第3章 漁業労働の現状と問題点

  南氷洋捕鯨,母船式北洋漁業,母船式遠洋かつお・まぐろ,母船式底引,海外トロールなどの遠洋漁業は,比較的大手企業に属し,船舶も相当大型化されており,かつ,労働組合の組織もすすんでおり,その労働条件については,労働協約によりかなり改善されている。しかし,その内容は,それぞれの業種によつて必ずしも同一ではなく,生産構造,企業規模,労働組合の力などにより異つている。たとえば,賃金構成を見ても 〔II−(II)−10表〕のとおりで,総賃金中にしめる本給,家族手当,乗船手当,航海日当の比率には,業種によつて大きな差異がみられる。
  以西底引,以西トロール,沖合底引などの近海漁業及び遠洋漁業であつても遠洋かつお・まぐろ漁業は,一般に,企業規模及び船舶が小さく,労働組合の組織化も十分でなく,労働条件も低劣なものが多い。また労働組合の労働協約も労働時間などの基本的な労働条件の定めが十分でないものが多く,賃金体系にしても,全歩合制を認めているものが多い。
  その他の沿岸漁業は,漁船船員の過半数を占めているにもかかわらず,近海漁業よりさらに労働条件は低く,労働組合が結成されているものもごく一部にとどまつている。賃金体系は,全歩合制をとつているものがほとんどである。
  昭和39年における1カ月の総賃金中に占める本給,家族手当,乗船手当,航海日当及び歩合給の割合は,第10表のとおりで,前年度に比べると,歩合給の比率はほとんど変化がない。

  このように漁船の船員の賃金体系において大きなウエイトを占めている歩合給制度は,最近における漁業の変ぼうに伴ない,漁業労働における最も大きな問題点となつている。この制度のもつ弊害を防止するため,全歩合制度を一部固定給に切り換え,また全歩合制を残す場合にあつては,歩合の計算の基礎を水揚高におき,いわゆる大仲制度(水揚高から市場手数料及び大仲経費を控除し,残余を船主,船員が一定の比率で分配する制度で,大仲経費の中には,運航費用のほかに,営業経費の一部,漁撈費用(えさ代,氷代,網代など)及び食料等がふくまれる。)の廃止をすることを,昭和39年度においても指導してきたが,船主側からの反発も強く,また船員側にも必ずしも十分には受け入れられていない。しかし 〔II−(II)−11表〕にみるように,行政指導の効果はかなり顕著なものとなりつつある。
  賃金制度の改善が,なかなか進まない反面において,漁船船員の労働環境の改善のための措置は,着々すすめられており,衛生管理者の配乗や船員労働安全衛生規則に基づく衛生担当者の選任等により,漁船の船内の安全衛生はかなりの改善が行なわれた。
  このような背景において,汽船の船員設備の基準の法制化については,船員中央労働委員会で近く審議が行なわれることとなつており,またこの問題は,今秋ILOの予備技術会議の議題ともなつているので,近い将来に法制化されることが予想される。