1 利用者利便の向上
(1) エレベーター設置等によるバリアフリー化
駅施設に関しては、平成12年5月に「交通バリアフリー法」が公布され、同法において旅客施設の新設・大改良に際しての移動円滑化基準への適合義務を規定している。また、これまで、エレベーター・エスカレーターの設置については、「鉄道駅におけるエレベーター及びエスカレーターの整備指針」(11年4月改訂)を策定し、その整備を指導してきたところである。
エレベーター・エスカレーター、障害者トイレをはじめとしたバリアフリー化設備の整備については、10年度から、公営地下鉄等の駅におけるバリアフリー施設の整備のため、国と地方公共団体が協調して補助を実施している。また、民間鉄道が行う鉄道駅におけるバリアフリー化設備の整備に対し、10年度から国と地方公共団体が協調して補助を実施しており、さらに12年度から、第三セクターが行う鉄道駅の総合的な改善のうち、バリアフリー施設の整備に対し、国と地方公共団体が協調して補助を実施している。
11年度は、補正も含め、公営地下鉄等の駅におけるバリアフリー施設整備について3.7億円、民間鉄道の行うバリアフリー施設整備について9.7億円の予算をもって補助を行い、整備の促進を図っている。
さらに、10年度から、駅に設置されるエレベーター・エスカレーターについて、一定の要件の下での税制上の特例措置を講じており、また、12年度からバリアフリー化のための改良工事により取得した施設についても税制上の特例措置を講じている。
なお、11年度末現在、JR、大手民鉄及び地下鉄におけるエレベーター設置駅数は825駅、エスカレーター設置駅数は1,308駅である。
これらに加え、自動券売機、自動改札機等の鉄道駅における諸設備についても、「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備ガイドライン」(6年3月改訂)に基づき、各事業者を指導している。
(2) 乗継ぎ利便の向上
鉄道においては、従来から高速化や輸送力増強に積極的に取り組んできたところである。他方、既存の鉄道ネットワークを有効に活用し、より質の高い公共交通サービスの提供を実現していくためには、相互直通運転化等により鉄道結節点における乗継ぎの負担を軽減し、シームレスな輸送を確保していくことも重要となってきている。
このような観点から、第2部第5章第2節で述べたとおり、乗継円滑化事業により運輸施設整備事業団を通じて補助を行うほか、12年3月に施行された鉄道事業法の一部改正により、乗継ぎ利便の向上を推進する。
鉄道車両については、2年3月に「心身障害者・高齢者のための公共交通機関の車両構造に関するモデルデザイン」が策定され、これに基づき、車椅子スペース、優先席、次駅案内表示装置、障害者対応トイレ等の整備を進めるよう事業者を指導している。また、車両間転落防止装置の整備、乗降性に優れた路面電車の超低床式車両の導入についても促進を図っている。さらに、12年度税制改正において、低床型路面電車について税制上の特例措置が講じられた。
2.事故分析小委員会は、運輸技術審議会鉄道部会の下に設置し、運転事故全般、列車の運休・大幅な遅延等について、発生状況・傾向分析を行い、事故等の未然防止に有効な対策の検討等を行う。
JR東日本、JR東海及びJR西日本については、景気低迷による旅客需要の減退等により営業収入は減少したものの、要員合理化による人件費及び物件費の節減や支払利息が減少した結果、経常損益において、JR東日本が対前年度90億円増の1,082億円を計上した。しかし、新幹線と航空との競争激化により営業収入の減が影響したJR東海は対前年度19億円減の702億円、JR西日本は山陽新幹線トンネルコンクリート剥落事故等の影響もあり対前年度82億円減の423億円を計上するに至った。
また、JR北海道、JR四国及びJR九州については、本州3社と同様に営業収入が減少したものの、要員合理化による人件費の節減や経営安定基金の運用により、経常損益において、JR四国が対前年度17億円増の5億円、JR九州が対前年度17億円増の52億円を計上したものの室蘭線礼文浜トンネルコンクリート剥落事故及び有珠山噴火等が影響したJR北海道は、対前年度4億円減の15億円を計上した。
さらにJR貨物については、営業収入は物流市場の低迷に伴う輸送需要の減少、水害・礼文浜トンネルコンクリート剥落事故及び有珠山噴火の影響により引き続き減少となった。営業費用については、要員の合理化及び経費削減を推進し対前年度131億円減と改善されたものの、経常損益は37億円の赤字を計上し7期連続の赤字となった。しかし、平成8年度を底に改善傾向にある。
(2) 民間鉄道事業者
大手民鉄15社(注1)については、景気低迷、少子・高齢化等を反映し11年度の鉄軌道営業収益は落ち込み、15社全体の営業利益は対前年度比9.0%減の2,301億円、経常利益は付帯事業の好調等により対前年度17.7%増の1,708億円となった。
また、準大手民鉄6社(注2)については、大手民鉄同様、鉄軌道営業収益は落ち込み、営業利益は35億円、経常利益は33億円となった。
一方、中小民鉄については、過疎化による運賃収入の伸び悩み等により、大部分の事業者が赤字経営となっており、11年度鉄軌道営業損失は114社全体(注3)で11.2億円、また経常利益は204億円の損失となったが、前年度に比べると改善されている。なお、自立的な鉄道経営を目指す中小民鉄事業者に対しては、地方公共団体とともに支援している。
(3) 地下鉄事業者
帝都高速度交通営団の11年度営業利益は、対前年度15.1%増の525億円、経常利益は対前年度107.7%増の188億円となった。一方、公営9事業者全体の11年度営業利益は対前年度67.3%減の27億円、経常損益は対前年度0.5%減の1,662億円の赤字と、依然として厳しい経営状況にある。このため、今後とも地下鉄事業者においては、経営の効率化等を推進する必要がある。
なお、地下鉄は、他の鉄道に比べてその建設費が巨額であり採算性の確保が困難であるため、国においても従来より地方公共団体とともに支援している。
(注1) | 大手民鉄15社:東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄、京王電鉄、小田急電鉄、東京急行電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、南海電気鉄道、京阪電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道、西日本鉄道 |
(注2) | 準大手6社:新京成電鉄、大阪府都市開発、北急行電鉄、神戸電気鉄道、神戸電鉄、山陽電気鉄道 |
(注3) | 中小民鉄:中小一般61社+転換鉄道38社+貨物鉄道15社 |
新造車両等の生産実績の推移は、3−4−2図のとおりである。
国内需要は、昭和62年度以降増備及び老朽車両の取換等の車両の新造により増加したが、平成3年度以降これらの需要が一段落したことにより低迷傾向にある。一方、輸出は欧州の車両産業界の積極的な売り込み等により厳しい状況が続いている。このため、今後とも大幅な需要増加は見込まれない状況にある。
今後、我が国の鉄道においては、利用者のニーズに応えるための高速化、安全性、快適性の向上等に加えて省エネルギーや低騒音といった社会的要求を満たす車両の開発・提供が求められている。
また、我が国の鉄道車両工業を発展させるためには、鉄道車両の製造事業者と鉄道事業者が、互いに協力して技術開発を推進するとともに、業界として海外の市場や車両産業界の動向も視野に入れ、鉄道車両の共同開発及び標準化並びにコスト低減等について積極的に取り組む体制を整備していくことが強く求められている。
1 新幹線鉄道の整備
全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画が定められている整備新幹線については、国土の均衡ある発展と地域の活性化に資することから、その整備を着実に推進している〔3−4−3図〕。
具体的には、平成元年より東北新幹線盛岡・八戸間、北陸新幹線高崎・長野間、糸魚川・魚津間及び石動・金沢間、九州新幹線新八代・西鹿児島間の3線5区間の整備を推進しており、このうち9年10月には北陸新幹線高崎・長野間が開業した。
また、10年3月には東北新幹線八戸・新青森間、北陸新幹線長野・上越間、九州新幹線船小屋・新八代間の工事に着手し、その整備を推進している。
(2) 今後の整備新幹線の取扱い
今後の整備新幹線の整備については、8年12月の政府与党合意に基づき、(3)の他、以下のような方針により取組んでいる。
9年7月より政府・与党整備新幹線検討委員会において新規着工区間(3線3区間)等の取扱いについて検討を行った。そして、10年1月にその検討結果が取りまとめられ、以下のとおり整備を進めている。
コラム 新幹線におけるサービス向上の取り組み |
JR西日本は、平成12年3月のダイヤ改正に合わせて、山陽新幹線に新型車両「ひかりレールスター」を導入した。 旅客数が伸び悩んでいる山陽新幹線において、「ひかり」のより一層のサービス向上、スピードアップ等により利用客の増加を図るとともに、山陽新幹線における輸送体系の見直しをしようとするものである。 車両は、JR西日本とJR東海が共同開発した700系車両をベースに、ボディカラーや内装を一新、8両編成でグリーン車並のゆったりした指定席を5両配置し、ノートパソコンが使用できる座席やグループ向けの本格的な個室、車内放送がないサイレンスカーなど多彩なサービスを用意し、所要時間も新大阪〜博多間を従来よりも32分スピードアップし2時間45分で結んでいる。 運行開始後、乗車率も高水準を維持しており、同社にとって明るい材料となっている。
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3−4−4表 幹線鉄道高速化事業等一覧
| 線区名・区間 | 整備内容 | 効 果 | 備 考 |
幹線鉄道等活性化事業 |
奥羽線 福島〜山形 | 新幹線直通運転化 |
東京〜山形 3時間9分→2時間27分 | 平成4年7月1日開業 |
石勝線・根室線南千歳〜釧路 | 高速化 |
札幌〜釧路 4時間25分→3時間40分 | 平成9年3月22日開業 | |
北越北線 六日町〜犀潟 | 高速化 |
東京〜金沢 3時間58分→3時間43分 | 平成9年3月22日開業 | |
豊肥線 熊本〜肥後大津 | 高速化 |
博多〜肥後大津 2時間7分→1時間49分 | 平成11年10月1日開業 | |
宗谷線 旭川〜名寄 | 高速化 |
札幌〜稚内 5時間50分→4時間58分 | 平成12年3月11日開業 | |
愛知環状鉄道線岡崎〜高蔵寺 | 高速化 | 岡崎〜高蔵寺 約10分短縮 列車増発 3本/1時間→4本/1時間 | 平成16年度開業予定 | |
無利子貸付制度による事業 |
智頭線等 上郡〜鳥取 | 高速化 |
大阪〜鳥取 約4時間→2時間34分 | 平成6年12月3日開業 |
日豊線 小倉〜大分 | 高速化 |
小倉〜大分 1時間33分→1時間26分 | 平成7年4月20日開業 | |
山陰線・宮福線等園部〜天橋立 | 高速化 |
京都〜天橋立 2時間2分→1時間44分 | 平成8年3月16日開業 | |
田沢湖線・奥羽線盛岡〜秋田 | 新幹線直通運転化 |
東京〜秋田 4時間37分→3時間49分 | 平成9年3月22日開業 | |
高徳線 高松〜徳島 | 高速化 |
岡山〜徳島 2時間16分→1時間55分 | 平成10年3月14日開業 | |
東海道新幹線 | 輸送力増強 |
ピーク時間帯 11本/時→15本/時 | 平成15年度開業予定 |
東京圏をはじめとする大都市圏における通勤・通学時の混雑は、近年の輸送力増強等の努力や、景気の長期低迷、少子高齢化の進展等ともあいまって緩和傾向にあるものの、路線によっては依然200%を上回る混雑率となっている区間があり、未だ厳しい状況にある。このため、今後とも既存ストックの有効活用を図りつつ、都市鉄道の計画的な整備等を行うことが必要である。
東京圏、大阪圏及び名古屋圏については、運輸政策審議会から長期的な展望に立った鉄道整備の基本的な計画が答申されており、これらに基づいて計画的かつ着実な整備が行われている。東京圏については、12年1月、21世紀の新しい時代にふさわしい質の高い鉄道ネットワークの構築を目指した新たな計画が答申されたところである。
これら都市鉄道の整備については、第2部第5章第2節で述べたとおり、地下高速鉄道の整備に対する補助をはじめとする補助制度、利子補給、無利子貸付による支援のほか、大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的整備の推進に関する特別措置法、特定都市鉄道整備促進特別措置法に基づく制度の活用により進められている。
また、11年度より、大都市における先導的プロジェクトについて、学識経験者を中心に、関係地方公共団体、鉄道事業者等とともに、事業化方策の検討等を行う都市鉄道調査を実施しているところである。
最近における主な都市鉄道等の整備状況は、3−4−5表のとおりであるが、今後とも引き続き、通勤・通学混雑の緩和に向けた輸送力増強等のための取組みを推進していくこととしている。
事 業 者 名
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線 区 名
| 整 備 内 容 |
開 業 日 |
横浜市 |
1号線 戸塚〜湘南台 |
新線建設(延伸) |
11年8月29日 |
多摩都市モノレール(株) |
多摩都市モノレール線 多摩センター〜立川北 |
新線建設(延伸) |
12年1月10日 |
名古屋市 |
4号線 大曽根〜砂田橋 名古屋大学〜新瑞橋 |
新線建設(延伸) 新線建設(延伸) |
12年1月19日 13年度内(予定) |
東京都 |
大江戸線 新宿〜国立競技場 国立競技場〜都庁前 |
新線建設(延伸) 新線建設(延伸) |
12年4月20日 12年12月(予定) |
北総開発鉄道(株) |
北総・公団線 印西牧の原〜印旛日本医大 |
新線建設(延伸) |
12年7月22日 |
帝都高速度交通営団 |
南北線 溜池山王〜目黒 |
新線建設(延伸) |
12年9月26日 |
東京都 |
三田線 三田〜目黒 |
新線建設(延伸) |
12年9月26日 |
埼玉高速鉄道(株) |
埼玉高速鉄道線 赤羽岩淵〜浦和美園 |
新線建設 |
13年3月(予定) |
東京臨海高速鉄道(株) |
臨海副都心線 東京テレポート〜天王洲アイル |
新線建設(延伸) |
13年3月(予定) |
名古屋ガイドウェイバス(株) |
志段味線 大曽根〜小幡緑地 |
新線建設 |
13年3月(予定) |
神戸市 |
海岸線 新長田〜三宮 |
新線建設 |
13年度内(予定) |
(注1) | 転換鉄道:地方交通線対策の一環として旧国鉄の経営から引き継がれた鉄道のうち、第三セクター等により経営されているもの。 |
(注2) | 地方鉄道新線:国鉄改革の一環として新線建設工事が凍結されていた路線のうち、第三セクターが経営することを前提に、日本鉄道建設公団により工事が再開されたもの。 |
線区名・区間 | 整備内容 | 効果 | 備考 |
武蔵野線・京葉線 南流山〜蘇我 | 貨物列車走行対応化 |
南流山〜蘇我間 約2時間短縮 列車増発 33本/日→41本/日 | 平成12年度開業予定 |
鹿児島線 門司駅 | 貨物拠点整備 |
東京〜鹿児島間 約8時間短縮 列車増発 48本/日→54本/日 | 平成14年度開業予定 |
1 運輸政策審議会第19号答申「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策」について
運輸政策審議会は、12年8月1日、運輸大臣に対し、「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策」について答申を行った。
鉄道ネットワークは、形状の上ではほぼ概成しているものの、利用者から見た使いやすさなどの点でなお多くの課題があり、利用しやすく高質な鉄道ネットワークを構築することが重要である。また、地球環境問題や高齢化社会の到来に対応するため、バリアフリー化の推進など新たな社会的ニーズに対応した鉄道整備を推進することが必要である。一方、国及び地方公共団体の厳しい財政事情に鑑み、効率的かつ重点的な鉄道整備を実施することが必要である。
(2) 幹線鉄道及び都市鉄道の整備水準
鉄道の整備にあたっては、民間主導による整備を基本としつつも、政策的に重要なプロジェクトについては公的主体がこれを適切に補完する必要がある。具体的には、1.整備新幹線の整備については、国がイニシアティブを発揮し、地方公共団体が応分の協力を行う。2.主要幹線鉄道の高速化及び主要空港アクセス鉄道の整備については、国が地方公共団体と共同して取り組む。3.地域的な交通を担う都市鉄道の整備については、国が地方公共団体に対して支援を行いつつ、共同して取り組む。4.地域的な交通を担う都市鉄道の整備であっても、政策的重要性は高いも
(4) 上下分離方式の検討
鉄道の整備にあたっては、民間事業者に対する支援方策の見直しなどによりがたい場合には、公的主体等がインフラを整備し、運行は運行事業者が効率的に行う「上下分離方式」も検討すべきである。
(5) 在来幹線鉄道及び都市鉄道等の整備の進め方
在来幹線鉄道については、関係者からなる地元協議会等において具体的な整備方針を策定することが適当である。また、都市鉄道等については、三大都市圏については運輸政策審議会答申、地方中核都市圏については地方交通審議会答申等、空港アクセス鉄道については地元協議会等の策定する整備方針に則り整備を推進することが適当である。さらに幹線鉄道及び都市鉄道の整備に対する支援方策の見直しについても検討を図る必要がある。