第1章 海難の発生状況とその背景

  最近の海難は,海運に対する輸送需要の増大に伴う船舶の増加大型化,主要港湾における船混みの慢性化,港湾における危険物取扱量の増大,さらに新しい海上交通機関の出現等により,その特徴が変貌してきている。全体としての海難発生件数は,船舶の増加と交通のふくそうにもかかわらず,毎年わずかづつではあるが減少してゆく傾向にある。特に気象や海象などの自然条件の変化によつて生ずる海難は,船舶の構造,性能の改善により年々減少してきている。これに対し,港内における海難は,年々全海難における比重を増加してきている。
  京浜,大飯,神戸等の主要港を始め,臨海工業地帯を背後にもつ工業港では,出入する大型船のふくそうは極めて著しくなつてきているが,これとともにこれらの港における取扱貨物は,原油その他の危険物が急増してきている。昭和40年5月には13日に京浜港大黒運河で油送船が火災を起こし,附近の油バージ9隻が類焼し,さらに23日には室蘭港でノルウェー海送船ヘイムバード号(35,355総トン)の28月間にわたる火災事件が発生した。これらは海難の問題が,大洋における自然的条件により生ずるだけでなく,陸上の交通戦争にも比すべき,海上における交通戦争の結果として生じてきていることを示しており,タンカーの火災事件の如きは港内の多くの船舶,施設に甚しい危険を及ぼす点では,極めて重大かつ深刻な問題を投げかけている。


1 昭和39年における海難発生の概況

2 港内海難の多発

3 全損海難の多発

4 小型鋼船海難の多発