第7章 21世紀における港湾・海岸

第1節 21世紀における港湾の整備・管理

1 港湾を取り巻く経済社会情勢の変化と港湾審議会答申

 近年の経済のグローバル化の進展や環境の保全に対する国民意識の高まり等により港湾を取り巻く経済社会情勢や港湾行政に対する要請が大きく変化している中で、港湾が国際競争力を備えた活力ある社会の構築や国民生活の安定等に引き続き貢献していくためには、効率的・効果的な物流体系の構築の要請や環境の保全・創造に対する国民意識の高まり等に対応した、新たな港湾行政の展開を図っていく必要がある。
 このように港湾行政が転換期を迎えている中で、港湾行政全般にわたる約1年間の検討を経て、平成11年12月に港湾審議会答申「経済・社会の変化に対応した港湾の整備・管理のあり方について」がとりまとめられた。同答申では、21世紀の港湾行政の進むべき方向として、1.全国的・広域的視点からの取り組みの強化、地域の主体的な取り組みの強化、2.環境の保全・創造のための取り組みの強化、3.港湾行政の透明性、効率性等の向上の4つの方向が示され、それぞれ具体的施策が提言されている。
 今後は、これらの提言や後述する港湾法改正を踏まえ、様々な角度から、新たな港湾の整備・管理の展開を図っていくこととしている。

2 港湾法一部改正の経緯及び概要

 港湾審議会答申における施策提言を受けて、全国的、広域的な視点から港湾の効率的、重点的な整備とその適正な管理運営を推進するとともに、港湾における環境施策の充実を図ること等を主要な内容とする「港湾法の一部を改正する法律案」が第147回通常国会に提出され、本年3月31日に成立・公布された。改正の主なポイントは以下のとおりである。

(1) 効率的、重点的な港湾整備と適正な管理運営の実現

 重要港湾等の適切な指定を行うため、海上輸送網の拠点という観点からその定義を明確化したほか、国にとっての重要度を反映した港湾整備を図るため、国の利害に重大な関係を有する施設として国が実施する岸壁、航路等の工事費用に対する国の負担割合を引き上げる等国庫負担率の見直しを行った。また、港湾間の広域的連携により港湾機能の総合的な向上を図るため、運輸大臣が定める基本方針の記載事項に、港湾相互間の広域的な連携の確保に関する事項を追加することとした。なお、重要港湾の定義の明確化にあわせ、海上輸送ネットワークの形成の観点から現行の重要港湾の役割について総合的評価を実施し、これを踏まえて、6港を重要港湾から地方港湾に変更するための政令改正を12年3月に行った。
 さらに、基本方針については、現在、港湾相互間の広域的連携の確保及び後述する環境の保全に関する事項を追加するため、年内を目途にその変更作業を進めている。

(2) 港湾に関する環境施策の充実

 環境の保全に配慮しつつ港湾の整備等を図る旨を法目的に明記するとともに、基本方針の記載事項に港湾の開発等に際し配慮すべき環境の保全に関する事項を追加することとした。この改正を踏まえ、干潟や藻場をはじめとする環境創造の推進等に向け、より幅広く、かつ効果的な取り組みを推進することとしている。

(3) 放置艇対策の充実

 近年様々な問題が顕在化している放置艇の対策として、港湾区域のうち港湾管理者が指定した一定区域内における船舶の放置等を禁止するとともに、港湾管理者が撤去保管した所有者不明の放置艇等について、その売却、廃棄等の処分を行うことができることとした。

第2節 物流コストの削減に資する港湾整備の推進

1 物流コストの削減に資する港湾整備

 臨海部に人口・資産が集中し、海に囲まれた我が国の特性を最大限活用するため、海上輸送の安全性と効率性を高めた海上ハイウェイネットワークを構築し、物流の効率化を図る。

(1) 国際海上コンテナターミナルの拠点的整備

 基幹航路に就航する大型コンテナ船の我が国の港湾への寄港を可能とすることによるスケールメリットを活かした物流コストの削減を図るため、水深15m級の大水深コンテナターミナルの拠点的整備を3大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)及び北部九州の中枢国際港湾において緊急実施しており、平成12年度中に14バースが供用される予定である。
 また、3大湾への長距離陸上輸送を強いられている地方圏を発着とする貨物の物流コストの低減を図るため、一定量の国際海上コンテナ貨物の集積が期待できる全国8地域の中核国際港湾において、水深14m級を中心とした国際海上コンテナターミナルの拠点的な整備を進めている。

(2) 多目的国際ターミナルの整備

 外貿貨物量の85%は、工業原材料や飼肥料、エネルギー資源等のバラ貨物を中心としたコンテナ以外の貨物が占めている。これらの貨物は重量や容積が大きく陸上輸送コストがかさむことから、地域の輸送需要や隣接港湾間の距離等を勘案し、多様な荷姿の外貨貨物を取り扱う多目的国際ターミナルの拠点的な整備を進めている。
 これにより、輸送船舶の大型化にも対応しつつ陸上輸送距離の短縮も可能になる等、輸送コストの削減を図っている。

(3) 複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの拠点的整備

 大量輸送に適し、エネルギー効率に優れた内航海運の特性を踏まえると、港湾と内陸部を接続する道路の整備といったハード面の施策や内航海運に係る規制緩和等のソフト面の施策とも連携しつつ、海・陸の複合一貫輸送を推進することにより、物流コストの削減を図ることが重要である。このため、貨物の発着地からトラックで概ね半日で往復できることを目標にフェリー、RORO船等に対応した内貿ターミナルの拠点的な整備を進めている。

(4) 総合輸入ターミナル等の整備

 増大する輸入貨物に対応するとともに、物流コストの削減を図るため、中枢・中核国際港湾や輸入促進地域(FAZ)等において、保管・荷さばき・流通加工を効率的に行う機能に加え、展示・販売機能や情報処理機能等の複合的かつ高度で効率的な機能を有する総合輸入ターミナル等の整備を進める必要がある。
 このため、港湾の利用の高度化を図るための施設等に対して、「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法(民活法)」等に基づき資金の融通や税制上の特例措置等の支援を行っている。
 12年7月には、新たに北九州港において小倉国際流通センターが供用開始され、現在全国15港で総合輸入ターミナルが供用されている。

横浜港流通センター(Y-CC)
横浜港流通センター(Y-CC)

2 効率的・効果的な港湾整備の促進

(1) 投資の重点化

 厳しい財政状況下において、我が国の活力の維持・発展のために必要な社会資本である港湾を適切に整備していくため、重要港湾の指定の見直しや国庫負担率の見直しに加え、以下の2つの側面から投資の重点化を推進し、投資効果を高めている。

(ア) 重点施策への重点投資〔3−7−1図〕
 産業の国際競争力を強化する物流ネットワーク形成に資する国際海上コンテナターミナルの整備、切迫する廃棄物問題に対応する廃棄物海面処分場の整備等の重点施策に対する重点投資を実施する。
(イ) 工事実施港数・箇所数の絞り込み〔3−7−2図〕
 緊急性、投資効果の高い事業に予算を重点配分し、プロジェクトの早期供用、投資効果の早期発現を実施する。
 地方港湾の事業実施港数の削減は平成7年から、重要港湾の実施箇所数の削減は9年度から進めており、12年度予算では、前年度に対しそれぞれ15港、30箇所削減することにより、当初13年度としていた削減目標(地方港湾で約300港、重要港湾で約1,000個所)の達成年次を1年繰り上げて達成することとした。

3−7−1図 重点施策への重点投資
3−7−2図 工事実施港数・箇所数の絞り込み

(2) 事業の透明性の確保

 事業の新規採択に当たっては費用対効果分析を行うとともに、継続事業について再評価システムを導入することとし、事業の透明性、客観性の確保に努めている。
 また、事業実施後の評価の手法についても検討を行っている。

(ア) 事業の再評価〔3−7−3図〕
 「運輸関係公共事業の再評価実施要領」に基づき、再評価を実施した。その結果、12年度は1事業について中止、4事業について休止、2事業について施設規模の見直しを行うこととなった。
(イ) 費用対効果分析の実施
 費用対効果分析による事業の透明性・客観性を確保するため「運輸関係公共事業の新規採択時評価実施要領」に基づき、全ての新規要求事業について、新規採択時評価を実施している。
(ウ) 事業実施後の評価
 事業実施後の評価について一部試行を行った。この試行結果等を踏まえ、事後評価の早期導入に向けて評価手法の検討を進めている。

3−7−3図 中止・休止及び見直しをする事業の港湾位置図

(3) PFIによる民間事業者の資金や能力の活用

 民間事業者の資金等を活用し、港湾空間の機能の高度化や面的開発を推進するため、PFI(Private Finance Initiative)などの新たな手法を取り入れることとしている。
 12年度より、公共コンテナターミナルの利用効率の向上を図るとともに、民間事業者の資金やノウハウをより積極的に活用するため、中枢・中核国際港湾のコンテナターミナルにおいてPFIにより整備される公共荷さばき施設等に対し、無利子貸付金、税制特例等の支援措置を行うこととした。
 常陸那珂港において、12年6月より事業が開始され、北九州港においても現在、PFI法に基づいて手続が進められている。

(4) 他の施策との連携

 効率的な総合交通体系の構築、地域活性化等の共通の政策課題への対応のため、他の施策・事業と連携することにより、「国際交流インフラ推進事業」「複合一貫輸送推進インフラ事業」「みなとづくりとまちづくりの連携」といった総合的な施策を推進している。
 また、13年度に向けて、事業の効率化を高めるため、省庁間・各局間の枠を越えた連携の一層の強化を図る。

(5) 港湾関係事業における建設コスト縮減対策の推進

 9年4月に策定された政府による「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」及び「運輸関係公共工事コスト縮減対策に関する行動計画」に基づき、設計法の見直しやリサイクル材の活用など各種の取り組みを推進した結果、港湾関係事業(国の実施分)においては数値目標である10%のコスト縮減を概ね達成した。
 12年度以降においても、これまで実施してきた施策の定着を図るとともに、新たな施策の導入を図るなど政府全体の取り組みと連携しながら、引き続き建設コスト縮減対策を積極的に推進することとしている。

3 効率的・効果的な港湾整備を支える港湾技術の開発と技術基準の国際調和

(1) 効率的・効果的な港湾整備を支える港湾技術の開発

 「大型構造物の建設コストの縮減」を8年4月に策定した「港湾の技術開発五箇年計画」の重点テーマの一つとし、防波堤等の建設コストを10%以上縮減することを目的とした技術開発を推進している。
 例えば、岸壁や防波堤などの港湾構造物ではコスト縮減を目的として、新構造形式の開発、信頼性設計法(確率の考え方を取り入れた設計法)の適用技術の開発、計画・設計・施工・維持管理等総合的な観点からのライフサイクルコストの評価技術の開発を進めている。
 また、港湾サービスの向上、機能の高度化、物流の効率化を目指して、「次世代港湾システムの開発」に関する調査を11年度より実施している。具体的には、物流情報の高度化・統合化、自動化技術の導入及び次世代海上交通システムへの対応による入出港支援システム、自動式高能率コンテナバース、高能率荷役RORO・フェリーシステム等の検討を進めている。
 テクノスーパーライナー(TSL)については14年度運行開始に向けて、港湾側の対応として係留方法、TSL対応ランプウェー等の技術開発を進めている。

(2) 効率的・効果的な港湾整備を支える技術基準の国際調和

 近年、国際標準化機構(ISO)において、国際規格の整備が進められており、その範囲も製品規格にとどまらず、構造物の設計法等の方法規格や生産管理等のシステム規格へと広がっている。また、ヨーロッパの地域規格を制定する機関であり、ISOに強い影響力を持つ欧州標準化委員会(CEN)においては、土木構造物も含む構造物全般を対象とした規格(Structural Eurocode)の策定が進んでおり、今後国際規格のベースとなることも想定されている。
 これらの規格は、確率概念を取り入れた設計法である信頼性設計法を基礎として構成されており、今後は、世界的に土木構造物への信頼性設計法の適用が進展すると考えられる。現在、港湾施設を対象とした技術基準には、一部信頼性設計法の考え方が取り入れられているが、今後はその適用範囲を広げることで、より合理的な設計が可能となるよう、技術的検討を進めていくことが必要である。
 このため、港湾分野に関連した国際規格を対象に、技術的観点から内容の検証と対応策の検討を進めるとともに、関連省庁や学会等とも連携を図りつつ、技術基準の国際調和に向けた取り組みを行っている。

4 物流効率化のための国際連携の推進

 港湾政策を通じて国際物流体系の効率化を図るため、近隣アジア諸国を中心とする国々との協調・連携を積極的に進めている。
 具体的には7年度から日韓の港湾局長が港湾を取り巻く様々な課題について広範に意見交換を行っており、日韓港湾局長会議を毎年日韓交互に開催し、9年度からは、同会議と合わせて港湾技術シンポジウムを開催している。さらに、12年度からは、中国の参加を得て同会議を「北東アジア港湾局長会議」に、シンポジウムを「北東アジア港湾シンポジウム」に拡大し、その第1回会合が12年9月に日本で開催された。
 また、APEC運輸ワーキンググループにおいて、8年度に我が国が議長国となって設立した港湾専門家会議では、APEC域内の港湾の能力と効率性を改善するための共通課題の抽出及び行動計画の作成を行うことを目的として港湾開発等の6つのテーマについて作業を行っている。さらに、APEC域内港湾の港勢データやサービス案内にインターネットを通じてアクセスできる港湾データベースが運用中であり、機能とデータの充実が進められている。その他、コンテナ船の大型化に対応した港湾開発の方針、港湾管理運営における民営化の影響等が12年春の会合までに取りまとめられ、12年秋の会合では、その成果を踏まえて次の段階の検討を行った。

第3節 港湾の効率的な利用の推進

1 港湾運送事業の構造改革の推進

 港湾において荷役業務を行う港湾運送事業については、港湾運送事業法により事業免許制及び料金認可制が定められ、港湾運送の秩序の維持、安定的な荷役作業の提供、我が国経済の発展に一定の役割を果たしてきたが、経済社会が変化する中で、事業者間の競争が生まれにくく利用者の求めるサービスが提供されにくいという面が顕在化するなど、我が国港湾の活性化を阻害する要因となってきたことも事実である。
 このため運輸省は、運輸政策審議会答申(平成11年6月)を踏まえ、12年2月、港湾運送事業法の一部を改正する法律案を国会に提出し、同法案は、同年5月11日に成立、同17日に公布されたところである(施行は11月1日)。この制度改正は、事業者間の競争が促進され、事業の効率化や船会社、荷主のニーズに応じたサービスの提供が可能になること、将来にわたって我が国港湾において東アジアの主要港に伍して効率的な物流サービスが提供されることを目的としているものであり、主要9港における規制(事業参入規制、運賃・料金規制)の見直し、港湾運送安定化のための措置(不当な競争を引き起こすおそれがある運賃・料金についての変更命令制度、欠格事由の拡充、罰則の強化等)等を内容としている。
 今後、我が国港湾運送事業について競争の促進や集約・協業化等による事業規模の拡大が進み、ひいては事業の効率化や、日曜、夜間荷役のより柔軟な実施等、港運サービスが向上することが期待される。

2 港湾における情報化の推進

(1) 港湾EDIシステムの充実

 近年、アジア諸国を含め、海外主要港においては、船舶の入出港時に必要な港湾諸手続の電子情報交換(EDI)化が急速に進展している。
 我が国においても、9年4月に閣議決定された「総合物流施策大綱」において、「港湾諸手続のペーパーレス化、ワンストップサービスの実現を目指す」こととされたことを受け、港湾諸手続の情報化に向けた取り組みが本格化してきている。11年10月には全国の主要な港湾管理者・港長の参加のもと、港湾管理者・港長に係る入出港手続をEDI化するための港湾EDIシステムが稼働開始した。
 今後は、申請者の利便の一層の向上を図るため、港湾EDIシステムの対象業務の拡大等の更なるペーパレス化及び海上貨物通関情報処理システム(Sea‐NACCS)等とのワンストップサービス化の早期実現を目指していく。

(2) 港湾におけるITの活用

 近年、企業活動におけるジャスト・イン・タイムによる流通方式への対応、国際輸送の迅速性の向上が強く望まれており、グローバルな観点での物流の高度化を図ることが求められている。
 また、地球環境への関心が高まる中で、貨物輸送などの運輸部門においても環境への影響の低減が強く求められており、海陸一貫輸送の円滑化によるモーダルシフトの促進などの対応が必要となっている。
 このような状況を踏まえ、港湾を中心とする海陸のインターモーダル物流の円滑化、一貫した物流情報の把握による輸送管理の高度化を目指す「海陸一貫物流情報システム(海のITS)の調査研究」を12年度より実施している。また、ITの活用により、ITS(高度道路交通システム)、AIS(自動船舶識別システム)等の実用化や個別事業者毎に整備されてきたシステムとの連携等を視野に入れたシステムの開発を進めている。

3 施設使用料の抑制、引き下げ

 公共岸壁の係留施設使用料については、平成9年5月から主要8大港等において使用料金を算出する際の基本時間単位を24時間から12時間(一部の港湾においては6時間等さらに短時間化)に変更し、使用料の抑制に努めており、同様の措置は、12年6月現在、重要港湾128港の内82港において実施されている。
 また、神戸港、名古屋港、横浜港、大阪港においては、初入港外航船や新規定期航路第一船に対する入港料、係船岸壁使用料の減免措置を実施することにより新たな航路の誘致に努めているところであり、さらに横浜港においては、日曜に着岸し月曜に荷役を開始した外航コンテナ船に対し日曜日分の係船岸壁使用料を免除し、東京港、名古屋港においては、日曜荷役を行う外航コンテナ船に対し入港料を免除している。
 その他、ガントリークレーンの使用料の基本時間単位の変更(1時間→30分(神戸港、博多港、東京港、名古屋港、大阪港))や、内航フィーダー船に対する使用料割引(横浜港、博多港)等主要港を中心に様々な措置が講じられている。
 港湾諸料金の抑制、引き下げは港湾利用を促進していくための重要な課題であり、運輸省としても引き続き支援していくこととしている。

第4節 安全で豊かな暮らしを支える港湾空間の形成

1 国民生活の質を向上させる港湾整備

(1) 親しみやすいウォーターフロントの創造

 全国の港湾において、親しみやすいウォーターフロント空間の形成をめざし、港湾緑地、マリーナ、交流・賑わい施設などの整備を相互に連携を図りつつ総合的に推進している。
 港湾緑地は、港湾活動からの影響の緩和や港湾就労者等の休息の場、防災拠点の形成、生物・生態系等自然環境への影響の緩和や生息環境の創出の促進等の役割を有している。加えて、人々が自由、安全かつ快適に港湾に行き、水辺の魅力を楽しむことのできる空間(パブリックアクセス)を確保することも重要な役割となっており、このための整備を推進している。
 また、整備の促進を図る必要のある再開発関連等の港湾緑地については、国庫補助事業と地方単独事業により一体的に整備する「港湾緑地一体整備促進事業」、歴史的に価値の高い港湾関連施設の保存及びその積極的活用を図る「歴史的港湾環境創造事業」、港湾の特色を生かした個性的で美しい景観形成を目的とした「港湾景観形成モデル事業」、港湾整備と市街地整備とを連携させつつ一体的な整備を進める「みなとづくりとまちづくりの連携」などの施策を推進している。
 さらに、活力と賑わいのある豊かなウォーターフロント空間の形成及び港湾を中心としたまちづくりや地域の活性化を図るため、昭和61年の「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法(民活法)」、62年の「民間都市開発の推進に関する特別措置法(民都法)」の制定以来、民活事業によりパシフィコ横浜国際会議場や大阪港の海遊館、博多港のベイサイドプレイスなど、全国で約150のプロジェクトが推進されてきた。平成11年度には、神戸港のシーガルハーバー、横浜港のワールドポーターズが、また12年10月には松山港において新しい旅客ターミナル施設が供用を開始するなど地域の活性化の核となる交流施設の整備が進められ、多くの人々で賑わっている。

(2) 環境と共生する港湾−エコポート−の形成

 港湾における環境整備については「環境と共生する港湾(エコポート)の形成」を目標に、水質・底質を改善する浚渫や覆砂、干潟の創造、緑地の整備などを推進するとともに、必要な技術開発に取り組んでいる。
 これまでの取り組みに加え、生物・生態系にも配慮し、多様な機能を有する干潟・藻場の積極的な創造を図ることとし、12年度から、名古屋港、水島港において干潟の整備に着手した。
 また、これらの取り組みを制度面においても充実させるため、12年3月の港湾法の一部改正において、法目的に環境の保全に配慮しつつ港湾の整備等を図る旨を明記するとともに、基本方針の記載事項に港湾の開発等に際し配慮すべき環境の保全に関する事項を追加している。

3−7−4図 干潟の機能

(3) 深刻な廃棄物処分問題への対応

 近年、内陸部における廃棄物最終処分場の確保が困難なことから、海面での最終処分場の確保が求められており、港湾の開発、利用及び保全との整合を図りつつ、廃棄物海面処分場の整備を進めている。
 また、大阪湾では、広域臨海環境整備センター法に基づき、2府4県168市町村を対象とした広域廃棄物海面処分場の整備を進めており、現在、尼崎沖及び泉大津沖処分場での廃棄物の処分並びに神戸沖処分場の建設が行われている。12年3月には、大阪沖処分場の建設に向けて、基本計画変更の厚生・運輸大臣認可がなされたところである。

(4) プレジャーボートの係留・保管施設整備の推進

 プレジャーボート需要の増大を背景にして、港湾等における放置艇問題が顕在化している。8年度に実施した3省庁共同(運輸省、水産庁、建設省)の実態調査によると、全国の港湾・漁港・河川で20.8万隻のプレジャーボートを確認し、そのうち13.8万隻(66.6%)が放置艇であった。放置艇は、公共水域の適正利用、災害・安全対策、地域の環境保全対策等の点で深刻な問題を引き起こしており、早急な対応が必要になっていることから、9年度より運河、水路等既存の静穏水域を活用した簡易な係留施設(ボートパーク)〔3−7−5図〕の整備を進めるなど、係留・保管能力の向上に努めている。
 また、運輸省、水産庁、建設省の3省庁共通の基本方針や今後の取り組むべき政策について10年3月に「プレジャーボート係留・保管対策に関する提言」を取りまとめ、規制措置と係留・保管能力の向上とを両輪とする施策を推進している。12年3月の港湾法の一部改正では、港湾区域のうち港湾管理者が指定した一定区域内における船舶等の放置等を禁止するとともに、港湾管理者が撤去・保管した所有者不明の放置艇等について、売却等の処分を行うことができることとなった。さらに、12年6月には「プレジャーボートの所有者特定制度と保管場所確保の義務化に関する提言」について中間報告が取りまとめられ、これを受けて小型船舶を対象とする登録制度等の実現に向けてさらなる検討を進めている。

(5) 港湾のバリアフリー化の推進

 12年5月の「交通バリアフリー法」の公布により、旅客船ターミナル・岸壁等におけるバリアフリー化への取り組みが一層促進されることが期待されている。港湾においては、他の旅客施設と比較して、波浪の影響による浮桟橋の動揺や、潮位差による通路の勾配の変化等の特有の要因が存在することから、これらの要因を考慮しつつ、ハード、ソフト両面での適切なバリアフリー化を図っていくことが必要である。

2 臨海部空間の有効活用の推進

 産業構造の転換や荷役形態の変化、施設の老朽化等により、3大湾を中心とする臨海部において、低未利用地や利用の転換が見込まれる用地が発生している。
 これらの用地の有効活用を図り、産業競争力の強化や新たな雇用創出による地域の再活性化、継続的な発展等に資するためには、港湾が本来有している特性を活かして、潤いある生活・交流空間や効率的な港湾物流空間、リサイクル産業等の新たな産業のための空間等として再編していくことが必要である。
 このため、港湾管理者、地方公共団体、事業者等官民一体となった取り組みの下で、再編計画が策定できるよう12年度より策定する際に要する費用の一部を港湾管理者に対し補助することとした。また、港湾整備事業や民活事業等を重点的・総合的に適用すること、及び低未利用地の暫定的な土地利用の検討や新たな産業の創出に相応しい周辺環境の整備等を行うことにより、臨海部の活性化の推進が図られるよう積極的に支援していく。

3−7−5図 ボートパークのイメージ
3−7−5図 ボートパークのイメージ

第5節 安全で、美しく、いきいきした海岸づくり

1 改正海岸法の施行と海岸保全基本方針の策定

 近年、海岸においては、生態系の保全に対する関心の高まりや油濁事故による汚損の問題等が顕在化しており、防災の観点のみならず、環境の保全と海岸の利用が調和した総合的な海岸の管理を行うことが重要になっている。また、海岸行政における国と地方の役割分担の明確化、地域の意見の反映といった点についても、従来以上に強く求められてきている。
 このような新しいニーズに対応するため、平成11年5月、海岸法を改正し、防護・環境・利用の調和のとれた総合的な海岸管理のための制度を創設するとともに、法の対象となる海岸の拡張、海岸保全に関する計画制度の見直し、海岸の日常的な管理への市町村の参画の推進等を行うこととした。
 改正海岸法は12年4月に施行され、同法に基づき、国(運輸大臣、農林水産大臣及び建設大臣)は、海岸の保全に関する基本的な方針を同年5月に策定し、公表した。同基本方針においては、1.国民共有の財産として良好な海岸を次世代へ継承し、地域の特性を生かした海岸づくりを目指すこと、2.津波、高潮等の防護については、施設の整備によるハード面の対策だけでなく、適切な避難のための迅速な情報伝達などのソフト面の対策も合わせて講ずること、3.侵食が進行している海岸にあっては、砂の移動する範囲全体において、土砂収支の状況を踏まえた広域的な視点に立った対応を適切に行うこと、4.海岸環境に支障を及ぼす行為をできるだけ回避しつつ、喪失した自然の復元や景観の保全も含め、自然と共生する海岸環境の整備と保全を図ること、5.全国の海岸を71沿岸に区分して、都道府県知事がその沿岸毎に、複数都道府県にまたがる場合は共同で海岸保全に関する基本計画を策定すること等を定めている。

2 安全で豊かな海辺の創造

 わが国の海岸の総延長は約35,000kmに及び、海岸背後に守るべき生命・財産が集中しているなど、国土の中でも重要な空間である。しかしながら、堤防や護岸等の海岸保全施設の整備により防護する必要のある海岸の延長約16,000kmのうち、整備が十分な海岸はわずか約6,500km(整備率41%、7年度末)にすぎず、今後とも計画的な海岸の整備が必要である。このため、第6次海岸事業七箇年計画においては、施設整備率を14年度末に48%まで引き上げることを目標として、整備を進めている。
3 着実な海岸事業の実施

(1) 国民の生命・財産を守り、国土保全に資する質の高い安全な海岸づくり

 高潮対策、侵食対策を着実に推進するため、堤防、護岸、離岸堤などの海岸保全施設を面的に配置し、海岸災害に対しねばり強く、海岸へのアクセスや景観等にも優れた面的防護方式による「ふるさと海岸整備事業」を三重県津松阪港等28海岸において推進している。
 また、防災機能の高度化を緊急に図るため、水門等の遠隔操作化の整備を行う「海岸保全施設緊急防災機能高度化事業」を東京港等3海岸で、津波の危険性が高い沿岸において、水門等の一元的監視制御及び防災情報の収集・提供等を行う「津波防災ステーション」を北海道霧多布港等4海岸で、実施している。
 また、特に人口・資産の集積する都市等において、海岸保全施設の耐震強化など防災機能の高度化を図るとともに、周囲の土地利用等と調和した親水性の高い高質な海岸づくりを推進する「都市海岸高度化事業」を大阪府堺泉北港等8海岸において、また、港湾等の浚渫土砂を活用し、侵食海岸で養浜を行い、美しい渚の復元を図る「渚の創生事業」を高知県奈半利港等4海岸で、実施している。

(2) 自然と共生を図り、豊かでうるおいのある海岸づくり

 海岸は、優れた自然的な価値を有し、地球環境の保全の観点からも重要な空間である。このため、海生動植物の生態や周辺の自然景観に配慮した「エコ・コースト事業」を広島県竹原港等19海岸で、白砂青松の創出を図るため、治山事業と連携した「自然豊かな海と森の整備対策事業」を新潟港等8海岸で実施している。

(3) 利用しやすく親しみのもてる美しく快適な海岸づくり

 海岸は、海洋性レクリエーション等多様な活動が行われているとともに、地域の生活・環境面でも重要な役割を果たしている。このため、マリーナ等と連携した高度で多様な活動のできる人工ビーチの創出を図る「ビーチ利用促進モデル事業」を宮崎県宮崎港等10海岸で、厚生省と連携し福祉施設や健康増進施設等の整備と一体的に進める「健康海岸事業」を広島県鮴崎港等5海岸で、また、文部省と連携し野外教育、環境教育等に利用しやすい海岸づくりを行う「いきいき・海の子・浜づくり」を青森県川内港等14海岸で実施している。

コラム  新潟西海岸侵食対策事業 〜にいがた夢海岸の創出〜
 従来、海岸の整備といえば、荒波を防護するコンクリートの頑丈な堤防が延々と続くイメージがあったが、これでは、折角の美しい海に市民が親しみ、憩いを求めることができる大切な場所が失われてしまう。このため、近年では、沖合に設置する離岸堤(潜堤)や、海岸から沖に向かう突堤、砂浜などを組合せた面的防護方式による海岸整備が全国の各地で進められている。
 新潟西海岸は、信濃川からの流出土砂の減少などにより、明治後半以降海岸線が最大350m後退した日本でも代表的な侵食海岸であり、様々な対策が行われてきたが、侵食を止めるには至らなかった。そのため、昭和62年度より、海岸地形を安定的で持続的に防護、維持するとともに、市民に愛される憩いの場となる「にいがた夢海岸」をめざして、国の直轄事業として、面的防護方式による整備を推進している。
 平成12年7月20日の「海の日」から、第2突堤の一般開放が開始され、砂浜から約200m先の展望スペースまでのウォーターフロント空間は、散策・釣りなどの憩いの場として市民に広く親しまれている。
 また、毎夏開催され、すっかり恒例になった「にいがた夢海岸フェスティバル」では、潮干狩りをはじめ、アサリ汁の無料サービス、シーサイドクルーズなどのイベントが催され、たくさんの市民が夏の夢海岸を楽しんでいる。

新潟夢海岸フェスティバル 海岸の様子

4 効率的・効果的な海岸事業の実施
 海岸事業を効率的・効果的に進めるため、1.事業実施箇所の絞り込み(現七箇年計画期間内に2割程度の削減を目標とし、平成11年度に概ね達成した)、2.省庁間の枠を越えた連携、3.新規規着工海岸の採択等に当たっての費用対効果分析の実施、4.再評価による継続事業の見直し、5.建設コスト縮減への積極的な取り組み等を推進している。

都市海岸高度化事業により遊歩道を一体的に整備した東京港海岸
都市海岸高度化事業により遊歩道を一体的に整備した東京港海岸