第4節 犯罪等に対する取り組み

1 海賊・不審船対応

(1)海賊対応

 近年、海賊及び船舶に対する武装強盗事件は世界的に増加の一途をたどっており、その手口も凶悪化している。この傾向は東南アジア地域においても顕著であり、日本船舶や日本船社運航外国籍船の被害も増加している。
 このような中、平成11年10月には日本人船員2名を含む17名が乗り組む「アロンドラ・レインボウ号」が、インドネシアのクアラタンジュン港を出港直後に武装した強盗に奪取され、行方不明となる事件が発生した。運輸省は、直ちに周辺国に対し外交ルートを通じて捜索要請を行い、海上保安庁は、インドネシアをはじめとする沿岸国の救助調整本部等と連絡をとり情報収集等に努めるとともに、航空機及び巡視船を東南アジア方面に派遣し、沿岸国と連携をとりつつ同船及び乗組員の捜索を行った。
 こうした東南アジア海域における海賊及び船舶に対する武装強盗事件の急増・凶悪化に対し、運輸省及び海上保安庁は、外務省とともに、11年11月にマニラにおいて開催されたASEAN+1首脳会議における小渕総理大臣(当時)の提唱に基づき、12年4月27日から29日の3日間、東京において東南アジア付近海域における海賊等事案の防止及び同事案発生時における関係国間の連携・協力体制の構築に資するため、「海賊対策国際会議」を開催した。この会議には、アジアの17の国及び地域の海事政策当局、海上警備機関、関係団体及び国際海事機関が参加した。
 一連の会議の結果、海賊及び船舶に対する武装強盗対策のため、互い
に協力しつつ、可能な限りあらゆる対策を講じていくとの海事政策当局等の固い決意が「東京アピール」として表明された。また、海事政策当局及び船会社や船員等民間の海事関係者がそれぞれ取り組むべき具体的な行動指針を記した「海賊対策モデルアクションプラン」と、今後の海上警備機関による本件問題への取り組みの強化及び国際的な連携・協力の推進のための指針となる「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択された。これらの成果を受け、海事政策当局及び海上警備機関双方が連携・協力して海賊及び武装強盗対策に取り組んで行くことを再認識して、本会議を閉会した。

(2)不審船対応

 日本周辺海域には、日本漁船に偽装し、あるいは夜陰に乗じて不審な行動をとる国籍不明の高速船が出没しており、中には巡視船艇・航空機を出動させて長時間にわたり追跡した事例もあった。

2 ハイジャック対応

 運輸省は、ハイジャック事件や航空機爆破等の不法妨害行為を防止するため、防止対策の検討及び航空運送事業者等に対する指導等を行っているが、特に、11年7月23日に発生した全日空61便ハイジャック事件を踏まえ、事件の再発等を防止するため、航空保安措置の一層の見直し・強化策を実施している。
 具体的には、地上における対策として、保安体制に関する外部からの投書等があった場合の対応マニュアルの策定、保安検査場における金属探知器等の更新、国内線受託手荷物検査の強化等を航空会社等に指示し、その実施を図っている。
 また、空港ビルにおける構造面での保安強化の在り方について、(社)全国空港ビル協会に関係者による検討委員会を設け、基本指針をとりまとめさせた。
 さらに、機内における保安対策については、有識者による「航空機内における保安対談懇談会」において改善すべき事項がとりまとめられた。

3 バスジャック対応

 運輸省は、12年5月3日に発生した西日本鉄道(株)の高速バス(佐賀発・福岡行)バスジャック事件を踏まえ、(社)日本バス協会に対し、統一マニュアルの作成及び被害車両からの迅速な連絡通報手段の整備を中心に早急に対応策を検討するよう指示した。同協会は、バスジャック対策検討会議を設置、検討を行い、7月17日にバスジャック対策をまとめた。

 バスジャック対策の要旨(12年7月)
 (1) バスジャック統一対応マニュアルの策定
 (2) 緊急連絡手段の整備
 (3) 地方バス協会及びグループ会社の応援体制の整備
 (4) バスジャック対応訓練の実施

2−1−14表 我が国航空機に係るハイジャック等事件一覧表

発生日・機種 事件の概要 搭乗者
S15.3.31
B−727
よど号事件
 日航351便(東京−福岡)は、7時30分頃名古屋上空で日本刀、鉄パイプ爆弾等を持った赤軍派9人に奪取された。「北朝鮮へ行け。」と要求されたが、燃料がなく福岡空港に着陸し、乗客の一部を降ろした後、ソウル金甫空港に着陸した。残りの乗客、スチュワーデスと引き換えに現地に急派された山村運輸政務次官が搭乗し、犯人の要求どおり北朝鮮に向かい、平壌美林飛行場に着陸した。 乗客 131名
乗員 7名
合計 138名
S45.8.19
B−727
あかしや号事件
 全日空175便(名古屋→札幌)は、16時50分頃名古屋上空でモデルガンを持った男に奪取された。操縦室に侵入し、「浜松に降りろ。ライフル銃とガソリンを用意しろ。」と要求され、航空自衛隊浜松基地に着陸した。犯人逮捕。 乗客 75名
乗員 6名
合計 81名
S46.5.13
YS−11
 全日空801便(東京→仙台)は、7時40分頃東京湾上空でビニール電線を爆弾に擬した男に奪取された。「平壌に行け。」と要求されたが、東京国際空港に緊急着陸した。犯人逮捕。 乗客 49名
乗員 3名
合計 52名
S46.12.19
F−27
 全日空758便(福井→東京)が、14時5分頃東京国際空港に着陸するため高度を下げていたところ、後部トイレに放火した男が、この消火活動のすきに操縦室に入り込み、機長にナイフで切りつけた。犯人は、機長ともみ合ううちに自殺を図るなどしたが、取り押さえられた。犯人は、逮捕後死亡。自殺が目的とみられている。 乗客 14名
乗員 3名
合計 17名
S47.11.6
B−727
 日航351便(東京→福岡)は、8時5分頃名古屋上空でけん銃及び手製爆弾を持った男に奪取された。「キューバへ政治亡命する。政治資金として200万ドル要求する。」と脅迫され、東京国際空港に着陸した。犯人は、代替機のDC−8に乗り換えた直後に逮捕された 乗客 121名
乗員 6名
合計 127名
S48.7.10  犯人は、東京エアーランズ株式会社のヘリコプターをチャーターしたうえ、操縦士に暴行脅迫を加えて運航を支配し、同日前橋市で開催される日教組大会会場周辺に多数の発煙筒やビラを投下するため、東京ヘリポートに発煙筒、ビラ、果物ナイフなどを携行して現れ、ヘリコプターに搭乗しようとしたところを航空機の運航を支配する罪の予備で逮捕された。
※7 S48.7.20
B−747
ドバイ事件
 日航北回り404便(パリ→アムステルダム→アンカレッジ→東京)は、アムステルダムを離陸後の23時55分頃、けん銃、鉄パイプ爆弾で武装し、操縦室に乱入した日本赤軍(1人)とパレスチナ・ゲリラ(1人)に奪取された。イタリア、ギリシア、レバノン、シリアの上空を経て、アラブ首長国連邦のドバイ空港に着陸した。21日から24日まで滞港、佐藤運輸政務次官らの説得に応ぜず、同空港を離陸、ダマスカス空港で燃料を補給した後、リビアのベンカジ空港に着陸。乗員・乗客全員が機外へ脱出した後、犯人の手で同機は爆破。犯人(1名は機中で爆死)はリビア政府に逮捕された。 乗客 123名
乗員 22名
合計 145名
S49.3.12
B−747−SR
 日航903便(東京→那覇)は、13時20分頃沖永良部上空で、鞄の中身を爆弾に擬した少年に奪取された。「那覇空港で給油のうえ東京へ引き返せ。」と要求され、那覇空港に着陸した。さらに金銭、ロープ、パラシュート等を要求。婦女子・病人等を釈放した後、犯人逮捕。 乗客 409名
乗員 17名
合計 426名
S49.7.15
DC−8
 日航124便(大阪→東京)は、20時30分頃知多半島河和上空で登山ナイフを持った男に奪取された。「元赤軍派議長を釈放し、北朝鮮へ行け。」と要求され、東京国際空港に着陸した。その後、同空港を離陸し燃料補給のため名古屋空港に着陸した。スチュワーデスの機転により乗客が後部脱出口より脱出した後、犯人逮捕。思想的背景なし。 乗客 76名
乗員 8名
合計 84名
10 S49.11.23
B−727
 全日空72便(札幌→東京)は、21時45分頃大子上空で、操縦室のドアを開け、模擬ダイナマイトを持った少年に奪取されかかったが、乗員が取り押さえた。 乗客 21名
乗員 7名
合計 28名
11 S50.4.9
B−747−SR
 日航514便(札幌→東京)が、16時57分頃東京国際空港滑走路を着陸のため走行中、乗員がけん銃を持った男に脅された。滑走路南端で乗客全員が無事降機した後、犯人逮捕。逮捕の際、けん銃発射。 乗客 200名
乗員 15名
合計 215名
12 S50.7.28
L−1011
 全日空63便(東京→札幌)は、15時45分頃松島上空で凶器を所持しているがごとく装った少年に奪取され、東京国際空港に緊急着陸した。犯人逮捕。 乗客 275名
乗員 11名
合計 286名
※13 S51.4.5
DC−8
 日航768便(バンコク→マニラ→大阪→東京)は、マニラ空港寄港中、けん銃を持って同機に侵入した男(2人)に奪取された。乗客は半分程搭乗しており、「東京行き」を要求されたが、説得の結果、降機、逮捕された。航空機を利用した特殊人質事件とされている。 乗客 211名
乗員 12名
合計 223名
※14 S52.3.17
B−727
 全日空724便(札幌→仙台)は、13時05分頃函館上空付近で、ナイフを持った男に奪取されようとしたが、乗客に取り押さえられた。函館空港に緊急着陸。 乗客 36名
乗員 7名
合計 43名
15 S52.3.17
B−727
 全日空817便(東京→仙台)は、18時34分頃東京国際空港上空で模造けん銃を持った男に奪取され、東京国際空港に緊急着陸した。犯人は「東京−仙台間を燃料がある限り飛べ。」と要求。その後機内で服毒自殺を図り、逮捕後死亡。 乗客 173名
乗員 7名
合計 180名
※16 S52.9.28
DC−8
ダッカ事件
 日航南回り472便(パリ→カラチ→ボンベイ→バンコク→東京)は、ボンベイを離陸後の10時45分頃、けん銃及び手りゅう弾で武装した日本赤軍(5人)に奪取され、バングラディシュ人民共和国ダッカ空港に着陸した。犯人は「日本に拘禁中の奥平純三ら9人の釈放と現金600万ドル」を要求。政府は、石井運輸政務次官らを急派するとともに、奥平ら6人と600万ドルをダッカに移送し、人質の乗客大半と交換。犯人は、ダッカを離陸し、クウェート、シリアを経て、アルジェリア民主人民共和国ダル・エル・ベイダ空港に着陸。アルジェリア政府に投降。 乗客 142名
乗員 14名
合計 156名
17 S54.11.23
DC−10
 日航112便(大阪→東京)は、12時25分頃浜松市上空で栓抜き(航空機ギャレイにあったもの)を持った男に奪取され、「ロシアへ行け。」などと要求され、新東京国際空港に緊急着陸した。給油中、機長らに取り押さえられた。 乗客 345名
乗員 11名
合計 356名
18 H7.6.21
B−747SR
 全日空857便(東京→函館)は、山形市付近上空を飛行中、アイスピック状のドライバー、サリンに見せかけた液体入りの袋及びプラスティック爆弾に見せかけた粘土を持った男に奪取された。
 犯人は、函館空港に着陸後に燃料を補給して東京へ戻るよう要求したが、着陸から15時間後、警官隊が機内に突入して犯人を逮捕した。
乗客 350名
乗員 15名
合計 365名
19 H9.1.20
B−777
 全日空217便(大阪→福岡)は、宇部市付近上空を飛行中、包丁を持った男に奪取された。犯人は外国へ行くことを示唆したが、福岡空港に着陸後、乗客を降機させる際、それに紛れて降機したところを逮捕された。 乗客 182名
乗員 10名
合計 192名
20 H11.7.23
B−747−400
 全日空61便(東京→新千歳)が離陸直後にナイフを持った男に奪取された。犯人は、機長に対し操縦を代わるよう要求したが、受け入れられなかったため刺殺した。その後、副操縦士等に逮捕され、東京国際空港に着陸後、警察に引き渡された。 乗客 503名
乗員 14名
合計 517名
注(1)乗客のうちには幼児も含めている。
  (2) ※印は、国外で発生した事件である。
  (3) 4、6及び13の事件は、航空機の奪取等の処罰に関する法律の「航空機の奪取等(予備罪は除く。)」には該当しなかったものである。

第5節 高度情報化社会における安全対策

1 コンピュータ西暦2000年問題への対応

 コンピュータ西暦2000年問題については、平成10年9月の高度情報通信社会推進本部における「コンピュータ西暦2000年問題に関する行動計画」の策定を契機に官民の対応が一層加速され、所要の対策が精力的に進められてきた。運輸省では、自らが保有する政府系システムについて、西暦2000年に対応しているかどうかを確認し、必要に応じて改修を行ったほか、所管の事業者等に対し、保有するシステムを西暦2000年に対応させ、万一の不具合発生に備え、模擬訓練の実施、危機管理計画の作成等を行うよう指導した。
 このような不断の努力の結果、交通分野においては、西暦2000年問題の最大のクリティカルデイトである12年1月1日を、大きな支障もなく乗り切ることが出来たが、これは官民が一体となって起こりうる不具合に備え、万全の対応をとったためである。第二のクリティカルデイトと考えられた2月29日も、国民生活に重大な影響を与えることなく乗り切ることもできたが、政府が2000年問題を通じて蓄えた経験は、今後の情報化社会における危機管理対策の模範になると考えられる。

2 ハッカー対策、コンピュータシステムのセキュリティ強化対策

 高度情報化社会の進展に伴い、情報化の負の側面である情報キュリティ対策の重要性が増してきているが、こうした状況に鑑み、政府は、12年1月に「ハッカー対策等の基盤整備に係る行動計画」を策定した。しかしながら、同計画の策定直後に運輸省を含む官庁等のホームページが改ざんされる事案が発生したため、政府は、11年2月に高度情報通信社会推進本部の下に「情報セキュリティ対策推進会議」を設置するとともに上記行動計画の前倒し実施を決定した。
 運輸省においては、11年2月に「運輸省情報セキュリティ対策推進委員会」を設置し、ホームページ等のセキュリティ対策を講じてきたところであるが、現在、政府全体の取り組みを踏まえ、「運輸省情報セキュリティポリシー」の策定等、総合的なセキュリティ対策の強化に取り組んでいるところである。

3 交通分野における個人情報保護対策

 近年のパソコンやインターネットの急速な普及等を背景として、コンピュータによる処理に係る個人情報が急激に増加しており、こうした情報に対する適切な保護対策を講じることが重要な課題となっている。
 このため、運輸政策審議会情報部会では、11年6月に、業種毎の個人情報保護ガイドラインの策定やプライバシー・マーク制度の活用についての関係者による自主的な取り組みの促進等を主な内容とするとりまとめを行った。
 運輸省では、本とりまとめのほか、13年早々にも国会に提出予定の個人情報保護基本法制を中心とした我が国の個人情報保護システムの基本的なあり方を踏まえた上で、交通分野における個人情報保護対策に取り組んでいく。