序 地域経済と輸送構造

  わが国の輸送活動は,経済成長のなかでめざましい量的拡大を示しただけでなく,質的にも輸送機能の向上がはかられてきた。まず貨物輸送の分野においては,貿易の拡大,第二次および第三次産業の比重の増大,エネルギー源の石炭から石油への転換,その他技術革新の影響を受けて輸送品目の変化と重化学工業を中心とする臨海工業地帯,特に,太平洋津ベルト地帯での集中的輸送増加が顕著である。この間輸送量においては,自動車輸送の伸びが最もめざましく,船舶がこれにつぎ,鉄道は伸びなやみの傾向にある。また輸送コストの低減と,輸送サービスの向上をめざして輸送の近代化が進められており,船舶の専用船化,大型化,これに対応する港湾整備の高度化,自動車の多様化,高速化およびこれに見合つた道路の高規格化,鉄道におけるコンテナ輸送および物資別適合輸送など,各輸送機関の輸送特性がそれぞれ強く発揮されるようになつてきつつある。
  つぎに旅客輸送の分野においては,消費革命の端的なあらわれとして航空および自家用自動車輸送量の伸びが顕著である。さらに産業構造の変化に伴つて都市化,特に大都市への人口集中は,通勤・通学輸送のひつ迫および道路交通の渋滞を招き,深刻の度を加えており,諸対策が講ぜられつつある。大都市間を結ぶ東海道新幹線の誇るべき成果は,今後山陽新幹線に延長され,さらに大きな威力となろう。また国際新空港の建設をはじめとする主要都市における空港の整備は国内航空輸送需要増加と相まつて,旅客輸送における航空機の利用度を高めるであろう。
  今後のわが国経済の発展と輸送の役割についてみるに,輸送施設の整備と輸送機能の向上は,単に輸送需要にこたえるという目的にとどまらず,地域の産業経済の発展および当該地域住民の福祉の向上を図るための要素として今後のわが国地域経済開発計画に反映していくことが肝要であろう。
  今後増大し,多様化する輸送需要に適応させるため,合理的,能率的な輸送機能を発揮できる輸送体系を打ち立てていくうえに,また,輸送の近代化を通して,経済の効率化を実現するうえに,地域経済の変化と輸送構造について掘り下げた検討が必要とされる所以である。