3 国際観光振興のための諸施策
昭和38年6月20日,国際観光・国内観光を含め,観光に関する国の基本的方針を明らかにした「観光基本法」が公布施行された。同法は,国際観光につき,国際収支の改善および外国との経済文化の交流の促進の実現のために国際観光の発展を図ることをもつて国の政策の目標としている。今後国際観光振興のための諸施策は,同法に基づき実施されることとなるが,ここでは,それらのうち,(1)海外観光宣伝の強化,(2)出入国に関する措置の改善,(3)外客受入施設の整備,(4)外客接遇の向上について,その概要を述べる。
(1) 海外観光宣伝の強化
現在,わが国の海外観光宣伝活動は39年4月従来の日本観光協会を改組して設立された「国際観光振興会」により実施されている。国際観光振興会の海外宣伝網は,世界の主要都市に配置された海外観光宣伝事務所と宣伝嘱託員によつて構成されている。海外観光宣伝事務所は,39年度中に開設される予定のジュネーヴを加え,14カ所で,その内訳は,北米6カ所(ニューヨーク,シカゴ,ダラス,サンフランシスコ,ホノルル,トロント),ヨーロッパ4カ所(ロンドン,パリ,フランクフルト,ジュネーヴ),アジア2カ所(バンコック,香港),大洋州1カ所(シドニー),南米1カ所(サンパウロ)であり,他方,宣伝嘱託員は15カ所に置かれている。これらにより、わが国の海外宣伝組織は,過去に比べ強化されてきたが海外宣伝予算の点ではなお諸外国に比し相当の劣勢を免れず,今後宣伝予算の増額により海外宣伝活動の強化を図る必要がある。
(2) 出入国に関する措置の改善
まず旅券については,わが国の場合,来訪する外国人に対し旅券所持を義務づけている。しかし,OECD加盟欧州諸国においては相互協定により,身分証明書,ツーリストカードによる代用を認めており,わが国においてもこれらの効力の承認について検討する必要がある。つぎに査証については,わが国は査証,査証料金ともに相互主義の原則を採用しており,査証相互免除協定国21カ国,査証料金相互免除協定国12カ国,査証料金相互減額協定国2カ国となつている。今後,査証相互免除国,査証料金相互免除・減額国の増加をはかるとともに,来訪外客の大半を占める米国に対しては一方的免除を行なうことも考慮すべきであろう。
通関手続については,わが国は「観光旅行のための通関上の便宜供与に関する条約」に加入しており,この条約に基づき関税定率法で,旅行者の持ち込む一定品目一定数量の携帯品および身回り品について関税を免除しているが,最近新たに「自家用自動車の時輸入に関する通関条約」に加入し,自家用自動車の持ち込みに関する規制は緩和されることとなり,また,「道路交通に関する条約」への加入により,国際運転免許証の国内的効力が承認されることとなつた。
(3) 外客受入施設の整備
外客受入施設としては,宿泊施設,案内施設,休憩施設等がある。第一に宿泊施設については,外客の宿泊に適するように洋式の構造および設備をもつて造られた一定の施設につき国際観光ホテル整備法に基づく登録制度が設けられている。登録ホテル数は,31年末の67に対し,38年末には115と増加し,基準にあう洋式客室数およびその収容可能人員は31年末の4262室,7161人に対し,38年末には1万733室,1万8630人とそれぞれ2.5倍,2.6倍となつた。登録を受けたホテルに対しては固定資産の特別償却,固定資産税の軽減等の助成措置がとられているほか,ホテルの建設については日本開発銀行の融資が行なわれることになつている。つぎに旅館についても国際観光ホテル整備法による登録制度が準用されており,登録旅館数は31年末の117に対し,38年末には455となり,外客向けとしての基準にあう客室数およびその収容可能人員は31年末の2546室,5092人に対し,38年末にはそれぞれ4.8倍,4.6倍の1万2267室,2万3471人となつた。外客向け旅館に対しては従来から中小企業金融公庫からの融資が行なわれていたが,37年度からは日本開発銀行および北海道東北開発公庫もその建設,増築に融資することとなつた。
第二に休憩施設については,洋式便所等外客向け設備を備えたレストハウスが不足している現状に対処するため38年度から地方公共団体に補助金を交付してその整備に当ることになつた。これにより38年度には19カ所に整備をみ,39年度においては18カ所に整備される予定である。
第三に案内施設には,外客に対し総合的な案内を実施する観光案内所と,観光地等近傍の地理を案内するための案内地図板とがある。前者には日本観光協会が37年12月に開設した東京の総合観光案内所,その派出所として38年11月開設した東京国際空港出張所と39年3月に開設した京都の総合観光案内所とがあり,いずれも新設の国際観光振興会に引継がれた。
また,後者は,休憩施設と同様に38年度から地方公共団体に補助金を交付して整備に当ることとなり,38年度に8カ所に設置されたが,39年度には15カ所設置される予定である。そのほか,オリンピック東京大会を機に,国際観光振興会によつて,公衆電話を通じ外国語で観光旅行の案内をするいわゆるテレ・ツーリストが開設された。
(4) 外客接遇の向上
来訪外客の接遇の向上を図るためには,旅行あつ旋および通訳案内を充実強化するほか,外客に対する諸々の優遇措置を講ずる必要がある。旅行あつ旋については,旅行あつ旋業法に基づき外国人を対象とする旅行あつ旋業者を登録制度の下においている。39年1月1日現在で,この登録業者は50社であり,登録業者の取扱外客数は38年で約24万6500人である。
通訳案内については,通訳案内業法によりガイドの国家試験および就業に関する免許の制度を定めている。39年度までの合格者数は3691名で,免許者数は38年2月1日現在で1057名である。
外客に対する優遇措置については,まず,外客の土産品購入を容易にするため,一定の手続の下に買う場合には物品税を免除した値段で買うことができるものとされている。つぎに,料理飲食等,消費税の非課税措置がある。本措置は37年3月31目限りで廃止されたが,オリンピック開催に伴い39年7月1日より12月31日までの間ホテル,旅館に宿泊する外国人に限り課税しないこととして再度復活した。最後に欧米諸国で広く社会慣習となつているチップ制度についてみれば,わが国では一部を除いてみられずこの点が日本の特色となつている。これをさらに推進すべく37年5月1日運輸省はノーチップ制の徹底を図るよう行政指導を行なつたが,さらに39年5月1日再びこの徹底のための行政指導を実施した。
これらのほか,わが国産業の現状を観光対象とする産業観光および一般家庭を訪問して交歓する機会を与えるホームビジットの受入れ体制も徐々に整備されつつある。
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