1 国鉄の貨物輸送
(1) 現状
昭和38年度の国鉄の貨物輸送実績は,日本経済の景気回復を反映して相当の増加が予想されたが,2億600万トンおよび591億5600万トン・キロと37年度に比較して,輸送トン数で22%,輸送トン・キロで5.1%の増に止まつた。
これは,日本経済の好調が重化学工業を中心としたものであり,国鉄の大宗貨物である農林水産業や鉱業(特に石炭業)の出荷が横ばい,または減少の傾向にあるためである。
すなわち,近年の産業構造の高度化を反映して,貨物輸送の輸送品目や地域流動に変化が生じて自動車輸送や内航輸送が大きなウエイトを占めてくる,いわゆる輸送構造の変化をひき起こし,その結果,国鉄の国内総貨物輸送におけるシエアがトン・キロで30年度の50%から38年度の33%へと低下したことによる。
しかしながら,国鉄の貨物輸送実績の低調は輸送需要面の変化のみならず,それ以上に長年にわたる投資不足による慢性的な輸送力不足に起因するところが大きい。とくに秋冬繁忙期の輸送ピーク時において駅頭滞貨を生じ,その対策として,貨車の増備,ヤード増設等の強力な輸送力増強を推進してきたが,後に述べるように十分な成果が得られなかつたのである。
(2) 施策
38年度の貨物輸送は,前述のごとく推移したが,この間における国鉄の施策をみてみよう。国鉄では38年度の貨物輸送対策として輸送需要の積極的開発,列車のスピードアップおよび秋冬繁忙期対策により荷主の需要を満たし国民経済の要請に応えるべく努力した。
輸送需要の積極的開発としては荷主の鉄道輸送需要を積極的に把握するため荷主との懇談の場をつくり希望や意見などを聞くとともに,他方では従前からとかく荷主側の不平不満のあつた専用線制度に改良の手を加え,主要管理局に専用線課を設置し,窓口を一元化して手続の簡素化,迅速化,配車の円滑化などをはかり,専用線利用荷主に対する優遇措置を極力打出し専用線の積極的な開発および出貨の増進をはかりうるような体制を整備し,安定的な荷主の確保に努力した。
列車のスピードアップについては駅の集約および設備の近代化が中心である。すなわち 〔I−(I)−2表〕に示すとおり地方閑散駅を整理統合し,反面主要貨物駅について,貨物荷役設備の近代化等を積極的に行ない,貨車配給の円滑化をはかり,貨物列車のスピードアップにより,迅速な取引の要請にこたえるとともに,荷役の近代化による荷造包装費の軽減等に努力している。
輸送のピーク時である秋冬繁忙期対策としては貨車の増備,設備の増強,それに伴う列車の増発等がある。まず貨車の増備を積極的に行なつた結果,秋冬期の月平均の実働貨車数は13万6532両となり,また,貨物列車の運転キロも46万7643キロと前年度43万9630キロと対比し約5%増が確保され,季節貨物についても例年どおりヤードパスの専用列車を運転した。
これと平行して幹線輸送力増強に重点をおいて線路増設,貨物設備の改良等諸施設の工事を進めたが,とくに当面輸送のあい路となつているヤード等の能力増強を重点的に実施した。しかしながら,貨物の流動が時期的,地域的に片よること,および,貨車需要も形式別まできびしく求められるようになつてきていることにより空車の操配が次第に長距離化したこと,さらに基本的には幹線の線路容量,ヤード能力等基礎施設の不足により秋冬繁忙期のピーク時期の11月から12月にかけて全国的に輸送力の不足がみられ,在貨トン数の増加が目立ち前年より相当上回つた。
秋冬繁忙期の在貨トン数は 〔I−(I)−3表〕のとおりである。
2 私鉄の貨物輸送
私鉄の輸送分野における貨物輸送の割合は旅客輸送にくらべてきわめて低率であり,また鉄道貨物輸送に占めるウエイトも小さい。私鉄の貨物輸送は,石炭等の鉱山の山元と直結しているものや,地方的,季節的貨物を主体とする中小私鉄がその大宗をなしており,38年度においては経済の景気回復を反映して総貨物輸送トン数は小口扱32万トン,車扱4708万トン,計4740万トンで対前年度比3.6%の増となつた。
私鉄の貨物輪送についてみると,高級,中嘘距離の輸送物資は漸次トラックに転移し,低運賃,長距離輸送となる基礎産業物資だけが残るため経営が悪化し,このため事業者は経営合理化対策として貨物取扱駅の集約化をはかつている。しかし,最近では新産業都市の建設や臨海工業地帯の造成計画が進むにつれ,これら工業地帯の貨物輸送を専門とする私鉄の分野も開拓されており,明るい面もみられる。
|