序 近代化の過程にある物的流通

  わが国の経済の成長はまことにめざましいものであるが,最近にいたつて消費者物価の急上昇というひずみ現象が生じ,消費者物価安定対策が急務となつてきた。この対策の一つとして流通部門の近代化は物価の安定に寄与するところが大きい。
  一方,開放経済下にあつて企業の国際競争力を強化するためには,生産部門の生産性を高めるばかりでなく,流通部門の生産性をも高めることが必要となつている。
  流通部門はその活動機能の特徴によつて,商業が担当する商取引の面と,運輸が担当する物的流通の面とに大別して考えられるが,従来近代化が遅れていた物的流通が物価安定や企業のコスト低減に大きな役割を果たすことが,ひろく認識されている。
  物的流通の近代化を図るに際して,まず注目しなければならないのは,輸送基礎施設すなわち鉄道,道路,港湾,空港のように一般に交通関係社会資本と称されるものが,生産設備を主とする民間固定資本と比べて,その増加率において著しい立遅れを示していることである。このため輸送需要が非常に大きくなつたの対して,輸送施設はこれに伴わなかつた。したがつて今日最も問題であるのは輸送基礎施設が量,質ともに不足をきたしていることである。
  物的流通の近代化のために,つぎに検討されなければならないことは,物的流通体系の総合的整備を図ることである。輸送,保管,荷役,荷造包装の各物的流通部門は相互に密接な関連があるので,これらのバランスのとれた発展なしにはその生産性を高めることはできず,このためには物的流通諸部門相互間における調和のとれた施設整備と技術進歩が必要となる。
  このような物的流通の近代化には,これを推進する運輸事業自体の経営基盤が強固でなければならない。このためには,経営全般にわたる合理化,企業協同体制の確立,企業規模の拡大等が必要であり,あわせて資金面,税制面等の国家助成,運賃・料金の適正化等の措置が問題となつてくる。
  近時,国民の福祉向上を目ざして社会開発の推進が強調されている。物的流通の近代化による消費者物価の安定はこの目的に沿うものの一つであるが,運輸の機能はこの他にいわゆる社会開発の分野にも大きな関連をもつている。すなわち大都市における通勤・通学輸送の改善は社会緊張の緩和となり,全国的交通網の整備は地域格差の是正と大都市の過密化の防止とにつながり,さらに交通安全の確保と運輸に関する公害の防止,国民観光の健全な発展は国民の福祉向上につながつている。このように運輸の発展は,経済開発と社会開発との両面から期待されている。