むすび

  われわれは,第1部において,最近の経済成長と産業の高度化に対応して輸送構造が変化し,また,輸送力が増強されてきたが,その間にあつて種種のひずみが生れたことをみてきた。
  このひずみは,輸送基礎施設不足の形で端的にあらわれてきた。すなわち,輸送力増強が可動施設を中心に行なわれて,基礎施設がそれに追いつかなかつたため,その不足が目立つようになつてきた。
  この現状を打開するため,最近に至り相当改善の手は打たれてきているが,なお増大する輸送需要をまかなうには十分でなく,今後社会資本を始めとする交通投資を早急に拡大する必要がある。
  現在の首都圏を始めとする大都市は今やマンモス化して過度集中の弊害を大きくみせており,国民生活の基盤をなす運輸の面から見てもこの弊害はいちじるしい。今後,産業政策,国土開発計画,都市計画等を樹立するに当つては,交通政策の観点から考慮すべき問題が数多い。
  運輸を担当する企業については,輸送需要の増大と質的高度化に対応して,自らの企業基盤を強化することが望まれる。ことに労働力需給のひつ迫化の傾向は運輸事業にも及んでおり,この面からも企業の近代化が強く要請される。
  これまでに述べたような諸問題に立脚して将来の輸送を考えるにあたつては,輸送需要の量,質両面にわたる動向を科学的に調査予測して将来の輸送需要を的確に把握し"これにもとづいて各輸送機関のもつ諸特性,諸機能が十分発揮され,国民が要求する安全・低廉な輸送サービスが提供されるようにすることが必要である。
  第2部においては,眼を国際収支改善のための努力に向けてきた。
  開放体制に移行した現在,わが国をとりまく国際環境はきびしく,運輸関係の部門にあつてもそのきびしさは例外でない。この間にあつて,わが国経済存立の要件としての国際収支を改善するためには,輸出の振興とならんで貿易外収入の増大を図る必要があり,その大宗をなしている外航海運,国際航空、国際観光について飛躍的な改善がはかられなければならない,そのためには国際競争力をいつそう強化するため各般の施策が従来に増して進められる必要がある。また,貿易収支改善の面では,船舶,車両の輸出がになつている役割は大きく,輸出競争力の強化のための努力が一段と推進されなければならない。


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