第5章 安全で快適な車社会の形成

第1節 利用者ニーズに対応した自動車交通サービスの確保

1 自動車旅客輸送の活性化

(1) 需給調整規制の廃止等

 バス・タクシー事業の経営状況、自動車交通を巡る状況等が大きく変化している中、バス・タクシーの活性化、発展を図るためには、バス・タクシー事業に対する規制の枠組み等も適切に見直すことが必要である。
 また、バス・タクシーのみならず、交通事業全般に共通して、さらには我が国の産業政策として、市場競争を通じた経済社会の活性化を図ることが指向されており、そのために、社会全般における競争制限的な規制のあり方を見直すことが重要な課題となっている。
 このため、運輸省は、8年12月に従来の運輸行政の転換を行い、交通事業全般についてその根幹をなしてきた需給調整規制を原則として目標期限を定めて廃止することとした。
 これを受けて、9年3月の規制緩和推進計画において、具体的な目標期限(貸切バス:11年度、乗合バス・タクシー:13年度)を含めた計画が閣議決定されるとともに、同年4月には、「交通運輸における需給調整規制廃止に向けて必要となる環境整備方策等について」運輸大臣から運輸政策審議会に諮問し、同審議会に自動車交通部会が設置されて審議が進められた。
 10年6月には、貸切バスについての答申がなされ、事業参入について免許制から許可制に、運賃規制について認可制から届出制に、それぞれ移行するとともに、安全確保策を充実することとされた。これを受け、11年5月には貸切バスに係る「道路運送法の一部を改正する法律」が公布され、12年2月から施行されている。
 また、乗合バス及びタクシーについては、11年4月に答申がなされ、これを受け、12年5月には「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律」が公布され、13年度中に施行されることとなった。

(2) バス

(ア) 都市におけるバスの活性化、道路交通の円滑化
 大都市、地方中核都市の過密な道路交通において、公共交通機関であるバスの利用促進は、自動車事故の防止や交通渋滞の緩和等に資するものであることから、運輸省としても積極的にその支援を行っており、バス利用促進等総合対策事業について、地方公共団体との協調等により補助を行っている。
 バス事業者においても、利用者のバス離れをくい止め、利用者増に転換させるため、さまざまな経営努力が行われている。最近では、地域住民のニーズに応じたサービスとして、コミュニティバスを運行するケースが増加している。これは、中小型の車両を使って住宅地などの狭い道路も運行するバスで、バス停の間隔を短くするなどバスを身近なものにするための工夫が行われている。
 一方、運賃面でのサービスでは、鉄道駅から1kmなどの近距離区間で運賃を100円とすることで、割安感とワンコインの便利さによって利用者を大幅に増加させている例などが見られる。
(イ) 地域における足の確保
 地方バスは、地域住民、特に学生、お年寄り等のいわゆる移動制約者にとって必要不可欠な生活交通であるが、過疎化の進行、マイカーの普及等の原因により利用者の減少傾向が続いており、路線の維持自体が困難であるところがあるなど厳しい経営状況におかれている。
 このため、運輸省では地域住民の足を確保するため、分社化、管理の受委託等の経営効率対策を事業者に対して促すとともに、これらの経営努力を前提に所要の助成措置を講じている。11年度は生活路線維持費等補助制度により、地方公共団体と協調して、166事業者に対し、運行欠損等への補助を行った(国費総額73億円)。
 また、輸送人員が極めて少なく、バス事業として成り立たないものについては、必要に応じて地方公共団体による廃止代替バスの運行や地方公共団体からの民間事業者への委託による運行等が行われており、これらの運行維持に要する費用については所要の地方交付税措置が講じられている。
 さらに、地域の特性に応じて、スクールバスとの一体的運行や乗合タクシーの活用により、地域の実情にあった生活交通の維持を図っていく必要がある。

3−5−1表 道路運送法等改正の概要

乗 合 バ ス タ ク シ ー
参入規制 ○路線ごとの免許制
 →事業ごとの許可制
○事業区域ごとの免許制
 →事業ごとの許可制
運賃規制 ○認可制
 →上限認可制の下での事前届出制(変更命令あり)
○認可制
 →認可制(認可基準を上限価格の基準に変更)
退出規制 ○許可制
 →事前届出制(6か月前)
○許可制
 →事後届出制(30日以内)
輸送の安全確保のための措置 ○運行管理者の資格試験制度の導入
そ の 他 ※法改正に合わせ,地域協議会の開催等生活交通確保のための新たな枠組みを構築 ○緊急調整措置の導入
○タクシー業務適正化臨時措置法の恒久法化

3−5−2表 利用促進のための割引運賃制度(平成12年4月1日現在)

割引の内容 実施状況
低廉な運賃の設定 鉄道駅を中心とした市街地において、最低運賃を100円に値下げするなど、近距離の利用客に対する運賃の割引 全国 80地域
民営 82事業者
公営  3事業者
環境定期券の導入(エコ定期) 定期券所持者に対し、事業者の全路線において、休日の本人及び同伴家族の運賃を割引(大人100円、小人50円が通例) 民営 102事業者
公営 14事業者
高齢者向け定期券の導入 65歳または70歳以上の高齢者を対象として、大幅な割引を行った全線定期券(高速バスを除く全路線に通用) 民営 38事業者

コラム  地方中小都市のデマンドバス快走
 ITSのモデル地区実験候補地に選定されている高知県は、平成12年4月から3ヶ月間、中村市でデマンドバスの実験走行を行った。
 この「中村まちバス」は、新設の29カ所を含む市内57カ所の停留所間を電話等による利用者の希望に応じて縦横に走行するもので、平均利用者数は24名/日で多い日には40名を超えるなど、大変好評だった。
 運賃は一律200円、24人乗りのマイクロバス1台による運行であるが、高齢者や自家用車を利用できない者等に配慮し、病院、学校などの公共施設にきめ細かくバス停を設置したことから、繰り返し利用する人も多く、「これまでの2時間に1運行と比べ利用勝手が良くなった」との声も寄せられている。
 12年6月末に実験は終了したが、7月以降、中村市がこれを引継いで正式運行を行っており、「中村まちバス」は今も快走を続けている。

デマンドバス

コラム  高速バスにおける利用者ニーズにあった運賃制度の導入
 西日本鉄道(株)は、平成12年7月1日から、福岡県内を中心に自社単独運行する高速バス9路線の運賃値下げ(最大37.5%、平均26.8%)を実施している。
 福岡市内で成果をあげた100円バス(北九州・久留米にも実施地域を拡大)の感覚を高速バスに取り入れたもので、分かりやすく、割安感のある運賃となっており、対象路線の1日平均の輸送人員は、対前年同月比で、7月で31.0%、8月で37.9%、9月で38.4%増と利用客にも好評である。
【新運賃と対象路線】
「1,000円高速バス」
・福岡〜小倉・佐賀・直方、及び福岡空港〜小倉・佐賀・久留米の6路線
「1,500円高速バス」
・福岡〜行橋、福岡空港〜大牟田、小倉〜久留米の3路線

「1,000円高速バス」
「1,000円高速バス」

(3) タクシー

 タクシーは、バス・鉄道等の大量輸送機関の補完的役割を果たすとともに、ドア・ツー・ドアの機動的・個別的公共輸送機関として国民生活に定着している。近年では景気低迷により厳しい経営状況が続いているが、競争を促進することにより、事業者の創意工夫を発揮させ、サービスの向上と事業の活性化を図っていくことが重要である。
 このような状況においてタクシー事業者は、ゾーン運賃制を活用した運賃の設定や、タクシーの機動性を活かした緊急時の支援サービスなど、さまざまな工夫に取り組み、利用者にとって身近で便利なタクシーサービスの提供に努めている。
 最近では情報機器の活用も普及してきており、衛星を利用して高度な運行管理・配車を行うGPS‐AVMシステムは、迅速な配車や空車走行の減少に役立っている。
 また、利用者ニーズの多様化に応じ、深夜の都市部や過疎地等でバスの代わりとなる「乗合タクシー」も輸送サービスとして定着してきており、きめ細かなサービスを提供している。
 さらに、福祉分野で活躍するサービスとして、車椅子や寝台のまま乗車できる「福祉タクシー」や、ホームヘルパーの資格を有する乗務員が介護サービスを提供する「介護タクシー」が拡大してきている。

3−5−3表 乗合タクシーの普及状況(平成12年4月1日現在)

主 な 運 行 コ ー ス コース数
団地型 深夜や早朝、駅と団地を結ぶコースを中心に運行 61 
過疎地型 廃止されたバス路線やバスの運行していない地域を運行 125 
都市型 終バスや終電後を中心にターミナル駅を出発点として一定のエリア内を運行 14 
空港型 空港と最寄り駅を結ぶコースを運行 22 
観光型 バスの通れない狭隘な道の多い観光地で運行 19 
通院型 路線バスの運行していない地域において総合病院と市内を結ぶコースを運行 3 
その他 上記以外のもの 6 

コラム  地帯別運賃の空港アクセス乗合タクシー
 東京都23区及び武蔵野市、三鷹市を4エリアに分け、各エリア毎定額運賃(1,900円〜2,700円)により、旅客の指定する場所と羽田空港をジャンボハイヤーによる「ドア・ツー・ドア」で運行する新しいタイプの乗合タクシー(愛称:ジェットハーモニー)が平成11年の12月に誕生した。
 ジェットハーモニーは、関東運輸局が※「今後におけるタクシー事業の活性化方策研究会」で提言した[空港や主要ターミナルからの行き先別(エリア内)均一運賃制度の導入]と[ドア・ツー・ドアの乗合タクシーの導入]というタクシー活性化策を実現したもので、一般家庭や都内主要ホテル、企業等からの引き合いも多く、新たな空港アクセスとして期待されている。
※ http://www.motnet.go.jp/kanto/jidou_1/tabi2/index.htmの"TAXI Express"を参照。

2 トラック輸送の現状

(1) トラック輸送の現状

 トラック輸送は、国内貨物輸送量のうち、トンキロベースで5割強、トンベースでは約9割を占め(平成10年度)、物流の中核を担っており、貨物運送事業用自動車の占める割合は年々増加傾向にある。 
 一方、トラック輸送を取り巻く環境は、軽油の値上げ等による輸送コストの上昇、高度化・多様化する利用者ニーズへの対応、交通事故防止のための安全対策、交通渋滞や騒音、NOx等に代表される都市環境問題、CO
等による地球環境問題、運転者の高齢化、労働時間の短縮の促進等多くの課題を抱えており、迅速かつ積極的な対応が求められている。

(2) トラック輸送を巡る諸課題への取組み

(ア) 輸送効率化の推進
 輸送コストの削減や環境問題の改善を図るため、個々の会社の枠組みを越えた輸送の共同化等の推進、環状道路近接型広域物流拠点(3−5−4図参照)の整備等の推進、トレーラ化・車両の大型化の推進を図るとともに、求貨求車システムの普及支援やITS(高度道路交通システム)のトラック事業への活用等輸送の情報化に取り組んでいる。
(イ) 輸送の安全の確保
 トラック事業については、大型車が多いことなどから一旦事故が発生した場合には重大事故につながり、社会的に大きな影響が生じることが多い。このため、貨物自動車運送適正化事業実施機関の活用等により、適正な運行管理の実施による過積載や過労運転の防止等に取り組むとともに、監査や行政処分などの事後的なチェックの強化等により安全対策の充実に努めている。
(ウ) 環境問題への対応
 自動車の排気ガスによる環境問題への対応として、いわゆる自動車NOx法に基づく使用車種規制(都市部の特定地域においては、原則として一定の基準を満たした車以外の使用を禁止する規制)、最新排出ガス規制適合車への代替促進、低公害車の導入促進等を図るとともに、不必要なアイドリングを行わないなどいわゆるエコドライブ推進に努めている。
(エ) 利用者保護対策の充実等
 利用者ニーズの高度化・多様化によるサービス形態の複雑化に伴い様々なトラブルが発生している引越運送に関し、苦情処理体制の拡充等利用者保護対策の充実に努めている。また、少子高齢化社会を控え、安定的な労働力の確保を図っていくため、トラック産業が魅力ある職場となるよう努めている。

3−5−4図 環状道路近接型広域物流拠点

3 道路運送事業におけるITSの活用

 自動車交通の安全性の向上、環境負荷の軽減、交通渋滞の解消を図ることを可能とする高度道路交通システム(ITS)については、8年に関係5省庁により「ITS推進に関する全体構想」を策定し、相互の連携のもと推進を図っている。運輸省では、10年度に旅客輸送分野と貨物輸送分野におけるITSの活用方策を検討し、具体的な活用方策事例を取りまとめた。
 また、11年6月の運輸技術審議会答申において、現在、必ずしも十分には進んでいない公共交通機関の利用促進、物流の効率化等の分野での取組を強化していくことが必要であると指摘している。この答申の趣旨を踏まえつつ、11年度から道路運送事業の情報化対応実証研究事業を進め、旅客輸送分野及び貨物輸送分野におけるITSの活用を推進している。
 11年度には、路線バスなどの運行路線等の利用者情報を集積して一元的、総合的に提供するバス情報総合利用案内システム、幹線輸送を行うトラックの適切な運行管理を支援するため、気象情報等の運行に必要なリアルタイム情報を運行するトラックから集約しトラック事業者に提供するリアルタイム運行情報システムの整備に係る課題の抽出、実証実験等を実施した。
 12年度においては、バス利用者の要望、需要予測に基づいた新しい形態の交通システムとしてデマンド交通自動配車システム、都市内集配という刻一刻と変化する需要等の変化の情報を加味したリアルタイム配送管理システムについて、その整備に係る課題の抽出、実証実験等を行うこととしている。
 さらに、タクシーの分野については、走行中のタクシー位置をリアルタイムに把握するシステム(タクシーGPS・AVMシステム)の導入を支援することにより、配車の効率化による空車走行の減少とともに、タクシーの走行状況をリアルタイムで把握することによる運行管理の高度化を進め、タクシーにおける安全で効率的な輸送の実現を図っている。 また、道路運送事業におけるITS国際標準化活動についても支援を行っている。

第2節 安全対策の推進

1 交通事故の状況と今後の対策の方向

 自動車交通における事故件数及び死傷者数は、近年一貫して増加傾向にあり、ここ10年間でそれぞれ約1.3倍に増加している。また、平成11年には死傷者数が105万9,403人と史上初めて100万人の大台を突破し、重度後遺障害者が増加しているなど、言わば「新たな交通戦争」とも言うべき極めて厳しい状況にある。
 このため、自動車交通に係る安全対策のあり方について、運輸技術審議会から、11年6月14日に「安全と環境に配慮した今後の自動車交通政策のあり方について」の答申が出されたところである。
 この答申は、交通事故の深刻さについての再認識を求めるとともに、自動車交通安全対策を単なる精神論ではなく、事故実態の把握を中心とした科学的な手法により進めることを求めており、自動車交通安全対策のサイクル(「低減目標の設定」→「対策の実施」→「効果評価」)を、総合的に、また、分野毎に繰り返し行って行くべきことや、2010年を目
途に運輸省の施策により死者数を、1,500人(事故後30日以内の死者)削減すべきとする低減目標の設定など、様々な新しい視点が盛り込まれたものとなっている。
 運輸省では、この答申を踏まえて、自動車交通安全対策に係わる関係省庁等と連携を図りつつ、安全で環境と調和のとれた自動車交通の実現に向けて、積極的に施策を展開しているところである。

3−5−5図 我が国における自動車事故の推移

2 事故を減らすための取り組み

(1) 事故情報の収集、分析、活用

 前出の答申では、交通事故の発生防止を図るためには、事故が発生した環境について、運転者の過失のみならず、車両構造面、走行環境面、運行管理面など、様々な角度から交通事故の状況に係る情報(事故情報)を収集することにより、事故原因となった運転操作ミス等の背後にある要因を解明する必要があるとされている。
 このため、人、道及び車の観点から交通事故の総合的な調査・分析を行っている(財)交通事故総合分析センターを活用し、社会的に特に注目されている特定の事故形態(チャイルドシート、エアバッグ、高齢者に係る事故)について、詳細な調査を集中的に行うなど、保安基準の策定等の車両に係る安全対策や運行管理の充実等の事業用自動車の安全対策に必要となる分野に係る事故情報の収集・分析の充実を図っているところである。
 また、自動車事故対策パイロット事業(P140、第2部第1章第2節5(2)(イ)参照)について、12年度には、調査実施陸運支局を増加するとともに、ニアミス情報の収集を新たに開始することにより、事故情報の収集・分析の充実を図る。
 さらに、得られた情報を「総合的な安全情報」としてとりまとめ、「情報の受け手」に対して適時適切に届けることにより、関係者の交通安全に関する意識を高めていくことについて検討することとしている。

3−5−6図 自動車交通安全対策のサイクル

(2) 事業用自動車の安全対策

(ア) 今後の事業用自動車の安全対策の進め方
 事業用自動車については、事業毎にそれぞれ特有の安全上の問題点を有しているとともに、一旦事故が発生した場合には、大型車が多いこと、乗車人員が多いこと等から大きな社会的影響を生じることが多い。
 また、自動車運送事業については、平成13年度末までに需給調整規制が廃止されることとなる。需給調整規制の廃止は、市場原理と自己責任原則の下に競争を促進し、事業活動の効率化、活性化を通じてサービスの向上・多様化等を目指すものであるが、一方、競争が激化した場合に安全の確保が脅かされる可能性もある。
 このようなことを背景に、事業用自動車の事故を低減していくためには、事故情報の収集・分析を基本とし、安全対策を推進していくための体制の強化、適切な運行の維持方策の充実や安全規制遵守の確保のための施策の充実などを図っていくことが急務であることから、各種施策を早急に展開する必要がある。
(イ) 重大事故報告制度の見直し
 重大事故報告制度においては、運送事業者が転覆事故、火災事故、死者又は重傷者を生じた事故等の重大事故を起こした場合には、事故の種類、原因などを報告することを義務付けており、事故の再発防止の企画立案・事業者等に対する指導監督等に活用している。この制度の一層の充実を図っていくため、報告対象となる事故及び報告内容について見直しを図ることとしている。
(ウ) 適切な運行の維持
 事業用自動車の適切な運行の維持を図っていくためには、運送事業者内部の安全確保のための体制の整備が重要である。現在、一定規模以上の営業所においては、運行管理者を選任し、運転者の労務管理、乗務員の指導監督などの業務を行うこととなっており、貨物自動車運送事業においては、これら運行管理者に対する資格試験制度が導入されているが、旅客自動車運送事業についても需給調整規制の廃止に合わせて同制度を導入することとした。また、事故及び違反を惹起した事業者の運行管理者に対する特別講習を導入するとともに、安全対策が十分で自ら運行管理者教育を行う能力のある事業者については、逆に講習頻度等の軽減を図るなど、運行管理者に対する講習制度の充実を図っていくこととしている。
 一方、事業用自動車の運転者には、一般のドライバーよりも高い資質が求められているところであり、運転者への対策についてもその充実を図っていく必要がある。このため、事業者が運転者教育を行う際の教育指針の策定や適性診断の一層の活用等による運転者の安全教育の充実を図っていくこととしている。また、事故及び違反を繰り返し起こしているような運転者に対する対策の強化、乗務距離の制限の明確化等の過労運転を防止するための具体的な基準の検討等を進めることとしている。
(エ) 安全規制の遵守の確保
 安全規制の遵守の確保を図っていくためには、国による事後的なチェックにより、違反事例がある場合には是正措置を効果的に実施していくことが必要である。このため、自動車運送事業者に対しては定期的に監査を行い、法令の遵守、安全の確保に係る社内体制の改善を指導するとともに、特に悪質な違反や重大な事故を起こした自動車運送事業者に対しては、事業用自動車の使用停止をはじめとする厳正な行政処分を行うこととしている。また、違反行為を繰り返し行っている事業者に対する事業者名の公表、事業停止等の処分を客観的に行っていくことを目指した点数制の拡充等により、輸送の安全に係る事後チェックの充実・強化を図っていくこととしている。

(3) 車両の安全対策

(ア) 自動車の安全に関する技術基準等の拡充強化等について
 自動車の安全に関する技術基準については、国際的調和にも留意しつつ、交通環境の変化に対応した見直しを適宜行ってきており、最近では、10年10月から乗用車への側面衝突時における乗員保護性能に係る基準の強化や12年2月に、個別輸入自動車等の衝突時の乗員保護性能等に係る基準について構造的に基準適合性を判断できることとする旨の改正を行ったほか、灯火装置等に係る基準について、「車両等の型式認定相互承認協定(略称)」に基づく規則との整合化を図ってきた。
 しかしながら、交通事故死傷者数が一貫して増加し高い水準にあるなど、交通事故の実態は厳しい状態が続いている。このような状況を踏まえ、今後の自動車の安全対策による交通事故死者数の低減目標やその推進のあり方等が盛り込まれた運輸技術審議会答申(11年6月)に基づき、運輸省は、平成11年9月に設置した「車両安全対策総合検討会」において、交通事故実態を詳細に分析することにより車両の安全対策に係る主な課題を抽出するとともに、その課題の解決に必要な安全対策を設定する検討を産・学・官が相互に協力して体系的に行い、その結果を踏まえ適宜技術基準の拡充強化等の安全対策を推進していくこととしている。
 また、当該検討会における安全対策の検討に当たっては、安全対策の効率を図る観点から、当該対策の効果などについて事前評価を行うとともに、これまでに行った対策の事後効果評価も実施し、適宜安全対策の見直しも行うこととしている。さらに、毎年シンポジウムを開催するなどして調査・検討状況を公表し、安全対策の策定過程の透明性を確保するとともに、安全対策の進め方に関し、関係者からの意見を集め、これら意見を適宜安全対策策定に反映させることとしている。
(イ) 先進安全自動車(ASV)の開発等ITS車両技術の開発について
 (a)ASVの研究開発の促進について
  エレクトロニクス技術等の新技術の活用により安全性を格段に高めたASVについて、平成3年度からの第1期5か年計画に引き続き、8年度からの第2期ASV開発推進計画においては、対象車種について第1期の乗用車にトラック・バス及び二輪車を加え、ヒューマン・インターフェイスの最適化及びインフラとの整合・連携について重点課題として取り組んでいる。11年度においては、ヒューマンインターフェイスの最適化に関する調査・研究を実施するとともにインフラ側関係者との共同研究を行い、更に、各要素システム技術ごとの開発指針の作成と事故低減効果の推定等を行った。このような中で、現在までに、居眠り警報装置などいくつかのASV技術が個別に実用化されている。
  今後、第2期開発推進計画の最終年度である12年11月末に、公開デモンストレーションや国際ワークショップを内容とするDemo2000を4日間の日程で開催し、広く内外に取組成果の公表を行う予定である。
 (b) スマートカー技術の研究開発
  ITSの早期実現には、自動車としての受け皿であるスマートカー(知能自動車)の研究開発が不可欠である。スマートカー技術については、これまで研究施設内での実験や一部の自律型の新技術装置の市販車両への搭載が進められているが、15年を目途に、モデル道路でのスマートウェイ(知能道路)との走行実現に取り組み21世紀初頭にスマートカーを広く一般に普及させるためには、ASV開発推進計画で得られた研究成果を活用し、道路・通信インフラ側の技術と連携した自動車技術が実際の路上で活用できる体制を早急に整備していく必要がある。
  この場合、多様な道路環境下における道路側からの情報と確実に連携し、通信技術の高信頼化に対応するスマートカー技術について、実用化に向けた研究開発を進めることが必要であり、このため、これらの自動車について、現行の制度等も活用して研究施設内だけではなく、一般の路上における走行試験も実施し、必要なデータの円滑な収集等を行った上で、実用化のための指針・仕様の策定を図ることとしている。
(ウ) 自動車ユーザーへの情報提供
 自動車アセスメント事業は、有識者等により構成される自動車アセスメント評価検討会やインターネット等を通じ広く意見を聞きながら、行政という中立・公正な立場で、車種毎の安全性を評価しユーザーへ提供している。(144頁コラム参照)
 平成12年度には、小型・普通自動車17車種、軽自動車7車種を対象に、フルラップ前面衝突試験、オフセット前面衝突試験、側面衝突試験、ブレーキ性能試験を行うこととしている。また、ブレーキ性能試験の結果、3つの衝突試験結果を総合的に評価した結果を、平成13年3月に「平成12年自動車アセスメント」として公表する予定である。さらに、車種別の死傷者率、チャイルドシートの安全性能試験に関する調査研究を行うこととしている。この他、ユーザーに対して、自動車の安全装備について本来の性能が発揮されるよう、その効果や正しい使い方について、適宜、情報提供を行うこととしている。
 また、自動車ユーザーの保守管理の際に参考となる資料として継続検査(車検)時の自動車の整備を必要とすると判断した装置と部位について調査した「自家用乗用車の型式別点検結果(ストロング・ウィークポイント)」を公表している他、カーナビやヘッドランプの使用上の注意やタイヤの空気圧やバッテリーの点検に関する事項等ユーザーにとって必要な情報を定期的に提供している。
(エ) 自動車の検査及び点検整備
 自動車の安全の確保及び環境の保全のためには、常に適切な保守管理を行う必要がある。自動車の保守管理義務は、一義的には自動車ユーザーにあり、7年7月の改正道路運送車両法において、自動車の保守管理責任が明確化されたこともあり、自動車ユーザーの保守管理意識の一層の高揚を図っていく必要がある。運輸省においては、引き続き、関係者の協力を得ながら「自動車点検整備推進運動」等の各種活動を積極的に行っているところである。
 自動車の検査・点検整備に係る規制緩和については、平成10年3月に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画」に基づき、同年12月の運輸技術審議会第一次答申「安全と環境に配慮した今後の自動車交通施策のあり方について」を踏まえ、「道路運送車両法の一部を改正する法律」が平成12年5月に施行され、車両総重量8トン未満のトラック、レンタカーの乗用車等について、初回の自動車検査証の有効期間を1年から2年に延長するとともに、事業用のトラック・バス・タクシー、車両総重量8トン以上の自家用トラック、自家用のバスなどの1か月毎の定期点検の義務付けを廃止し、これを3か月毎とした。 (オ) リコール制度、自動車ユーザーからの苦情相談等への対応
 リコール制度は、自動車製作者等が、自動車等の構造、装置又は性能が基準に適合しない又は適合しなくなるおそれがあり、かつ、その原因が設計又は製作の過程にあると認めた場合に、運輸大臣に届け、当該自動車を無料で回収・修理する制度である。現行のリコール制度は、昭和44年に運輸省令で規定されたものを平成6年に法律(道路運送車両法)に基づく制度に格上げし、リコールが確実に行えるよう勧告・公表制度、立入検査権、罰則など広範囲な法整備を行い、さらに、平成10年には罰則を強化する(過料の上限の引き上げ)など制度の充実に努めてきたところである。この制度に基づき、これまで、平成10年4月に過料の適用、平成11年3月にリコール勧告をそれぞれ行った。また、平成11年度の届出件数及び対象台数は、それぞれ、132件、187万台であった。
 しかしながら、平成12年7月、三菱自動車工業(株)が運輸省の立入検査等において、クレーム情報について報告漏れがあり、結果的にリコール届出が遅れたこと、また、リコール届出がなされないまま回収・修理が実施(いわゆるリコール隠し)されたことが判明したことから、これら一連の不正行為に対する対応を行い、同年10月には過料が適用されたところである。
 これまで、ユーザー利益の保護及び車両不具合事故の未然防止の観点から、24時間不具合情報受付システムを設置する等自動車に係る苦情相談窓口の充実を図ってきているが、一連の不正行為を踏まえ、リコール制度の適正な運用のため、欠陥車情報収集業務の強化、欠陥車情報分析業務の強化及びメーカー等への指導監督業務の強化等に努め、体制や業務の充実強化を推進することとしている。

コラム  スマートクルーズ21−Demo 2000
 平成12年11月28日(火)から12月1日(金)の4日間、茨城県つくば市において、運輸省が推進してきた先進安全自動車(ASV)と建設省が推進してきた走行支援道路システム(AHS)が連携して実現する走行支援システムについて、公開デモンストレーション「スマートクルーズ21 Demo 2000」が実施される。
 走行支援システムは、自動車が情報通信を介して道路インフラと連携・協調することによりドライバーへの情報提供や警報、運転操作の支援を行い、安全で快適な自動車の走行を実現する画期的な21世紀の交通システムである。
 運輸省と建設省は、このような路車協調による走行支援システムの早期実用化をめざして、12年10月から共同実証実験に着手している。
 Demo 2000では、この共同実証実験を行ったシステム及び自動車単独で機能する自律型システムについて、つくば市にある建設省土木研究所及び(財)日本自動車研究所のテストコースにおいて公開するほか、つくば国際会議場において講演会やテクニカルセッションを開催し、システム概要や要素技術について紹介することとしている。

共同実証実験でとりあげた7つのシステム

(4) 安全に配慮した自動車交通システムの形成

 自動車交通量の多い地域ほど自動車事故の発生件数が多いことなどから、安全な自動車交通の実現のためには、自動車交通量の抑制、交通の円滑化を図ることが重要である。このため、自家用車と公共交通機関のバランスのとれた交通体系の確立、物流の効率化等を推進し、自動車交通システムのあり方を変えていくことが必要であり、パークアンドライド、コミュニティバス等の導入や、バスを中心とするまちづくりを進める「オムニバスタウン」の整備、環状道路近接型物流拠点の整備等を引き続き推進していくこととしている。

3 被害者・交通弱者の立場にたった交通事故被害者救済対策

(1) 重度後遺障害者に対する救済策の充実等

 救急医療技術の発達等により、一命はとりとめたものの、重度の後遺障害を負った犠牲者が最近10年で2倍に増加する(注3−5−5図参照)など、交通事故による重度後遺障害者の救済のあり方について見直す必要が生じたため、運輸省では平成12年2月に「今後の自賠責保険のあり方に係る懇談会」(運輸大臣懇談会)「後遺障害部会」を開催し、検討を行い、6月に中間報告書を取りまとめた。
 運輸省はこの報告を踏まえ、13年度予算要求に必要な事項を盛り込む等、所要の対策を推進することとしている。

3−5−7図 重要後遺障害者等救済策充実の概要

(2) 自賠責制度の基本的な見直しについて

 政府再保険制度をはじめとする自賠責制度全般について、そのあり方の見直しを求める声が高まったことから、運輸省では平成11年4月から「今後の自賠責保険のあり方に係る懇談会」(運輸大臣懇談会)を開催し、検討を行い、9月に報告書を取りまとめた。
 この報告書を踏まえ、平成12年3月に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画(再改定)」において、「政府再保険の廃止については、1.被害者保護の充実、2.政府保障事業の維持、3.政府再保険の運用益を活用した政策のうち必要な事業の継続、4.自動車ユーザー等へのメリット、5.合理的な範囲内のコストによる制度改正の5条件の実現の方向を確認した上で行う。」とされた。
 また、自動車損害賠償責任保険審議会(自賠審)では、金融監督庁(当時)長官の諮問を受け、6月の自賠審において、昭和30年の制度発足以来初となる自賠責制度の全般的見直しを提言する答申が出された。
 答申は、1.被害者保護の充実を図ることなどを前提に政府再保険制度を廃止、2.保険金支払いの適正化のための措置のあり方について検討が必要、3.運用益を活用して行っている被害者救済対策事業等については、必要な事業の充実と効率化・適正化に努めるとともに、財源を検討、4.保険料の引下げを検討、5.介護が必要な重度後遺障害者に介護に係る保険金を別枠支給、等を指摘している。
 運輸省はこれらの状況を踏まえ、自賠責制度の改革のための具体的な検討を進め、可能な限り速やかに制度改正に取り組む。