第2章 内航海運

  わが国国内輪送は,その地理的な条件から,海上輸送に対する依存度が比較的に高いことがその特色となっている。とくに貨物輸送において内航海運は,国内総輸送活動量の44%を占め,国内輸送機関の中でもつとも大きなものとなっている。しかも輸送する貨物は,原材料などの産業基礎資材が中心であり,国民経済上きわめて重要な役割を果している。また旅客輸送についてみれば,わが国の国内輸送量全体の中に占める海上輸送の比重は小さいものであるが,離島航路や陸続きでありながら陸上輸送が困難な地域を結ぶ半離島航路は,その多くが他に代替する輸送機関がないので,国民生活上果している役割は大きい。
  わが国経済には,いろいろな形の構造変化が進行している。内航海運もまた経済の他の諸局面におけるこのような変化の影響を受けつつある。貨物輸送においては,内航海運は,重化学工業化など,わが国産業構造の高度化と,その進展の過程を敏感に反映しており,開放経済体制に入ったわが国経済における一般的な近代化,合理化の要求のたかまりの影響も直接うけている。内航海運における鋼船化,専用船化,自動化は,これらの構造変化に応じて現れたものであり,最近では,プッシャーバージラインシステム(押航艀船団輸送方式)などの新しい輸送方式も実用段階に入ってきている。旅客輸送においては,陸上交通の発達,近代化に対応して,一般的に設備の近代化が必要となってきており,陸上交通との競争上,水中翼船による高速化が図られ,また陸上交通との連絡をさらに緊密化するための自動車航送船が出現してきている。
  このような内航海運に共通していえることは,その担い手である内航海運業者のほとんどが,いずれも経営基盤のぜい弱な零細中小業者であるということである。
  内航貨物船事業者の数は,約2万7000にのぼるが,一事業者当りわずかに1.1隻の船舶を運航しているに過ぎない。その過当競争と船腹の過剰傾向が原因となった運賃市況の低迷は,長年にわたり内航海運業者の経営不振を招いており,赤字の累積は巨額に達している。このような状態は今後の事業の近代化,体質の改善の必要性を考えるとき,きわめて憂うべきものであると言えよう。また,旅客航路事業者の数は約820であって,1事業者当りの運航船舶は2.6隻となっている。ブームにのつた一部の観光航路を除いて,その多くは経営不振の状態にあり,とりわけ生活航路である離島航路では累積する赤字に悩んでいる。このため貨物船事業者の場合と同様,事業の近代化を進めて行くべき資本の蓄積を著しく欠くに至っているのが現状である。
  このような事態を打開するために,39年に内航海運の再建のための画期的な施策が講じられた。しかし,この施策が十分な成果を上げるためには,海運業者の自主的な協調体制の確立が絶対の要件である。旅客航路事業に対しては,離島航路補助および老朽船の代替建造などの船質改善助成措置を今後層拡充していく必要がある。


第1節 貨物輸送

第2節 旅客輸送