序 変革期にある輸送構造

  近年,国内輸送においても国際輸送においても貨物,旅客ともに非常に大きな構造変化を示しているが,その原因は経済の高度成長と産業構造の高度化にあるといえよう。
  輸送構造の変化は,輸送対象,輸送経路,輸送手段の変化と,これに対応する運輸事業の変化として把握される。
  まず,貨物輸送に注目すると,国内輸送の面では,第2次産業の比重の増大,工業における重化学工業化という産業構造の高度化と,その進行過程での建設工事の活況により,輸送品目では工業品とくに重化学工業品および建設資材の増加,地域的には太平洋岸ベルト地帯への輸送需要集中,輸送機関では自動車輸送の急増という形で構造変化があらわれている。
  国際輸送の面では,世界の貨物輸送構造の変化は,まずエネルギー構造の変化による石油輸送の増大と,これを輸送するタンカーの大型化であり,さらに鉄鉱石,石炭等の輸送における専用船化をあげることができる。上記の世界的傾向のほかに,わが国では,産業の重化学工業化に対応して,鉄鉱石,石油,石炭等工業原材料および燃料の輸入が急増し,その積取先が遠く南米,アフリカにまで及んで輸送距離がしだいに延びているという構造変化がみられる。
  つぎに旅客輸送においては,経済の高度成長とこれに伴う消費生活水準の上昇,都市の巨大化等により,旅客の内容では通勤・通学旅客の増大と観光旅行の隆盛,地域的には大都市地域の輸送需要増大と太平洋岸ベルト地帯に集中する旅客流動,交通機関では自動車および航空機利用客の増大という形で構造変化がみられる。
  このような変化の過程で,輪送技術の革新が行なわれたが,輸送を担当する事業の経営構造もまた変動をみつつある。その主なものは,経営規模拡大化の傾向,大企業の運輸事業が同業種事業の合併・系列化または異業種業界への進出と系列化を行なう傾向,製造工業等大資本地産業における系列運輸会社の新設または既存運輸会社の系列化などによつて。運輸事業が特定荷主に専属化する傾向,および中小企業同志の合併または事業協同化の動きである。
  一方,最近のわが国における労働需給ひつ迫は運輸事業にも種々困難な問題をなげかけている。
  この間,急増し,かつ構造の激変した輸送需要をまかなうに当つては,可動施設の増強が中心となつていて,基礎施設の整備は遅れていた。今日この弊害が可動施設と基礎施設との不均衡として,都市交通における通勤・通学輸送のひつ迫,路面交通の渋滞,国鉄幹線輸送の行き詰り,主要港湾のあい路化等の形であらわれ,さらには交通事故の激増を招く一因ともなるに至つた。