第1節 賃金


  海運業における船員の賃金は昭和38年12月の調査によるとつぎのようになっている。
  34年を100とし,汽船関係は,平均で,きまって支給する給与は52.8%増加し,航海日当を含めた支給分では49.1%増加した。機帆船関係では,34年を100として増加率は74.2%となっている。
  38年6月現在の船員の賃金と37年平均のそれと比べて,汽船船員では平均5.3%の上昇に対し,機帆船船員では7.2%上昇し,汽船船員の賃金上昇を上回つている。機帆船船員の賃金上昇が34年以降,大体において汽船船員のそれを上回っているのは,機帆船の船員が陸上産業に吸収されやすく,その予防の意味と,また陸上産業の初任給引上げに対抗して年々初任給を引上げざるをえなかったからと考えられる。
  もっとも,38年10月労働協約の改訂に際し,汽船部門についてはかなり大幅な賃金改訂が行なわれた結果,同様に改訂された機帆船部門における上昇率を上回り,37年平均と38年12月との賃金を比べると,汽船船員で16%,機帆船船員で13%上昇となっている。

  汽船船員は大型船と小型船で賃金格差があるが,38年12月の調査ではつぎのようになっている。
  この統計から明らかなように,外航船に比べて,内航船中最も層の厚い100総トンから500総トンクラスの船舶では,その賃金は約半分であるから,同一職位間で外航から内航に流動することはありえないことである。しかも外航船の5000総トン以上の部員の賃金は500総トン未満の職員の賃金を上回っているから,たとえ企業内訓練などによって,船舶職員資格を取得したとしても同一企業内において,かつ職位昇進が伴う場合は別として賃金その他の労働条件,労働環境福祉施設利用などの総合的労働条件の劣る500総トン末満の企業に移動することは困難であり,むしろ逆に外航船に船員不足があらわれた場合,内航船の職員であっても外航船の部員として吸収されやすい条件を示している。このことは,さきにのべた外航における船員事情が,内航の求人難にもかかわらず流動せしめられない原因となっており,とくに外航船部員の海技免状取得者がその資格にふさわしい内航職員に向かわず,遊休免状化している原因ともなっている。
  さきに述べた全日本海員組合の小型船部門における賃金斗争は,このような大型船との賃金格差を縮少することが目的とされたものであるが,大型船も38年11月以降ベース・アップがあったので,格差はさほど圧縮していないと考えられる。したがって内航船の船舶職員充足のために,賃金条件の改善ということも重要な要件であろう。
  機帆船の賃金上昇をささえたものの一つとして,最低賃金制の浸透があげられる。昭和34年施行された最低賃金法にもとづく最低賃金樹の普及はまず機帆船から実施され,39年9月15日現在で,業者間協定の締結件数167件参加事業者数7087名,適用船員数1万8102名となっており,その普及率は昨年4月の76%から11%高まり877%となった。このほか,法第10条にもとづく業者間協定の地域的拡張1件,法第11条にもとづく労働協約の地域的拡張2件となっている。これらの最低賃金はおおむね月額1万円であるが,最近の賃金,物価事情を反映し,法第13条にもとづく最低賃金の改正申請を行なうものが増加し,39年9月までに65件が申請されている。これらの改正申請による最低賃金額は月額1万2000円以上となっている。
  船員中央労働委員会は,38年6月,最低賃金小委員会を設け,船員最低賃金のすすめ方について検討をはじめた。そのうち機帆船の最低賃金については,その実情を分析し,今後の指導方向を検討した結果,39年9月,実効性ある最低賃金の全面実施を最低賃金行政の基本方針とし,具体的には,業者間協定に基づく最低賃金については,今後特に法第14条による改正の勧告制度を活用し,なお,実効性を確保するにいたらないものについては,法第二6条方式によるべきことなどについて,船員中央労働委員会から運輸大臣に対して建議された。なお四国船員地方労働委員会は運輸大臣に対し39年4月,今後の機帆船最低賃金のすすめ方について建議を行ない法第16条方式により全国一律,もしくはブロック別の最低賃金の決定をすべきことを要請しており,また中国船員地方労働委員会は,中国海運局長に対し,法第13条方式による月額工万2000円の最低賃金の改正に努力すべきことを建議している。さらに7月九州船員地方労働委員会は,九州海運局長に対し,機帆船船員に対する最低賃金の普及促進について法第9条方式によるのみではアウトサイダーに対して実効を期し難いので,小型鋼船船員の賃金水準や地域格差などを考慮しつつ法第10条方式または14条方式を適宜活用するよう建議している。


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