第5章 活力ある都市を支える都市交通政策の展開

第1節 都市交通の課題とめざすべき方向

 都市交通の分野では、大都市では、通勤・通学時の鉄道の著しい混雑、道路渋滞、交通事故の多発、大気汚染をはじめとする環境問題等の問題が生じており、また、地方都市では、中心市街地の衰退、マイカーの普及に伴う公共交通の利用者の減少により公共交通の維持が困難になっているなどの問題が生じている。
 こうした中で、快適・安全な都市生活の実現、都市機能の向上等を図っていくためには、都市を支える公共交通分野においてこれらの状況変化に適切に対応し、総合的に改善を図っていく必要がある。
 具体的には、誰もが利用しやすい公共交通の実現、鉄道の混雑緩和、公共交通の利用促進等による自家用車に過度に依存しない交通体系の形成等が挙げられるが、これら各分野における最近の新たな展開を述べるとともに、交通結節点整備と街づくりとの連携など、街づくりと都市交通のあり方についても述べる。

第2節 新たに展開する都市交通政策

1 誰もが利用しやすい公共交通機関の実現(バリアフリー化・シームレス化)

 誰もが利用しやすい公共交通機関の実現の観点からは、バリアフリー化、乗継ぎ利便の向上(シームレス化)が必要である。
 バリアフリー化については、第4章において詳述するように、平成12年5月に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」が成立した。
 この法律により、駅とその周辺や公共交通機関についてバリアフリー化の推進を強力に行っていくとともに、一般案内用図記号(ピクトグラム)の充実等ソフト面での対策についても着実に行っていくこととしている。
 誰もが利用しやすい公共交通ネットワークの実現のためには、バリアフリー化のみならず、鉄道の相互直通運転化や同一ホーム・同一方向乗換化など交通結節点において利用者が効率的かつ円滑に移動できるようにする「シームレス化(継ぎ目をなくす)」が必要である。
 このため、12年度から、幹線鉄道活性化事業の中に、新たに「乗継円滑化事業」を創設し、相互直通運転化等の事業に対して運輸施設整備事業団を通じて補助を行っており、12年度は愛知環状鉄道の高蔵寺駅で事業が行われている。
 また、12年3月に施行された「鉄道事業法の一部を改正する法律」により乗継円滑化に関する鉄道事業者間の協議を促進するための制度が設けられている。
 さらに、同じく12年度から「公共交通移動円滑化施設整備費補助制度」が創設され、バリアフリー化された駅又はバリアフリー化される計画のある駅に乗り入れるバス路線に関連して、ノンステップバスの導入、乗継等情報提供システムの整備、異なる交通事業者間における鉄道とバス相互の共通乗車カードシステムの整備等が行われる場合に、これらの事業を支援している。

2−5−1図 シームレス化のイメージ(同一方向・同一ホーム乗換え化)
2−5−2図 愛知環状鉄道 高蔵寺駅

2−5−3表 相互直通運転の例
地下鉄等路線名 事業者名 乗入れ区間 乗入開始年月日
事業者名 区  間
浅草線 東京都交通局 京成電鉄 押上〜東成田 S35.12. 4
京浜急行電鉄 泉岳寺〜三崎口 S43. 6.21
京急蒲田〜羽田空港 H 5. 4. 1
北総開発鉄道 京成高砂〜印西牧の原 H 3. 3.31
京成電鉄 東京都交通局 押上〜西馬込 S35.12. 4
京浜急行電鉄 泉岳寺〜京急川崎 H 3. 3.19
京浜急行電鉄 京急蒲田〜羽田空港 H10.11.18

北総開発鉄道 京成高砂〜印西牧の原 H 3. 3.31
京浜急行電鉄 東京都交通局 泉岳寺〜押上 S43. 6.21

京成電鉄 押上〜成田空港 S45. 5. 3

北総開発鉄道 京成高砂〜印西牧の原 H 7. 7.24
北総開発鉄道 東京都交通局 押上〜西馬込 H 3. 3.31

京成電鉄 京成高砂〜押上 H 3. 3.31

京浜急行電鉄 泉岳寺〜京急川崎 H 3. 3.31

京急川崎〜新逗子 H 5. 4. 1

京急蒲田〜羽田空港 H 6.12.12
日比谷線 交通営団 東武鉄道 北千住〜東武動物公園 S37. 5.31

東京急行電鉄 中目黒〜 菊名 S39. 8.29
東武鉄道 交通営団 北千住〜中目黒 S37. 5.31
東京急行電鉄

中目黒〜北千住 S39. 8.29
東西線 交通営団 JR東日本 中野〜三鷹 S41. 4.28

西船橋〜津田沼 S44. 4. 8

東葉高速鉄道 西船橋〜東葉勝田台 H 8. 4.27
JR東日本 交通営団 中野〜西船橋 S41.10. 1

西船橋〜中野 S44. 4. 8
  東葉高速鉄道 西船橋〜中野 H 8. 4.27
有楽町線 交通営団 東武鉄道 和光市〜川越市 S62. 8.25
西武鉄道 小竹向原〜飯能 S58.10. 1
東武鉄道 交通営団 和光市〜新木場 S62. 8.25
西武鉄道

小竹向原〜新木場 H 6.12. 7
千代田線 交通営団 JR東日本 綾瀬〜取手 S46. 4.20

小田急電鉄 代々木上原〜本厚木 S53. 3.31
JR東日本 交通営団 綾瀬〜代々木上原 S46. 4.20
小田急電鉄

代々木上原〜綾瀬 S53. 3.31
新宿線 東京都交通局 京王電鉄 新宿〜橋本 S55. 3.16
京王電鉄 東京都交通局  〃 〜本八幡 S55. 3.16
半蔵門線 東京急行電鉄 交通営団 渋谷〜水天宮前 S53. 8. 1
交通営団 東京急行電鉄  〃 〜中央林間 S56. 4. 1 

2−5−4図 鉄道事業法における乗継円滑化措置に係るスキーム(法第22条の2関係)

2 鉄道の混雑緩和のための取り組み

(1) 鉄道整備計画による計画的な混雑緩和対策の推進

 東京圏をはじめとする大都市圏における鉄道の通勤・通学の混雑は、近年の輸送力増強等の努力により緩和傾向にあるものの、路線によっては依然として200%を上回る混雑率となっている区間があり、未だ厳しい状況にある。
 これまでに東京圏、大阪圏及び名古屋圏については、運輸政策審議会から鉄道整備のあり方について答申が出されており、これに基づいて計画的かつ着実な鉄道整備が図られている。
 そのうち、最も通勤・通学時の鉄道混雑が著しい東京圏については、12年1月、運輸政策審議会から「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について」答申が出された。
 2015年を目標年次とするこの計画では、通勤・通学時の激しい混雑や通勤・通学の平均所要時間の増加、不便な空港アクセス等の東京圏の都市鉄道が抱える課題について、相互直通運転化、連続立体交差化、輸送力増強等の既設路線の改良や、路線の新設・複々線化、オフピーク通勤対策の推進等の具体的な対応策が提示された。
 その際、鉄道利用者が感じている不快感がそれらの対応策によって改善するかを示すため、現在と将来の主要路線の各駅間の混雑率が「混雑区間の長さ」として示された。
 さらに、12年8月に出された運輸政策審議会答申第19号「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策について」では、大都市鉄道の整備水準として、「大都市圏における都市鉄道のすべての区間のそれぞれの混雑率を150%以内とする。ただし、東京圏については、当面、主要区間の平均混雑率を全体として150%以内とするとともに、すべての区間のそれぞれの混雑率を180%以内とすることをめざす」とされたところであり、利用者の実感によりこたえるため、これまでの平均化された整備水準から、すべての路線がいつでも備えるべき混雑率に着目した整備水準に変更された。
 運輸省では、今後も、これら答申を踏まえ、都市鉄道の整備を進めていくこととしている。

2−5−5図 大都市圏の最混雑区間における平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移

2−5−6表 最混雑区間の混雑率200%以上の路線一覧(平成10年度)
神奈川方面東海道線、京浜東北線、横浜線、南武線
多摩方面中央線快速
埼玉方面埼京線、高崎線
常磐方面常磐線快速・緩行、千代田線
千葉方面総武線緩行、東西線
都心部京浜東北線、山手線

2−5−7表 主な都市鉄道等の整備及び整備予定(平成10〜12年度)
事 業 者
線  区  名
整 備 内 容 開 業 日
北九州高速鉄道 北九州モノレール小倉線
平和通〜小倉
新線建設(延伸) 10年4月1日
スカイレールサービス 広島短距離交通浦野線
みどり口〜みどり中央
新線建設 10年8月28日
大阪高速鉄道 国際文化公園都市モノレール線
万博記念公園〜阪大病院前
新線建設(延伸) 10年10月1日
京浜急行電鉄 空港線
羽田〜羽田空港
新線建設(延伸) 10年11月18日
多摩都市モノレール(株) 多摩都市モノレール線
上北台〜立川北
新線建設(延伸) 10年11月27日
札幌市 東西線
琴似〜宮の沢
新線建設(延伸) 11年2月25日
相模鉄道(株) いずみ野線
いずみ中央〜湘南台
新線建設(延伸) 11年3月10日
千葉都市モノレール(株) 1号線
千葉〜県庁前
新線建設(延伸) 11年3月24日
横浜市 1号線
戸塚〜湘南台
新線建設(延伸) 11年8月29日
東京都交通局
都営12号線
都庁前〜都庁前
(6の字運行)
新線建設(延伸)
12年度内(予定)

コラム 鉄道の混雑に関する指標〜「混雑率」について
 「混雑率」とは、列車の混み具合を示す数値であり、「(輸送人員)÷(輸送力)×100(%)」で算出される。これは都市鉄道の整備水準としても用いられている。
 平成4年に出された運輸政策審議会第13号答申「21世紀に向けての中長期の鉄道整備に関する基本的考え方について」においては、「大都市圏の都市鉄道においては、長期的にはラッシュ時の主要区間の平均混雑率を全体として150%(肩が触れあう程度で新聞が楽に読める)程度にすること。ただし、東京圏の場合には、今後概ね10年程度でラッシュ時の主要区間の平均混雑率を全体として180%(からだは触れ合うが新聞は読める)程度にすること」とされている。
 この場合の「ラッシュ時の主要区間の平均混雑率」とは、ラッシュ時における都市鉄道各路線の混雑率の平均値のことを指している。
 今回の運輸政策審議会第19号答申では、「大都市圏における都市鉄道のすべての区間のそれぞれの混雑率を150%以内(東京圏については、当面、主要区間の平均混雑率を全体として150%以内、すべての区間のそれぞれの混雑率を180%以内)とする」こととされており、これまでのような主要区間の混雑率の平均値の低減ではなく、すべての区間のそれぞれの混雑率の低減をめざすものとなっている。
 これは、これまでの平均化された整備水準から、いつでもどこでも常態的に備えるべき混雑率を整備水準にすることで、利用者の実感によりこたえ、快適な通勤・通学や高齢者等の移動制約者にもやさしい交通を実現しようと考えられたことによるものである。

鉄道混雑率・例

2−5−8図 運輸政策審議会第18号答申 鉄道網図
2−5−9図 平成7年と27年における主要42路線の混雑の状況

(2) 鉄道の混雑緩和のための輸送力増強等

 都市鉄道の整備に対しては、主に、2−5−10表に示すような支援措置がある。また、これらの措置に加え、大量の住宅地の円滑な供給と新たな鉄道の着実な整備を図るため、「大都市地域における宅地開発及び都市整備の一体的推進に関する特別措置法」に基づき、都心と筑波研究学園都市を結ぶ常磐新線の建設が進められている。
 また、複々線化等の大規模な輸送力工事の促進のため、工事費用の一部を運賃に上乗せして、その増収分を工事費に充当するとともに、準備金として非課税で積み立て、供用開始後に利用者に還元することを認める「特定都市鉄道整備促進特別措置法」に基づき、図2−5−11のような工事が実施されている。
 こうした輸送力増強対策と併せて、フレックスタイム制の導入促進等を通じたオフピーク通勤対策を推進している。

2−5−10表 都市鉄道整備に対する主な支援措置
名  称 制度の概要
地下高速鉄道整備事業費補助 公営事業者等が行う地下鉄の新線建設、大規模改良等に要する費用の一部補助。
ニュータウン鉄道等整備事業費補助 公営事業者等が行うニュータウン鉄道の新線建設等及び第三セクターが行う空港アクセス鉄道の新線建設に要する費用の一部を補助。
幹線鉄道等活性化事業費補助(貨物鉄道の旅客線化) 第三セクターが行う貨物鉄道の旅客線化等に要する費用の一部を補助。
譲渡線建設費等利子補給金 日本鉄道建設公団が有償譲渡した大都市圏の民鉄線の建設等に係る借入金について支払利息の一部を補給。
運輸施設整備事業団無利子貸付 都市鉄道の建設に要する費用の一部について無利子貸付。

3 自家用車と公共交通機関のバランスのとれた交通システムの形成

 運輸省では、車両点検、整備講習等の自動車事故防止対策と併せて、バス等の公共交通機関の利用促進、トラック輸送の効率化等の施策を推進し、自家用車と公共交通機関のバランスのとれた都市交通体系を構築することにより、安全に配慮した交通システムの形成を図っていく観点から、10年度より「バス利用促進等総合対策事業」を実施している。
 同事業においては、バスロケーションシステム、ノンステップバス、カードシステム等の導入事業に加えて、パークアンドライド、サイクルアンドライド、トランジットモール、コミュニティバスの導入等ソフト面の対策とハード面の整備とが一体となった交通システムの導入や、これらのシステム等を総合的に組み合わせてバスの社会的意義を最大限に発揮する街づくりを進める「オムニバスタウン」の整備について重点的な支援を行っている。
 また、11年度から、質の高い都市生活を支える良質な公共交通サービスを実現するため、都市交通の利便の増進等に関して市区町村が主体的に行う取り組みに対して、指導・助言、先進事例等に関する情報提供、重点的な支援措置等を講ずる「都市交通総合改善事業」が地方運輸局を中心に行われている。

2−5−11図 特定都市鉄道工事概略図

2−5−12表 バス利用促進等総合対策事業の具体例
目  的 事  業  内  容
運行の効率化
利便性の向上
・情報通信システムを活用したバスロケーションシステム(停留所表示端末、バス車載器、中央処理装置等)の導入
・バスカードシステムの導入
・バス停におけるシェルター、待合所の整備
・ノンステップバスの導入
マイカー等からバスへの転移 ・パークアンドバスライド、サイクルアンドバスライド等を推進するための施設整備
地域住民の多様なニーズに対応 ・中小型バスを用いて中心市街地と周辺住宅地を巡回するといった通勤・通学以外の輸送需要を担うコミュニティバスの導入

コラム 茨城県南部地区(守谷周辺地域)都市交通総合改善事業
 関東運輸局は平成11年度の事業の対象として、人口増加が著しく、首都圏のベッドタウンとして、東京方面への通勤割合が高い特性がある「茨城県南地区」を選定した。
 この地域は、関東地方交通審議会が10年10月に答申した『茨城県における公共交通のめざす方向について』においても「都心部への直行バス路線」の開設がうたわれ、11年2月から高速バス路線の整備が進んでいる。
 こうした高速バス路線への依存率が高まり、より一層の利便向上を求める声が市町村を中心にあがるようになったことから、検討の対象となったものである。
 茨城県・関係4市町村・バス事業者・鉄道事業者・関係行政機関との連携により、その成果として「上野駅のバス降車場の移設」「南守谷〜東京駅直行高速バスの新設」「バス停の移設新設」を実現、所要時間の短縮等といった利便性の向上を果たした。
 12年度も、引き続き本地域で鉄道の需要喚起を含む具体的な施策の検討を進めるとともに、新たに埼玉県川越周辺地域についても、地方公共団体と積極的に連携した施策の検討を行っている。

コラム パークアンドライド用の駅前駐車場料金値下げ(統一化)で鉄道利用を促進
 JR東日本新潟支社は、新幹線・在来特急停車駅におけるパークアンドライド用駅前駐車場利用料金を平成11年12月4日から値下げし、それぞれ統一した。
 同支社管内では、鉄道の利用促進と利用者の利便向上のため、従来よりパークアンドライド施策に取り組んでいるが、今回の試みは、これまで各駅ごとに異なって複雑だった料金体系を統一して料金の実質値下げを図ることで、パークアンドライドの一層の促進を狙ったものである。
 具体的には、これまで新幹線停車駅では、駐車場利用料金に1,000円〜1,600円と幅があり、新幹線の利用状況による細かな区分もあったが、同日より、新幹線利用者は一律1,000円とされた。また、同様に、在来特急停車駅においても、鉄道利用者の駐車場利用料金は一律300円に統一されている。
 このような利用料金の値下げの結果、新幹線停車駅の駐車場の一日平均利用台数は、値下げ前の約19%増となっている。

新潟駅パークアンドライド
新潟駅パークアンドライド

4 交通需要マネジメント(TDM)施策の推進

 渋滞の著しい都市圏で安全かつ円滑な交通を確保し、その快適性・利便性の向上、環境負荷の低減を図るためには、道路整備等の交通容量の拡大施策と併せて、交通需要を調整するTDM施策を効果的に講ずることが必要である。
 このため、交通容量拡大策、TDM施策等について、警察庁・建設省が従来から実施している都市圏交通円滑化総合対策に、公共交通サービス水準向上策等を盛り込むことにより、より総合的な施策の展開を図る。
 さらに、先進性・有効性・展開性を有するTDM施策を導入するため、関係省庁が行う自動車交通の調整策と一体となって、公共交通のサービス水準向上、環境自動車の導入、都市内物流の効率化等を行う実証実験を支援していくこととしている。

5 幹線交通と都市交通の連携

(1) 空港へのアクセスの強化

 空港は都市の周辺部にあることが多いことから、円滑かつ迅速な空港アクセス手段の整備が極めて重要であるが、最近では、都市の中心部から空港への鉄道の直接乗入れが2−5−13表のとおり実現している。
 11年度には空港アクセス鉄道整備への補助制度が創設され、中部国際空港連絡鉄道(中部国際空港〜名鉄常滑駅間4.3km)及び仙台空港鉄道(仙台空港〜JR名取駅間7.2km)の整備が行われている。
 さらに、12年8月に出された運輸政策審議会第19号答申では、初めて空港アクセス鉄道に関する整備水準が策定され、「国際的な空港と都心部との間の所要時間を30分台とする」ことをめざすこととされた。
 こうした空港アクセス鉄道の整備により、輸送力の充実、定時性の確保、所要時間の短縮等の利便性向上が図られているが、羽田、成田等の大都市圏の空港についてみると、空港までのアクセスにかなりの時間を要したり、また、乗換回数が多い地域があり、なお改善すべき点が残っている。そのような地域については、空港アクセスのためのバス路線や乗合タクシーが設定されてきており、空港利用者の利便性の向上に貢献している。

2−5−13表 平成12年1月以降に営業開始された大都市圏拠点空港へのアクセスバス
1.羽田空港
発 着 地 事業者名 系統キロ 所要時分 免許日 運輸開始日
京王多摩センター 東京空港交通
京王バス
往:59.69km
復:61.85km
80分 H12.2.18 H12.3.4
パレスホテル立川 京浜急行電鉄
立川バス
往:57.11km
復:59.61km
70〜110分 H12.6.29 H12.7.13
渋谷(マークシティ) 京浜急行電鉄
東京空港交通
東急バス
往:22.37km
復:25.01km
35分 H12.6.29 H12.7.13
調布駅北口 東京空港交通 往:42.42km
復:44.76km
60〜100分 H12.6.9 H12.7.19
新百合ケ丘駅 京浜急行電鉄
小田急バス
東急バス
往:55.32km
復:56.72km
60分 H12.6.29 H12.7.13
西武バス大宮営業所
(大宮駅)
東京空港交通
京浜急行電鉄
西武バス
国際興業
往:58.31km
復:60.74km
75〜125分 H12.6.22 H12.7.7
西船橋駅 京浜急行電鉄
京成電鉄
往:34.25km
復:34.56km
45分 H12.6.29 H12.7.19
新浦安オリエンタルホテル
浦安ブライトンホテル(東京ディズニーランド)
東京空港交通
東京ベイシティ交通
往:25.05km
復:24.95km
35〜45分 H12.7.19 H12.8.10
2.成田空港
発 着 地 事業者名 系統キロ 所要時分 免許日 運輸開始日
渋谷(マークシティ) 東京空港交通 往:82.63km
復:81.73km
90分 H12.3.24 H12.4.7
町田バスセンター 京成電鉄
神奈川中央交通
往:129.86km
復:129.26km
150分 H12.4.26 H12.6.20
3.関西空港
発 着 地 事業者名 系統キロ 所要時分 免許日 運輸開始日
徳島駅 関西空港交通
南海電気鉄道
徳島バス>
本四海峡バス
往:178.36km
復:176.65km
160分 H12.2.22 H12.3.1

(2) 新幹線駅へのアクセスの強化

 新幹線駅については、ルート選定の制約等により、既存の市街地にある在来線の駅とは別に駅が設置されることがある。このような場合には、両駅間の連携が重要であり、新幹線の経済波及効果が既存の市街地も含めた地域全体の活性化につながるような都市・交通政策の展開が必要である。
 これまでにも、代表的な例として、東海道新幹線新横浜駅と横浜駅、同新大阪駅と梅田駅、山陽新幹線新神戸駅と三宮駅との間については、新駅と市街地の中心駅との間で地下鉄等による接続が図られている。今後も、地域の特性等を考慮して、連絡バス等のアクセス手段の充実が望まれる。
 新幹線と在来線が同一駅にある場合でも、構造上の制約等によりホーム間の距離がある場合には、連絡通路の改善、バリアフリー化対策、乗り継ぎのためのわかりやすい情報提供等をさらに進める必要がある。

6 街づくりと連携した総合的な都市交通政策

(1) 周辺整備と一体となった駅や交通ターミナルの整備

 公共交通機関の利便性、快適性の向上を図るには、鉄道、バス等の各モードで車両、施設、サービス等の改善を図るとともに、これらモードの結節点となる駅や交通ターミナルにおいて、周辺の街づくりと一体となって利用者の円滑な移動を確保することが重要である。具体的には、駅や交通ターミナルの乗り継ぎに極力抵抗がないようなシームレスな構造にするとともに、周辺の都市機能(商業施設、駐車場、駐輪場、駅前広場、ペデストリアンデッキ等)と一体となって駅や交通ターミナルの機能の拡充・向上を図り、都市交通サービスの総合的な改善を推進する必要がある。
 運輸省では、鉄道駅の構造を総合的に改善する事業であって、市街地再開発事業、都市区画整理事業、駅前広場、自由通路の整備等の都市側の事業が周辺で実施される場合について、「鉄道駅総合改善事業費補助制度」により、地方公共団体と共に鉄道駅の利用者利便性の向上、安全性確保等の機能強化を図っている。
 12年度は、名古屋鉄道(株)の尾張瀬戸駅、阪神電気鉄道(株)の岩屋駅及び春日野道駅、山陽電気鉄道(株)の舞子公園駅の4駅で事業が行われている。

2−5−14図 周辺整備と一体となった駅や交通ターミナルの整備列
2−5−15図 名古屋鉄道瀬戸線 尾張瀬戸駅
2−5−16図 阪神電鉄本線 岩屋駅・春日野道駅
2−5−17図 山陽電鉄 舞子公園駅

(2) 駅や交通ターミナルの生活機能の充実

 駅や交通ターミナルは、多くの公共交通利用者が毎日多数往来する都市の拠点の一つであるが、通勤・通学・日常用務等で利用する住民の立場からすると、交通サービスのみでなく、日常生活をおくる上で必要となる各種のサービスをターミナル1ヶ所で充足できるようになれば、さらに質の高い生活ができるようになる。鉄道駅等の交通ターミナルの利用者としては、これらターミナルに対して郵便局、地域・沿線情報の提供、商業施設、市役所の窓口等様々な機能を求めており、2−5−18表のように、利用者ニーズに対応した施設の整備が行われている。
 これまでは、主に、鉄道等の事業者の収益拡大の観点から、関連事業又は駅空間の高度利用としてこれらターミナルの機能強化がなされてきたところであるが、今後の高齢化社会の急速な展開、核家族化の進行、女性のより一層の社会進出等これらターミナルの利用者の生活・労働環境が変化していくことを考えると、これらの利用者の生活環境の質の向上の観点からも関連事業者等が連携してこれらターミナルの生活機能を充実していくことが重要である。

(3) バスを活用した街づくり

 3において述べたように、バスの利用促進等による自家用車と公共交通機関のバランスのとれた交通体系の確立は、環境、安全に配慮した交通システムの形成に資することから、運輸省としても、地方公共団体と協調して、バス利用促進等総合対策事業により、パークアンドライド等の交通システムの導入、ノンステップバス等の導入、バスロケーションシステムの拡充等に対して支援している。
 また、これらの施策を総合的に推進し、バスの社会的意義を最大限発揮する街づくりを支援するため、運輸省では、警察庁、建設省と連携して「オムニバスタウン構想」を9年度から推進している。
 これまで、オムニバスタウンには浜松市、松江市、金沢市が指定されているが、12年には盛岡市、鎌倉市を新たに指定し、バスの利用促進に向けた様々な取り組みが進められることとなっている。
 さらに、関係省庁による「バス活性化連絡会」、各都道府県毎に設置されている「バス活性化委員会」を通じ、警察、道路管理者、地方公共団体、バス事業者等の関係者と一体となって、オムニバスタウン構想をはじめとするバス利用促進等総合対策事業の推進、バス専用レーンの設置、違法駐車の排除等バスの走行環境の改善に向けた諸施策を推進している。

2−5−18表 利用者が鉄道駅に対し交通機能以外に付加することを望む機能
順位 機  能 ・ 施  設 割合(%)
郵便局 32.7
地域・沿線情報 30.1
デパート、コンビニエンスストア 27.2
市役所の窓口 23.4
レストラン、喫茶店 22.4
ギャラリー、展示室 10.6
図書館 10.1
ホテル  3.1
集会室、会議室  2.0
10 その他(保育所、クリーニング店等)  7.9
注  財団法人東京市町村自治調査会が平成4年に実施した
東京都多摩地域の18歳以上の男女3,500人(うち
回答者1,479人)に対するアンケート調査により作成。

2−5−19表 駅における公共的施設の設置例
施 設 名 当該施設の設置駅
市役所出張所 ・所沢駅(西武新宿・池袋線)
・飯能駅(西武池袋線)
・相模原駅(JR横浜線)
郵便局 ・日吉駅(東急東横線)
・あざみ野駅(東急田園都市線・横浜市交通局)
・入間駅(西武池袋線)
保育施設 ・鷺沼駅(東急田園都市線)
・大和駅(相模本線)
・国分寺駅(JR中央線)
・京王八王子駅(京王本線)
図書館 ・新守谷駅(関東鉄道常総線)
・町田駅(JR町田駅)
・立川駅(JR中央線)
・清瀬駅(西武池袋線)

国分寺駅ビル内の保育施設(J・キッズ・ステーション)
国分寺駅ビル内の保育施設(J・キッズ・ステーション)

(4) 中心市街地の活性化と公共交通

 公共交通の利用者が集まる駅や交通ターミナルは、「街のにぎわい」の中心として、これまで市街地形成の核としての役割を果たしてきた。公共交通への依存度が高い大都市においては、現在でもこうした状況にあるが、地方都市においては、モータリゼーションの進行とともに中心市街地の衰退が見られるようになった。
 これは、マイカーの普及によりマイカー利用を前提としたライフスタイルが定着し、大規模駐車場を備えた都市郊外、幹線道路沿いのショッピングセンター等に人が集まる一方、駐車場の未整備、既存商店街の価格競争への対応の遅れなどによりその魅力が薄れ、中心市街地への人出が減少したことによるものである。
 こうした地方都市の置かれた状況を改善し、都市のアイデンティティと魅力を回復し、地域住民の生活環境の向上を図るため、10年に施行された「中心市街地整備改善活性化法」に基づき、前述の各支援施策を活用し、運輸省としても各地方運輸局を通じて様々な支援を行っているところである。

2−5−20図 オムニバスタウンのあらまし

第3節 都市における観光振興

1 都市の観光魅力の増進

 最近、全国各地の都市においては、都市再開発による賑わい空間の創出、地域固有の生活文化を活かした観光地づくり、コンベンションやイベントの誘致等により交流拡大を図り、地域活性化をめざす動きが盛んである。こうした中で、都市交通政策の展開は、域内モビリティの円滑化をもたらし、国内外からの来訪者の移動の利便性・快適性を高めることになり、交流拡大に果たす役割が大きくなっている。
 また、都市の持つ産業、商業、文化、情報発信等の機能は、複合的に結びつくことで観光魅力となる場合が多い。例えば、東京都の臨海副都心、横浜市のみなとみらい21地区、福岡市のキャナルシティ博多等においては、都市再開発により、大規模商業施設、宿泊・会議施設に加えて、劇場、美術館、コンサートホール等の文化施設やアミューズメント施設等が回遊できる空間の中にバランスよく配置されており、いわゆるアーバンリゾートとして人気を集めている。
 また、京都駅、名古屋駅、西鉄福岡駅等では、駅空間の高度利用によりこれら都市再開発事例と同様の様々な複合機能を併設し、新たな観光スポットとなっている。
 さらに、これらの地域では、鉄軌道、道路等の大規模な交通インフラが本来の機能を越えて第1級の観光資源として機能することがある。例えば、東京の臨海副都心を走る「ゆりかもめ」では、休日になると車窓からの風景を楽しむ観光目的の利用者が多く見受けられるほか、首都高速道路のレインボーブリッジ、ベイブリッジ、東京湾横断道路(アクアライン)等は、橋としての機能のみでなく観光資源としても利用者に認識されているところである。
 一方、こうした大都市での観光とは別に、地方都市の中心市街地が持つ生活文化の魅力についても再評価が進み、これを活かした街づくりを行うケースが増えてきている。
 生活文化とは、長い歴史の中でその都市が培ってきたもの全体、例えば、運河、蔵、工場等のハードのほか、祭り、伝統芸能、伝統産業等のソフト面の要素があるが、これら残されてきた資源を現代に活かす知恵と努力によって多数の観光客を集めている都市がある。例えば、小樽市の小樽運河、川越市、高山市等の町並み、柳川市の掘割等がその代表例である。
 こうした生活文化を活かした街づくりは、住民自らが地域固有の良さを発掘又は再認識し、これを守り育てることが必要であり、行政のみならず住民や非政府機関による幅広い取り組みが求められる。加えて、このような地方都市の生活文化の魅力を観光関連産業との連携により全国、海外に向けて情報発信し、PRしていく積極性が重要性を増すと考えられる。

キャナルシティ博多
キャナルシティ博多

2 コンベンション等の誘致による交流拡大

 都市における観光交流の拡大を図る上で、大規模なコンベンションやイベントの誘致は、開催都市の魅力を内外にアピールすることにより知名度の向上につながるとともに、多数の関係者の来訪により地域経済への波及効果も期待できる。また、国際的な行事の場合、受入体制の整備等を通じ、地域全体の国際化にも資する。
 このような観点から、近年、多くの都市において国際会議場やイベント用施設の整備が進んでいるが、我が国での国際コンベンションの開催件数は依然低い水準にとどまっており、国を挙げて国際コンベンションの誘致に取り組んでいるアジア諸国にも遅れをとるおそれがある。このため、運輸省では、「国際会議等の誘致の促進及び開催の円滑化等による国際振興に関する法律」に基づき、国内49都市を「国際会議観光都
市」として認定している。認定した都市に対しては、国際観光振興会が国際会議等の誘致に関する情報の提供、海外への重点的宣伝、誘致活動に対する支援等を実施するとともに、一定の要件を満たす国際会議等については、寄付金の募集、交付金の交付等を行い、国際会議等の主催者に対する支援を行っている。こうした状況の下、中小を含めた国際会議の件数は年々着実に増加しており、10年には2,415件となった。
 また、官民で組織する日本コングレス・コンベンション・ビューローでは、国際観光振興会、全国の国際会議観光都市、コンベンションビューロー及びコンベンション関連事業者が一体となって、コンベンションの誘致支援、人材育成等の事業を推進している。

2−5−21図 コンベンション等の開催効果
2−5−22図 国際会議観光都市一覧(49都市)
2−5−23図 国別・国際会議開催件数の推移

2−5−24表 11年度の主な国際会議一覧表
会 議 名 称 期 日 都 市 参加国数 参 加 者 数
外国人 日本人 合 計
第48回太平洋アジア観光協会年次総会 4/15―4/22 名古屋、福 岡 45 804 801 1,605
第13回世界理学療法連盟総会 5/23―5/28 横 浜 74 637 5,098 5,735
第12回国際応用言語学会世界大会 8/1―8/6 東 京 57 928 1,424 2,352
全国語学教育学会第25回年次国際大会と教材展 10/8―10/11 前 橋 11 41 1,465 1,506
1999世界お茶フォーラム 10/15―10/17 静 岡 35 12,965 13,000
国際電気標準会議 10/18―10/29 京 都 53 1,124 664 1,788
1999年画像処理に関する国際会議 10/25―10/28 神 戸 30 600 400 1,000
第7回消化器関連学会週間 10/28―10/31 広 島 10 100 11,548 11,648
サイエンス・フロンティアつくば’99 11/17―11/19 つくば 24 50 1,147 1,197
注 (1)国際観光振興会資料による。
(2)参加者数が1,000名以上の会議。
(3)参加者数は推計値。