第2節 21世紀の交通社会を支えるIT等の技術開発

1 国土、地域の発展を支える交通の高速化

 国民の時間価値の高まりにつれて、交通機関に対する速達性の要請も高まりつつある。特に鉄道においては、安全面・環境面に留意しつつ、高速化のための技術開発が積極的に推進されてきた。新幹線は最高時速210kmで昭和39年に開業されたが、現在の営業運転最高速度は時速300kmまで向上している。
 また、在来線についても、平成元年3月に常磐線において最高時速130kmでの営業運転を開始して以来、20線区で時速130km化が実現しており、津軽海峡線においては最高時速140km、北越急行ほくほく線においては最高時速150kmの営業運転を行うに至っている。
 さらに、将来の高速鉄道として超電導磁気浮上式鉄道(リニアモーターカー)の実用化が期待されており、研究開発が積極的に進められている。山梨実験線においては9年4月より本格的な走行試験が行われており、12年3月の運輸技術審議会超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会において、「長期耐久性、経済性の一部に引き続き検討する課題はあるものの、実用化に向けた技術上のめどは立ったものと考えられる」との評価を受けた。残された課題を解決するために、12年度以降も概ね5年間、実用化を目指した走行試験を先行区間により継続して行うこととしている。
 交通の結節点の流動円滑化による利便性向上に資する技術開発として、鉄道分野における異なる軌間の線路の走行が可能な軌間可変電車(フリーゲージトレイン)の技術開発が行われている。これが実用化されることにより標準軌である新幹線から狭軌である在来線への直接乗り入れ等が可能となり、移動時間の短縮により乗客の利便性が飛躍的に向上することが期待される。
 6〜8年度は基礎技術開発として軌間可変台車等の重要な開発要素の試作が行われた。9年度から本格的な技術開発を行っており、3両編成の試験用車両の製作、高速耐久走行試験及び軌間変換試験等を米国コロラド州プエブロにおいて行っている。
 海上交通の分野では、元年度から7年度にかけて研究開発された新形式超高速船テクノスーパーライナー(TSL)を実用化するべく、12年度に民間等の出資により新たにTSLを保有・管理する会社を設立することとしており、14年度までに国内航路において、TSL第一船の運航を開始する予定となっている。

2−2−7図 鉄道の高速化の推移
2−2−8図 軌間可変電車(フリーゲージトレイン)のしくみ
2−2−9図 テクノスーパーライナー

2 陸海空におけるITSの推進

(1) ITS

 自動車交通では、エレクトロニクス技術等の新技術の活用により自動車を高知能化し、安全性を格段に高めた「先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)」について、学識経験者、関係省庁、自動車メーカー各社代表等により構成する「ASV推進検討会」を中心に研究開発を行っている。第2期開発推進計画の最終年度である12年10月には、ASV技術を搭載した試作車を製作するとともに、建設省が推進するインフラ側のAHS(Advanced Cruise-Assist Highway System)と共同で走行支援システムの実証実験「スマートクルーズ21」に着手している。
 また、安全性等の向上に大きく寄与するITSの実現に不可欠なスマートカー(知能自動車)について、15年を目途にモデル道路でのスマートウェイ(知能道路)との走行実験に取り組み、21世紀初頭に広く一般に普及させるため、一般の路上における走行試験等を実施し、実用化のための指針・仕様の策定を図ることとしている。

2−2−10図 先進安全自動車(ASV)のイメージ

(2) 海のITS

 「海のITS」は、高度情報通信技術を活用して海上交通をインテリジェント化することにより、船舶航行、港湾業務、海上保安、海事諸手続等について、システム全般の体系的、総合的な改革を図るものである。これにより海上交通の安全性や海上物流の効率性の飛躍的な向上が期待される。
 このため、船舶の知能化、陸上支援体制の高度化、海運情報ネットワークの形成等を推進する必要があり、12年度から、衝突・座礁回避システムや陸海一貫物流情報システム等を構築するための技術開発に着手している。

(3) 空のITS〜次世代航空保安システム

 航空分野においては、運輸多目的衛星(MTSAT)を中核とする次世代航空保安システムの開発が進められている。これにより通信機能や航法機能、監視機能等の面でそれぞれ従来のシステムより格段に優れたものとなり、安全性の向上や航空交通容量の拡大に資するものと期待される。

2−2−11図 次世代航空保安システムのイメージ

3 モバイル交通社会の形成

 近年、パーソナルコンピュータや携帯電話、GPS受信機、カーナビゲーション機器といった個人向けの情報端末は、低価格化や高機能化、インターネットの普及も相まって、爆発的に普及し、その活用形態も多様化してきている。
 移動体通信も含めた大容量・高速通信のインフラ整備は全国各地で進められてきており、道路や公共交通の利用者の多数が、何時でも何処でも、移動中であっても、情報化された交通インフラと直接結びつくことが可能となりつつある。
 そして既に、VICSやGPS対応型携帯通信端末など、通信技術と位置検知技術、GIS(地理情報システム)技術などの組み合わせにより、個人の移動ニーズに対応したきめ細かい情報提供サービスが一部で実現しつつあり、また、高齢者や身体障害者といった移動制約者へのサービスの展開も期待される。
 また、いろいろな分野で急速に普及してきているICカードについても、料金収受の手段として交通分野において応用が進められてきており、道路交通においてはETC、公共交通においてはICカード乗車券システムとして普及しつつある。
 そして今後、これらの情報技術と新たに普及が見込まれるデジタルテレビ等の情報家電が融合し、電子決済や予約、総合的な交通情報提供など、利用者にとってより利便性の高い交通サービスが実現することが期待される。
 これらに関する具体的な取り組みについて以下に説明する。

コラム  GPSシステムを利用した緊急通報支援サービス(あんしんネットワーク)
 高齢化社会への対応の中で、一人暮らしのお年寄りや体の不自由な方が在宅で安心して暮らせる支援サービスとして緊急通報サービスの充実は喫緊の課題であると言われており、中部地方のタクシー事業者では、主にお年寄りや体の不自由な方を対象とした生活支援・福祉型の24時間即応体制の緊急支援サービス事業(あんしんネットワーク)として次の3つのサービスを行っている。
1.ホームセキュリティーサービス(屋内緊急通報支援サービス)
 家庭に設置されたホームユニットの緊急ボタンを押すことにより、通報を受けた指令センターから会員宅に最も近い警備車両(タクシー)が急行するシステム。
2.PHSかけつけサービス(屋外緊急通報サービス)
 緊急通報ボタン付きPHSから緊急通報ボタンが押されると、指令センターにて居場所を確認し会員の元に緊急車両(タクシー)が急行するシステム。
3.シルバー・こどもSOSサービス(徘徊老人位置探索確保サービス)
 徘徊の恐れのある利用者に専用端末機(受信専用PHS)を衣服に備え付けることにより、家族からの依頼があった場合に、指令センターにおいて居場所を確認し警備車両(タクシー)が急行して保護するシステム。

安心サービスイメージ

(1) ICカードの利用

 現在、公共交通の定期券やプリペイド乗車券カード、ストアードフェアカード(SFカード)には磁気式のカードが広く利用されているが、集積回路(Integrated Circuit)を内蔵したICカードは磁気式のカードに比べ、より多くの情報を記憶できる、カード自体で情報処理ができる、高度なセキュリティ機能を有する、という特長を有している。
 したがって、電波で情報のやりとりが出来る非接触式のICカードに定期券やSFカードなどの情報を記憶させることで、鉄道の自動改札機やバスの料金箱のアンテナ部にカードを近づけるだけで瞬時に定期券の確認や運賃の支払いが可能となる。これにより鉄道の改札口やバスの乗降口付近の混雑が解消されるとともに、カードに記憶される様々な情報をもとに、マイレージサービスなど多様な運賃サービス、紛失時のカードの再発行など、高度なサービスの実現が期待される。
 また、カードの共通化を行い一枚のカードを複数の交通機関で利用できるようにすることなどにより、乗り継ぎ時の自動精算が可能となるため、公共交通のバリアフリー化の手段としても有効であるものと考えられる。
 さらに、近年、金融物販等交通以外の分野においてICカードの普及が進んでいることに伴い、今後、カードの多機能化や携帯電話などの活用による他分野と融合、連携した新しいサービスへの展開も期待される。
 運輸省では、8年度から、クレジットカード等の機能の付加も可能な「汎用電子乗車券」の実用化に向けて研究開発を開始した。現在は実導入及び普及の段階にあり、一部のバス事業者において既にICカードを利用した乗車券システムが実用化されており、13年には東日本旅客鉄道株式会社が東京近郊区間において導入することとしている。
 また、自動車交通分野においては、自動料金収受システム(ETC)の開発及び試験運用が行われている。
 「自動料金収受システム(ETC)」とは、有料高速道路の料金所で行われている料金の受渡しを、料金所に設置した道路側アンテナと車両に搭載した車載器の間での無線通信による料金情報のやりとりで行うシステムであり、これにより料金所をノンストップで通過することが可能となる。
 この技術の本格的な導入により、料金所付近の交通渋滞の緩和が図られ、その結果として排出ガスの低減、キャッシュレス化による利便性の向上等の効果が期待される。またこの技術が普及すると、効果的なロードプライシングによる交通流の制御等への応用も考えられ、自家用車と公共交通のバランスのとれた交通の構築にも資することが期待されている。

2−2−12図 ICカード(汎用電子乗車券)

コラム  非接触ICカード運賃支払いシステム運用開始
 平成11年11月30日、道北バス株式会社(本社・北海道旭川市)は、非接触型ICカードシステムを旭川市内と近郊を運行する路線バス135両に導入した。
 このカードシステムは乗降時にバス車内の装置にカードを「かざす」だけで運賃支払いが可能となり、ケースや手帳に入れたままでも利用できるため、乗降がスムーズになった。また、12年4月からは定期券としても利用されており、プリペイド機能と併用することで定期区間外まで乗車しても現金を用意する必要がなくなり、瞬時に精算が可能となっている。さらに、カード残金が少なくなると運賃の再入金(リチャージ)も可能となるため繰り返し利用することができる。
 また、本システムの導入により路線ごとに、バス停・時間帯別の乗客データを容易に得ることができるため、利用者ニーズに即したきめ細かいダイヤ編成が可能となった。
 本システムは、利用者、バス事業者双方に多くのメリットがあり今後の普及が期待される。

非接触ICカード運賃支払いシステム

(2) 交通情報のデジタル化

 これまで、交通分野においては、公共交通機関について利用者への情報提供が必ずしも利用者の要請に的確に対応したものとなっておらず、公共交通の利用を促進し、効率的な輸送体系を実現するためには、最新の情報通信技術を活用して公共交通機関に関する情報提供の充実を図り、より一層利便性を高めることが求められている。
 また、交通事業者が保有するダイヤ、運賃、運行経路、遅延等運行状況といった情報をデジタル化すれば、運行計画の作成、運行管理、監督官庁への申請・報告等手続きといった交通機関の運行に不可欠な業務の効率化、高度化が可能となるとともに、多様なメディアを通して利用者に情報提供を行うことも容易となる。
 運輸省では、12年12月より、北海道札幌市において、通商産業省、北海道開発庁、札幌市との共同プロジェクトとして、公共交通機関に関する情報をインターネット、パーソナルコンピュータや携帯電話等を通じて利用者に総合的に提供するシステムのモデル実験を実施している。
 本実験では、バス、鉄道等各交通事業者が保有する共通のデータ形式に基づく交通データを、GIS技術等を活用してインターネットを通じて利用者に提供している。任意の目的地までの経路、時刻、運賃やバスのリアルタイム運行情報といった、利用者にとって非常に利便性が高い情報の提供を行い、その有用性の検証や普及のための課題等について検討を行うこととしている。

コラム  仙台駅及び仙台空港における観光・交通情報提供システム構築に向けての提言
 東北運輸局では、東北地方のゲートウェイである仙台駅及び仙台空港において来訪者に対するより効果的な観光・交通情報提供システムを構築するための方策について、平成10・11年度にかけて関係者から成る委員会により検討を行い、その結果を提言として取りまとめた。
 主な内容としては、
 ・コンピューター端末の設置による広域観光情報提供システムや鉄道からバスに乗換えるに際しての乗継ぎ情報提供システムの整備
 ・案内表示の高度化(表現言語のマルチ化等)及び駅周辺(ペデストリアンデッキ等)との誘導サインシステムの連続性の確保等が提言されている。
 このような情報提供システムの構築は、交通結節点における乗継ぎ円滑化(シームレス化)に対応するものであるとともに、13年開催予定の宮城国体及び仙台開府400年記念イベント、14年開催予定のFIFAワールドカップに向けた受入れ体制整備の一環としても地域にとって喫緊の課題として位置付けられるものであり、今後、関係者が一体となって具現化を図っていくことが期待されており、東北運輸局において、関係者間の調整等を進めている。

情報提供システム高度化のイメージ

(3) 移動制約者支援モデルシステムの研究開発

 公共交通ターミナルにおいては、従来よりエレベーターの設置等により、高齢者や身体障害者等の移動制約者が利用しやすい施設整備が進められてきたが、移動制約者の積極的な社会参加への要請に対応するためには、よりきめの細かい公共交通サービスを提供していくことが必要である。
 このため運輸省は郵政省と連携し、10年度から簡易無線端末関連技術と位置検知技術などを活用し交通ターミナル内の施設への誘導や列車接近時の自動警報などの情報提供などを行い移動制約者の公共交通利用を支援するモデルシステムの研究開発を開始した。11年度からは東日本旅客鉄道株式会社の高崎駅及び新前橋駅構内において実証実験を行いつつ、現在、実用化に向けた研究開発が進められている
 また、視覚障害者が鉄道駅構内を安全に利用するための地理的情報を提供する「移動制約者向け情報提供システム」の研究開発が行われている。このシステムは、利用者が点字ブロックに埋め込まれた情報を杖を用いて読み出すことにより、必要なときに必要な情報を得られるようにしたり、目的地へ至る最適な経路を求め誘導案内を行うものであり、12年度には実証実験を行うこととしている。

(4) GISの整備

 GIS(Geographic Information Systems:地理情報システム)とは、地理的位置や空間に対応付け可能な自然・経済等のデータを統合的に処理、管理、分析し、その結果を表示するコンピュータシステムの体系である。地図上で情報処理が可能なことから、各種の行政計画や企業の経営戦略の策定等広範な分野で効果が期待されている。
 阪神・淡路大震災等を背景に、社会基盤としてのGIS整備の必要性の議論が高まってきたことを受け、政府においてもGIS関係省庁連絡会議を設置し、そこで策定した長期計画及び整備計画に基づいて国土空間データ基盤の構築を進めている。また、民間事業者と関係省庁の間で官民推進協議会が開催され、官民共同でGISのビジョンやデータ流通について検討がなされている。
 交通分野は地理情報との関連が密接で、都市鉄道等のインフラ整備の計画策定、公共交通サービスの向上、防災や環境保護対策の効果的な実現、観光の振興等GIS整備により大きな恩恵を受けることが考えられる。このため、GISを利用した実証実験等を通じ、GIS整備・普及の促進を図るとともに、政府全体としての取り組みに積極的に寄与していくことにしている。

2−2−13図 移動制約者支援モデルシステムの開発

4 電子商取引社会の形成

 一般国民へのインターネットの急速な普及や、政府による「電子政府プロジェクト」の推進等により、ネット上での商品やサービスの取引、いわゆる「電子商取引」が今後急速に拡大することが予想される。
 これは、遠隔地間の売買が可能となる事により商品・サービスの選択の幅が拡大するとともに、流通の合理化により低価格化をもたらすなど、消費者に多様なメリットをもたらす。しかしその一方、電子商取引社会はバラ色の未来だけを約束するものではなく、いわゆる「中抜き」により、経済構造、産業構造に大規模な変革をもたらし、競争に敗れた企業の市場からの退出を余儀なくする。また、消費者にとっても、ネット上の詐欺、なりすまし、個人情報の漏洩等新たな情報セキュリティーに対応する必要が生じる。
 また、電子商取引社会の形成を促進するために、政府は、12年5月に、電子署名及び認証業務に関する法律を制定し、電磁的記録の真正な成立の推定、特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めた。さらに、電子商取引を阻害する制度を見直すため、民間の商取引において書面交付を義務付けている法令の見直しを実施する等、政府全体として電子商取引の促進のための環境整備を進めている。
 一方、運輸省では、従来からBtoBの電子商取引である「EDI」(電子データ交換:Electronic Data Interchange)」の普及を促進してきた。EDIは異なる企業間で商取引のためのデータを広く合意された規約に基づきコンピュータ間で交換するもので、交通分野では鉄道、航空分野、物流分野、観光分野において様々な取り組みがされている。EDIは事務を効率化してペーパレス取引を実現し、入力ミスなどの人為的ミスの排除、事務処理時間の短縮、事務処理コストの削減等様々なメリットをもたらす。また、EDIは、国内の電子商取引のみならず国際間の貿易手続きの合理化にも非常に有効であり、世界の貿易システムの高度化に対応し、貿易・港湾諸手続きのワンストップ化等EDIの促進による我が国の空港、港湾の国際競争力の向上が期待されている。
 EDIは、従来は汎用電子計算機とVAN回線を用いたシステムが主流であったが、インターネットの急速な普及により、より通信コストが低く機器の価格も安いインターネットEDIが主流になりつつある。また、次世代のインターネット言語として、HTMLに替わりXML(拡張可能なマーク付け言語:Extensible Markup Language)が主流になることが予想されている。

2−2−14図 地理情報システム(GIS)

5 持続可能な交通社会の形成

(1) 環境負荷低減に資するメガフロートの開発

 環境へ負荷の小さい港湾や空港の構築に資する代表的な技術開発の例として、超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究開発が挙げられる。
 7年度から行われている研究の結果、メガフロートは自然の海流に影響を与えることがなく、浮体下の光の遮蔽空間に関しても、魚類、貝類、プランクトン等の生態系に対しほとんど影響を与えないなど、埋立等の従来工法よりも環境への影響が少ない事が実証された。また、必要がなくなれば、メガフロートは浮体であるため、移動・撤去することにより容易に元の自然の海に復元することができる。
 現在、長さ1000m、幅60m(一部121m)のメガフロートを神奈川県横須賀市沖に浮かべ、空港や防災拠点等の具体的利用を想定した研究開発が行われており、航空機を用いた離着陸訓練を行うなど、様々な実証実験が実施され、12年度にはメガフロートに関する技術が確立される予定である。

(2) FRP廃船のリサイクル

 循環型社会の構築のためのリサイクル技術の開発として、繊維強化プラスティック製(FRP)廃船の高度リサイクルシステムの開発が行われている。処理費用が高額で処理事業者も少ないFRP廃船は、数年後には年間1万隻を超えると言われている。このような現状に対応するため、経済新生特別枠ミレニアム・プロジェクトにおける「FRP廃船の高度リサイクルシステムの構築」プロジェクトにおいて、経済性に優れかつ環境に配慮したリサイクル技術およびリユース技術の確立が検討されている。

メガフロートの実証実験
メガフロートの実証実験

2−2−15図 経済的なFRP廃船リサイクルシステムのイメージ

2−2−16図 FRP製プレジャーボート廃船発生量

(3) 大気汚染物質の排出抑制

 環境に悪影響を及ぼす大気汚染物質の排出抑制に資する技術開発としては、陸上交通の分野では燃料電池自動車・ジメチルエーテル自動車等の次世代の低公害車の技術開発が進められている。
 また、海上交通分野では、高速ディーゼルエンジンと比較して窒素酸化物の排出量を1/10に削減でき、同等の燃費を有する環境低負荷型舶用推進プラント「スーパーマリンガスタービン」の開発が9年度から14年度までの6ヶ年計画で行われている。また、13年度からは、スーパーマリンガスタービンの搭載や最適船型の開発等により、環境負荷の低減(NOx1/10、SOx2/5、CO23/4)、貨物倉の拡大(約20%)、静音(騒音 約1/100)、輸送効率の向上(約10%)等を実現する次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発を行う予定である。

2−2−17図 スーパーマリンがスタービン実験機のイメージ

6 電子政府化の推進

 電子政府化の推進は、行政情報の公開を進めて透明性を高め、説明責任を果たして国民に開かれた信頼される行政を実現していくうえで重要な基盤となるほか、情報技術を活用した交通社会の実現、行政手続などの簡素合理化にも大きく資するものである。
 このため、運輸省では、これまでホームページを通じて重要な施策等を国民に公表するとともに、政策の案について、国民の意見を求める場としてもホームページを活用してきている。
 また、行政手続のオンライン化を推進するため、13年度本格稼働を目指して、12年度に、受付けシステムや運輸省認証局の実証実験を行いつつ、15年度までの「運輸省申請・届出等手続の電子化推進アクション・プラン」を策定したところである。さらに、複数の行政機関にまたがる手続のワンストップ化にも積極的に取り組んでいるところであり、例えば、自動車の保有に伴い必要となる各種の行政手続(検査・登録、車庫証明、納税等)について、17年にシステムの稼働開始を目指して、関係省庁等と連携し技術的・制度的な諸課題の検討を進めている。
 行政の内部事務については、12年度に、総合的な文書管理システムを構築し、ペーパーレス化・高度化を図るほか、行政文書ファイル管理システムを整備し、情報公開に迅速・的確に対応することとしている。

第3節 技術開発の支援体制の充実

1 技術開発関連予算

 12年度予算では、「情報通信、科学技術、環境等経済新生特別枠(行政費)」において、我が国経済を新生させるため、ミレニアムプロジェクト(電子政府実現のための行政情報システムの整備、超高速船(TSL)の実用化によるモーダルシフトの推進、高度海洋監視システムの構築(ARGO計画)、FRP廃船の高度リサイクルシステムの構築)の推進を図るとともに、未来の交通を拓く科学技術や研究開発の充実や公共交通による高齢者等の移動円滑化等を推進している。

2−2−18表 平成12年度「情報通信、科学技術、環境等経済新生特別枠(行政費)」

(1)情報通信 (単位:百万円)

事 項

予算額

内     容

1.運輸の高度情報化の推進 1,303 高度道路交通システム(ITS)を活用した道路運送事業の情報化対応実証実験・高知能自動車(スマートカー)の実用化研究、総合交通情報提供システムの構築、次世代観光情報基盤の整備、海上交通のインテリジェント化の推進
2.行政情報システムの整備 809 国民負担の軽減と行政サービス向上を図る電子政府実現のため運輸関係の申請手続等の電子化、国土空間データ基盤となる海域地理情報システム(GIS)の整備を推進

(2)科学技術 (単位:百万円)

事  項

予算額

内     容

1.運輸関係科学研究の推進

260

競争的・重点的な資金の導入により運輸分野における研究の活性化を図る公募型基礎研究及び超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の総合的信頼性評価に関する調査研究等の推進

(3)環境その他 (単位:百万円)

事  項

予算額

内     容

1.モーダルシフトの推進 900 超高速船(TSL)の実用化によるモーダルシフトの推進
2.地球環境問題への対応 505 気候変動研究及び気候予知のため地球規模の高度海洋監視システムの構築(ARGO計画)及びエネルギー消費効率に優れたエコシップの建造を促進
3.リサイクルの推進 195 環境負荷の少ない持続可能な経済社会を実現するため、強化プラスチック船(FRP船)のリサイクルシステム及び自動車部品のリサイクル市場拡大を図るための情報システムの構築を推進
4.海洋環境保全対策 130 油回収資機材の整備等大規模油流出事故に対する効率的な防除システムの構築を推進
5.防災情報システムの整備 165 気象庁の集中豪雨等監視・予測業務の高度化を推進
6.画期的な高速交通機関の開発 1,250 超電導時期浮上方式鉄道(リニア)の技術開発等を推進
7.高齢者等の移動円滑化 625 公共交通による高齢者等の移動円滑化のための乗継情報提供システムの整備、旅客船のパリアフリー化等を推進
合    計 6,142

2 基礎研究の支援施策

 我が国の持続的な発展に向けて研究開発活動を活性化し、独創的・革新的な技術の創出を図るための技術研究開発推進施策として、運輸施設整備事業団による基礎研究支援がある。
 運輸施設整備事業団では、毎年度研究募集分野を設定し、それに関連する研究課題を試験研究機関、大学、民間企業等から幅広く公募し、その中から選考された課題の提案機関と共同研究または委託研究を行っている。

2−2−19図 基礎的研究推進制度のスキーム
2−2−19図 基礎的研究推進制度のスキーム