第2節 賃金改定をめぐる争議


  全日本海員組合と4船主団体の昭和40年4月の労働協約改定交渉において,賃金を除く条項については円満解決をみたが,賃金については,40年11月を目途として交渉を行なうことに合意し,あわせて4月から新賃金決定まで1ヵ月につき「本人本給の5%十3,000円(平均月額4,150円)」を時金として支給することで労働協約改定が行なわれた。
  組合は10月の定期大会において要求内容を決定し,10月15日船主団体4団体に要求書として提示した。
  要求の骨子は,@本人本給の5%プラス3,000円増額A最低保障本給の1点単価を現行16円から22円に改めること。B乗船本給の決定方法は,新本人本給の20%増しと新保障本給とを比較し,いずれか高いものによること。C航路手当の整理。D船機長手当の増額。E賃上げの最低補償額は一時金プラス3,000円とすること。F実施期日は40年11月1比というもので,組合試算によれば要求の完全実施によつて乗下船平均9800円増加となるものであつた。
  船主側はこの要求について,乗組員の賃金増は1万6,000円,船員費の負担増は約2万円に達するものとなるので,再建整備計画の進行過程において,負担にたえられるものではないとして一時金のわく内による賃金改定を回答して要求を拒否したため組合は,11月27日以降10日間のストライキに入ること
 を船主に通告した。運輸大臣を中心として行なわれたスト回避工作も功を奏せず,組合は11月27日0時からストライキに入り,外航2団体については第2波,第3波とつぎつぎにストライキを延長し,12月25日24時に解除するまで3波にわたり連続28日間(11月18日から外航2団体のチェック・オフ中止に伴う抗議停船を含めて連続37日間)の長期間にわたりストライキが行なわれた。
  内航2団体について組合は第2波(12月7日から18日までの12日間)は年末時における国内輸送需要を考慮して解除したが第1波10日間第3波7日間と前後17日間にわたつてストライキを行なつた。また,要求内容は若干異なるが時期を一にして賃金要求を行なつていた汽船の盟外関係,全内航関係および漁船船主労務協会の母船,運搬船等事業関係船舶が,12月2日から6日までの5日間および12月19日から25日までの7日間ストライキに入つた。
  はじめ組合はスト戦術として危険品等の揚荷を除く一切の船務を拒否する完全ストライキ方法をとつたが,第2波以降荷役(夜間荷役,危険品の積荷を除く。),船混み緩和等のためのシフトは認める戦術に転換した。運輸大臣はスト突入と同時に事態収拾のため11月27日船員中央労働委員会脇村会長に職権あつ旋を要請し,脇村会長ほか3氏からなるあつ旋委員は12月3日以降あつ旋に入つたが,あつ旋は時金のワク内でしか賃上げはみとめられないとする船主側と,ワクをはずす以外には交渉に応じられないとする組合側の意見とが対立し,労使の自主交渉による焦点の詰めが行なわれていないため難航し,ようやく12月23日労使に対しあつ旋案の提示が行なわれた。あつ旋案はすでに支給している時金の上に乗組員について外航2,800円,内航1,800円,の上積みをし,基準賃金の改定を協議することをおもな内容とするものであつたが,組合は上積額が少ないとし,船主はこれを多きにすぎると拒否した。あつ旋案の提示は解決の足がかりになると期待されたにもかかわらず,労使の拒否により不調に終つたのであるが,すでにスト目数も長期にわたり,かつ態勢のたて直しをはかるため組合は12月26日の0時以降一度ストライキを解除し,41年1月25日から第4波ストに再び突入した。
  この中断期間において政府,与党および労使それぞれにおいて活発なスト回避工作,折衝が行なわれたが,いずれも成功せず,第4波ストに突入することになつたのである。しかし第4波ストを契機として,世論の圧力もあり,スト解決への動きが活発になり,運輸事務次官を中心とした調整工作によりあつ旋案に示された上積み額にさらに上積みしたものを源資とすることを中心として自主交渉のすえ1月31日船主団体4団体が妥結した。全内航は40年10月25日船中労委に調停申請を行なつたが,労使の主張にへだたりがあり11月24日調停不調になり,12月2日から5日間第1波,12月19日から7日間第3波のストライキが行なわれたが,4団体の解決後2月2日から行なわれた船員中央労働委員会会長の職権あつ旋にもかかわらずあつ旋不調となり,組合は2月17日から第5波ストライキを通告した。結局全内航は孤立しては組合に対抗しえたいため大幅に譲歩して,スト第1日目の2月17日に解決をみた。
  かくて長期かつ大規模な賃金改定争議は解決をみることとなり,これらの主要団体の交渉待ちとなつていた関係案件も2月中旬には一切解決をみることとなつた。
  妥結内容は,船主4団体についてはつぎのようにたつている。@本人本給は8%プラス1,000円の増額。A最低保障本給の1点単価20円。B乗船本給の決定方法(組合要求通り)。C航路手当の廃止。D航海日当の上位ランク新設。E船機長手当の増額(組合要求のとおり)。F賃上げ最低補償は一時金プラス2,000円。G下船中の賃上げ額が一時金の額に達したいときはその差額を補償する。H41年2月1日実施。という内容で,その結果外労協7,700円,外航中小労7,500円,内航2団体6,350円のベース・アップが行なわれた。これは40年4月からの一時金をふくめたものであるので,それを控除すると平均2,500円ないし3,450円となり,乗船者はともかく下船者には時金以上のプラスのない者があらわれることとなり,組合内部に不満の声をのこすこととなつた。また,昭和26年以来内外航の賃金体系は同一であつたが,内航については,本人本給と保障本給の本給の二本建制から,職別初任本給制への本給一本建制への移行段階として,外航の保障本給とは別個の保障本給表を設定した。これにより,内航船主側の主張する賃金の内外航分離の方向があらわれた。全内航のベース・アップは1人当り約4,700円となつたが,職別初任給の一点単価が4船主団体同様20円となつた。そのため,小型鋼船の賃金の大型汽船へのサヤ寄せが行なわれ,海上労働における同一労働同一賃金の組合の主張がここでは強く貫かれることになつた。
  ストライキによる停船船舶等は 〔II−(II)−6表〕にかかげるとおりであるが,船主側の直接損害は整備計画提出45杜の合計72億円(推定),内航の損失負担申し合わせによる補填損害額約7億円,このほか船主にとつては輸出入貨物の外国船への流出,外国船の用船その他間接損害約3,500万ドルといわれ,集荷秩序の回復,配船の操作等金額に換算しない損失があり,今次争議の海運界に与えた影響は甚大なものがあつた。

  このような争議の大規模かつ長期にわたつた原因は,これまでの争議に比べて,企業防衛のためいつになく結束を強めた船主側の反撥力を過少評価した組
 合側の自己過信にあつたと思われるが,ここ数年来かもされつつあつた船主側の組合に対する不信感が,安易な妥協を許さなかつたためである。したがつて,今後,海運における争議予防のためには,労使間の不信感を除去することにつとめるとともに,定の自動調整方式の導入など,良識と話し合いをもつて,賃金の長期安定をはかる慣行の樹立が望まれる。


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