むすび

  わが国の運輸を世界の動向と比較してみるに,わが国は貨物輸送においては内航海運の比重が大きいこと,自動車輸送の伸び率が顕著なこと,旅客輸送においては,諸外国と比べて鉄道が重要な役割を演じていることを知るとともに,運輸の近代化について諸外国に学ぶべきものが多くあることが指摘される。
  昭和40年度の輸送活動は,39年度後半に始まつた日本経済全般にわたる不況の影響を受けて,おおむね低調に推移した。この間に,つぎに述べるような多くの施策が行なわれたがなお今後に残された問題が多い。
  まず運輸基礎施設の整備増強に関しては,おおむね40年度を初年度とする国鉄第3次長期計画,港湾整備5カ年計画など各部門の整備計画が順調なすべり出しをみ,新国際空港も建設地が決定されて,建設の第一歩を踏み出したが,今後も引き続いて運輸関係社会資本を充実することにより,輸送需要に適合した施設の整備増強を図らなければならない。
  物的流通の近代化は物価安定,輸出競争力の強化の見地から大いにその必要性が強調されている。このため,コンテナによる海陸一貫輸送が各方面で検討されており,新らしい輸送方式に則した諸施設の整備のために日本自動率ターミナル(株)の設立,流通業務市街地の整備に関する法律の制定等により,流通センターの建設が進められているが,これらの諸施策およびコンテナ埠頭をはじめとする主要外貿定期船埠頭の建設などを推進する必要がある。
  旅客輸送については諸外国と比べて立ち遅れの著しい航空の充実が急務とされている一方,通勧通学輸送対策としては国鉄,私鉄の強化が行なわれている。とくに,地下鉄は,40年度において東京,大阪,名古屋で新路線の一部開通をみたほか,なお多くの建設が進行中である。しかしながら,現段階では未だ通勤通学難の解消にはほど遠く,さらに高速鉄道網の整備をすすめるなどこれが対策の推進につとめることが必要である。
  つぎに,外航船腹の拡充は引き続き行なわれ,40年度には前年度の121万億トンをはるかに越える183万総トンが建造され,これに伴う海上労働力確保のための諸施策が講じられている。また航空では長年の懸案であつた日米航空協定の改訂,日ソ航空協定の締結が行なわれ,世界一周およびシベリヤ上空路線への夢が実現することとなつたが,今後も国際航空路線網の拡充を始めとする積極的な施策が必要とされている。このほか国際観光については在外宣伝事務所をメキシコ・シテイに新設して宣伝網の拡充を行たうなどの措置がとられている。
  この間船舶輸出は依然好調を続け,40年度の受注量は554万総トン,9億3,000万ドルと,これまでの最高となつたが,西欧諸国のまきかえしは日を追つて強く,なお一層の造船業の近代化が要望されている。
  これ等の措置は国際収支改善のために重要な意義を有するものであり,今後とも一層その施策を強化する必要がある。
  40年度には輸送活動沈滞の影響を受けて,運輸関係事業も各部門それぞれに難しい局面に出会つた。とくに賃金の上昇と,設備の増強および近代化のための投資に伴う資本コストの上昇とにより,運輸関係事業の経営面での苦しさが顕在化し,多くの輸送機関において運賃,料金の改訂が行なわれたが,なお企業の近代化,合理化とあわせて経営基盤の強化をはかるための諸施策が必要である。
  近年交通事故はますます増加してきつつあり,とくに道路交通事故の増加がめだつている。また,40年度にはマリアナ海難および相ついで起つた大型旅客機事故など大事故が発生した。このため交通安全対策の必要性が強調され,運輸省では総合的に交通事故防止対策の樹立に乗り出している。
  一方交通公害も日を追つて増加しており,排気ガス規制対策の促進,船舶の油による海水汚濁の防止についての国際条約批准への努力,騒音防止対策の検討などが行なわれており,今後の公害対策強化が望まれている。


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