1 各交通機関の事故状況・原因分析
鉄道交通(軌道を含む。以下この章において同じ。)における運転事故は、各種の総合的な安全対策を実施してきた結果、長期にわたって減少傾向にある。平成11年には904件、死傷者689人(うち死亡者338人)となっている。
自動車交通における11年の交通事故(人身事故)発生件数は85万363件で、これによる死者数は、9,006人(事故後24時間以内の死者数)、負傷者数は105万397人であった。交通事故による死者数は、8年に1万人を下回って以降、4年連続大きく減少したものの依然として多数に上っており、発生件数は過去最悪の記録を更新し、負傷者数も初めて100万人を超え、2年連続で過去最悪を更新した。
海上交通における11年の要救助船舶は、1,920隻、65万5,084総トンであった。このうち要救助船舶の乗船者のうち、死亡・行方不明者の数は、146人と第1次交通安全基本計画期間(昭和46年から50年まで)よりも着実に減少している。
航空交通における我が国の民間航空機の事故発生件数は、航空輸送が急速に拡大したにもかかわらず、ここ数年多少の変動はあるものの、ほぼ横ばい傾向を示しており、平成11年の事故件数は28件であった。
2−1−3図 鉄軌道運転事故の件数と死傷者数の推移 2−1−4図 道路交通事故による死傷者数、交通事故発生件数及び死者数の推移 2−1−5図 要救助船舶隻数及び死亡・行方不明者数の推移 2−1−6表 航空事故発生件数及び死傷者数の推移(民間航空機) 2−1−7表 我が国の定期航空運送事業者が行う事業に係る事故件数及び死亡旅客数 |
各交通機関別の交通事故を原因別にみると、以下のとおりである。
2−1−8図 事故原因別の交通事故状況 2−1−9図 自動車交通における第1当事者の法令違反別死亡事故発生件数(平成11年) 2−1−10図 プレジャーボート等の船型別・海難原因別発生状況(平成11年) |
(3) 事故原因分析
交通の各分野では、それぞれの運行(航)形態により事故の態様も異なるが、(2)の結果等から推測すると、事故の要因として運行(航)管理制度、受委託制度を要素とする「組織管理」、組織的なチェック体制、初動連絡・復旧体制、保守管理体制を要素とする「検査・点検」、個人レベルの技能、切迫時の危険回避を要素とする「従事者の教育・訓練」といった三つの共通的課題が考えられる。
(ア) 「組織管理」の欠落による事故
(a) 未熟な運行(航)管理者、運行(航)管理者の不十分な指導・監督によるもの
(b) 受委託事業者間の不明確な安全管理体制の相互管理によるもの
(c)関係法令違反(所要手続の不履行等)によるもの
(イ) 「検査・点検」の欠落による事故
以上の「組織管理」「検査・点検」「従事者の教育訓練」の視点で分析した結果、最大の課題は輸送に携わる当事者の「安全意識・危機意識の低下・欠如」である。
|
3 安全確保のための戦略方針
(1) 「安全最優先」主義の実践
運輸省・交通事業者が一丸となり、交通に携わる者全てが、日常より「安全を自ら考え、主体的に判断し、それを実行する」行動に取り組む。
(2) 「個人」「組織」「交通システム」の多重的な防護の推進
交通従事者一人一人の技能向上、運行(航)管理等組織体制の充実及び交通システムの高度化を進め、事故発生を多重的に防護する。
(3) 安全対策の好循環化
事故原因の分析、安全対策へのフィードバック、対策の効果評価及びなお残る事故の原因分析、と流れる一連の安全対策サイクルの循環をより円滑に、より効果的になるよう、事故・インシデント情報、安全情報を積極的に利用するなど取り組みに重点を置く。
(4) 事故の被害・影響の拡大を防ぐための応急体制の強化
事故発生後の被害・影響の拡大を阻止する観点から、運輸省及び交通事業者において緊急時の迅速な初動体制の確立等の「応急体制の強化」を図る。
(1) 安全意識の再認識・再徹底
近年、安全に対する意識、責任感の低下・欠如が懸念され、交通従事者、交通事業者はもちろんのこと、指導監督する行政側、さらには交通機関を利用する利用者の意識高揚も必要である。
(2) 事故情報の収集・分析による知見の集積と安全対策へのフィードバック
重大な事故を未然に防止するためには、事故・インシデント(事故には至らなかったが、運行(航)の安全に影響するおそれの大きい事態を指す)を分析し、予兆段階で手を打つことが効果的である。
そのため、調査分析のための体制の整備・充実を図るとともに、事故やインシデントの直接的原因のみではなく、その背景(人的情報、輸送機器情報、運行(航)管理情報等)に踏み込んだ分析を行い、抜本的解決策を確立する必要がある。
(3)安全に係る情報公開の推進
安全に係る情報(事業者の安全の取り組み、事故インシデントの原因とその未然防止に関する情報等)について利用者、事業者、メーカー、一般国民等それぞれの情報の受け手に応じ、適時適切な提供を図る。
(4)施策目的の明確化と効果評価によるサイクルシステムの構築
安全に関する一定の水準については、行政が安全規制・安全基準を通じて達成を図っているが、安全対策の実効性をあげる上で、各当事者が施策の効果を常に把握し、必要に応じ見直し、施策の重点化を図ることが重要である。そのためには、各施策について、明確な目的を設定するとともに、達成状況の把握など、その効果評価を行う必要がある。
この認識の下、全国的統一的な目的と評価については、各事業者が各々取り組むことを基本とし、安全確保のための施策を推進する。
(5)交通システムの高度化による安全性・信頼性の向上
機械故障時や人間が誤操作した時にも、事故が発生しないようにするフェイル・セーフ、人間の誤操作を起こりにくくするフール・プルーフなどの事故防止のためのシステム導入を推進し、交通システム自体の高度化により、安全性・信頼性を向上させる。
(6) 緊急時の初動体制等応急体制の強化
万が一事故が発生した場合、被害・影響を最小限にくい止めるため、応急体制の強化に資する技術開発を推進し、また、発生時に迅速かつ的確な情報の収集・伝達・指示を行う緊急参集体制を確立する。
(1) 指導・監督の徹底と安全規制・基準の適正化
交通事業者内における社内規程の遵守の徹底を図るよう指示する。
具体的には、「運行・検査・点検等に係る社内規程の整備」、「教育・訓練による社内規程の徹底」、「検査体制の確立による社内規程の徹底」、「責任の明確化等による組織体制の確立」の4つに重点を置く。
とりわけ、需給調整規制廃止後の競争環境下においても、安全性の確保が図られるよう、安全規制・安全基準の適正化を進めつつ、今後とも指導を徹底する。さらに、交通利用に対する注意喚起の徹底や安全意識の高揚に取り組むこととする。
(2)事故・インシデント情報の収集・分析・活用
事故未然防止及び事故発生時の被害軽減の観点から、事故・インシデントの科学的な原因究明を行い、迅速に情報公開するとともに、安全対策へフィードバックする。
そのための体制としては、現在、鉄道については鉄道事故調査検討会が、自動車交通については(財)交通事故総合分析センターが、海上交通については海難審判庁が、航空については航空事故調査委員会が、それぞれ情報の収集・分析を行っているところである。
効果的かつ効率的な安全対策の実施には、これら機関の情報収集・分析体制の充実を図ることが必要不可欠であり、必要に応じ、機関のあり方の見直しを行うことも必要である。
事故・インシデントの迅速な情報公開及び適時適切な安全情報の提供を推進し、事業者、利用者を含めた交通・運輸関係者全員の安全意識の高揚を図る。
(4) 交通システムの高度化
交通システムの高度化及びフェイル・セーフ、フール・プルーフの導入など、高い安全性を提供する交通システムの開発・実用化を推進する。
(5) 事故災害応急体制の強化
事故災害による被害・影響を最小限にくい止めるため、初動体制の確立に重点を置き、以下の体制をさらに充実する。
・乗客、周辺住民、マスコミ等への迅速かつ正確な情報の提供
・情報収集・伝達指示系統の確立(交通事業者、地方支分部局、運輸省内内部部局)
・緊急時の応急対策の確立
・関係機関との連携の強化
・技術開発の推進
コラム 鉄道事故と調査・分析体制の強化・充実 | |
鉄道は、地球環境問題や高齢化社会への対応等の観点から、これまで以上に重要な役割を果たすことが期待されている。また、近年、複数の鉄道事業者が錯綜する路線の増加等による鉄道事業者間の関係の複雑化や、安全関係業務のアウトソーシング化が進んでおり、安全性の確保に対する要請はかつてないほどに高まっている。 鉄道事故調査体制については、平成10年11月に、運輸大臣の諮問機関である運輸技術審議会の答申を受け、特大事故等が発生した場合には、学識経験者・専門家で構成される「事故調査検討会」を直ちに立ち上げる体制を整備した。 こうした動きの中、12年3月8日、営団日比谷線中目黒駅構内において、死者5名、負傷者63名を出す脱線・衝突事故が発生し、これは我が国の鉄道において、7年9ヶ月ぶりに乗客に死者を生じる事故となった。「事故調査検討会」は発足後、初めての活動として、即日直ちに調査を開始し、4日間におよぶ深夜の現地走行試験等を経て、その原因究明作業を精力的に進め、その結果、12年6月に中間報告がなされ、更に分析、検討を重ね、12年10月に最終報告がなされた。 このように、同検討会は所要の成果を上げているところであるが、今後の鉄道事故調査をさらに確固たるものとするため、12年7月に、同検討会から、事故調査体制を整備することを求める「鉄道事故調査に関する意見」が出され、さらにこれを受けて、12年8月には、運輸技術審議会から、「鉄道事故調査に関する提言」が出されたところである。 都市交通や幹線交通において主要な役割の一部を担っている鉄道は、我が国の経済社会と国民の生活を支える上で必要不可欠な存在となっており、このような大規模な事故は絶対に避けなければならない。鉄道輸送の安全性の確保を戦略的に行っていくには、事故の徹底的な調査・分析とその結果の活用を現場に活かしていくことが不可欠であり、また、海上輸送や航空輸送においては、すでに体制整備がなされていることも踏まえ、鉄道輸送についても、事故調査・分析体制の強化・充実が必要となっている。 |
コラム 自動車の安全性評価について |
自動車アセスメント事業は、ユーザーが安全なくるま選びをしやすい環境の中より安全な自動車を選択することによって、自動車メーカーのより安全な自動車の開発を促し安全な自動車の普及を促進することを目的としている。自動車アセスメントは、平成7年度から試験結果を公表しており、11年度までに67車種の安全性能を評価し、AAA等を用いて公表した。12年度は、従来から実施している高速ブレーキ試験、フルラップ前面衝突試験、側面衝突試験に加えて、新たにオフセット前面衝突試験を追加することとし、さらに3つの衝突試験の結果による総合評価を実施する予定である。 |