第1節 活力ある海上交通に向けての取り組み
1 外航海運
アジアと北米を結び世界で最も荷動きの多い北米航路においては、アジア通貨・経済危機等の影響により、アジア諸国の通貨価値が下落し、交易条件が改善する一方、米国経済が好調であることが影響し、平成11年の東航(アジア→北米)の荷動量は大幅に増加した。また、10年は荷動量が大幅に落ち込んだ西航(北米→アジア)においても、アジア経済危機等の影響から抜け出しつつあるアジア諸国の内需が増加したことにより、11年の荷動量は前年に比べ増加した。しかし、東航、西航の荷動量の差(インバランス)は、10年に比べ拡大したため、船会社にとっては、東航の貨物の輸送需要に円滑に対応できないことや北米からアジアへの空コンテナの回送コストの負担等、大きな影響を受けている。
世界の主要コンテナ航路においては、荷主に対し良好なサービスを提供するために必要となる船舶の建造・運航やコンテナターミナルの保有・運営に膨大な投資を要するため、良好なサービスレベルを確保しつつ投資を効率化することを目的として、複数の企業が企業連合(コンソーシアム)を形成し、コンテナ船のスペースを分け合って共同で定期航路の運航を確保すること(スペースチャーター)が多くなっている。これらは、当初北米航路など特定の航路に限定されていたが、その後、対象地域や業務提携の範囲が拡がり、世界規模の提携を行ういわゆるアライアンスが出現している。さらに、国境を越えた大手海運企業間の合併、買収が活発となっており、これに伴うコンソーシアムの組み替えが行われ、定期コンテナサービスの提供体制に大きな動きが繰り返されている。我が国においては、10年10月に日本郵船(株)と昭和海運(株)の合併、11年4月に大阪商船三井船舶(株)とナビックスライン(株)が合併して(株)商船三井になるなど、川崎汽船(株)を含む従来の5社体制から3社体制へ再編された。このような中、11年11月にマースク(デンマーク)によるシーランド(米国)の国際コンテナ部門の買収が行われ、巨大コンテナ運航会社マースク・シーランドが誕生した。この合併による現在の世界のコンテナ船運航体制の再編には直ちにつながらないが、スケールメリットを追及したグローバルなサービスを提供する巨大企業の出現には、今後の業績如何によっては、他企業の経営戦略にも影響を与えるものと考えられる。
(2) 国際競争力強化のための取り組み
貿易立国である我が国にとって、貿易物資を安定的に輸送する手段である外航海運は非常に重要な産業インフラであり、激しい国際競争にさらされている我が国外航海運の国際競争力の強化を図るため、政府としては船舶の特別償却制度等の税制措置、日本政策投資銀行による長期低利融資等の支援措置を講じている。
また、急激な円高等により、我が国外航海運企業がコスト削減の観点から保有船腹の海外への便宜置籍を進めた結果、日本籍船及び日本人船員が急激に減少している。
こうした状況に鑑み、日本籍船及び日本人船員の維持・確保を図るため、平成8年に日本籍船のうち安定的な国際海上輸送の確保上重要な船舶を国際船舶と位置づける国際船舶制度を創設し、これに対する税制上の支援措置等を講じた。その後も実践的な能力を有する若年船員を早期に養成する「若年船員養成プロジェクト」の実施、国際船舶における日本人船長・機関長2名配乗体制による運航を可能とする外国資格受有者に対する承認制度を導入する等、その拡充に努めてきている。
本年1月には、外国資格受有者に対する承認制度に基づき48名の外国人承認船員が誕生し、3月には我が国外航海運大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)において外国人承認船員の日本籍船への配乗が実現した。
次いで6月には57名、9月には52名の承認船員が新たに誕生したところであり、今後とも同制度が活用されることにより日本籍船及び日本人船員の維持・確保が図られることが期待されている。
3−6−1図 北米航路国別コンテナ荷動量 3−6−2図 日本商船隊の隻数及び日本人船員数の推移 |
(2) 離島航路の対策
離島航路は、離島住民の生活の足及び生活物資等の輸送手段として重要な役割を果たしているが、過疎化の進行により、その経営は大変厳しい状況にある。
このため、離島航路整備法に基づき、離島航路事業者に対して、航路経営によって生じる欠損について補助金を交付することにより航路の維持・整備を図っている(離島航路補助制度)。
さらに、離島航路に就航する船舶の近代化に係る建造費用の一部を補助する制度(離島航路船舶近代化建造費補助制度)が実施されている。
(3) 本四架橋対策
本州四国連絡橋は、平成11年5月1日に西瀬戸自動車道(しまなみ海道:今治・尾道ル−ト)が全通した。これにより既存の瀬戸中央自動車道及び神戸淡路鳴門自動車道と合わせ、本州と四国を結ぶ3ル−トがすべて開通したことにより、従来から本州・四国間等で公共交通機関として重要な役割を果たしてきた一般旅客定期航路事業者等が事業の廃止又は縮小を余儀なくされ、これに伴い離職者が相当数発生するなどの影響を受けてきている。
このため、航路の再編成を引き続き推進するとともに、関係省庁、関係地方公共団体等と協力して、事業者の転業、船員に対する離職前職業訓練等円滑な離職者の転職のための対策を講じていくこととしている。
(4) 旅客船のバリアフリー化
本年5月の「交通バリアフリー法」の成立により、旅客船分野においても、今後新たに建造・整備される旅客船及び旅客船ターミナルについてバリアフリー化のために必要な構造及び設備に関する基準への適合が義務付けられることとなった。
また、バリアフリー化が費用に見合う増収を前提としないものであるため、現在、運輸施設整備事業団と共有で整備される旅客船のバリアフリー設備の整備に必要となる金利の軽減を行っているほか、離島航路事業者がバリアフリー化を含む要件を満たした船舶を事業の用に共する場合の固定資産税の軽減措置を講じている。
内航海運においては、昭和41年より船舶の建造に際し一定の比率による既存船の解撤を求めるスクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業が実施されてきたが、平成7年6月及び10年3月の海運造船合理化審議会内航部会等での議論を踏まえ、10年5月に解消されたところである。同時に、長年にわたり同事業が実施された結果既存船の引当資格が一種の営業権として取引されてきたことを踏まえ、同事業の廃止により無価値化する引当資格の経済的価値を手当てするため、新たに船舶を解撤する事業者に対し解撤する船腹量に応じ交付金を交付するとともに、船舶を建造する者から建造する船腹量に応じ納付金を納付させること等を内容とした内航海運暫定措置事業を導入することとした。
暫定措置事業の実施状況は、本年7月現在で解撤等交付金申請の認定量は、合計844隻、93万2千対象トン、689億3千万円となっており、このうち747隻、82万3千対象トンの解撤等が実施され、619億9千万円の交付金が既に交付されている。
一方、建造等納付金申請の認定量は、合計102隻、25万4千対象トン、95億1千万円となっている。
(2) 内航海運暫定措置事業に対する支援
暫定措置事業の円滑な実施を図るためには、事業実施主体である日本内航海運組合総連合会が同事業に要する資金を低利で調達することが不可欠であることから、運輸省としても、政府保証の下で運輸施設整備事業団が日本内航海運組合総連合会に融資する制度を設けている。具体的には、予算措置として11年度第二次補正予算において、政府保証限度額を150億円から60億円増額し210億円とし、本年度予算においても同様の措置を講じている。
(1) 事業参入規制の見直し 海上貿易貨物の主流を占めるコンテナ貨物の積み卸しが大量に行われ、かつ国民経済上特に重要な9つの港湾(特定港湾)(注)において、一般港湾運送事業等に係る需給調整規制を廃止し、免許制を許可制に改める。 (2) 運賃・料金規制の見直し 特定港湾における一般港湾運送事業等に係る運賃・料金規制に関し、認可制を事前届出制に改める。また、過度のダンピングを防止するため、運輸大臣は、不当な競争を引き起こすおそれがある運賃・料金について変更を命ずることができることとする。 (3) 欠格事由の拡充、罰則の強化 悪質事業者の参入を防止するため、暴力団対策法違反者、港湾労働者の使用に関する法律(労働者派遣業法など)の違反者等を新たに欠格事由に加えるとともに、罰則を強化する。 (4) その他 免許制の下における運賃・料金の割戻しの禁止や下請の制限等の規定について、特定港湾における許可制の下においても適用するなど所要の改正を行う。 (注)特定港湾9港:京浜港(東京港、川崎港、横浜港)、千葉港、清水港、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港、関門港及び博多港 |
(1) 労働者保有基準の引き上げ 悪質事業者の参入防止のため、規制緩和を行う9港における労働者最低保有基準を1.5倍に引き上げる。但し、事業者が事業協同組合に加盟している場合は、他の組合員の労働者を自己の労働者とみなし、事業者の規模拡大に対するインセンティブとする。 (2) 事業の集約・協業化等の推進 労働者保有基準の引き上げに連繋した事業協同組合化や作業の共同化等を推進する。 |
これらの施策により、我が国港湾運送事業について競争の促進や集約・協業化等による事業規模の拡大が進み、ひいては事業の効率化や、日曜、夜間荷役のより柔軟な実施等、港湾荷役の効率化やサービスの向上が促進されることが期待される。
コラム モーダルシフトへの取り組み |
運輸省は、幹線貨物輸送をトラックからより環境にやさしい輸送機関である鉄道・海運に転換するモーダルシフトの推進に積極的に取り組んでいる。 昨年9月に東京〜苫小牧航路に就航したブルーハイウェイラインの「さんふらわあ とまこまい」と川崎近海汽船の「ほっかいどう丸」は、航海速力の飛躍的向上により、従来30時間を要していた東京〜苫小牧間を20時間で運航し、ダイヤ設定の工夫によるサービスの利便性の向上と併せ、東京〜北海道間の物流においてトラックによる陸上輸送に対しても競争力のある輸送体制を構築した。 この結果大幅に利用率が向上し、モーダルシフトの推進に大きな効果を上げた。このことが高く評価され、同船は「99年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞・日本経済新聞賞」と「シップ オブ ザ イヤー’99」を受賞した。 また、本年7月には、関東地区及び関西地区において、関係者の自主的な取り組みにより、新規利用者のトラック運賃を30%割り引くキャンペーンが実施されるなど、さらなる利用促進に向けた取り組みが行われている。
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1 造船業の現状
運輸省は、昨年6月から8月にかけて、造船業界などの有識者からなる「造船業構造問題研究会」を開催し、造船業全体の視点から、我が国造船業の構造を分析し、2000年代の国際競争市場環境への
対応策を検討した。その結果、我が国造船業が今後の厳しい国際競争を生き抜くためには、大手造船所が多様な需要に対応できるよう経営を統合し、規模のメリットを実現できる複数のリーディング・カンパニーを創設することが望まれる旨の提言を発表した。
その後、業界においても大手造船所の再編に向けた具体的な動きが出てきており、運輸省としても造船業界と意見交換をしつつ、必要に応じ適切な措置を講じていくこととしている。
(2) 中小造船業対策
我が国の物流構造の変化と内航船船腹調整事業の解消等により内航船建造需要が激減し、これを供給している中小造船業が深刻な不況に直面し、需要の低迷は長期に亘ることが見込まれ、このままでは産業基盤を喪失するおそれもある。
しかしながら、中小造船業は、地域経済及び雇用に貢献しているばかりでなく、国内物流改革を推進していくため、市場ニーズの変化に的確に対応した船舶を供給できるようその活性化を図る必要がある。
そのため、中小造船業が早期に厳しい事業環境を克服し活力ある産業として存続できるよう、平成10年7月から平成12年度までに過剰設備能力の削減及び集約化により造船設備の再編成を進めるとともに、技術基盤の強化、新規需要の開拓及び雇用の安定等、各中小造船事業者の活性化を図っていくこととしている。
(3) 国際協調の推進
国際的な単一市場を分け合う世界の造船業の調和ある発展を図るためには、国際協調の推進が不可欠である。我が国は、造船分野のリーディングカントリーとして、OECD造船部会等の場を活用し、造船国間での造船市場動向に関する共通認識の醸成とそれに対応した政策展開の重要性を訴え、世界の新造船需給の安定化及び造船市場における公正な競争条件の確立が図られるよう努めている。なお、造船業における公正な競争条件を確保するため、平成6年にOECDで「商業的造船業における正常な競争条件に関する協定」が作成され、我が国は既に8年に同協定を締結しており、残る未締結国の米国に対する働きかけなど、その早期発効に向けて積極的な取り組みをしているところである。
(1) 産業基盤強化に向けた取り組み
舶用工業事業者が、今後の市場ニーズに対応するとともに、業務の効率化等を通じて強固な産業基盤の確立を図っていくことができるよう、平成11年2月に施行された新事業創出促進法の対象業種に舶用工業を指定し、分社化等による経営資源の有効活用を促進している。加えて、特定産業集積の活性化に関する臨時措置法や平成11年10月に施行された産業活力再生特別措置法に基づく支援措置等を活用し、中核的事業の強化、新製品の開発・新生産システムの導入等の事業革新の促進、産業集積地域における造船関連産業の活性化等に取り組んでいる。
また、造船関連事業者が集積する地域において各地域毎の克服すべき課題や今後のあり方を整理した「地域ビジョン」を策定することにより、基盤強化に向けた各地域の事業者の自主的な取り組みを促進している。
(2) 高度情報化・国際化に向けた取り組み
我が国舶用工業においては、国際競争の激化、舶用機器価格の低迷等により、生産性の向上・経営の効率化への取り組みが課題とされている。その対策として、近年急速に高度化する情報技術の有効活用は効果的である。
運輸省では、造船・舶用工業における情報化に向けた各種取り組みに整合性を持たせ、造船関連産業全体を視野に入れた高度情報化体制の構築を効率的に促進するため、産学官の関係者によって構成される「造船・舶用高度情報化推進委員会」を設置し、関係業界も含めた総合的な連携・総合調整を図っているところである。
これを受けて、情報技術を活用して、設計・技術情報の伝達・交換を高度化するための実験(造舶Web)が、造船・舶用工業事業者間で進められている。
一方、近年造船分野における成長がめざましい韓国、中国といったアジア諸国との今後の国際的な協調関係の構築に向けて、意見交換等を行っている。
(3) 舶用工業における経営安定対策
我が国舶用工業は中堅・中小企業を中心とする多種多様な企業が連携することにより効率的な生産体制を構築してきたが、平成8年秋以降本格化した内航船建造需要の極端な落ち込みは、中小事業者を中心として関係する舶用工業事業者の経営に深刻な影響を与えている。こうした状況に鑑み、中小事業者に対する信用補完措置の強化や雇用の安定のための対策を講じることにより、これら事業者の経営の安定等に取り組んでいる。
1 船員の雇用
外航海運における国際競争の激化や国際的な漁業規制の強化による漁船の減船等により海運業及び漁業の雇用船員数は引き続き減少傾向を示しており、平成11年10月には約11万人と前年同月比約5,000人(4.2%)の減少となった。船員の年齢構成をみると、45歳以上の中高年齢者が49.0%と対前年比2.8ポイントの増加となる等高齢化の傾向は変わらず、海技の伝承の受け皿となるべき若年船員の不足が懸念されている。
一方、平成11年の船員の労働需給をみると、有効求人数は8,246人と対前年比1,120人(12.0%)の減少、有効求職数は57,411人と対前年比6,080人(11.8%)の増加となった。このため、有効求人倍率は0.14倍と対前年比0.04ポイント下降し、現在の船員を取り巻く雇用情勢は引き続き厳しい状況にある。
(2) 船員雇用対策等の推進
(注)STCW条約:1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約
コラム 外国人承認船員の誕生 |
国際船舶における日本人船長・機関長2名配乗体制の実現は、国際船舶のコスト競争力の向上に寄与する画期的な制度として平成9年5月の海運造船合理化審議会報告により提言されて以来、官労使が一体となって取り組んできた課題である。 10年5月、船舶職員法の改正により外国資格の受有者を運輸大臣の承認により船舶職員として受け入れる制度(いわゆる「承認制度」)が創設され、昨年5月に同改正が施行されたことにより、日本人船長・機関長2名配乗体制を可能とする法制度が整備された。11年1月には、同制度に基づき48名の外国人承認船員が誕生し、3月には外国人承認船員の日本籍船への配乗が実現した。 その後も新たに109名の承認船員が誕生しており、今後とも本制度が活用されることにより、国際船舶のコスト競争力の向上が図られ、日本船舶の維持・確保が図られることが期待されている。 |
船員の豊かでゆとりのある生活の実現を図るとともに、魅力ある職場づくりを進め、若年船員を中心とした労働力を確保するため、船員の良好な労働条件の確保と労働環境の改善が求められている。特に、労働時間の短縮については、平成9年4月から週平均40時間労働制が実施(漁船員にあっては、平成13年4月の原則週40時間労働制実施に向け段階的に移行)されているところであるが、未達成の船舶所有者に対しては、強力な監督・指導を行っていくこととしている。
また、法定労働時間の遵守と航海の安全を確保するために、船員労務官による監査等を通じて、船舶の適正な定員の確保に努めている。
(2) 船員災害防止対策の推進
船員の災害発生率(千人率)は、第1次船員災害防止基本計画策定の前年である昭和42年当時に比べて3分の1近くに減少し、引き続き減少傾向にあるが、陸上産業と比較して船員の死亡災害発生率は約7倍と依然として高く、船員の高齢化、外国人船員との混乗化といった労働環境の変化による安全衛生面への影響が懸念されている。このため、第7次船員災害防止基本計画(平成10年度〜14年度)及び平成12年度船員災害防止実施計画に基づき、安全衛生管理体制の整備とその活動の促進、死傷災害防止対策、生活習慣病を中心とした疾病予防対策及び健康増進対策、混乗外国人船員に係る安全衛生対策等の推進を図っている。
1 海上交通環境の整備
11年度には、港湾内の船舶の安全性を確保するため、宮崎港等59港で、防波堤等の整備を行った。また、沿岸域を航行する船舶の安全性を確保するため、下田港等10港の避難港を整備するとともに、関門航路等16航路の開発保全航路の整備を行った。
また、8年12月に策定した「港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針」等に基づき千葉港39港で耐震強化岸壁の整備、新潟港等46港での防災拠点の整備を行ったほか、東京港等7港において既存施設の耐震性の強化を実施した。
(2) 海上交通の安全対策
海上保安庁では、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、12年度に灯台、灯浮標等の航路標識73件の新設及び既設標識の機能向上、船舶気象通報の拡充灯653件の改良改修工事を実施するほか、紙海図の水路図誌の整備、航海用電子海図の整備を進めるとともに、これらの最新維持情報の提供を実施する。
気象庁では、平成11年2月のGMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)の完全実施に伴い、インマルサット衛星を用いたSafety NET報と、海上保安庁のナブテックス放送により、船舶に対する気象予報・警報を発表している。
また、気象庁第1無線模写通報により通報している地上24時間予想図に、従来から表示している等圧線、高低気圧、台風、前線の予想に加えて、平成11年7月より、30ノット以上の強風域、濃霧や船体着氷が予想される領域などの海上の悪天情報を付加している。
コラム 世界測地系海図について |
平成12年4月20日、海上保安庁は、我が国最初の世界測地系海図W1062「東京湾中部」など6海図を刊行した。 地球上の位置を表す経緯度は、これまで各国独自の基準(測地系)を用いてきた。我が国には、日本経緯度原点を基準とした「日本測地系」があり、海図もこれを用いてきた。しかし、近年ではGPSが普及し、人工衛星の観測に基づく「世界測地系」へと国際的に統一されつつあることから、海上保安庁でも、海図の測地系を世界測地系へと順次移行していくこととしている。 日本測地系と世界測地系のズレは、東京付近ではおよそ500メートルもある。全ての海図を世界測地系に移行するまでの期間、測地系の混同による事故を防止するため、海上保安庁が刊行する世界測地系海図の陸地の色を、これまでの日本測地系海図が使用していた「黄茶色」から「灰色」に変更し、一目で測地系の違いが区別できるようにしている。
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平成9年2月改正STCW条約の発効を受け、時代のニーズに即した船員の確保や、社会的な少子化傾向に対応した教育内容の見直しなど教育体制の一層の整備充実を推進する。
(2) 安全運航を支える水先制度
水先は、船舶交通の輻輳する港や交通の難所とされる水域を航行する外国船舶等に、水先人が乗り込み、船舶を安全かつ速やかに導くものであり、自然的条件、船舶交通の状況が特に厳しい港や水域においては、一定の船舶を対象に水先人の乗船が法律上義務づけられている(強制水先制度)。
水先は、自船のみならず多数の他の船舶を含めた安全の確保、海洋環境の保全、港湾機能の維持等に大きく寄与しているが、こうした水先サービスの重要性等に鑑み、運輸省としても、「水先人の免許等に関する検討会」において、海難防止のための安全対策を検討し、今年度より、日本パイロット協会において、水先人のためのBRM(操船者間のコミュニケーションの向上等による海難防止)、航海機器の技術革新への対応等をテーマとした再教育訓練のための総合研修が実施されることとなった。
強制水先制度等については、近年における港湾の整備等を踏まえ見直しが進められている。これまで海上安全船員教育審議会における検討を経て、平成10年7月に神戸区、昨年7月に横浜・川崎区について、それぞれ強制水先対象船舶に係る基準緩和が行われており、現在、関門区について検討が進められている。
(3) 船舶の運航管理の適正化
運航管理については、事業者に対し、運航管理規程の遵守、安全意識の高揚等により運航管理体制の一層の充実及び適正化を図るよう指導している。特に旅客船については、運航監理官による乗船監査・事業所監査、運航管理者研修等を実施することにより運航管理制度の徹底を図っている。
また、12年10月の改正海上運送法の施行に伴い、旅客定員12名以下の船舶による旅客運送等について、運航管理規程の届出等が義務付けられることとなった。
(4) 海難審判による原因の究明
海難審判庁は、海難の発生防止に寄与するため、迅速かつ的確な海難原因の究明に努めている。11年には、9年11月関門港で航行中に衝突した貨物船エイジアンハイビスカス貨物船チューハイ衝突事件など795件の裁決を言渡した。
また、11年12月ベーリング海においてスケソウダラ底引き操業中、大波を受け海水が浸入して沈没し、乗組員等12人が死亡又は行方不明となった漁船第一安洋丸沈没事件については、事件発生後直ちに重大海難事件に指定し、現在審理中である。
小型船舶の多種多様化や保有隻数の増加により、近年の船舶の海難事故に占める小型船舶の割合は増加してきており、船舶全体の約8割に達してきている。また、小型漁船については、操業技術の進展、漁業後継者の減少及び漁場の拡散等の操業の変化を反映し、1人乗り漁船が増加しつつあり、漁船全体の海難事故に占める小型漁船の割合は約9割となっている。このため、平成11年度においては、これらの小型船舶についての事故の原因、形態等の調査、分析を行ったところであり、今後これらの分析に基づき具体的な安全対策を講じていくこととしている。
小型船舶を運航するためには、船舶及び航行区域に応じた資格が必要となる。この小型船舶操縦士資格は、船長としての免許であり、その取得のためには、船舶の安全運航に関する十分な知識・技能が必要となる。また資格取得後においても5年毎の更新が必要であり、更新時の要件としての一定の乗船履歴又は指定された機関が実施する更新講習等が義務付けられており、知識・技能の維持・最新化が図られている。
1 マリンレジャーの振興
近年、国民生活の多様化に伴いゆとりある国民生活の実現が求められている中、プレジャーボートを利用したマリンレジャーに対する国民の関心が急速に高まりつつある。これを裏付けるように、プレジャーボート等舟艇の保有隻数は平成11年度末には約46万隻に達しており〔3−6−6図〕、小型船舶操縦士の免許取得者数についても、毎年着実に増加し、平成11年度末には、約288万人(うち四級及び五級小型船舶操縦士約219万人)に達している〔3−6−7図〕。
これは、水上オートバイやバスフィッシングを目的とした小型ボートなど、多様化する利用者のニーズに対応したプレジャーボートが自動車並みの低価格で市場に登場したことが大きな要因となっている。
また、レンタルボート等の新たなサービスや、移動可能なトレーラーを利用してプレジャーボートを保管・運搬するトレーラーボーティングなど、遊びたい水域でいつでもマリンレジャーを楽しむことができる新たなプレジャーボートの利用形態が出現してきており、今後もマリンレジャーの裾野は一層拡大していくものと思われる。
このような状況において、舟艇産業が健全に発展していくために、運輸省としては、以下のような安全・環境問題に対処した基盤の整備を図る必要がある。
3−6−6図 舟艇保有隻数の推移 3−6−7図 小型船舶操縦士免許受有者数の推移 |
昨年8月、政府全体として、障害を理由に資格の取得を制限する欠格条項の見直しを進めることが方針決定された。障害者による海技免許取得のあり方について、広く国民一般から意見を公募するとともに、学識経験者や医師等から成る「障害者の海技免許取得等のあり方に関する検討会」を開催し、免許取得が可能となる者の範囲の拡大につき検討を進めている。
マリンレジャーが盛んな沿岸部における海難においては、地元住民等による応急的な救助活動が有効な場合も多いことから、各地における民間の救助活動を充実強化することは大きな意義を有している。
(財)日本海洋レジャー安全・振興協会の行う安全・救助事業には、プレジャーボート救助事業(BAN)があり、プレジャーボート等を対象に会員制度の下、会員艇が機関故障等で航行障害となった場合のえい航又は伴走、乗員が行方不明となった場合の捜索等の救助サービスを24時間体制で実施するものである。また、同協会ではレジャー・スキューバ・ダイビング事故に係る応急援助事業(DAN JAPAN)を行っており、会員制度の下、緊急に専門医による治療を必要とする潜水病等の疾病にかかったダイバーに対し緊急ホットラインを整え、応急措置方法や医療機関に関する情報の提供に、24時間体制で対応している。
会員制事業であるBAN、DANの他に、我が国の沿岸部において海難救助活動を行う民間団体としては、ボランティア活動によって海難救助を行う中心的な役割を果たしている(社)日本水難救済会がある。同会の事業及び組織を活用し、救助能力を有するマリーナ等の民間救助勢力を結集して、我が国の沿岸一帯に空白のない救助拠点を整備する必要がある。
海上保安庁においては、上記団体等に対して必要な支援・指導を行うことにより我が国沿岸部おける民間救助体制の整備に取り組んでいる。
(2) 気象情報の提供
気象庁では、マリンレジャーへの利用に資する気象情報として、定時に発表される1週間先までの天気予報、並びに概ね24時間先までのきめこまかい分布予報や時系列予報に加えて、気象状況に応じて台風予報等の気象情報や、波浪、高潮、海氷等の海象に関する情報を発表している。平成11年6月から風向・風速の時系列予報を開始し、代表地点における風向きと風の強さの時間的推移を把握できるようにするなど、予報内容の充実を図っている。
また、防災効果を高めるため、平成12年6月より、気象情報の中で台風や熱帯低気圧について「弱い」や「小型」などの表現をやめるなど、よりわかりやすい情報の提供に努めている。
海洋情報の提供窓口である「海の相談室」では、マリンレジャーの活発化に伴い、愛好者の多様なニーズに応えるため、情報内容の充実を図っている。
(3) 小型船舶に係る安全基準の合理化
これまで、小型船舶について救命胴衣に係る安全基準はその用途・特性にかかわらず一律に適用されてきた。近年、マリンレジャーの普及に伴い、小型船舶の用途・特性が多様化してきているため、小型船舶に義務付けてきた救命胴衣の基準について、着用率増加の観点から、国際的な基準及びユーザーニーズを勘案し、色の制限を撤廃する等の見直しを行った。
国民が誇りを持てる美しい国作り、あらゆるライフステージを通じ、誰もが豊かさを実感できる国民生活の基盤形成、地域の多様性のある個性豊かな発展など、「ゆとりある生活、豊かな社会」の構築が21世紀の我が国の課題であり、その中でマリンレジャーが大きな役割を果たすものと期待されている。このため、運輸省としては、地域や業界による取り組みを後援することにより、マリンレジャーが「気軽に、楽しく、安心して遊べる」レジャーとして国民から認知されるよう努めているところである。
(2) 安全の確保及び秩序形成のための啓蒙