2 内航部門
内航部門における汽船関係の殺到率は,次表のような推移をたどっている。
この推移をみると,求人申込は33年以降年々増加し,37年には約4倍に達しているが,求職申込については,増加はしているものの約1.8倍に過ぎない。また,33年には200%近くの殺到率であったものが,しだいに低下して,近隼においては,100%を前後する率にとどまっており,これらの傾向は,内航部門における求人難を示すものといえる。
さらに,近年,内航部門においては,機帆船の鋼船化への傾向が顕著となり,運航技術の面からして,機帆船における労働と鋼船におけるそれとは質的に相違しているため,船舶の安全運航に必要な良質の労働力需要が高まってきた。そのため,内航部門においても若年技術労働者としての海員学校卒業者に対する採用希望が強まったが,外航部門の項で述べたように,これら労働力の内航部門への流入は少なく,海員学校卒業者に十分な供給源を求められない内航船主は,いきおい,中学,高校の未訓練新親学卒者の採用に向うが,陸上産業における新規学卒者の雇用が活発なため,この方面からする充足にも限度があって,内航船員の養成を希望する声が高まってきている。しかしながら,このような強い需要にもかかわらず,それが充足されないのは,外航部門に比べて,賃金その他の労働条件,労働環境厚生施設などの点で劣っていることが根本原因であって,外航部門との格差が縮小していかない限り,内航部門での求人難は,より深刻となっていくことが予想される。
内航部門における求人難には,諸種の要因が考えられるが,内在的なものとしてつぎのこともあげることができよう。第1に経営主体の規模別構成は一隻船主が大半であって,これは機帆船からの転換を示しているものであるが,機帆船における労働が著しく家内労働的であるのに反し,鋼船における労働は,船舶職員の資格の面からも,乗組定員の面からも家内労働的労働では対処しえない。いきおい雇用労働に依存する度合が高まってくるが,労働生産性の面で機帆船よりは高いとはいえ,大型船に比べると低いものであることは避けられない。したがって,労働条件の点で,大型船並みの条件は経営の維持上困難であり,労働市場における外航部門との競争では常に苦境に立たざるをえないことである。そこから第2に未訓練新規学卒者の獲得をめぐって陸上産業との競争が,余儀なくされるが,陸上においても中小企業の採用条件は著しく上昇しつつあり,これと太刀打ちしうる労働条件の維持は,たやすいものでないことがあげられる。このような要因があるゆえに一般化しないのであろうが,第3に船員需要に弾力的に対処するための予備員制度がないことである。第4にこれらの要因がからみあって船員の退職率が高いことである。企業採算上および定員の構成上若年労働力に依存する必要の強い内航部門にあっては高い退職率に見合つた減耗補充とくに若年労働者の補充の必要がある。まして求人難を解消するためには,早急には困難であろうが,つぎのような措置が必要であろう。
(イ) 船舶職員需要に対応するため,再教育を含めて職員養成の機会を増大すること。
(ロ) 部員供給源を確保するためP・Rを活発に行なうこと。
(ハ) 船員需要の増大に備えて,船員職業紹介機能の充実を図る必要があること。船員職業紹介は住所地にかぎらず,どこでも行なえることとなつているが,種々の制約から紹介範囲は狭いので,広域職業紹介の充実をはかる必要がある。
(ニ) 予備員制度もしくは,船員の共同管理制度を検討する必要があること。
(ホ) 労働条件,特に賃金は少なくとも陸上中小産業レベルに比べて適当に優れた格差を保つように改善する必要があるが,これは経営の根本にさかのぼって検討されなければならない。
(ヘ) さらに,労働条件,労働環境の改善をはかり,昇進の方策を検討していくことなどにより,能力ある者の退職を防ぐこと。
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