4 貨物輸送におげる技術革新のあゆみ


  貨物輸送技術の目標は,物資の安全,正確,迅速,低廉な輸送にあるが,経済成長にともなう貨物輸送需要の質的変化は,前述のように安全についてはもとより,戸口から戸口ヘ,より速く,より正確なスケジュールでより低廉な経費で運ぶという,輸送サービス向上への要請を高め,またこれに応ずる輸送担当側の努力も相まつて,近年貨物輸送技術は目ざましい革新の道を歩んでいる。

(1) 輸送技術の近代化

  物資流通における輸送の役割は物資の物理的位置の移動であり,その機能は狭義の輸送,保管荷役、包装の四つの活動に区分することができる。近年における貨物輸送技術近代化を,このような輸送の活動機能別にみると,つぎのような特色があげられる。
  狭義の輪送については,自動車,鉄道,内航海運等の各輸送機関がその車輔や船舶を大型化し,高速化し,また輸送単位の増大にともなつて専用化(特殊化)し,船舶においてはさらに自動化をすすめて輸送効率の向上につとめている。
  保管の機能を担当する倉庫は,従来その大部分が季節的産物や輸出入品等,比較的長期間の貯蔵に主として使用されてきた。ところが近隼の生産技術向上による大量高速生産方式の進展は,同時に製品の大量高速販売をうながし,販売地域の広域化をもたらした。その結果全国を数地域に区分し,その中の一地点で常時当該製品の適正量を在庫として保管し,その地域内の販売を受持たせるという方法がとられるようになつた。このような薪しい機能を持つ倉庫を一般にストックポイントと呼んでいる。このような流通機構の革新にともなう要請は,従来の倉庫のあり方についてその立地や構造の再検討を促し,近年そのような要請に合致した新しい倉庫が急速に整理されつつある。
  荷役については,貨物の貨車,自動車,船舶への積込み取卸し,倉庫への入出等全般にわたつて人力作業の占める割合が多かつたが,最近に至り荷役作業のスピードアップや荷役経費の低廉化への要請にこたえ,また同時に労働力不足や労働安全確保の諸問題の解決をめざし,パレット・フォークリフト・起重機・コンベア・ショベルローダ等の整備により機械化,合理化が推進されつつある。
  つぎに,荷造包装技術近代化の姿を荷姿の変遷についてみると,従来の太箱・木枠・むしろ等の天然材料による包装は減少し,ダンボール・紙袋等人工素材による軽快で簡素なものにかわつてきている。また,輸送経費の中に占める荷造包装経費の比重については,従来それに着目した把握がなされていなかつたが,国鉄が昭和32年に行なつた実体調査によると,荷造包装費は当該貨物の負担した鉄道運賃の約2借もかかつていることが判明したので,この調査結果にもとづき,国鉄は34年6月から標準荷造包装貨物取扱規定を制定し,荷造包装の標準化に着手した。これまでにこの制度により標準化ざれた約60品目の貨物だけでも,その荷造包装費,運賃および通運料金をあわせた輸送経費の節減額は,年間約13億5000万円と推定されている。国民経済的な見地からして,鉄道貨物のみならず,自動車貨物,内航貨物についても,荷造包装のいつそうの合理化をすすめる必要があろう。

(2) 輸送方式の合理化

  輸送の方式も広義には輸送技術の範ちゆうに属するものと考えられるが,上記では,輸送の個々の技能に焦点をおいてその特色をみたので,ここではそれらの諸機能を一体につなげる輸送全体という見方から,輸送効率の向上により輸送経費の節減を目ざす輸送方式合理化へのあゆみについて主なものをあげてみよう。

 イ 速達性を目ざす鉄道貨物輸送

      さきにのべた輸送サービス向上への要請に対し,鉄道貨物輸送の最大の欠陥は,迅速性と到着時刻の正確性に欠けることである。そのため国鉄においては,その対策として貨物駅をできるだけ集約化し,その縮少部分は自動車によつて代行させるという方式をとり,またこれと平行し特急貨物列車,急行急送品列車等,操車ヤード通過列車の増発につとめている。一方,近年の地域開発にもとづく臨海工業地帯の造成は,生産と消費を直結する専用線の需要をいつそう高めており,専用線取扱貨物量が総発着量に占める比重は,昭和30年の39%から38年の50%へとそのシエアーを拡大している。

 ロ 進展するパレット輸送とコンテナ輸送

      さらに鉄道貨物輸送の欠陥として戸口から戸口までの一貫輸送の困難な点が指摘されている。国鉄ではこれを克服する方法として,貨物をパレット(木製の荷台で通い盆の役割を果す)に積んで一個の大きなユニット貨物とし,これを戸口から戸口まで,そのままの姿で自動車および鉄道で通し輸送をする一貫パレット輸送方式,およびコンテナを用いて行なうコンテナ輸送方式を開発してきた。
      パレット輸送のもたらす経済効果は,輸送時間と荷役労力の節減,荷造包装費の節減,貨物の破損事故の減少などに要約されるが,その輸送数量の推移をみると,34年発足当時の月間4.4万トンから37年では15.8万トンと3.6借に達し,パレット専用貨車の開発,使用パレットの規格化とともに大きな効果をあげている。
      コンテナ輪送についても同様に国鉄5トンコンテナおよびコンテナ専用貨車,専用急行便,大型フォークリフトの開発等により,貨物の速達と到着時刻の明確化,荷造包装費の節減,貨物事故の減少等の経済効果をあげており,その年度別利用個数の推移をみると,運用開始当初の35年度の64万個から37年度には14.7万個と2.3倍に増加している。
      一方海上輸送においても,35年頃からコンテナの使用がはじまり,37年度には約2900個のコンテナが運用されているが,大きさは7〜10トン程度のものが多く,その大部分は国際輸送に用いられ,内航海運については今後の発展にまつところが大きい。

 ハ 急増する自動車航送船輸送

      海でへだてられた二地点間において,陸路の延長として海路,貨客の自動車を輸送する自動車航送船方式は,貨物を自動車に積載したまま輸送できること,あるいは自家用車や貸切バスを利用する旅行の施理的範囲を海を越えて拡げることができること,あるいはまた湾口等のように陸つづきの二地点間で,ショートカットによりその距離を大幅に短縮することができること等の利便があるため,近年自動車輸送需要の著増にともない急速に開発され増加の一途をたどつている。
      自動車航送船輸送は近年本格化の段階に入り,39年1月現在,瀬戸内海を中心に全国で29航路,55隻,約1万総トンが就航している。

 ニ 開発途上にあるパイプライン輸送と押航艀輸送

      わが国における本格的パイプライン輸送としては,37年10月に完成した新潟県頸城ガス田地帯の天然ガスを東京豊州のガス工場まで329キロにわたり輸送するものがある。その輸送量は1年に約1.8億立方メートル,その熱量は石炭に換算すると90万トン分に相当する。
      その他,これはいまだ計画段階ではあるが,北海道の石狩炭田についてスラリー輸送が検討されている。この石炭のスラリー輪送というのは,石炭を細かく粉砕して水と混合し,スラリー(泥状)として,パイプで港頭まで輸送し,さらにタンカーで発電所まで輸送するという経路が考えられている。
      本来パイプラィン輸送は,設備に多額の投資を必要とするが,運転および維持には費用があまり多くかからない。したがつて輸送対象が気体,液体,または粉状の固体貨物に限られるが,大量を連続して集中輸送する場合には最もコストの安い輸送手段となり得るものである。
      つぎに,同じく開発途上にあるものとして,押航艀輸送(プッシャーバージ輸送)があげられる。これは貨物を積載した数隻の箱型の艀(バージ)を連結し,押船(プッシャー)によつて押しながら輸送する方式で,欧米では河川,港湾における貨物輸送手段として早くから実用化されてきたが,わが国においては39年初めて神戸-須磨間の埋立用土砂の輸送に使用されだした。
      本輸送方式(プッシャーバージライン・システム)は建造費が安く,人件費が節減でき,また荷役が合理化できる等の理由によつて輸送コストの引き下げに役立つものとされているが,わが国においては突風・潮流等の気象・海象諸条件に対する堪航性や,港湾内における交通のふくそう等の問題に対する解決がまだ十分とはいえず,本格化の段階に入るまでにはなお今後の研究にまつところが多い。

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