第1節 利用者ニーズに対応した自動車交通サービスの確保
1 自動車旅客輸送の活性化
バス・タクシー事業の経営状況、自動車交通を巡る状況等が大きく変化している中、バス・タクシーの活性化、発展を図るためには、バス・タクシー事業に対する規制の枠組み等も適切に見直すことが必要である。
また、バス・タクシーのみならず、交通事業全般に共通して、さらには我が国の産業政策として、市場競争を通じた経済社会の活性化を図ることが指向されており、そのために、社会全般における競争制限的な規制のあり方を見直すことが重要な課題となっている。
このため、運輸省は、8年12月に従来の運輸行政の転換を行い、交通事業全般についてその根幹をなしてきた需給調整規制を原則として目標期限を定めて廃止することとした。
これを受けて、9年3月の規制緩和推進計画において、具体的な目標期限(貸切バス:11年度、乗合バス・タクシー:13年度)を含めた計画が閣議決定されるとともに、同年4月には、「交通運輸における需給調整規制廃止に向けて必要となる環境整備方策等について」運輸大臣から運輸政策審議会に諮問し、同審議会に自動車交通部会が設置されて審議が進められた。
10年6月には、貸切バスについての答申がなされ、事業参入について免許制から許可制に、運賃規制について認可制から届出制に、それぞれ移行するとともに、安全確保策を充実することとされた。これを受け、11年5月には貸切バスに係る「道路運送法の一部を改正する法律」が公布され、12年2月から施行されている。
また、乗合バス及びタクシーについては、11年4月に答申がなされ、これを受け、12年5月には「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」が公布され、13年度中に施行されることとなった。
(2) バス
| 乗 合 バ ス | タ ク シ ー |
参入規制 |
○路線ごとの免許制 →事業ごとの許可制 |
○事業区域ごとの免許制 →事業ごとの許可制 |
運賃規制 |
○認可制 →上限認可制の下での事前届出制(変更命令あり) |
○認可制 →認可制(認可基準を上限価格の基準に変更) |
退出規制 |
○許可制 →事前届出制(6か月前) |
○許可制 →事後届出制(30日以内) |
輸送の安全確保のための措置 |
○運行管理者の資格試験制度の導入 | |
そ の 他 | ※法改正に合わせ,地域協議会の開催等生活交通確保のための新たな枠組みを構築 |
○緊急調整措置の導入 ○タクシー業務適正化臨時措置法の恒久法化 |
| 割引の内容 | 実施状況 |
低廉な運賃の設定 | 鉄道駅を中心とした市街地において、最低運賃を100円に値下げするなど、近距離の利用客に対する運賃の割引 |
全国 80地域 民営 82事業者 公営 3事業者 |
環境定期券の導入(エコ定期) | 定期券所持者に対し、事業者の全路線において、休日の本人及び同伴家族の運賃を割引(大人100円、小人50円が通例) |
民営 102事業者 公営 14事業者 |
高齢者向け定期券の導入 | 65歳または70歳以上の高齢者を対象として、大幅な割引を行った全線定期券(高速バスを除く全路線に通用) | 民営 38事業者 |
コラム 地方中小都市のデマンドバス快走 |
ITSのモデル地区実験候補地に選定されている高知県は、平成12年4月から3ヶ月間、中村市でデマンドバスの実験走行を行った。 この「中村まちバス」は、新設の29カ所を含む市内57カ所の停留所間を電話等による利用者の希望に応じて縦横に走行するもので、平均利用者数は24名/日で多い日には40名を超えるなど、大変好評だった。 運賃は一律200円、24人乗りのマイクロバス1台による運行であるが、高齢者や自家用車を利用できない者等に配慮し、病院、学校などの公共施設にきめ細かくバス停を設置したことから、繰り返し利用する人も多く、「これまでの2時間に1運行と比べ利用勝手が良くなった」との声も寄せられている。 12年6月末に実験は終了したが、7月以降、中村市がこれを引継いで正式運行を行っており、「中村まちバス」は今も快走を続けている。
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コラム 高速バスにおける利用者ニーズにあった運賃制度の導入 |
西日本鉄道(株)は、平成12年7月1日から、福岡県内を中心に自社単独運行する高速バス9路線の運賃値下げ(最大37.5%、平均26.8%)を実施している。 福岡市内で成果をあげた100円バス(北九州・久留米にも実施地域を拡大)の感覚を高速バスに取り入れたもので、分かりやすく、割安感のある運賃となっており、対象路線の1日平均の輸送人員は、対前年同月比で、7月で31.0%、8月で37.9%、9月で38.4%増と利用客にも好評である。 【新運賃と対象路線】 「1,000円高速バス」 ・福岡〜小倉・佐賀・直方、及び福岡空港〜小倉・佐賀・久留米の6路線 「1,500円高速バス」 ・福岡〜行橋、福岡空港〜大牟田、小倉〜久留米の3路線
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タクシーは、バス・鉄道等の大量輸送機関の補完的役割を果たすとともに、ドア・ツー・ドアの機動的・個別的公共輸送機関として国民生活に定着している。近年では景気低迷により厳しい経営状況が続いているが、競争を促進することにより、事業者の創意工夫を発揮させ、サービスの向上と事業の活性化を図っていくことが重要である。
このような状況においてタクシー事業者は、ゾーン運賃制を活用した運賃の設定や、タクシーの機動性を活かした緊急時の支援サービスなど、さまざまな工夫に取り組み、利用者にとって身近で便利なタクシーサービスの提供に努めている。
最近では情報機器の活用も普及してきており、衛星を利用して高度な運行管理・配車を行うGPS‐AVMシステムは、迅速な配車や空車走行の減少に役立っている。
また、利用者ニーズの多様化に応じ、深夜の都市部や過疎地等でバスの代わりとなる「乗合タクシー」も輸送サービスとして定着してきており、きめ細かなサービスを提供している。
さらに、福祉分野で活躍するサービスとして、車椅子や寝台のまま乗車できる「福祉タクシー」や、ホームヘルパーの資格を有する乗務員が介護サービスを提供する「介護タクシー」が拡大してきている。
| 主 な 運 行 コ ー ス | コース数 |
団地型 | 深夜や早朝、駅と団地を結ぶコースを中心に運行 | 61 |
過疎地型 | 廃止されたバス路線やバスの運行していない地域を運行 | 125 |
都市型 | 終バスや終電後を中心にターミナル駅を出発点として一定のエリア内を運行 | 14 |
空港型 | 空港と最寄り駅を結ぶコースを運行 | 22 |
観光型 | バスの通れない狭隘な道の多い観光地で運行 | 19 |
通院型 | 路線バスの運行していない地域において総合病院と市内を結ぶコースを運行 | 3 |
その他 | 上記以外のもの | 6 |
コラム 地帯別運賃の空港アクセス乗合タクシー |
東京都23区及び武蔵野市、三鷹市を4エリアに分け、各エリア毎定額運賃(1,900円〜2,700円)により、旅客の指定する場所と羽田空港をジャンボハイヤーによる「ドア・ツー・ドア」で運行する新しいタイプの乗合タクシー(愛称:ジェットハーモニー)が平成11年の12月に誕生した。 ジェットハーモニーは、関東運輸局が※「今後におけるタクシー事業の活性化方策研究会」で提言した[空港や主要ターミナルからの行き先別(エリア内)均一運賃制度の導入]と[ドア・ツー・ドアの乗合タクシーの導入]というタクシー活性化策を実現したもので、一般家庭や都内主要ホテル、企業等からの引き合いも多く、新たな空港アクセスとして期待されている。 ※ http://www.motnet.go.jp/kanto/jidou_1/tabi2/index.htmの"TAXI Express"を参照。 |
トラック輸送は、国内貨物輸送量のうち、トンキロベースで5割強、トンベースでは約9割を占め(平成10年度)、物流の中核を担っており、貨物運送事業用自動車の占める割合は年々増加傾向にある。
(2) トラック輸送を巡る諸課題への取組み
一方、トラック輸送を取り巻く環境は、軽油の値上げ等による輸送コストの上昇、高度化・多様化する利用者ニーズへの対応、交通事故防止のための安全対策、交通渋滞や騒音、NOx等に代表される都市環境問題、CO2等による地球環境問題、運転者の高齢化、労働時間の短縮の促進等多くの課題を抱えており、迅速かつ積極的な対応が求められている。
輸送コストの削減や環境問題の改善を図るため、個々の会社の枠組みを越えた輸送の共同化等の推進、環状道路近接型広域物流拠点(3−5−4図参照)の整備等の推進、トレーラ化・車両の大型化の推進を図るとともに、求貨求車システムの普及支援やITS(高度道路交通システム)のトラック事業への活用等輸送の情報化に取り組んでいる。
(イ) 輸送の安全の確保
トラック事業については、大型車が多いことなどから一旦事故が発生した場合には重大事故につながり、社会的に大きな影響が生じることが多い。このため、貨物自動車運送適正化事業実施機関の活用等により、適正な運行管理の実施による過積載や過労運転の防止等に取り組むとともに、監査や行政処分などの事後的なチェックの強化等により安全対策の充実に努めている。
(ウ) 環境問題への対応
自動車の排気ガスによる環境問題への対応として、いわゆる自動車NOx法に基づく使用車種規制(都市部の特定地域においては、原則として一定の基準を満たした車以外の使用を禁止する規制)、最新排出ガス規制適合車への代替促進、低公害車の導入促進等を図るとともに、不必要なアイドリングを行わないなどいわゆるエコドライブ推進に努めている。
(エ) 利用者保護対策の充実等
利用者ニーズの高度化・多様化によるサービス形態の複雑化に伴い様々なトラブルが発生している引越運送に関し、苦情処理体制の拡充等利用者保護対策の充実に努めている。また、少子高齢化社会を控え、安定的な労働力の確保を図っていくため、トラック産業が魅力ある職場となるよう努めている。
1 交通事故の状況と今後の対策の方向
前出の答申では、交通事故の発生防止を図るためには、事故が発生した環境について、運転者の過失のみならず、車両構造面、走行環境面、運行管理面など、様々な角度から交通事故の状況に係る情報(事故情報)を収集することにより、事故原因となった運転操作ミス等の背後にある要因を解明する必要があるとされている。
このため、人、道及び車の観点から交通事故の総合的な調査・分析を行っている(財)交通事故総合分析センターを活用し、社会的に特に注目されている特定の事故形態(チャイルドシート、エアバッグ、高齢者に係る事故)について、詳細な調査を集中的に行うなど、保安基準の策定等の車両に係る安全対策や運行管理の充実等の事業用自動車の安全対策に必要となる分野に係る事故情報の収集・分析の充実を図っているところである。
また、自動車事故対策パイロット事業(P140、第2部第1章第2節5(2)(イ)参照)について、12年度には、調査実施陸運支局を増加するとともに、ニアミス情報の収集を新たに開始することにより、事故情報の収集・分析の充実を図る。
さらに、得られた情報を「総合的な安全情報」としてとりまとめ、「情報の受け手」に対して適時適切に届けることにより、関係者の交通安全に関する意識を高めていくことについて検討することとしている。
コラム スマートクルーズ21−Demo 2000 |
平成12年11月28日(火)から12月1日(金)の4日間、茨城県つくば市において、運輸省が推進してきた先進安全自動車(ASV)と建設省が推進してきた走行支援道路システム(AHS)が連携して実現する走行支援システムについて、公開デモンストレーション「スマートクルーズ21 Demo 2000」が実施される。 走行支援システムは、自動車が情報通信を介して道路インフラと連携・協調することによりドライバーへの情報提供や警報、運転操作の支援を行い、安全で快適な自動車の走行を実現する画期的な21世紀の交通システムである。 運輸省と建設省は、このような路車協調による走行支援システムの早期実用化をめざして、12年10月から共同実証実験に着手している。 Demo 2000では、この共同実証実験を行ったシステム及び自動車単独で機能する自律型システムについて、つくば市にある建設省土木研究所及び(財)日本自動車研究所のテストコースにおいて公開するほか、つくば国際会議場において講演会やテクニカルセッションを開催し、システム概要や要素技術について紹介することとしている。 |
自動車交通量の多い地域ほど自動車事故の発生件数が多いことなどから、安全な自動車交通の実現のためには、自動車交通量の抑制、交通の円滑化を図ることが重要である。このため、自家用車と公共交通機関のバランスのとれた交通体系の確立、物流の効率化等を推進し、自動車交通システムのあり方を変えていくことが必要であり、パークアンドライド、コミュニティバス等の導入や、バスを中心とするまちづくりを進める「オムニバスタウン」の整備、環状道路近接型物流拠点の整備等を引き続き推進していくこととしている。
救急医療技術の発達等により、一命はとりとめたものの、重度の後遺障害を負った犠牲者が最近10年で2倍に増加する(注3−5−5図参照)など、交通事故による重度後遺障害者の救済のあり方について見直す必要が生じたため、運輸省では平成12年2月に「今後の自賠責保険のあり方に係る懇談会」(運輸大臣懇談会)「後遺障害部会」を開催し、検討を行い、6月に中間報告書を取りまとめた。
運輸省はこの報告を踏まえ、13年度予算要求に必要な事項を盛り込む等、所要の対策を推進することとしている。
政府再保険制度をはじめとする自賠責制度全般について、そのあり方の見直しを求める声が高まったことから、運輸省では平成11年4月から「今後の自賠責保険のあり方に係る懇談会」(運輸大臣懇談会)を開催し、検討を行い、9月に報告書を取りまとめた。
この報告書を踏まえ、平成12年3月に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画(再改定)」において、「政府再保険の廃止については、1.被害者保護の充実、2.政府保障事業の維持、3.政府再保険の運用益を活用した政策のうち必要な事業の継続、4.自動車ユーザー等へのメリット、5.合理的な範囲内のコストによる制度改正の5条件の実現の方向を確認した上で行う。」とされた。
また、自動車損害賠償責任保険審議会(自賠審)では、金融監督庁(当時)長官の諮問を受け、6月の自賠審において、昭和30年の制度発足以来初となる自賠責制度の全般的見直しを提言する答申が出された。
答申は、1.被害者保護の充実を図ることなどを前提に政府再保険制度を廃止、2.保険金支払いの適正化のための措置のあり方について検討が必要、3.運用益を活用して行っている被害者救済対策事業等については、必要な事業の充実と効率化・適正化に努めるとともに、財源を検討、4.保険料の引下げを検討、5.介護が必要な重度後遺障害者に介護に係る保険金を別枠支給、等を指摘している。
運輸省はこれらの状況を踏まえ、自賠責制度の改革のための具体的な検討を進め、可能な限り速やかに制度改正に取り組む。