1 外航部門
全日本海員組合と,五船主団体(外航労務協会-主としてオペレーター23社会京浜地区外航オーナー,若葉会-阪神地区外航オーナー火曜会-京浜地区内航,一洋会阪神地区内航)との間に,昭和38年2月,新規船員の採用停止を骨子とする協定が結ばれ,組合との雇用調整協議を行なわない限り,船員の新規採用は停止されることとなった。38年4月1日現在外航三団体(外航労務協会,23社会,若葉会)では,予備員の適正保有率を職員24%,部員19%として計算すると職員では甲板部175名,機関部128名の過剰承部員では中板部809名,機関部828名,事務部361名の過剰が存在すると推定された。この過剰が生じたのは,つぎのような諸要因がからみあった結果によるものと考えられる。すなわち(i)船務の合理化によって乗組員が減少し,したがって予備員が増加したこと,(ii)解撤船の増加によって予備員がふえたこと,(iii)建造船隻数が船型の大型化によって相対的に減少したこと,(iv)かつ,船舶自動化の進展により在来船に比し乗組定員がかなり減少したこと。
もともと予備員制度は,日本の船員雇用形態の特徴をなすものであって,外国の船員雇用形態が原則として一航海主義をとり,下船中は特定の企業との雇用関係がなくなるのに反し,特定企業と従属関係に立ち,身分拘束の代償として,労働の提供の有無にかかわらず一定の賃金その他雇用上の特権を与えるものである。したがって予備員に関する費用負超は,船主経済上,おのずから限界があり,経営合理化の観点から必要以上に予備員をかかえることには問題があろう。しかも,予備員は企業専属の形態をとって,年功序列型体系の中にくみこまれているので,予備員の増大は職位昇進の道をとざし,労務管理上問題点を含んでいるといえる。したがって33年以来不況にあえぐ海運界にあっては,経営基盤の強化のために不可欠の要請として,予備員の合理牝が行なわれてきたが,前述したような36年以降の状況の変化から,再び増加したものである。しかも一方においては海運企業集約による再建の方向が明らかとなり,予備員の合理化が問題となることが予想された。そのため,これらの過剰船員の雇用を安定し,予備員率を引き下げていく方法として,新規学卒労働力の採用によって行なってきた減耗補充を一時とりやめ過剰状態をなしくづしになくしていくことが考えられた。
船員,とくに外航船乗組の船員は,職員は主として商船大学,商船高校において,部員は主として海員学校で養成されており,これらの船員教育機関卒業者を主たる供給源としているので,新規採用停止協定は直ちにこれらの卒業者の就職に重要な影響をおよぼした。とくに過剰状態にあった部員部門での,海員学校卒業者の就職状況はつぎのごとくであった。
このような就職動向,とくに,38年秋季卒業者の,外航部門への就職が労使の協議によって皆無となったことは,船員の教育にとって重要な影響をおよぼすものであった。また企業としても若年労働力の雇用が中止されることは,労務管理上種々の問題があった。
このような雇用事情を打開するため,39年1月に,官,労,使からなる船員需給懇談会を設け,船員の長期需給計画を検討し,あわせて当面の過剰船員対策の協議を行なってきた。この懇談会において,船員需要の要件である予備員保有率については職員24%,部員19%とし,自然減耗率については,職員甲板部4.79%,機関部7.77%,部員甲板部357%,機関部3.77%,事務部4.2%として計算することとした。これらの要件と,造船,解撤計画および船舶定員の見通しとを関連させて,長期推計が行なわれた結果,現在においては総体としてはほとんど過剰とはいえず,問題は年令構成の著しい不均衡状態にあることが明らかにされた。
すなわち,職員については,26~28才および37~39才,部員については,22~25才および33~36才の階層に過剰がみられ,それは昭和25年船舶の民営還元当時および昭和32年スエズブーム当時,大量の流入ないし採用があったことによるものとされた。しかしながら,今後の外航船舵の増強を考慮に入れると,絶対数においても40年度以降は不足気味になることが予想される。懇談会においては,以上述べた状況を考慮した上,今後船員の需給対策を検討していくことになっている。しかしより根本的には船員の雇用が,今までのように1社専属的な形態をとる限り,職種によって偏在するものと不足するものがあることは当然予想せられるところである。そのため33年以降,船員の派遣融通が企業系外周の船員雇用のバランスをはかるために行なわれてきているが,企業の集約によってこの傾向はいつそう推し進められ,最近では数桂が合同して共同管理を行なうものがあらわれている。
したがって,船員の総合的な需給のバランスを維持していくためには,個別企業における専属的雇用制は検討の段階にきており,予備員制度の長所を生かしつつ,船員の確保と需給調整を行なうことができる方法の検討が必要であろう。
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