整備
○都市新生の拠点となる鉄道駅とその周辺の総合的改善
都市新生の核を形成するため、歩行空間ネットワーク・交通広場・地下空間の整備、まちづくりと連携した駅の総合的な機能改善等を総合的に実施するとともに、周辺での都市開発を誘導していく。
また、利用者の利便性を大幅に高めるため、連続立体交差化や鉄道駅、鉄道・バス等との乗換通路、歩行空間ネットワーク、交通広場、駐車場、駐輪場等を総合的に整備していくこととしており、これらにより、前章第3節1で述べた都市交通の改善が都市政策との連携のもと、効果的かつ効率的になされることが期待される。
(2) IT革命の推進
○ITSの積極的展開など交通・観光分野のIT化の推進
安全性の向上や都市問題、環境問題等の諸課題に対応した質の高い交通システムの実現や、国内外の観光客の利便性向上のため、ETCの整備、ASVとインフラが融合した走行支援システムの実道実験、ナンバープレートの電子化等のITS(高度道路交通システム)の推進、地理情報システム(GIS)の整備・普及の推進や、道路情報、公共交通情報、物流情報、観光情報を統合的に処理しインターネット等を通じて国民に提供するシステムの構築を図っていく。
また、海のITS(高度情報通信技術を活用した海上交通のインテリジェント化)などを推進し、これらにより、前章第3節2で述べたIT革命の推進が強力に行われていくことが期待される。
1−2−3図 海のITS(ITを活用した海上交通のインテリジェント化)全体イメージ図
(3) 循環型社会と美しい日本の形成をめざした環境問題への対応
○公共事業におけるゼロエミッション推進
循環型社会の構築を図るため、国土交通省所管の公共事業において、建設副産物のリサイクルを全省的に強力に推進する必要がある。特に、コンクリート、アスファルト、木材については、5年以内に直轄工事における廃棄物をゼロとすることをめざし、公共団体や民間の建設副産物のリサイクルの推進を先導していく。
このため、リサイクル施設に関する情報提供システムの運用を開始するとともに、建設副産物のリサイクル技術の開発等を推進する必要がある。これらにより、前章第3節3で述べた戦略的な環境問題への取り組みが、交通分野を超えて広く行われていくことが期待される。
(4) 少子高齢社会に対応した安心できる暮らしの実現
○駅とその周辺、公共交通機関等のバリアフリー化
高齢者、身体障害者等が負担の少ない方法で安心して公共交通機関を利用して移動できることをめざし、交通バリアフリー法に基づき、エレベーター等の整備、低床バスの導入、歩道等の拡幅や段差の解消等により連続したバリアフリー空間を整備していく。
また、併せて駅ビル、デパート、病院等のバリアフリー化を促進するとともに、ソフト面の施策として、交通バリアフリーボランティア活動の支援を行っていく。
これらにより、前章第3節4で述べた少子高齢社会に対応した交通システムの構築が、様々な連携のもとに実現していくことが期待される。
(5) 安全の確保
○火山災害対策の推進
火山災害の未然防止や災害時の被害の最小化を図るため、関係行政が連携して、火山の監視や情報の共有化をすすめ、活火山のハザードマップの作成・公表や火山に関する情報を効果的に国民に提供するなど危機管理体制を確立していく。
また、再度災害を防止するため、大規模な火山災害に対する緊急的な砂防施設整備を推進する。これらにより、前章第3節5の安全の確保が総合的に取り組まれることが期待される。
(6) 国内外の多様な連携・交流の推進
○都市と地域、地域間の連携・交流の推進
各地域がその特性を生かして連携・交流しながら発展をめざすため、地域の発案をより重視しつつ、地域づくり活動「出会いの広場」等の情報基盤の整備や、地域で一定期間社会貢献活動を行うNPOへの支援を行うとともに、連携・交流を支える道路等の整備や田園居住などを推進し、ソフト・ハード両面での施策を展開する。
これらにより前章第3節7で述べた国内外の多様な連携・交流が進められることが期待される。