第7章 グローバリゼーションと連動する交通政策

第1節 グローバリゼーションの進展と交通政策

 20世紀における国際交流の活発化は、世紀の終焉を前に、従来の国際化という概念では括りきれない状況を現出させた。「グローバリゼーション」と呼ばれるこの状況の中で、地球上の各地における人々の活動は国境を超えて密接に結びつくようになってきている。
 言うまでもなく、このような状況は、国際的な交通の発達なしでは考えられない。従って、地球規模の交通ネットワークの構築・拡充はグローバリゼーションを支える重要な前提の一つであると言える。
 一方、グローバリゼーションの進展は、交通政策に対して以下のような新たな課題を突きつけている。
 まず、企業活動のグローバリゼーションの進展、経済のボーダレス化に伴い、外国企業の我が国における活動、我が国企業の諸外国での活動が増加するにつれ、かつての日米構造問題協議、ガットサービス交渉などに見られるように、企業活動を取り巻く各国の政策さらには民間慣行といったかつては国内的なことがらと考えられていたものまでが政府間交渉の対象となっており、この傾向はますます増大する傾向にある。
 また、交通分野における様々な国際的な調和が図られるなかで、いわゆるグローバルスタンダードの構築に向け、我々はWTOなどの多国間交渉の場や二国間交渉の場において、迅速かつ主体的に取り組まなければならない。
 更に、CO2削減問題に典型的に見られるように、環境、安全性など一国のみでは有効な対応が不可能な地球的問題は今後とも喫緊の課題であることから、実効のある「国際的な枠組み」のなかで、先進国間の政策協調を行いつつ、途上国への支援についても適切かつ主体的に行っていく必要がある。
 以上のように、交通政策はグローバリゼーションを支えると同時に、それに伴う新たな課題への取組みを要求されている。グローバリゼーションの進展と交通政策とは、相互に影響を及ぼしつつ、ダイナミックに連動して新たな時代を拓いていくのである。
第2節 地球規模の交通ネットワークの構築・拡充 


 運輸省は、グローバリゼーションの進展を支えるため、航空輸送、海運を中心とした国際交通ネットワークの構築・拡充に努めている。また、我が国フォワーダーは、世界的な規模で国際複合一貫輸送サービスを提供している。
 国際定期航空輸送は国際的な人的交流及び物的流通を図るために必要不可欠なものであり、我が国においても利用者のニーズに適切に対応した国際航空路線及び輸送力を確保していくことが重要な課題である。このため、新規の航空協定の締結及び既存の航空協定の改正等により、国際航空関係の一層の拡充とともに国際航空市場における輸送力等の公平な拡大による競争促進を図るべく関係国との間で航空交渉を精力的に行っている。平成11年度においては、ロシア、ドイツ、英国等の航空協定締結国16ヶ国との間で輸送力の拡大を図るとともに、新規の航空協定締結作業も積極的に進めたところであり、その結果、12年1月にはイスラエルとの間で新たに航空協定が発効した。12年7月現在、我が国の航空協定締結国数は54ヶ国1地域となっている〔2−7−1図〕。
 また、我が国は経済活動を維持していく上で必要なエネルギー資源や食糧の多くを海外に依存しており、これらの物資輸送の99%(重量ベース)が外航海運によって輸送されているなど、外航海運は国民生活・経済活動を支える上で極めて重要な役割を担っている。我が国の外航海運政策は「海運自由の原則」(注)を基本としており、我が国の外航海運に係る制度は世界的に見ても最も自由化が進んでいると言える。我が国は、国際交易を支える自由で公正な国際海運市場を形成するべく、世界貿易機関(WTO)・経済協力開発機構(OECD)等の国際機関における活動に積極的に貢献するとともに、必要に応じて二国間協議を行っている。
 さらに、経済のグローバリゼーションの進展に伴い、我が国あるいは諸外国の政策が相互に影響を及ぼしあっている中、我が国のフォワーダーは海外に多数進出し、世界的な規模で国際複合一貫輸送サービスを 提供している。しかしながら、諸外国においての外資系企業に対する制限的な規制が、我が国のフォワーダーの自由な事業展開を阻害している場合があることから、日韓、日中間等二国間のフォワーダー協議等によりこうした障壁の低下・除去に努めてきている。また、情報通信技術の飛躍的な発展が企業間取引のみならず、企業と消費者間の取引におけるeコマース(電子商取引)を急激に増大させている。国際間においてもそうした商取引は増大しており、国際宅配便の分野において、そうした商取引に対応した新しい国際宅配便サービスが出てきている。

(注)海運自由の原則 海運事業に対する参入撤退の自由を保障し、貨物の積取りについて政府の介入により自国の商船隊や自国籍船による輸送を優先させたりすることなく、海運企業や船舶の選択を企業間の自由かつ公正な競争に委ねるとの原則。現実には国家安全保障等を口実に政府の介入が行われることも多いことから、これらについても政府の介入を最小限にすることが求められる。

2−7−1図 我が国との間で航空協定を締結している国々(平成12年7月現在)
2−7−1図 我が国との間で航空協定を締結している国々(平成12年7月現在)

第3節 グローバリゼーションの進展に伴う交通政策の展開

1 多国間交渉・フォーラムへの取組み

 グローバリゼーションの進展に伴って生じる様々な交通政策課題に対しては、WTO(世界貿易機関)、APEC(アジア太平洋経済協力)、OECD(経済協力開発機構)等の多国間交渉・フォーラムや、運輸審議官と諸外国の次官クラスによる運輸ハイレベル等の二国間交渉・協力を通じて取り組んでいる。

(1) WTO(世界貿易機関)

 貿易の自由化の促進により世界の多角的貿易体制を発展させるため発足したWTO(世界貿易機関)は、モノの分野の自由化だけでなく、サービス分野をも対象としており、このため、運輸・観光サービスを含むサービス分野の貿易の自由化促進のためのルールがGATS(「サービスの貿易に関する一般協定」)において定められている。このうち、海運分野についてはウルグアイラウンド終結後も継続交渉が行われてきたが、米国の消極的姿勢などにより交渉がまとまらず、8年6月に交渉を中断したことによりGATSの主要な規定の一部の適用が停止され、また、各国から十分な自由化約束がなされていない状況となっている。一方、航空分野については航空機の修理等の一部の付随的な業務を除きGATSの適用除外とされている。
 サービス交渉は本年1月より開始されることがGATSにおいて規定されているが、昨年11月のシアトル第3回閣僚会議までは、広範な交渉分野を対象とするラウンドの一分野として開始することを目指して交渉が進められた。しかしながら、閣僚会議は各加盟国の意見の相違を埋めることができないまま決裂し、その結果現在、サービス分野及び農業分野のみについて、それぞれの協定の根拠条文に基づき、本年から交渉が行われている。
 サービス交渉においては、本年5月に当面の作業内容を規定したロードマップについて合意したことを踏まえ、GATSの規定においてサービス交渉ごとに定めることとされている交渉の指針等に関し、議論が進められているところである。
 サービス交渉における運輸省関連の分野について、まず海運分野は、8年6月に交渉を中断した際にサービスのラウンド交渉に合わせて交渉を再開することが既に決定していることから、今次サービス交渉の一分野となる予定であるが、前回のラウンド以降サービス分野で唯一、最終的な合意に至っていない分野であり、我が国としては、今回の交渉で十分な交渉成果を得られるよう努力を傾注することとしている。
 また、航空分野については、現在、GATSの適用範囲を拡大する可能性に関する検討が行われており、観光分野についても、新たに競争的規律等を策定すべきとの提案が加盟国から出され、検討が行われている。一方、WTOの現行サービス分類とサービス産業の現状が整合性を欠いていると指摘する加盟国もあることから、運輸サービスを含めた現行のサービス分類自体に関する検討も行われている。運輸省としては、我が国の運輸関連事業者が適切な事業活動を行えるよう、サービス交渉に積極的に参画していくこととしている。

(2) APEC

 アジア太平洋地域における経済関係の緊密な協力を図り、地域の一層の発展に資するため、元年1月にオーストラリアのホーク首相の提唱で発足したAPECは、貿易・投資の自由化・円滑化、経済・技術協力を目標に、中国、台湾、シンガポール、オーストラリア、アメリカ等アジア太平洋地域の21の国と地域により構成されている。
 6年11月インドネシアのボゴール宮殿で行われた非公式首脳会合では2010年(先進国)または2020年(途上国)までに、域内で自由で開かれた貿易と投資を行うことを目標としたボゴール宣言が合意され、7年11月の大阪会合ではボゴール宣言のための具体的道筋を示す「大阪行動指針」が策定された。11年9月のオークランド会合では、経済の回復を早めつつ、持続的な成長を維持するため、保護主義に抵抗するとともに、規制改革及び競争の促進を通じた市場の強化が重要との認識で一致し、また、WTO次期ラウンド交渉への支持を表明した。

(ア)運輸ワーキンググループ(運輸WG)の動き

 運輸WGは、APECの運輸分野について議論するための作業部会として第3回APEC閣僚会合(3年)でその設置が決められ、3年10月以降年2回開催されてきており、これまで計18回の会合が行われた。第18回会合は、12年10月に宮崎にて行われ、東京での第3回運輸WG会合以来8年ぶり2回目の我が国での開催となった。同会合には、多くの運輸政策責任者及び専門家が参加し、我が国はホスト国として円滑な進行に努めた。そのほか、我が国はWGの下に置かれている各種専門家・プロジェクト会合のうち、2つの議長を務める等積極的な貢献を行っている。
 8年11月の第10回会合において我が国の提案により設立された港湾専門家会議では、第18回会合に合わせて「APEC港湾地震防災セミナー」を神戸で開催したほか、港湾手続きの電子書類化等につき検討を行っている。
 また、域内の自由で効率的な海運業の発展のための政策論議を行うため我が国の提案により「海運イニシアティヴ」が第10回会合で設置されている。「海運イニシアティヴ」では、海運政策等に関する情報交換等を目的とする「透明性確保プロジェクト」において、各メンバーの海運政策の内容開示とその成果に基づく海運政策分析作業が進められてるほか、WTO海運サービス交渉に対するAPECでの認識を高め当該交渉を成功させるための意見交換が行われている。
 さらに、自動車及び同部品の基準・認証制度の調和の可能性、手法等の調査活動に関する「道路輸送調和プロジェクト」、航空サービスの競争を促進するための政策の検討等にも積極的に対応している。
 アジア太平洋地域の運輸当局間における我が国の発言力強化及び担当者間の良好な関係を維持していくために、これからも運輸WGに貢献し、かつ活用していくことが必要である。

(イ) 観光ワーキンググループの動き

 11年9月にペルーのリマにおいて第15回会合が行われ、さらに12年4月に香港において第16回会合並びにAPEC観光フォーラムが行われた。また、12年7月には韓国のソウルにおいて第1回APEC観光大臣会合が行われ、APEC観光憲章の採択及び本会合の成果をまとめた共同声明の採択がなされた。

(3) OECD(経済協力開発機構)

 OECDは先進国を中心とする加盟国(29ヶ国)間で、経済問題を討議する国際機関である。運輸関連分野では、観光委員会、海運委員会、造船部会があり、それぞれの分野で重要な活動を行っている。

(ア) 海運委員会

 OECD海運委員会においては、先進国間の海運政策についての討議を通じて、「海運自由の原則」に基づく自由で公正な国際海運市場の形成に向けた活動を行っている。我が国は、10年より議長国として積極的に参加・貢献しており、99年10月には日本で海運委員会(東京)及び非加盟国との政策対話のためのワークショップ(神戸)を開催した。
 現在、同海運委員会においては、WTOにおける海運交渉の成功に向けての意見交換、国際基準に適合していない船舶(サブスタンダード船)による海運活動の撲滅のための取組等のほか、旧ソ連・東欧諸国、中国、東南アジア諸国、中南米諸国など非加盟国との政策対話にも積極的に取組んでいる。特に99年10月に、神戸において開催したワークショップでは、アジア、中南米の非加盟国の活力ある経済地域との間で自由な海運政策に関する了解事項を取りまとめた。
 また、本年5月に海運分野における規制改革についての競争政策委員会との合同ワークショップが初めて開催された。

(イ) 造船部会

 単一市場を分け合う世界の造船業の健全な発展に向けて、造船部会では、主に政府助成措置の廃止と加害的廉売行為の防止を主な内容とする協定(いわゆる造船協定)の発効に向けた取り組みや、適正な造船需給バランスに関する共通認識の熟成のための行動を行っている。

(ウ) 観光委員会

 観光委員会では、国際観光の自由化、各国の政府観光局のあり方等、加盟国に共通する政策課題についての討議及び観光産業の経済効果の測定とその国際比較を可能とする観光統計の手法の検討を行っている。

(4) 自動車基準・認証制度の国際化

 世界各国は、自動車の安全確保、公害防止のため、各国の道路交通環境に応じ自動車基準・認証制度を設けており、船舶や民間航空機のような世界共通の基準は現在のところ存在しない。
 しかしながら、自動車及びその部品の国際流通の進展に伴い、国際的な基準の調和が強く求められており、運輸省は、その一層の推進を図るため、自動車の基準調和活動を行う世界的会議体である国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(UN/ECE/WP29)に継続的に出席し、技術的なデータを提供するなど国際調和活動に貢献している。
 さらに、自動車の装置について認定の相互承認制度を導入するため、国連の相互承認協定である「車両等の型式認定相互承認協定(略称)」に10年11月に加入し相互承認を開始した。このことにより、認証手続きの簡素化・効率化及び自動車ユーザーの負担軽減を図ることが可能となった。日本の同協定への加入はECEメンバー国以外で初めての加入であり、運輸省としては、同協定を世界的な協定へと発展させるとともに、世界的な基準調和と認証の相互承認制度の確立に積極的に貢献することとしている。
 また、自動車基準の世界的な調和を図るための枠組みとして同フォーラムで検討されていた「車両等の世界的技術規則協定(略称)」が、10年6月に作成された。日本も11年8月に本協定を受諾し、欧州等に早期締結を働きかけてきたところ、本協定は、12年8月に8ヶ国の締結により発効した。
 運輸省は、本協定発効後米国等を含む世界的な基準調和を一層促進するため、国連において世界統一基準の提案を行うとともに、世界統一基準が策定された場合には、これを道路運送車両の保安基準に速やかに取り入れる等の積極的な対応を行っていくこととしている。

(5) 海上安全対策の推進

(ア) 船舶の安全性の向上

 船舶の安全基準は、海上人命安全条約(SOLAS条約)等に定められているが、技術の進歩、社会状況の変化に対応してIMO(国際海事機関)において、復原性、消防・防火設備、航行設備、満載喫水線等の要件について総合的な見直し作業が行われており、我が国から提案してきた消防・防火設備に関する条約改正案が合意される等これらの審議に積極的に参加している。また、昨年12月にフランスで発生した大規模なタンカー事故を背景にIMOの取り組みにG8が協力していくことが7月の九州・沖縄サミットでも確認され
 たところであり、タンカーによる油濁損害に対する補償制度の充実や船舶の安全性の向上に対するより一層の貢献が求められている。さらに、国際基準に適合していない船舶(サブスタンダード船)の使用を抑止することを目的として、各船舶の安全等の情報を公開するための国際的データベース(EQUASIS)の構築が国際的に開始され、我が国も積極的に参画することとしている。

(イ) PSCにおける連携

 国際条約等の基準への不適合船舶排除を目的に、アジア太平洋地域の外国船舶の寄港国による監督(ポート・ステート・コントロール:PSC)を協力して実施する旨の覚書(東京MOU)が、6年4月から実施され、参加国(12年6月現在19ヶ国)はPSCの強化を図っている。我が国は、域内の検査官の資質の向上やPSCの標準化を図るため、東京MOU事務局と協力し、7年度から5ヶ年計画で域内の初級船舶検査官216名を日本へ招へいし基礎研修を実施した。今後は、基礎研修修了者を対象とした中級研修を加えて、引き続き積極的に国際貢献を進めていくこととしている。

(ウ) クオリティーシッピング・セミナーの開催

 本年3月24、25日にシンガポールに於いて「クオリティーシッピング・セミナー2000」が開催された。同セミナーは、さらなる海上の安全と海洋環境の保全のため、海運関係者を幅広く集め、サブスタンダード船を排除し海運の質の向上を図ることをテーマに開催されたものであり、我が国も運輸審議官が基調講演を行う等そのアジア地域を含めた地球規模の取り組みに貢献している。

(6) 国際科学技術協力

 国際的な科学技術活動については、政府レベルでは「科学技術基本法」及び「科学技術基本計画」でその強化がうたわれる等、重要性を増してきており、運輸省でも所掌する各分野に関する国際科学技術協力活動を積極的に推進している。
 運輸省関係の国際科学技術案件は年々増加し、12年7月現在で17ヶ国(EUを含む)、134テーマに及んでいる。また、科学技術庁の在外研究派遣制度、外国人研究者招へい制度等を活用した研究者の交流を促進するほか、科学技術振興調整費を活用して国際共同研究を実施する等、協力案件の質的な充実を図っている。協力の枠組みとしては、二国間協力(政府間の科学技術協力協定、環境保護協力協定または交換公文による取極を締結して行う協力及び貿易経済協議等に基づいて行う協力)及び多国間協力(国際機関等による協力)がある。
 今後とも、情報交換、専門家交流、共同研究といった種々の形態の協力を実施していくこととしている。

コラム 国際的船舶データベース(EQUASIS)の概要
 国際的船舶データベース(EQUASIS)は、現在、国、船級協会、船会社の団体等が個別に有する様々なデータを、インターネット上で統合・公開し、アクセスを容易にすることにより、船舶に関する情報の透明性を高め、海事関係者が自発的にサブスタンダード船の使用を抑制し、海運における質を高めることをめざすというもので、クオリティー・シッピングの柱の1つ。
 EQUASISは、EC委員会、仏、米、英、スペイン、シンガポール、日本の7ヶ国が基本政策を決定する監督委員会のメンバーとなっており、本年5月から暫定的に稼働を開始した。船名、IMOナンバーなどから簡単にPSC、船級検査などに関するデータを検索できる(www.equasis.org)。
 EQUASISは、今後、幅広く利用されることにより、海上安全・海洋環境の保護に資するものと期待されているが、我が国としても、より良いシステムとなるよう積極的に貢献する方針である。

2 二国間交渉・協力

(1) 運輸ハイレベル協議

 運輸省では、運輸分野における諸課題について、主要国運輸当局との間で運輸審議官と諸外国の次官クラスによる運輸ハイレベル協議を実施している。
 例えば、EUとの間では12年2月に第8回の協議を開催し、運輸分野における環境問題、海上安全政策等について協議を行った。また、米国とはこれまでに4回の協議を開催し、航空、海運政策等双方の重要課題、関心事項等に関して議論を行ってきている。

(2) 日米包括経済協議に基づく協力

 地球的展望に立った協力のための共通課題(コモンアジェンダ)に関しては、運輸分野における包括的な協力関係の構築及び効率的かつ安全な交通体系の整備への貢献を目的として運輸技術協力を実施しておりいるところ、現在までに6回の専門家会合が開催されている。
 前回の会合では、鉄道地震対策や超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)等について、日米双方からの研究発表が行われた他、民間事業者も交えて交通バリアフリー、ITS(高度道路交通システム)等に関するワークショップを開催した。これらの会合を通じて、日米間で有意義な意見交換が行われており、今後も運輸関係の各分野における日米の協力関係を充実、強化する取り組みを行っていく。
 更に、ナホトカ号油流出事故などの経験を踏まえた油流出災害の予防及び防除等の知識、技術の研究、共有等を目的とする、油流出対応作業部会にも協力分野の提案等を通じて積極的に参画している。

第4節 交通分野における国際協力の推進

1 グローバリゼーションと国際協力

 開発途上国の発展には、経済開発の基礎となる物流・人流のための基盤整備をはじめ、計画・政策作りや管理・運営を担う人材の育成が不可欠である。また、観光振興は雇用機会の創出、外貨獲得等に資することから開発途上国の経済発展にとって重要な役割を有している。このため、運輸・観光に関する国際協力のニーズは高く、過去5年間の我が国の有償資金協力全体のうち約2割を占めている。
 我が国は、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、温暖化対策途上国支援を政府開発援助(ODA)を通じて具体化していくための諸施策「京都イニシアティブ」を発表し、実行していくこととしている。近年、自動車の排出ガス等に起因する環境問題は開発途上国においても深刻化しつつあり、エネルギー消費の少ない効率的な輸送体系の構築を支援することは、地球環境保全のために重要である。
 また、10年度の我が国の製造業の海外生産比率(現地法人売上高/国内法人売上高×100)は13.1%であり、10年前の2.5倍強になる(注)等、我が国経済はグローバリゼーションが進展しつつある。このため、国際協力を通じて国際交通路の基盤整備や安全、環境の確保を図ることは、我が国の経済産業の拡大にとっても重要な課題である。
 運輸省では以上の観点を踏まえ、我が国の有する運輸・交通に関する優れた技術、ノウハウを開発途上国に移転することによって、国際的な貢献に努めている。特に、11年11月には、「政府開発援助や円借款全体についての基本的方針はもちろん、政府開発援助に関する政策や、国別援助方針・国別援助計画及び個別の円借款の供与についても、閣議等において決定する前に、十分、関係省庁の意向が反映されるよう、外務省と関係省庁間の協議の場を設けることとする。」旨の閣議了解がなされたところであり、運輸省としても、国際協力の効果的・効率的な推進に向けて、積極的に取り組んでいる。

(注)第29回海外事情活動基本調査(通産省)による。

2 交通分野国際協力の現況と展望

(1) より効果的・効率的な国際協力の推進

 効果的・効率的な国際協力を行うためには、開発途上国のニーズを的確に把握することが不可欠である。このため運輸省では、ハイレベルでの政策対話や実務者協議を行うとともに、現地でのセミナー開催、調査団派遣等により優良な協力案件の発掘・形成等を実施している。11年度においては、運輸審議官による政策対話をルーマニア、タイにおいて実施するとともに、「日本の鉄道改革に関する講演会」を北京において開催した。
 環境面での協力については、アジア4ヶ国計8名の担当官を我が国に招聘し、自動車基準・認証制度に関する研修を実施した他、ヴィエトナムの物流の現状を調査し、効率的な物流体系の構築のための支援の方向性をまとめる等の事業を行った。
 また、我が国にとって重要な国際交通路の安全を確保するために、ロシア、中国から計15名の航空管制官を招へいし、管制技術向上への支援を実施するとともに、アジア8カ国の海上薬物取締現場指揮官を対象に技能向上のための研修及びセミナーを開催する等の事業にも取り組んでいる。
 さらに、環日本海経済圏として交流の拡大が期待されるロシアからは、港湾分野の研修生を受け入れ、市場経済に対応する港湾の計画・運営に関する技術移転を実施した。
 その他、効果的・効率的な国際協力の推進に向けて、分野毎・被援助国毎の運輸分野の援助方針の検討・策定や運輸分野の国際協力プロジェクトの評価を実施した。さらにその成果を活用して、「日本の国際協力による東アジアでの鉄道・港湾整備とその効果」をテーマに国際協力シンポジウムを開催した。

 

運輸審議官(中央)によるタイとの政策対話
運輸審議官(中央)によるタイとの政策対話

(2) 国際協力事業団(JICA)を通じた技術協力

 開発調査(開発途上国と共同して開発計画の策定等を行うもの)については、シリアの全国鉄道開発計画調査等、新たに13件の調査が実施された。また、運輸分野の専門家合計263名を41の国及び国際機関に派遣するとともに、94の国・地域から397名の研修員を受け入れた。
 プロジェクト方式技術協力(専門家派遣、研修員受け入れ、機材等供与を一つのプロジェクトに統合し総合的に実施するもの)では、11年度においては、トルコの海事教育向上計画など合計5件を実施している。

国際協力シンポジウム
国際協力シンポジウム

(3) 資金協力

 有償資金協力では、タイのバンコク地下鉄建設計画等10件について総額1,515億円に及ぶ円借款の交換公文が締結された。無償資金協力では、ネパールのトリブバン国際空港近代化プロジェクトについて13億円の交換公文が締結された。

(4) 今後の国際協力への取り組み

 昨今の財政難の中、ODA予算は厳しい状況にある。また、世論調査(注)によれば、国際協力に関して、国民の7割は支持しているが、近年の我が国の景気の低迷を背景に否定的な国民もわずかながら増える傾向にある。したがって、今後は、厳しい財政状況の中で、国民の理解を得ることができる国際協力の実施が強く求められていると考える。
 我が国は、台風や地震、軟弱な地盤等の厳しい自然条件と過密な人口分布の下で、安全や環境に配慮しつつ運輸関連インフラを整備しており、世界的にも優れた技術とノウハウを有している。今後は、こうした我が国の有する技術・ノウハウを積極的に活用し、我が国の「顔の見える援助」を推進していくことが重要であり、このような観点から、国際協力案件の発掘・形成やその実施を行うことが必要である。なお、我が国の技術やノウハウ、経験の移転に際しては、相手国の社会条件や自然条件、技術水準等の実状を踏まえ、それらに適合するように配慮をしながら協力を推進していくことが肝要である。
 このような考え方も踏まえ、運輸省が取り組んでいる大型プロジェクト等について以下に紹介する。

(注)外交に関する世論調査(総理府)による。

3 交通分野の国際協力プロジェクト

(1) 開発途上国における都市交通問題への協力

 現在、開発途上国の多くの大都市においては、モータリゼーションの進展と人口集中によって、交通渋滞・大気汚染等の都市交通問題が深刻化している。このため、最近では都市交通分野での協力要請が増加しており、11年度においては、多くの開発途上国から計78件の開発調査が要請されている。
 我が国においては、自動車の排出ガス対策の導入・強化を実施するとともに、大量輸送機関として都市鉄道を中核とする公共交通システムを整備することによって、大都市におけるモビリティーの確保と大気汚染の低減を図ってきた。このような我が国の経験や技術を開発途上国に移転することは、開発途上国の発展に貢献するのみならず、地球環境の保全に役立つことから、運輸省として都市交通分野の国際協力に積極的に取り組んでいる。
 11年度には、世界銀行と共同し、都市における公共交通及び自動車の環境・安全対策を主要テーマとして、日本やアジアの諸都市の経験を整理し、開発途上国の今後の都市交通開発において適用し得る教訓を導くための調査に着手した。その他、バングラディシュのダッカ市、タイのコンケーン市を対象として、公共交通や交通公害の実態等を調査し、適切な自動車交通体系の確立のための提案を行った。

(2) 北京−上海高速鉄道

 現在中国においては、北京−上海間1,300kmに高速鉄道を建設するという超大型プロジェクトが計画されている。この北京−上海高速鉄道については、一日数十万人の利用者が想定されており、我が国が世界に誇る新幹線システムをベースとして協力することによって、両国国民にわかりやすい、象徴的なプロジェクトとなるものと考えている。
 このため、我が国としては本プロジェクトを21世紀における日中両国友好のシンボルとして、官民挙げて積極的に協力する考えであり、11年7月には、小渕総理(当時)が朱鎔基総理に対し、また、二階運輸大臣(当時)が、12年1月及び5月に江沢民国家主席等に対して、このような我が国の協力の考え方を表明した。
 運輸省としては、引き続き関係省庁、民間関係者と連携し、本件について積極的に取り組む考えである。