第6章 効率的な交通社会資本整備に向けた取り組み 

第1節 運輸関係公共事業の現状

 21世紀の幕開けを目前に控え、我が国は大きな転換期にあり、経済の成熟化が進む一方で世界に例を見ない少子高齢化の急激な進展、産業構造の著しい変化、環境問題の深刻化等、対応を迫られている課題が山積している。こうした社会情勢の中で、国民生活の質を向上させるとともに、経済社会の諸活動の安定的な発展を支えるためには、社会資本の量的・質的な充実は不可欠であり、その中核となる公共事業が果たす役割は極めて大きい。特に、港湾、空港、鉄道などの運輸関係社会資本は、内外にわたる膨大な旅客と貨物の輸送を支える経済社会の基盤であり、21世紀に向けた国際化の進展、豊かな地域社会の形成など、将来を展望した政策課題に対応するために、今後とも着実な整備を行っていくことが必要である。

1 運輸省関係の公共事業予算

 平成12年度の政府当初予算では、政府全体の公共事業予算総額約9兆3,580億円のうち、運輸省関係は6,868億円であり、その占めるシェアは7.3%となっている。運輸関係公共事業予算の事業別シェアは、経年的に大幅に変動しており、昭和40年に80%のシェアを占めていた港湾関係は12年度においては51%となっている。一方、空港については昭和40年と比較して、ほぼ倍の25%に伸びている。
 また、物流の効率化をはじめとする政策課題に的確に対応するため、大都市圏における拠点空港、中枢・中核国際港湾等への投資の重点化により、公共事業の約6割を三大都市圏に配分するとともに、事業実施箇所数を大幅に絞り込み、効率的・効果的な整備に取り組んでいる。

2−6−1図 公共事業予算の各省シェア
2−6−2図 運輸関係公共事業予算の事業別シェアの推移

2−6−3表 運輸関係公共事業の予算額の推移
単位:億円

10年度
当初予算
11年度
当初予算
12年度当初予算
対前年伸率
港湾 3,375 3,460 3,533 2.12%
空港 1,439 1,588 1,706 7.41%
都市・幹線鉄道 625 673 823 22.37%
海岸 376 376 380 1.09%
新幹線 294 317 352 11.00%
航路標識 72 73 73 0.99%

6,181 6,487 6,868 5.87%

2−6−4表 平成11年度予算に対する12年度予算の伸び率
空 港 大都市圏拠点空港
一般空港等
+20.8%
△ 1.7%
港 湾 中枢港湾
避難港・マリーナ
+ 2.4%
△16.4%
鉄 道 都市・幹線鉄道
新幹線
+22.4%
+11.0%

2−6−5表 港湾の事業実施港数・箇所数の削減
1.地方港湾の事業実施港数の削減
平成8年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度
479 349 319 304
2.重要港湾の事業実施箇所数の削減
平成8年度 平成10年度 平成11年度 平成12年度
1,356 1,070 1,030 約1,000

2 公共投資の経済効果
 公共投資による経済効果として、基盤整備による交通や物流の効率化等により経済効率性を向上させる施設効果と建設工事に伴う波及効果によって有効需要を押し上げる事業効果がある。昨今、景気対策としての公共投資(事業効果)を疑問視する論調も見受けられるが、乗数効果(公共投資が1単位増加したときのGDP増加比率)は2程度が見込まれ、過去の数値と比較しても遜色はない。また、生産誘発効果(最終需要1単位の増加により誘発される各産業の生産増加量を中間投入物も含め合計したもの)についても、公共事業は全産業平均よりも高く、他産業への波及効果は比較的大きい。

3 21世紀の社会資本整備

(1) 21世紀の社会資本整備の方向性

 国内総生産(GDP)に占める政府固定資本形成(Ig)は、欧米諸国の2〜4%に対し、我が国は7%前後と高水準の投資を続けてきた。このことは、我が国が欧米諸国へのキャッチアップを目指して社会資本整備に邁進してきたことを表している。しかしながら、大都市圏における鉄道混雑率、大型コンテナ岸壁の整備状況、空港整備状況等をみると、我が国の社会資本は諸外国に比べて依然として十分とは言えない状況にある。したがって今後は、21世紀に向けて、首都圏の空港容量拡大や次世代コンテナターミナルの整備等による国際競争力強化、環境との調和と安全の確保、交通施設及びその周辺のバリアの解消を図るとともにユニバーサル・デザインの考え方に立ったすべての人にとって使いやすい交通施設への改善など、質的な充実を図っていく必要がある。

2−6−6図 東京圏と世界の大都市圏における鉄道混雑率の比較(%)
2−6−7図 大型コンテナ岸壁の整備状況

(2) 既存施設の有効活用

 これまでの高水準の公共投資によって我が国の交通基盤は大都市圏を除き量的にはほぼ概成しつつあること、国・地方の厳しい財政状況により新規の投資が難しい状況にあること、少子高齢化や経済成長の低下により今後交通需要の大幅な増加が見込めないことなどにより、可能な限り既存施設の有効活用を進め、諸要請に対応していく必要がある。このため、在来線と新幹線の直通運転を可能とするフリーゲージトレインの開発・導入等による幹線鉄道の高速化、船舶の大型化に対応した岸壁の改良、24時間フルオープン化及び情報システムの高度化等による港湾の効率的な利用とサービスの向上、空港の運用時間や空域、飛行経路等の見直しによる航空輸送の利便性の向上や交通容量の拡大など、新たな技術を活用した効果的な追加投資により既存施設の機能の向上を図ることが重要である。

2−6−8図 世界主要都市における空港整備の状況(滑走路数)
2−6−9図 21世紀型交通インフラ整備の展開

第2節 公共事業の改革

 前節で述べたことから、これからの公共事業の実施に際しては、効率的・効果的に実施するとともに、国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たしながら進めていく必要がある。
 このため、これまでの「運輸省公共事業等施行対策本部」、「運輸関係公共事業の投資の重点化、費用対効果分析、建設コストの縮減等に関するプロジェクトチーム」、「運輸関係公共事業再評価検討委員会」を廃し、一層強力かつ円滑に改革を推進することを目的として、事務次官を本部長とする「運輸省公共事業改革等推進本部」を平成11年3月に設置したところである。

2−6−10図 公共事業の効率性・透明性の向上のための省内体制

1 事業評価

(1) 新規採択時評価

 運輸省では、新規に事業を採択する際には、事業の効率性及び実施過程の透明性を向上させるため、費用対効果分析を基本に、地元等との調整状況、地域開発戦略との整合性等を総合的に勘案して事業評価を行っている。
 12年度予算においても、運輸省所管の新規採択事業262事業について評価を行い、結果を公表した(12年7月31日現在)。

2−6−11表 12年度予算に係る新規事業採択時評価の実施事例
(便益・費用の単位:億円)
事業内容 便益B 費用C B/C B-C 主な便益
仙台空港アクセス鉄道
 名取〜仙台空港(7.2km)
 (宮崎県)
1,127 272 4.1 855 移動時間短縮
移動費用節減
環境等改善便益
横浜港本牧地区
 国際海上コンテナターミナル
 岸壁(−15m)
 (神奈川県)
1,358 231 5.9 1,127 輸送費用節減
輸送時間短縮
松山港海岸和気地区
 高潮対策事業
 (愛媛県)
1,173 78 15.0 1,094 高潮防護便益
(資産の防護)
百里飛行場共用化
 2,700m滑走路新設等
 (茨城県)
1,523 317 4.8 1,206 移動時間短縮
移動費用節減
天草平瀬灯標
 (熊本県)
5.35 0.96 5.6 4.39 海難事故減少
運航経費節減

(2) 再評価(いわゆる「時のアセスメント」)

 事業実施段階において、事業採択後5年を経過した時点で未着工の事業や事業採択から10年経過後も依然として継続している事業等を対象として再評価を行い、事業継続の是非を判断している。
 再評価は、採択後の需要動向や建設コスト、技術革新等の経済社会情勢や事業の進捗状況等について検討し、投資効果に大きな影響を及ぼしていないかどうかについて費用対効果分析等により再検証するものである。
 12年度予算においても、再評価の結果に基づき、必要な見直しを行ったほか、継続が適当と認められない場合は中止又は休止している。

2−6−12表 12年度予算に係る運輸省所管事業の評価
12年7月31日現在 

新規採択
事業件数

再評価事業件数

合計 中止 休止 見直し 継続
総  計 262 35 28
公共事業関係費 253 35 28
 鉄 道 111
 港 湾 46 26 19
 海 岸 21
 航 空
 航路標識 72
その他施設費
 本省施設整備費
 観光基盤施設費
 海上保安官署施設費
 船舶建造費
 気象官署施設費

(3)事後評価

 運輸省では、整備した社会資本の効果を検証し、所管事業の効率性・透明性のさらなる向上を図るため、事後評価制度の本格的導入に向け、各事業分野ごとに事後評価を試行的に実施し12年3月にその結果を公表した。また、事後評価の目的や実施手続き、評価の視点等を定めた「事後評価導入に向けた基本的枠組み」を策定している。基本的枠組みでは、事業完了後の効果のフォローアップや事前評価手法の改良と妥当性の向上、政策効果の検証等を目的とし、事業を巡る社会情勢の変化や環境の変化も踏まえて事業完了後一定期間経過した事業を対象に評価を行い、必要に応じ改善措置を検討することとしている。

2−6−13表 12年度予算に係る再評価実施事例

事業内容 理     由
中止 彦根港(滋賀県)
 レクリエーション拠点整備(防波堤)
プレジャーボートの集約を図るため計画したが、大幅なコスト増と近年の経済社会情勢から、事業効果が得られないと判断し、中止
休止 阿村港(熊本県)
 国内物流ターミナル(物揚場(−4m))
石材需要の増加に伴い3バースを計画したが、現在、暫定供用中の1バース及び11年度に完成する1バース計2バースで当面は対応できるため一時的に休止
余市港(北海道)
 地域生活基盤整備(物揚場等)
地元漁業者との調整に一定の期間を必要とするため休止
千葉港(千葉県)
 レクリエーション拠点整備(防波堤)
現時点では施設利用の見通しが不確実であるため、整備効果が十分に認められるまで施設整備を延期
宇久須港(静岡県)
 国内物流ターミナル(岸壁(−5.5m))
港内他地区に重点投資を図る必要が生じたため、一時的に休止

2 公共工事コスト縮減対策

(1) コスト縮減対策の実施状況

 9年4月に公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議における「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を受け、運輸省では「運輸関係公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」を9年4月に策定した。本行動計画に基づき、9年度から11年度の3年間をかけて、公共事業の計画から施工に至る全ての執行プロセスについて総点検し、創意工夫を図ることにより、公共工事執行システムの中で価格に影響を及ぼす様々な要因について改革を進めた。12年9月に行ったコスト縮減フォローアップの結果、11年度の運輸関係公共工事のコスト縮減率は10%となっており、行動計画において掲げた数値目標を達成した。
 コスト縮減効果が得られた主要な施策としては、鉄道分野ではシールドトンネルセグメントの継手構造の改良や新吹付コンクリート工法の採用など、港湾分野では後部パラペット型防波堤の開発やリサイクル材活用モデル工事の実施など、空港分野では設計VEの実施による比較設計の充実や空港舗装へのリサイクル材の積極的活用など、航路標識分野では監視データ伝送における携帯電話回線の活用や灯台外壁タイル張り工法におけるMCR工法の採用などである。

2−6−14表 事後評価の試行結果
分野 事業名 B/C
鉄道 山形新幹線(福島〜山形県) 2.0
港湾 石狩湾新港東地区国内物流ターミナル 2.3
海岸 犬島港海岸犬島東地区高潮対策事業 2.3
空港 新広島空港滑走路(2,500m)新設 2.0
航空路 航空交通流通管理センター(ATFMC) 3.4
航路標識 瀬戸内海海上交通情報機構(大阪湾) 4.4

(2) 建設工事の内外価格差

 「建設工事の内外価格差調査」によれば、土木、建築分野において、5年時点では米国に比べ1.34〜1.35倍であったが、10年では0.97〜1.05倍となっており、我が国のコスト縮減成果が大きく寄与しているものと考えられる。

(3) 新行動計画

 11年度までの公共工事コスト縮減施策により大きな成果が得られたところであるが、厳しい財政事情の下で引き続き社会資本整備を着実に進めていくため、これまで実施してきたコスト縮減対策の定着や新たなコスト縮減対策を実施する必要がある。また、今後は工事コストの低減だけでなく、工事の時間的効率性の向上、工事における品質の向上によるライフサイクルコストの低減等についても取り組む必要があり、今年度以降の取り組みを確実に実施していくため、政府全体の取り組みと連携しながら、新たに20年度を目標年度とした「運輸関係公共工事コスト縮減対策に関する新行動計画」を12年9月に策定した。

2−6−15表 11年度公共工事コスト縮減対策フォローアップ結果
施策分類 目標値 縮減結果
1)工事の計画・設計等の見直し
2)工事発注の効率化等
6%以上  7.8%
3)工事構成要素のコスト縮減
4)工事実施段階での合理化・規制緩和等
4%以上
(努力目標)
 2.2%
合計 10%以上 10.0%

3 投資の重点化・施行対策

 運輸省では港湾、空港、鉄道の各分野において投資の重点化を実施してきたが12年度予算においても、関西国際空港、中部国際空港などの大都市圏拠点空港、中枢・中核国際港湾、整備新幹線について大幅に増額を図っているほか、都市鉄道の整備やバリアフリー化等による通勤・通学混雑の緩和、高齢者等の利便性向上等に重点化を図っている。
 連携事業の実施については、複数の省庁間にまたがる32プロジェクト(運輸省関連14)を11年度までに推進しており、12年度は新たに11プロジェクト(運輸省関連6)を追加した。

2−6−16表 新行動計画の主な施策
具体的措置 「新行動計画」の施策例
1.工事コストの低減
 1)工事の計画・設計等の見直し
 2)工事発注の効率化等
 3)工事構成要素のコスト低減
 4)工事実施段階での合理化・規制改革等

・鉄道、空港等の技術基準の見直し
・技術提案を受け入れる入札制度採用
・海外建設資材の活用
・リサイクル材の積極的活用
2.工事の時間コストの低減
 工事時間の短縮により便益の早期発現や金利負担の低減等時間的コストを低減

・他事業との連携による機能早期発現
・新技術の活用による工期の短縮
3.ライフサイクルコストの低減
 1)施設の耐久性の向上(長寿命化)
 2)施設の省資源、省エネルギー化
 3)環境と調和した施設への転換

・コンクリートの長寿命化
・クリーンエネルギー利用施設の整備
・バリアフリー化した施設の整備
4.工事における社会的コストの低減
 1)工事におけるリサイクルの推進
 2)工事における環境改善
 3)工事中の交通渋滞緩和対策
 4)工事中の安全対策

・他産業で発生したリサイクル材活用
・建設工事におけるCO
排出抑制
・路上工事における交通渋滞対策の検討
・事故情報の分析及び共有化
5.工事の効率性向上による長期的コストの低減
 1)工事におけるリサイクルの推進
 2)工事における環境改善
 3)工事中の交通渋滞緩和対策


・工事へのISO9000sの導入
・工事情報、関係書類の電子化
・民間の新技術の積極的活用及び普及

4 「公共事業抜本見直し」について

 公共事業の是非については、12年6月の総選挙や第147回通常国会で大きな争点となったところである。更に、12年7月には自民党「公共事業抜本見直し検討会」が設置され、8月28日には「公共事業の抜本的見直しに関する三党合意」の中で、見直し基準に該当する運輸省所管公共事業として61事業が示された。
 運輸省では、前述のとおり、費用対効果分析を基本とした事業評価の徹底や港湾の事業実施箇所数の削減等による投資の重点化など、公共事業の効率性・透明性の向上に既に取り組んでいるところであるが、「公共事業の抜本的見直しに関する三党合意」で示された運輸省所管事業についても13年度予算案の編成過程において厳正に事業評価を行い、個々の事業の中止の適否について判断することとしている。

「公共事業の抜本的見直しに関する三党合意」見直し基準該当事業
1.採択後5年以上経過して、未だ着工していない事業25件
2.完成予定を20年以上経過して、完成に至っていない事業該当なし
3.現在、休止(凍結)されている事業36件
4.実施計画調査に着手後10年以上経過して、採択されていない事業該当なし

5 公共事業改革の新たな取り組み

(1) 時間管理概念導入に向けた検討

 社会資本整備においては、関係者間の調整や用地取得の難航等により、当初計画より遅延が生じている場合がある。このような事業の遅延は、本来得られるはずであった社会的便益の喪失や建設コストの増加をもたらす。
 このため、計画から供用までの全ての段階において、事業の遅延による機会損失や時間短縮による社会的便益を勘案した時間管理概念を導入し、適切な予算管理の下で事業を促進することを目指している。

(2) アカウンタビリティ向上に向けた検討

 発注者の説明責任を果たすため、事業実施過程での情報公開を進めるほか、パブリック・インボルブメント(PI)手法を導入して、事業の計画段階から住民の意見を施策に反映させるなど、住民参加の促進について検討を進めている。

(3) 多様な入札制度の導入に向けた検討  価格と価格以外の要素を総合的に評価する総合評価方式の促進や一般競争入札の拡大など、工事の目的に応じて多様な入札・契約方式の適用を図ることにより、工事発注の効率性・透明性の向上に努めている。