4 中小私鉄の動向
地方鉄道および軌道のうち大手14社,公営,帝都高速度交通営団を除いたものを中小私鉄と総称すると,中小私鉄の規模別会社数は, 〔I−(I)−52表〕および 〔I−(I)−53図〕のとおりである。
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まず,旅客輸送人。キロおよび貨物輸送トン・キロでみるといずれも伸びているが,全般の旅客輸送人員の動きと対比すると, 〔I−(I)−55表〕のように35年を100とした場合,バスの輸送人員の伸び率は旅客輸送人員の伸び率を大きく上廻つているが,中小私鉄の旅客輸送人員の伸び率は総輸送人員の伸び率を下回つている状況にある。
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この状況を定期旅客と定期外旅客とに分けて調べてみると,旅客輸送量中に占める定期旅客人員の割合が毎年約1%ずつ増加して,37年度においては58%に達しており,鉄道路線にバスの並行路線の多い現況からすると運賃負担力の高い定期外旅客は利便さの優れた乗合バスを利用することが多いと思われ,定期外旅客の著しい増加は見込まれない。
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収支状況について,鉄軌道営業の収支率(鉄軌道営業費/鉄軌道営業収益×100)を大手私鉄とも関連させてみると, 〔I−(I)−59図〕のように中小私鉄にあつては35年の93から37年の97と次第に悪化しており,また鉄軌道業固定資産利益率(営業利益/鉄軌道業固定資産×100)でも同様に経営悪化の状況が認められ,中小私鉄が大手私鉄よりはるかに高い収支率または低い道軌道業固定資産利益率にあることが看取される。
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さらに中小私鉄全体について,その流動比率(流動資産/流動負債×100)をみると, 〔I−(I)−60図〕のように徐々に資産構成が改善されてきているが,まだ100を割つて低位にあり,また固定費率(固定資本/資本×100)をみると,35年度の220から,37年度の243とその比率が増大し,総支出中に占める支払利子の割合の増大と符合して借入金依存度が高まつてきている。
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収支悪化の原因は 〔I−(I)−61図〕および 〔I−(I)−62表〕のように一般的な賃金上昇の影響から,総収入増加率を上回る人件費の増加と輸送力増強あるいは保安度向上のための設備投資の増加にあると考えられる。
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こういつた収支状況を無配当の会社数でみると 〔I−(I)−63表〕のようであり,中小私鉄の約4割の会社が無配状態から脱却しきれない状態にある。中小私鉄は一般に鉄軌道業の欠損を他の事業で補填しており,特に自動車業を兼業しているものは,37年度において,130社中93社におよび,その自動車業営業利益は28億6032万円で鉄軌道業営業利益の9億4674万円を凌駕している。
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以上を通観すると中小私鉄の収支状態は次第に悪化しており,借入金依存度が高くなつていること,自動車業その他の事業を兼営し,鉄軌道業の欠損の補填に努めているが,なお,無配会社が多いこと,定期旅客は鉄道の運賃がバスの運賃より有利なためその占める割合が増加し,その反面運賃負担力の高い定期外旅客はバスを利用することが多く,そのため著しい利益増加は期待できないこと等の趨勢が認められる。経営基盤の弱いものが多い中小私鉄は,このような状況から営業線廃止または鉄軌道業廃業のやむなきにいたるものが次第に増加しているものであり,その事業の前途は楽観を許されない。しかし,中小私鉄といえども37年度において旅客輸送人員は9億9100万人で全私鉄の12%,貨物輸送量は3070万トンで全私鉄の67%の輸送を担当しており,地形,気象その他の状況から代替交通機関によることを得ないものも多く,その地方における経済,文化の向上に寄与しており,その公共性にもとづく重要性を無視することはできない。したがつて,中小私鉄の以上のような動向を考えるとき,その対策が急がれるが,その対策としては,まず第1に収支の悪化に対処するため,企業の採算性の回復をはかることとし,自動車業の運賃との関連を考慮しつつ運賃改訂または運賃調整等運賃制度全般の合理化をはかることである。第2に中小私鉄のうち,立地条件、代替交通機関との関係,地域社会への寄与度等から,その存続が必要と認められるものは積極的に助成することとし,助成対象会社および補助対象事業を拡大して補助金の実効化をはかり,その体質改善6ための資金については低利資金の融資等を行ない,一方固定資産税等の減免の措置を講ずることが必要である。ちなみに地方鉄道軌道整備法に基づき,37年度1513万円,38年度1699万円の補助が行なわれている。第3にバス等の自動車業との輸送分野を明確にし,過当競争をさけるとともに,中小私鉄自体の経営合理化を助長することである。
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