第1節 国際観光市場の状況


  世界の国際観光往来は 〔IV−1表〕に示すとおり,年々順調な伸びを示している。1964年には,観光客数が対前年14.8%増の1億1,020万入,観光消費額が15.9%増の102億ドルと,1億人および100億ドルの大台をこえ,1965年にはやや伸び率が鈍つたとはいえ,それぞれ6.8%増の1億1,770万人,および12.7%増の115億ドルとなつた。

  地域別に観光客の来訪状況をみると 〔IV−2表〕のとおり,西ヨーロッパおよび北アメリカ中心の傾向はかわつておらず,他地域のシエアーもほとんど変化していない。

  西ヨーロッパおよび北アメリカの国際観光の隆盛を支えているのは、盛んな域内往来である。たとえば西ヨーロッパでは,各国への来訪外客合計の約7割が域内諸国からのものである。西ヨーロッパではその地理的条件,高い生活水準,休暇旅行の習慣,さらに近年における自動車旅行の普及等が,今日のような域内往来の隆盛をもたらしたものであるが,それに加えて各国とも相互に出入国手続等国際往来における手続きの簡易化に努めており,このため,ヨーロッバにおいては国境はないといわれるほど観光往来は自由化されている。
  利用交通機関をみると,自動車および航空機の利用がますます増大しており,とくに代表的な域外観光のコースである北大西洋の渡航は,1964年4月から実施された大西洋航空運賃の大幅な値下げにより航空機の利用がますます増大し, 〔IV−3図〕のように1964年には航空機のシエアーが,前年の75%から81%へと大幅に増大した。

  また,旅行目的では,従来の単なる物見遊山的な旅行から,特定の目的を持つた旅行が増えつつある点が注目される。すなわち,教養,狩猟,スポーツ大会や文化的な催し,国際会議等への参加,博覧会の見物,職業上の見学,視察などの目的を持つた旅行である。外人観光客の各国内における滞在日数についても,1964年は前年に比較してきわだつた変化は見られないが,個々の旅行については,長期の旅行はさらに長期化し,逆に短期のものはますます短期化され,週末やあるいはわずか1日の休日を利用して外国を訪れるというような旅行も増えつつある。
  また,利用する宿泊施設では,外国旅行の中所得者階層への普及,シーズンにおけるホテルの混雑,旅行目的の変化等の理由から,キャンプ場,ユースホステルの利用,自炊設備つきの自動車の利用,あるいは間借り,別荘の借受け等いわゆる補助的宿泊施設の利用が増加している。とくにその傾向は西ヨーロッパの域内観光において顕著でこれを国別にみるとフランスでは宿泊数全体の55%が補助的宿泊施設によるものであり,イタリアおよびスイスでは28%,ドイツではキャンプ場およびユースホステルの宿泊数だけでも18%と高い率を示している。このため,1964年の西ヨーロッパのOECD諸国への来訪外客数が,前年に比較して12%と大きく増加し,かつ,前述のとおり平均滞在日数がほとんど変化していないのに,ホテル宿泊数の伸びはわずか5%にとどまつた。

  つぎに観光収支をみてみると 〔IV−5表〕のとおり,ギリシャの受取およびスペインの支払がやや減少している以外,各国の受取,支払ともに,世界の観光往来の増勢を反映して増えている。ここで注目されるのは年々増大する観光収支の赤字に悩む米国の赤字幅の減少,フランスの観光収支の大幅な悪化とスペインおよびポルトガルの躍進である。

  米国は観光収入,支出ともに世界第1位を占め,とくにその支払額は他国を大きく上回り,世界各国が受け取る観光収入の約22%が米国人観光客によるものである。このため各国にとつて米国は重要な観光市場となつているが,逆に米国にとつては観光収支の大幅な赤字が大きな問題となり,政府はその改善にとくに力を入れている。その効果が現れたためか,1964年においては,前年まで増加を続けていた赤字幅がやや減少をみせた。すなわち1964年における米国の受取額は,10億9,500万ドル,対前年比17%増と大きく伸びたのに対し,支払額は,22億1,600万ドルと6%の増加にとどまつた。その結果観光収支の赤字は,1963年11億5,600万ドルであつたのが,1964年には,11億2,100万ドルと約3%の減少をみたのである。減少額はわずかではあるが,毎年10〜20%の赤字の増大が続いていたことを考えると,米国にとつては,その意義は大きいものと思われる。

  他方,フランスは,支払額が7億8,500万ドルで,対前年比33%増と大幅な伸びをみせ,これに対する受取額の伸びが小さかつたため,観光収支は前年の1億2,400万ドルの黒字から,1964年には,一挙に,2,300万ドルの黒字へと激減した。
  スペインおよびポルトガルは,1964年に観光収入が大きく伸びた。前者は対前年38.3%増,後者は63.5%増とともに他の諸国を大きく上回つている。とくにスペインは伸び率ばかりでなく,絶対額も大ぎく,9億3,900万ドルとフランスを抜き,世界第4位に進出するに至つた。1964年は,イベリア半島全体が国際観光ブームの一中心地であつたということができる。
  つぎに,日本に密接な関係を有する太平洋地域に焦点をあててみると,この地域は,西ヨーロッパおよびアメリカの2地域に比べ,膨大な人口をかかえ,かつ,広大な面積を有しているにもかかわらず,観光客の受入れ市場としては,いまだに小さく,全世界の観光客のわずか2%を受け入れているに過ぎない。その原因はもちろん域内の観光往来が低調であることに1もあるが,さらに,最大の観光客送り出し市場である米国および西ヨーロッパ諸国との距離が大きく,かつ,本地域が広大で,交通費がかさみ,旅行日数も他地域への旅行に比べ長期を要することも大きな原因となつている。また,従来,太平洋航空運賃が大西洋航空運賃と比較して,割高であることも本地域への外客の来訪を妨げる一要因であつた。しかしながら,過去数年来本地域への来訪外客数は 〔IV−7表〕のとおり,かなり急速に増大しており,加えて,本年5月より実施された太平洋航空運賃の引下げにより,よりいつそうの増加が期待される。


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