第3章 効率的な物流体系の構築

第1節 総合的な物流施策の推進

1 今後の物流施策のあり方

 我が国は、経済の大幅な成長が望めない中で、グローバルな競争の一層の進展、情報通信技術の飛躍的発展、国民の価値観の多様化、急速な少子高齢化の進行等の経済社会の大きな変革期にあり、物流においても、これらの変革に適切に対処することが必要となってきている。運輸省においては、これらの環境の変化を踏まえ、21世紀初頭における我が国経済社会を支える基盤としての物流システムを構築するための課題を明らかにするとともに、我が国の物流政策の基本的方向を明らかにするため、平成11年5月運輸政策審議会総合部会に物流小委員会を設置した。同小委員会は、これらの課題について検討を行い、12年9月に最終報告を行った。
 この最終報告の概要は以下のとおりである。
(1) 目標

 21世紀初頭における物流ビジョンの展開に当たっては、「効率的で(efficient)環境に優しく(environment-friendly)情報化に対応した(electronic)3e物流」をキーワードに、より効率的で利便性が高く社会的制約と調和した物流の実現を目標とすべきである。

(2)施策の方向

(ア) 我が国の産業の構造改革への対応
 経済のグローバル化、IT革命が進展する中で、我が国の産業競争力を高めるためには物流分野においても、トータルな物流の効率化の視点に立ち、物流システム全体の高度化を図ることが重要である。
 このため、1.物流分野における情報化の促進(物流情報プラットホームの整備、セキュリティー対策等)、2.物流事業者の事業連携促進(事業集約・協業化支援、連携事業者発掘のためのデータ整備)、3.物流事業者による荷主に対する物流改革提案能力の向上(人材育成支援、保険制度の創設等)、4.物流関連公共インフラ整備等における投資の重点化・効率化等による効率的・効果的な物流体系の構築、5.物流コスト算定手法の構築等を図る必要がある。
(イ) 国民生活の変化への対応
 少子高齢化や電子商取引の進展に伴い、1.介護サービスや決済サービスとセットになった物流サービス、2.不在宅の増加等に対応した新たな宅配システム、3.小口貨物の増大が見込まれる中での効率的な小口貨物輸送システム等の新たな物流サービスの提供が必要である。新たな物流システムを充実させるためには,サービス創出に対する支援や利用者保護に関する対応を検討する必要があり、利用者が市場原理に基づく事業者選択を適切に行えるようにするための情報提供システムの整備等の環境整備が重要である。
(ウ) 社会的制約との調和と豊かな社会の実現
 地球温暖化問題に関しては、CO2排出抑制策の強化が必要であり、CO2削減の進行管理及び公表、規制的・経済的措置の導入も考慮に入れるべきである。また、地方公共団体と連携しつつ循環型社会の実現に貢献する新たな物流システムの開発・整備が必要であり、大量輸送機関を活用した静脈物流システムの構築に向け地方自治体を含めた関係者間で早急に検討体制が構築されるべきである。さらに、大都市における公害問題の解消に資する物流システムについても地方公共団体と連携して構築する必要があり、交通需要マネジメント(TDM)や施設整備等に対する支援を組み合わせた共同集配を推進すべきである。
 この最終報告において指摘されているように、我が国の経済社会が大きく変革している中で、物流においても早急に適切な対応が求められている。このためには物流事業者による変革も必要であるが、行政においてもこれを積極的に支援するとともに、効率的な物流の構築に向けた施策を関係省庁や地方公共団体と連携して実施することとしている。
2 総合物流施策大綱に基づく施策の推進

 物流について、コストを含めて国際的に遜色ない水準のサービスの実現を目指し、総合的な取り組みを強化することが経済構造改革に取り組む上で政府としての最重要の課題の一つとなっており、その具体的方策をとりまとめた「総合物流施策大綱」が9年4月に閣議決定された。
 同大綱においては、13年を目標達成期限として、社会資本等の整備、規制緩和の推進及び物流システムの高度化に関する施策を重点的に講じるとともに、関係省庁間の連携体制を整備してこれらの施策の総合的な推進をはかることとし、同大綱に示された施策の実施状況については毎年フォローアップを行うこととされた。
 このフォローアップにより、港湾及び道路の整備を連携して行うことにより、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルへの陸上半日往復圏(トラック輸送で1日2往復が可能となる圏域)の人口カバー率について8年度末の72%から11年度末には79%へと上昇するなど、関係省庁が総合的な物流効率化のための取り組みを着実に行っていることが確認されている。
 しかしながら、物流をめぐる環境は、電子商取引の急激な増大等に見られる情報化の進展、地球規模の環境問題の深刻化、循環型社会の構築への対応等に見られるように、急激に変化している。したがって、同大綱の目標達成期限到来後も引き続き関係省庁や民間事業者との連携を図り、これらの新たな課題に対応していく必要があるため、運輸政策審議会総合部会物流小委員会の最終報告も踏まえて、同大綱の見直し作業を行うこととしている。

第2節 物流サービスの向上、物流システム高度化への取り組み

1 情報化への取り組み

(1) 情報化が我が国の物流に与える影響

 我が国の情報通信技術のここ数年における目覚ましい進歩は、情報通信機器の価格や通信コストの大幅な低下を通じて、企業活動における情報化を促進しており、国民生活や経済活動を支える基盤として重要な役割を果たしている物流分野においても、情報化は事業の効率化に大いに貢献している。
 我が国においても、昨今情報技術を利用して経営改革を進める動きは一段と強まっており、大手先進企業を中心として、物流事業の高度化を図るため、サプライ・チェーン・マネジメント(資材の調達からモノの生産、出庫から販売を通じて最終顧客に至るまでの物流全体を統合的に管理し、全体最適化を図ること)と呼ばれる経営手法を導入する企業が増加している。CRP(Continuous Replenishment Program :連続的な補充発注システム)等の情報システムの導入は、リードタイムの削減、在庫量等の削減を通じて、物流の効率化、高度化を推進している。
 また、インターネットを活用した企業間電子商取引(BtoB取引)は産業界で急速な広がりを見せ始めており、複雑な流通経路を省き、既存取引関係の無い不特定の相手先との取引が可能となる点において、物流のグローバル化を促進している。その一方で、消費者を対象とした電子商取引(BtoC取引)市場もすそ野の広がりを見せており、消費者の自宅への宅配ビジネスの増加が今後予想されている。
 こうした動きに対し、物流事業者は、荷主側より総合的な物流サービスの提供を求められ、事業の再構築を迫られているケースが増加している。こうした流れは物流事業者を二極分解化させ、業界内格差を拡大させる要因にもなりうる。
 今後さらなる物流効率化を図るためには、物流業界内におけるデジタルデバイド(情報格差)を解消する意味からも、情報共有化、標準化施策を一層推進する必要がある。このため運輸省としては、物流効率化に資する以下のような施策を推進している。

(2) 物流総合情報提供システムの構築

 情報化を通じ物流効率化を推進するにあたっては、最適輸送手段の選択等に資する基礎情報となるモード・事業者横断的情報の入手が不可欠であり、統一的なデータベース及びこれらの情報提供を行う主体が求められている。しかしながら、このような物流情報提供システムは、民間事業者がそれぞれ個別に構築することは非効率であり、共有化が可能な情報を一括保有、提供するシステムが必要となっている。
 このような趣旨から運輸省では、12年6月より「物流総合情報提供システムに関する検討委員会」を設け、システムが保有する情報の種類や機能についての調査、研究を行っている。本システムは、物流事業者等にとって輸送計画の策定時及び災害、緊急時に利便性が高いモード・事業者横断的情報をインターモーダルに整備する目的から、トラック、鉄道、内航海運等の輸送分野において種々の共有情報(物流施設情報、スケジュール情報、空き情報、道路交通情報、運行ダイヤ情報、運賃情報、求車求貨情報、動的位置情報等)を提供することを想定している。
 本システムが活用されることにより、最適モード・経路選択による輸送効率の向上、鉄道・フェリーを含むモード横断的情報提供によるモーダルシフトの促進、危機管理体制の構築等が図られ、物流コスト削減、CO2削減、災害時の輸送円滑化等に資することが期待される。

(3) 国内物流EDI標準(JTRN)の普及推進

 企業間のコンピューターをオンラインで結び、取引に関する情報を標準的な規約により企業間で交換するEDI(Electronic Data Interchange :電子データ交換)は、事務処理の効率化、正確性の向上等を通じ、物流コストの削減というメリットをもたらすと同時に、顧客満足の向上、新規サービスの展開、取引機会の拡大を通じて、売上高の拡大というメリットをもたらす。個別企業においても、これらのメリットやEDIを導入している荷主に対応する必要性から、物流EDIのニーズが高まっている。しかし、物流業界においては、EDIの標準化が遅れたことや、物流EDI導入に要する費用等の問題があり、物流EDIの普及が進んでいない。
 このため運輸省では、政府及び民間の双方が参画した「物流EDIセンター」を中心に、国内標準メッセージ(JTRN)の開発、改良・維持管理及び物流EDI営業推進ガイドブック作成等による普及啓蒙活動を通じ、物流EDIの普及を推進している。
 今後物流EDIのさらなる普及をはかるため、JTRNと国際標準(UN/EDIFACT)との整合性の確保、より低いコストでEDIの導入を可能にするインターネットEDI等の新技術、標準メッセージの適用範囲の拡大、及び荷主側の業種拡大等について検討していくこととしている。

3−3−1図 「物流総合情報提供システム」のイメージ

(4) 国際航空貨物輸送の情報化

 現在、国際航空貨物輸送に係る航空運送状のEDI化等が積極的に進められており、我が国としても同分野における情報化を積極的に推進していく必要がある。運輸省としても、カーゴ・コミュニティ・システム(CCS:航空会社、航空フォワーダー等航空貨物輸送に携わる参加者間で航空貨物関連情報を電子的に交換するネットワーク・システム)の整備に対し、多様化・高度化してきている荷主ニーズを満たすために必要とされる国際航空貨物輸送の効率化に資するものとして積極的に支援を行ってきている。11年7月には、CCSJ(CCSを管理・運営する会社)が設立され、新システムは12年4月から本格稼動している。
 このシステムにより、これまで電話等でやり取りしていた航空貨物の予約情報の電子化、ハウスAWB(フォワーダーが荷主と運送契約を締結する時に発行する航空運送状)単位での情報のフォワーダーと航空会社、上屋業者等との間の共有化、ハウスAWB単位での情報のリアルタイムな提供(貨物追跡等)を行うことが可能となったが、今後、航空貨物運賃の清算業務の実施等、更に機能の拡充を図っていくことをめざしている。

2 物流事業の高度化

(1) 物流の全体最適化に向けた取り組み

 物流事業の高度化を図るためには、資材の調達、モノの生産・出庫から販売を通じて最終顧客に至るまでの物流全体を統合的に管理(サプライ・チェーン・マネジメント)し、全体最適化を図るシステムを進展させていくことが有効である。
 このようなシステムを進展させていくには、荷主に対して物流改革を提案するコーディネイト業務の発展が重要である。
 運輸省においては、荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する業務(サードパーティ・ロジスティクス)の現状と将来動向に関する調査を行い、サードパーティ・ロジスティクス事業者側における課題として、1.人材の育成・確保、2.情報システムの整備、3.物流コスト算定力の向上等があり、利用者(荷主企業)側における課題として、1.経営レベルまで踏み込んだ改善提案を引き出すためのさらなる情報開示、2.サードパーティ・ロジスティクス事業者の提案に対する利益の適正な配分への取り組み等があることを明らかにした。 
 これらの課題を解決するためには、人材育成及び情報システムの整備への支援、統一的な物流会計基準の策定等が必要であり、検討を進めている。

(2) 物流会計基準の確立

 荷主と物流事業者間の取引が全体最適なものとなるようにするためには、個々の物流サービスの対価を明確にしていくことが重要である。また、現状においては製品価格に輸送コストが含まれているという商慣行から、着荷主側からするとどのように発注しても支払いコストは変わらないことから多頻度少量輸送になりがちという実態が多く見られることもあり、過度な多頻度少量輸送を改善するためには、輸送コストを明確にするために輸送費を別計上する等のモデル伝票書式を設定し普及させるとともに商慣行を改め輸送に合わせ適正なコストを負担する取引を実現することが重要である。
 このため、運輸省においては、12年度に物流コスト算定手法を標準化し、費用対効果を明確に分析できる物流会計基準の策定を行うための調査検討を行っている。

(3) 規制緩和の推進

 運輸省では、事業機会及び消費者の選択機会の増大、弾力的な運賃・料金の導入、各種届出・報告の削減等を促進するため、「規制緩和推進3か年計画」に基づき、物流業に係る規制の緩和措置を推進している。
 12年3月に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画(再改定)」において、港湾運送事業に関しては、事業免許制(需給調整規制)を廃止し許可制に、料金認可制を廃止し届出制にすべきであるとされたため、12年5月に港湾運送事業法が改正されたところであり、主要9港における当該規制緩和が12年11月1日から実施されている。また、倉庫業に関しては参入規制及び料金規制について、貨物運送取扱事業に関しては運賃、料金規制についての緩和を検討し、12年度中に結論を得ることとされており、検討を進めている。

3−3−2図 国際航空貨物輸送情報システム(カーゴ・コミュニティ・システム)

第3節 社会的制約と調和した物流システムの構築

1 モーダルシフト推進等による環境問題への対応

(1) 環境問題における物流効率化施策の必要性

 気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)における京都議定書の採択等、地球環境問題が国際的な喫緊の課題となっているなかで、物流を含めた運輸部門の二酸化炭素の排出について、今後年平均伸び率をマイナスに抑える必要がある。また、地域環境問題としては、自動車から排出される窒素酸化物・粒子状物質の削減について早急な解決が求められている。このためには、更なる二酸化炭素窒素酸化物等の排出抑制策の強化が重要であり、自動車、船舶等の輸送機関の単体の性能向上を図るとともに、環境への負荷がより小さい海運及び鉄道の活用による自動車輸送からの転換(モーダルシフト)を初めとする物流効率化施策を行っていく必要がある。

(2) モーダルシフトの現状と今後の方向性

 9年4月に策定された「総合物流施策大綱」及び10年6月に策定された「地球温暖化対策推進大綱」の中において、海運及び鉄道の活用を図ることとされており、モーダルシフトの推進の必要性について記載されている。さらに、10年9月に決定された「運輸省物流施策アクション・プラン」において、「長距離雑貨輸送における鉄道・海運比率を現在の40%から2010年に50%を超える水準に向上させること」が目標として設定されているが、これについては、伸び悩んでいるのが現状である。
 その原因としてあげられるのは、経済の低迷や生産拠点の海外移転等による産業構造の変化により物流量は伸び悩み傾向をたどる中で、物流事業者間における競争の激化や、多頻度少量輸送等の多様化する荷主のニーズに、海運事業者・鉄道事業者の対応が遅れていることであると考えられる。この課題を解消して上記の目標を達成するために、以下のモーダルシフト施策について従来より取り組んできているところである。
 海運では、輸送力増強と輸送コストの低減を図るため、運輸施設整備事業団の共有建造方式を活用し、内航コンテナ船、内航RORO船等の整備を進めてきた。また、輸送効率化を進めやすい環境の整備等を目的として10年5月には内航海運暫定措置事業を導入し、船腹調整事業の解消を行ったほか、11年8月には危険物荷役制限を緩和し、フェリーによる危険物輸送が可能になった。さらに、旅客フェリーへの自由な参入を可能とすべく、フェリーに係る需給調整規制を12年10月に廃止し、免許制から許可制への円滑な移行を図ったほか、今後、各地域においてモーダルシフトを推進するための具体的計画を内容とする「内航海運活性化プラン」を策定することとしている。
 鉄道では、輸送力増強とリードタイムの短縮等を図るため、10年度より武蔵野線、京葉線の貨物列車走行対応化事業を実施中であるほか、11年度には門司貨物拠点整備事業に着手した。また、効率的な荷物の集配を図り鉄道貨物輸送を促進するため、10年度に検討を行ったオフレールステーション制度(一定の貨物量が集まる地域に共同集配拠点を設置し、この集配拠点と鉄道貨物駅との間で大型トレーラにより多頻度・集中輸送を行う新しいシステム)を12年10月に実施した。
 また、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルへの陸上輸送半日往復圏の人口カバー率を21世紀初頭には約9割に向上させることを目標に、着実に内貿ターミナルの整備を進めている。
 しかし、モーダルシフトを推進するに当たっては、トラック輸送の受け皿となる海運事業者・鉄道事業者が機動性等の高いサービスを荷主に対して提供できるよう、輸送の効率化に資する技術開発を図る等、更なる事業者自身の効率化・活性化のための努力を行うことが必要である。また、行政としても今後は、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルや架線下荷役方式の貨物駅の整備・改良への支援等必要なインフラ整備の促進を図るとともに、荷主へのインセンティブの付与等の新たな方策も検討していく必要がある。

(3) 積載効率の向上等による二酸化炭素、窒素酸化物等の排出の抑制

 積載効率の向上によりトラックの走行量を減らす対策も二酸化炭素や窒素酸化物等の排出抑制策上重要であり、帰り荷あっせん型求車求貨システムの普及の推進や、自家用トラックを保有する荷主が物流事業者に業務委託を行うことによる自営転換や輸配送事業の共同化の一層の促進を行うこととしている。
 更に、トラックのトレーラ化、大型化を進めることにより走行台数の削減を通じて二酸化炭素排出の削減を図るとともに、国際コンテナ貨物等の国内陸上輸送距離の削減のための港湾整備や港から陸上の輸送を担うトラックとの連携を強化するためのアクセス道路の整備を行っている。
 今後とも環境問題への対応のため、物流効率化施策をハード・ソフト両面から積極的に実施することとしている。

2 循環型社会の実現に向けた取り組み

 近年、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄による経済システムから環境負荷が低い循環型経済システムへの転換が求められており、また、家電リサイクル法の本格施行を目前に控える等の状況を踏まえ、物流の面にも配慮した全体最適な循環システムを構築する必要がある。
 廃家電等のリサイクル品輸送に代表される静脈物流については、スピードや機動性がさほど必要とされない一方で低コスト化が特に求められるとともに、輸送自体を地球温暖化等の面から環境負荷の少ないものにすることが重要であるため、鉄道や海運といった大量輸送機関の活用が望まれる。このような認識のもと、運輸省では、12年度において、「リサイクル輸送システムの開発・構築に関する調査検討委員会」を設置し、効率性かつ環境保全の観点から望ましい鉄道、海運によるリサイクル輸送システムの開発・構築を行っているところである。

3−3−3図 リサイクル輸送システムのイメージ図

3 地域内物流における取組みについて

(1) 概論

 昨年の尼崎公害訴訟での自動車排出ガスの抑制を求める一審判決や、東京都によるディーゼル車の都内乗入れ抑制策の打ち出し等にみられるように、近年環境に対する問題意識の高まりから、特に都市部において自動車が排出する窒素酸化物(NOX)や浮遊粒状物質(SPM)等が問題となってきており、特に全自動車による窒素酸化物排出量の7割を占めるといわれるトラックへの対策が強く求められている。また、ビル内に設置された荷捌き場がトラックの大型化等から一部対応出来なくなっているため、路上での荷卸しによる道路混雑や小型車による非効率な輸送の一つの要因となっており、改善を図っていく必要がある。

(2) 共同集配の推進

 地域内物流においては、地域間物流における鉄道や船舶等の環境負荷の小さな輸送機関へのモーダルシフトといった取り組みは難しく、最終的にはトラックに依存せざるを得ない。しかし、近年の荷主ニーズの多様化・高度化等を背景に多頻度・少量配送といった、非効率的になりがちな集配送が要求されてきており、今後この傾向は一層拡大していくものと考えられる。
 このため、トラックの積載効率を高め、総走行台数の削減、総走行距離の短縮を図るとともに、環境負荷の小さな天然ガス車等の低公害車の積極的な導入を図る等の対応が求められている。
 これらを背景に、福岡市の天神地区等では、平成4年から、複数のトラック事業者が共同で集配送を行い、積載効率を高め、効率的輸送を行うため、運送事業者35社や金融機関等が出資し、「天神地区共同輸送(株)」を設立し共同集配事業を行っている。また、11年10月には熊本市で「熊
本地区共同輸送(株)」が共同集配事業を開始している。
 また、埼玉県の大宮市、浦和市、与野市に跨るさいたま新都心地区を対象に「さいたま新都心共同輸送(株)」が設立され、12年3月に共同集配事業を開始している。この事業は、9年4月の総合物流施策大綱に基づき設立された「関東甲信越地方総合物流施策推進会議」のモデル事業に位置づけられており、運輸省をはじめ、関係省庁が様々な支援を行っているところである。事業にあたっては、5両の普通貨物車全てにCNG車を使用し、環境への配慮を最優先に取り組んでいる。
 共同集配事業については、以前からその効果が指摘され、各地で検討がなされていながら、なかなか事業化には至らない場合が多い。その理由の1つとして関係者間の利害調整の難しさが挙げられているが、さいたま新都心においては、街づくりと一体となった導入であり、利害者間調整も少なく比較的スムーズな導入が可能であった。13年の国土交通省の発足を踏まえ、運輸政策審議会総合部会物流小委員会の中間報告においても指摘されているように、今後はまちづくりと一体となった取り組みを一層進めるとともに、地域の交通問題や環境問題を担う地方公共団体とも一層緊密な連携を図りつつ、交通需要マネジメント(TDM)も組み合わせた推進策に取り組む必要がある。

(3)共同荷受けシステムについて

 高層ビルへの集配送に際しては、エレベータによる縦持ち等に長時間を要するため、その間トラックを長時間駐車しておく必要があり、路上駐車が増加するという問題に加えて、ビル事業者側にとっては駐車場や荷捌き場の利用効率の悪さ、運送事業者側からはトラックの使用効率の悪さ等の問題が生じている。このため、一部の高層ビルやショッピングセンターでは、館内の集配業務を特定の物流事業者に限定し、他の物流事業者はこの会社にビルの荷捌き場から先の集配業務を委託することで、荷卸し後速やかに次の配送先に向かえる等の利点を生むシステムの導入を図り、着荷主・物流事業者から好評を得ている。運輸省では、今後、同様のシステムの導入を検討する際の参考となるべく、これらの事例の概要、及び問題点・改善点について事例集にとりまとめた。
 今後の地域内物流においては、物流事業者のさらなる努力に加え、これらの取り組みに見られるような、ビル事業者や着荷主等といった関係者が連携し、物流の効率化に取り組むことが期待される。

(4) 物流バリアフリーの推進

 都市内物流の効率化を進める上で、街づくりの段階においても物流について十分に配慮していくことが必要である。
 しかし、現状においては、都市内のビルや店舗等において、地下荷捌き駐車場や車寄せの高さが十分でないため、トラックの乗り入れができない等の事態が発生しており、荷役時間の増大、業務効率の低下に加え、トラックの路上駐車による都市周辺環境の悪化等も生じている。
 こうした現状を踏まえ、運輸政策審議会総合部会物流小委員会最終報告においても、「官民が一体となって、配送先の各種の建築物の構造について、荷役に適したものにすることや、十分な荷捌きスペースを確保する等、物流効率化の視点に立った建築物の設計思想の普及に努める」ことが、重要である旨明示されている。
 今後、最終報告を受けて、物流事業者、荷主、建築・建設業者、自治体関係者等の幅広い協力を得て、都市内物流の一層の効率化を推進していくこととしている。