序 世界における運輸近代化とわが国の方向

  世界において多くの国が,運輸施設拡充長期計画を実施していることからうかがわれるように,現在世界で輸送施設が十分に整っているとは言いがたく,その整備が重要な課題となっている。わが国も,輸送需要に比べて輸送施設が不足していることにおいて世界の例外をなすものではない。このような量の拡充とならんで,より安全に,より確実に,より早く,より安く人または物を移動させたいという要請にこたえて,世界の運輸はたゆみなく近代化の歩みをつづけている。
  貨物輸送においては,従来,多様化する輸送需要に対処しての輸送機関の大型化,専用化,高速化等の輸送機能分化が近代化の中核としてとりあげられたが,これにつづいて貨物をコンテナ,パレット等にまとめて戸口から戸口まで輸送するユニットロードシステムが検討され,このため海陸空の各輸送機関の連絡利用方法が進歩してきた。すなわち,コンテナまたはトレーラ自体を鉄道輸送することによりいっそう効果的な運輸機能を発揮することができるようになった。さらにまた港の後背地で仕立てられたトレーラ,トラックまたはコンテナが港頭に到着して,そのまま船舶に搭さいされることにより港頭荷役が画期的に合理化されるばかりでなく,戸口から戸口への輸送が海をへだてても行なわれるようになった。このコンテナ輸送方式は航空輸送と陸士輸送の間にも同様の進歩をもたらそうとしている。このようなユニットロードシステムにおいては,異なる輸送機関の接続点でのユニットの移動が重要な要素であり,また,やむを得ずユニットをくずすときに,これを能率よく行なうことが必要であるので,ターミナル設備の近代化が注目される。
  わが国も物的流通近代化への努力をつづけているが,近年輸送需要が多様化するにつれて,これに最も適する輸送サービスが必要となってきている。またコンテナおよびパレット輸送を軸としたユニットロードシステムの発展を目標として海陸空のターミナル施設およびこれと倉庫,卸売業者,市場を一体化した流通センター等の整備,ならびに労働者対策,通関手続きの改善等の諸問題の解決が望まれる。
  つぎに旅客輸送も,航空機の性能向上に伴う運航コストの大幅低下によって,大きく変化してきている。すなわち,従来の鉄道および船舶に代って,ある程度以上の長距離輸送は,主として航空機とくにジェット機によって行なわれるようになっており,超音速機が出現すればますますそれが著しくなるものと思われる。中短距離においては鉄道,自動車,航空機がそれぞれ特有の機能を発揮しているが鉄道の後退が見受けられる。
  これに対して,わが国の場合も,長距離では航空機,短距離では自動車の利用が伸びつつあるが,新幹線にみられるように中距離輸送において鉄道輸送が中核となっている点が世界と比べて大きな特徴となっている。
  大陸間輸送および都市間輸送において比較的順調な歩みをつづけている世界の旅客輸送も,一たび大都市地域輸送となると非常に大きな問題をかかえている。すなわち,現在世界の大都市のなかには,増大する交通量を処理する能力に欠け,交通まひを起こしかけているものが多い。
  わが国においても,大都市地域においては,通勤通学輸送のひつ迫および道路交通の混雑という深刻な問題をかかえている。これに対処するためには,飛躍的な輸送力増強のための投資が必要であるが,他方,計画性のある都市づくりにより輸送需要の集中化をさけることも検討すべき時期にきている。