第6章 社会開発と運輸

  経済の高度成長政策は,最近にいたつて国際収支や物価上昇などの諸要因から再検討が加えられており,また,これまでの経済の高度成長時代において,社会・公共部門の発達が充分でなく,民間部門との均衡を失いつつあることが顕在化してきた。すなわち,これまでの経済規模の拡大,所得の向上にもかかわらず,住宅の不足や上水道の不備,交通混雑や産業公害などにみられるように依然として生活環境の改善が進まず,むしろ悪化している傾向にさえあるものも多く,また,大都市と地方との格差はいぜんとして大きい。これらは社会・公共部門の立遅れによるものであり,このような遅れた部門を改善するため社会開発の必要性が強調されるにいたつた。もとよりわが国の国民所得など経済的水準は欧米に比較してまだまだ立ち遅れていることから,わが国経済の高度成長は今後も持続されなければならない。しかしながら,日常生活をとりまく社会的,公共的諸条件の不備はひいては生産活動を阻害することになるのであつて,社会開発の推進は,経済成長を長期にわたり高水準に保つためにもまた欠かせない要素となる。
  社会開発に占める運輸部門の役割りは大きい。運輸部門の活動は,公共性の著しく強いものであり,しかもそれが投資不足のためにわれわれの日常生活や経済活動を十分に充足しているとはいえない状況下にあり,運輸部門はいわば立遅れた部門となつている。したがつてその充実そのものが社会開発の重要な課題となるものである。これまで,第1部第4章を中心に,運輸施設に対する公共投資の充実の必要性については述べられており,物価安定のための運輸の役割りは第2部で詳述されるので以下には交通安全と公害の防止,国民観光,および地域問題と運輸の関係をとりあげることとする。


第1節 交通の安全と公害の防止

第2節 国民観光

第3節 地域問題と運輸


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